【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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遅くなりました。


配信に興味のない私と見張り番

 

「夢希ちゃん、起きて」

「ううん……?」

 

 体を軽く揺さぶられ、目を開ける。ぼんやりと彩音さんの姿が見えた。

 どうやら、見張りの交代の時間のようだ。

 無理矢理起き上がるものの、ちょっとまだ頭がボケボケしている。どうも、変なタイミングで起きてしまったらしい。

 

「あはは、ちょっとボケボケしてるね」

「うん……」

 

 どうにも、思考がまとまらない。彩音さんの言葉も右から左だ。どうしようかな……

 

「おーい、夢希大丈夫か?」

「夢希さんが大分ボケボケしてますわね……」

「うん……」

 

 浜面さんと花奈さんの声だ。でも、何言ってるのかいまいちわかんないな……あ、そうだ。

 

「顔洗ってくる……」

 

 のそのそと起き上がり、ウォーターボトル片手に拠点の端に向かう。

 出した水で顔を洗う。うん。やっぱり顔を洗うと目が覚めるね。だんだん頭の中がはっきりしてきた。

 

「……アレ、大丈夫か?」

「夢希さんにしては珍しいですわね、ああいった感じは」

 

 また浜面さんと花奈さんの声が聞こえた。けど、今回はちゃんと内容が分かる。

 そもそも、寝起きの姿なんて見せた記憶がないよ花奈さんに。私が学校に行くときに会ったこともないし。

 タオルで顔を拭いていると、彩音さんの声が聞こえてくる。

 

「クーちゃんが満足するのに一時間くらいかかってたから……」

「あー……」

「飼い主の定めというかなんといいますか……」

 

 まあうん。ぶっちゃけクーのせいである。あれだけ頑張ってくれたんだから労うのは飼い主の役目とはいえさ、加減をしてほしかった……

 でも、きっと普段からやっていたらあんなにねだってこなかった……いや、多分あれクラーラに張り合ったせいだな? 絶対そうな気がしてきた。クラーラの撫でた時間を上回るためにあれだけやらせたな?

 周囲の警戒をしてもらうというメインの仕事のついでに、クー本人に聞いてみようかな。

 

「よし、復活。おいでクー」

 

 しゃっきりしたので、指輪からクーを呼び出した。

 出てきたクーはこちらにかけよってきて、撫でろ撫でろと頭を差し出してくる。なので。

 

「ねえクー」

 

 こちらに視線を合わせて首をかしげるクーが可愛いけど、とりあえず今はそこじゃない。

 

「昨日、あれだけ撫でてほしかったのは、クラーラに張り合ったから?」

 

 ぎゅん、と音がしそうな速度でクーの視線が下がった。さっきまでご機嫌に振り回していた尻尾も、ピンと立っていた耳も垂れ下がった。図星だったらしい。

 お前さぁ、ちょっとわかりやすすぎるよ。素直はいいことだけどね。

 ……まあ、いいけどね。怒るようなことでもないし、別に嫌なわけでもない。でも、今度から一緒に呼び出すときはちょっと考えてからにしよう、うん。流石に常に張り合われたらたまらない。

 というわけで、両手で顔を持ち上げてわしゃわしゃと撫でまわす。

 

「別に怒ってるわけじゃないよ。じゃ、周囲の警戒よろしくね」

 

 わふっと返事が返ってきたので、大丈夫そうである。頼んだよ。頑張ってくれー。

 金守さんと灰原さんはすでに寝る準備を始めていたので、会釈だけして彩音さんと入れ替わるように表に出る。すでに浜面さんと花奈さんは、昨日使ったクリスタルのテーブル兼焼き肉プレートの横に座っていた。

 あの焼き肉プレート、軽く水で洗うだけで綺麗になっちゃったから、そのままテーブルとして使うことにしたのだ。すごくない? 水で洗うだけで油が完全に落ちたんだよ? 触っても一切ぬるぬるしないし。

 自宅に普通に欲しいもんあの素材のテーブル。おしゃれに見えそうだし、汚れも簡単に取れるしさ。

 私もテーブルに着く。ついでに、コンロでお湯を沸かし始める。何か温かいものを飲みたい。さっきまで金守さんたちも飲んでいたのか、少しだけ鍋の中に水が残っていた。

 お湯が沸くまで待っている間、浜面さんが口を開いた。

 

「そういや、夢希は渋谷でも閉じ込められてたんだって?」

「ええまあ……」

 

 思わず言葉を濁してしまった。なんというか、今と状況が違いすぎる。

 正直な話、渋谷は中層に閉じ込められた上で私や金守さんレベルの冒険者がたくさんいたからこその安心感があったけれど、今はそんなものはない。

 今いるここは深層相当だろうし、メンバーとしても結構ギリギリである。あのドラゴンだって、道中のモンスターの群れだって、1人でも欠けようものなら対処できるか怪しいレベルである。

 だが、正直そこは別にどうでもいいというか、冒険してたらあって当然の懸念なのでそこまで気にするようなことじゃない。

 なので、気にするべきは食糧事情である。今の方が圧倒的に楽である。だからこそ、言葉を濁してしまった。

 

「どうだった?」

「ひたすらに肉の用意してました。他の人にはMr.クマの漁をお願いして、私はダンジョンブーブーを解体してました。防護服持ってるのが私だけだったので、私一人で」

「ほお……今日みたいな感じか?」

「いえその……30人分くらい……」

 

 もう本当に、あの時はずっと解体だけしていた記憶しかない。それ以外はほぼキャンプの様相を……いや、よく考えてみたら、キャンプはキャンプでも、難民キャンプみたいな感じだった気がしてきた。

 なんだろう、あれかな。思い出は美化されるとかそういう感じ?

 

「そんなにか!?」

「携帯食料もなかったので、どうにもならなくて……その結果、《解体》のスキルが出てきたので結果オーライかなと」

「なかなかにハードだったんだなあ……」

 

 浜面さんが同情してくれる。多分、顔もそういう表情なんだろうけど……うん。馬の表情わかんないなこれ。目がウルウルしていることしかわかんない。

 

「浜面さんはイレギュラーに巻き込まれたことはございます?」

「うーん、そうだなあ……強いて言うなら大量発生くらいなんだが、ここまで大変だったことはないな」

 

 こともなげに話す浜面さんだけど、大量発生の方が一般的には大変なイレギュラーである。いつだって、数の暴力は厳しいものがあるのだ。めちゃくちゃ強い一体よりも、そこそこの強さの1000体の方が厳しいのである。

 そもそも、モンスター相手に数の暴力をしているのが人間だしね。

 なのだが、浜面さんは一味違った。

 

「俺の場合はほら。一定以上の強さがないと轢いて終わりだから」

「あ、あぁ……」

「な、なるほど……」

 

 この前の奥多摩のことを思い出し、花奈さんと一緒に納得した。確かに、轢いて終わりだろうなぁ……囲まれても突破出来るし、確かにそこまで大変じゃないかも。

 そんなわけないはずなんだけどなぁ……私がガトリングみたいに《魔力の矢》を撃てるからといって大量発生が楽なわけじゃないのと一緒である。

 

「花奈さんはあるの?」

「それなりにはありますが……少なくとも、今日ほどのことはございませんし、以前夢希さんが遭遇していたトロルのようなものもございませんわ」

「私もあのレベルの特殊個体はあれが初めてだったよ」

 

 あのトロルは過去最高に問題のあるイレギュラーモンスターだったよ。なんだ魔法吸収して砲撃に変換してくるトロルって。

 

「特殊個体のトロルってーと……あれか? 彩音の武器の?」

「そうです」

「あの時『魔女の大鍋(コルドロン)』の連中がすげえうるさかったんだよなあ……」

「でしょうね……」

「中々おりませんものね、特殊個体のモンスター自体も……」

 

 まあ、とんでもないお祭り状態だったんだろうねっていうのは想像がつく。

 中々に大変だったんだろうな、あの時。近寄らなくてよかった。

 ちょうどその時お湯が沸いたので、それぞれにお湯を入れていく。そして、コンソメスープの素を入れる。コンソメスープだけだけど、粉末スープ持ってきてよかったな。

 先の見張り組にも渡しておけばよかった……朝ご飯の時にお渡ししますので、許してください。

 コンソメスープを飲みながらのんびりしていると、浜面さんは神妙に切り出した。

 

「2人はさ、あのドラゴンがボスモンスターだと思うか?」

「そうであってほしいです……」

「ええ……外に出ているのがイレギュラーだと思いたいものです……」

「ブルヒヒッ! 俺もそう思いたい。洒落にならん」

 

 浜面さんの言う通り、シャレにならないよ。

 あのドラゴンがボス部屋から出てきたことがイレギュラーであってほしい。本当に、イレギュラーであってほしい。あんなのが外にいるのが通常の状態だったら、このダンジョン内で生き残るのが本当に大変になってしまう。

 花奈さんがいるから何とかなっているけど、もし仮にあのドラゴン相手に待ち伏せの形に持ち込めなかったら、その時点でどうにもならない可能性がある。

 ともかく、アレがボスモンスターだとして……

 

「レアモンスターとかいるのかな……?」

「いるといいなあ。どんなのだと思う?」

 

 レアモンスター。ダンジョンに出現するモンスターの中で、他のモンスターに比べて出現数が極端に少ないモンスターのことである。

 いるダンジョンといないダンジョンがあり、品川のトロル、奥多摩のホクトみたいに、結構特徴的なモンスターが多い。

 そして、大体の場合、そのドロップアイテムは非常に高価になりがちである。数が少ないんだから当たり前なんだけども。

 

「そうですわね……それこそ、カーバンクルのような可愛らしいモンスターがいると嬉しいのですが……」

「……クリスタルの中を泳ぐ魚型モンスターとか」

 

 花奈さんの可愛らしい予想もいいけど、やっぱり私はロマンを推したい。

 鉱物の中を泳ぐモンスターとか結構なロマンだと思うし、クリスタルなら中から外も見える。生態としては成り立ちそうだし、九州の方のダンジョンには岩石の中を泳ぐように移動する鰻みたいなモンスターがいるらしいので、そういうモンスターが居てもいいと思うんだよね。

 そう思っての発言だったんだけど、浜面さんには隠した本音がバレていた。

 

「おいそれ食いたいだけだろ! 俺は、クリスタルのゴーレムとかじゃねえかなと思ってる」

 

 はい、食べられそうだなって思ってました。なんか魚食べたくなったんだもん……

 

「夢希さんは、そこまで食べませんのに食い意地張ってますわよね……」

「食い意地というか、好奇心というか……」

「好奇心でモンスター食うなよ」

「むしろ、好奇心以外でモンスター食べませんよ」

「ブルヒィン! それはそうだ!」

 

 花奈さんの呆れたような声も、浜面さんの楽し気な笑い声も、冒険の一幕だ。

 閉じ込められているけれど、私たちは案外たくましく生きられるものである。楽しげな雰囲気に引かれてクーもこっちに来たので、3人で撫でまわして、時間は穏やかに過ぎていった。

 そろそろ交代の時間……というか、もう活動開始する時間だし、とりあえず朝ご飯のメニュー考えないとね。朝ご飯になりそうなパスタ料理か……

 お米、ちょっとだけでもいいから持ってきておくべきだったなぁ……

 

 

 

 

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