【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
朝ご飯は、トマトパスタにすることにした。
正直な話として、ここまで時間を取ってご飯を作って食べられるような状況を想定していなかったため、米を用意しなかったのが非常に悔やまれる。
朝ご飯に白ご飯と味噌汁、モンスター肉の一品というメニューなら完璧だったと思うんだけどね。今回はお預けだ。
パスタを持ってきたのも、水さえあれば調理時間が非常に短く済むからって理由だし。
それにしても、昨日のドラゴンのお肉は美味しかった。脂っぽくもなかったし、朝食にもいいかもしれないなぁ……でも、浜面さんが食べられないので、まずは野菜のみで作る。
そういうわけもあって、今朝はトマトパスタである。あっさりしていて朝にも食べやすいし。
トマト缶を味付け用にいくらか持ってきたので、それを使う。缶詰っていいよね。すぐに食べられるし、何よりも保存が効く。非常食としてこんなにいいものはないよ。先人に感謝しないとね。
フルーツ缶も持ってきたから、それでデザートも付けちゃお。モモ缶とかミカン缶とかね。美味しいよね、果物の缶詰。
さて、朝ご飯の準備するぞーって思ったんだけど、そういえばの疑問が。
「浜面さん、何束食べます?」
「そうだなあ……」
そう、浜面さんが何束のパスタを食べるか、である。他の面々は一束でいいと思う。足りなければ足すくらいで。でも、浜面さんはそもそもよく食べるしさ。
昨日のお昼の時は3束食べてたけども。まあ、その上にニンジンをボリボリ食べていたけども。
しばらく考えていた浜面さんは指を三本立てた。
「三束で頼む。足りない分は自前のニンジンでどうにかするわ」
「デザートは食べますよね?」
「え、何かあんのか?」
「果物の缶詰です」
「ほお……桃缶ある?」
「ありますよ」
「っし!」
ガッツポーズを取る浜面さん。モモ缶好きなんだ。あとで他のみんなにも聞いておくとしようかな。
そんな時、今まで階段の下を見ていたクーが突然こちらに振り返った。耳と尻尾がピンと立っている。警戒態勢だった。
クーを撫でまわしていた花奈さんも、警戒することにしたのか、脇に置いてあった盾を持つ。
私と浜面さんも手元の武器を掴む。とはいえ、下ではなく上というのはどういうことだろう? 振り向いてクーの視線の先を見るが何もいない。というか、崩れた瓦礫しか見えない。
「クー、何があるの?」
「金守! 起きろ!」
私が杖を向けながらクーのそばに行く。花奈さんが私の斜め前に立って、クーと私を守れる位置に移動した。
その間に浜面さんが大きな声を出して、他のメンバーを起こしにかかる。
階段の上は拠点の後方だから、もしそちらから何かが来るならそのメンバーが危ない。
「どうした」
「クーが上を警戒してる」
「……上?」
仮眠から起きた金守さんが怪訝そうに階段の上を見る。まあ、そうなるよね。《魔力探知》を使いたいところなんだけど、使うとまた倒れる可能性があるから使えないし、私の《気配察知》の方では今のところ何も察知できないから、クーだけが気付いているみたいだ。となると、音だろうか?
「……確かに、何かこっちに来てますね」
「どんなものかわかるか?」
「そうですね……這いずってるみたいな? そんな音がします」
武器を片手に起きてきた灰原さんも、上を見ながら警戒を露わにしている。
彩音さんはというと、美弥子と長谷川さんを起こして移動させていた。本来の後方が前線になっちゃったからね。
それにしても、這いずってる音……? 砂ウツボとかだろうか? いやでもアイツは谷底まで来ないから、なんだろうか。
クーも警戒こそしているけど威嚇していないので、敵意みたいなものは感じ取っていないらしい。
「いったい何が……?」
「モンスターだったらクーが威嚇すると思うんですけど、していないので本当によくわかりません」
「となると、モンスターではなく、這いずるような音がする、と……」
金守さんが近くに来て、腕を組むと唸り始めてしまった。
そうだよね、意味わかんないよね。
警戒はしつつも、よくわからない状況にどうしたらものかと頭を悩ませていると、長谷川さんが何か思いついたらしい。
「……もしかして、彼女ではないでしょうか?」
誰か思い当たる人がいたらしい。長谷川さんの知り合いとなると、おそらく『
「……なるほど、水沼君か。確かに彼女なら、ここまでくることが出来てもおかしくはないが……」
「来れるんですか……?」
「来れるだろうなあ……」
「こんな状況なのにですか?」
金守さんと浜面さんは、その水沼さんという人ならここまで来れると確信しているようだったけど、私たちは半信半疑である。
いやだって、瓦礫で埋まっているダンジョンをどうやってくるんだ。しかも、瓦礫をどかしているような音もしないんだよ? どうやったら来れるんだ本当に。
そうしてしばらく。瓦礫の隙間から水色の液体が染み出してきた。それがどんどんと溢れてくる。武器を向ける私たちとは対照的に、金守さん、浜面さん、灰原さん、長谷川さんが目を背けた。
いや何してるの!?
「なんで目を背けてるんですか!?」
「いや、流石にちょっとな……」
「見るわけいかないす……」
凄まじく気まずそうな男性陣に違和感を覚えている間に、水色の液体に目玉が出来ていた。
え、目玉!? め、目玉!?
若干パニックになってしまった。いや、だって、液体から目玉が出てきたんだよ!? おかしいじゃん!
「え、アレ何!?」
「な、なんなのでしょう……!?」
「涼子ちゃんです!」
固まる私、怯えてクーに抱き着く彩音さん、困惑したように盾に隠れる花奈さん。それぞれ反応している横で、美弥子はいつも通りだった。
そうこうしているうちに、目玉だけじゃなく口が出来た。そして。
「おー、マジでいんじゃん。美弥子っちおはー」
「おはようございます!」
気だるげに挨拶された。なんていうか、ギャルっぽい。友人たち2人を足した感じというか。
その間も、少しずつ液体が溢れてきて、段々顔が出来てくる。いや、本当にどういうことなの……? というか、何が起きたらこうなるの?
「1、2、3……全員いんねー。金守っち、なんか問題あったり?」
「長谷川君が足を骨折している。他は今のところ深刻な問題はない」
「おけまるー。エリクサー持ってくんねー。つかさぁ、なんか魔法使った? この辺クッソ硬くてめちゃ苦労したんですケド?」
階段の上を埋めている瓦礫から水色の生首が生えている光景はだいぶ異常だったが、金守さんが未だに顔をそむけたまま対応している。いやなんで?
というか、金守さんにもあだ名なんだこの人(?)
それと、魔法を使ったのは私です。よくは分からないけど、苦労させてしまったようでごめんなさい。
「てかさぁ、なんか美味しい匂いしない? 何食べたん?」
「ドラゴンを食べました!」
「え、マジ? ドラゴン食べるとかウケるんだケド」
ドラゴンを食べたことを、ウケるの一言で終わらせるその胆力は凄まじい気がする。
段々上半身が生えてきて……なるほど、液体だから全裸なのね……それは男性陣が目を逸らすわけだ。うーん、スタイルいいなぁ……
推定、
「そーだ、はじめましての子もいんじゃん? あーし水沼涼子。おはー。あ、見ての通りスライムね」
収納魔法から衣類を取り出して着始める水沼さん。あ、特殊な何かがあるわけじゃないんだ。
着替え終わると、チューブトップとホットパンツというスタイルがいい人じゃないと出来ない服装になった。何故私の周りにはスタイルのいい人ばかり……!
私たちが挨拶と自己紹介を返すと、水沼さんは私のことを見た。
「夢希っちって、美弥子っちのフィアンセの?」
「違います」
「あ、そうなん? 美弥子っち振られてんじゃん。ウケるんですケド」
思わずズバッと切り返してしまったが、それを不愉快に思うこともなく、笑って流してくれる辺り、大分心が広そうである。
それにしても、私の『
「夢希ちゃんの認識ってそうなんだね……」
「まぁ、あれだけ美弥子さんが迫っていればそうなりますわよね……」
まったく美弥子はさぁ……ま、いいけども。しょうがない。
ところで、水沼さんはどうしてここに来たんだろう?
「あーしが来たのは、連絡と補給ね」
「水沼君が来てくれて助かるよ。大抵のものはどうにかできるだろう」
「あーしに任せなー?」
服を着たからか、男性陣が水沼さんの方を向きなおしていた。さっきまで大分シュールな絵面だったからね。
それは、ありがたすぎる人材だよ水沼さん。液体だから地面に浸透して下まで来れる。物資は収納魔法で運ぶことが出来る。
ウィンクしながらピースをしている水沼さん。愛嬌あって可愛い人だなぁ……肌色が水色だし、透明だしで見た目的には結構モンスター感あるんだけどさ。本人の性格ゆえか、特に忌避感を覚えない。
そのとき、どこかからくぅー……というお腹の音が聞こえてきた。思わず音のした方を向くと、彩音さんが全力で視線を逸らしていた。
耳が真っ赤である。
「朝ご飯にしようね。すぐに作るよ」
「朝のメニューはなんなんすか?」
「トマトパスタの予定です」
「手伝いますよ」
灰原さんが腕まくりしながらこちらに来てくれたので、作る時間を大幅に短縮できそうである。
「あ、それあーしも食べてって良い? まだ食べてないんだよねー」
「いいですよ」
水沼さんも食べていくみたいだから、ちょっとだけ増量すればいいね。
少し遅れてしまったが、灰原さんと手分けして朝ご飯を作っていく。
まず、オリーブオイルとにんにくを入れて軽く熱して香りを立てて、薄切りにした玉ねぎを投入してさっと炒める。
そこにトマト缶、水、コンソメを入れて煮込み始める。ふつふつとし始めたら弱火にして少し煮込む。
そして、灰原さんに用意してもらっていたパスタとすりおろした大根を入れ、醤油をちょっと入れて混ぜ合わせていく。
味見をしながら、塩と胡椒で味を調えて……器に盛ったら完成である。
ここに、コンソメスープを添えれば朝ご飯の出来上がりである。
「へー、夢希っち、料理めちゃ手慣れてんじゃん。普段からやってんの?」
「はい。普段からです」
「すごいじゃん夢希っち。あーしも練習しなきゃかなー。で、灰原っちも普段から料理してんのー?」
「ま、まあ、はい……」
「灰原っちの塩対応マジウケる」
水沼さんも陽向と似た感じかな……話しやすいし、懐に入ってくるのが上手なタイプだと思う。
予定よりも遅い時間になってしまったけれど、美味しい朝食を食べることが出来た。もちろん浜面さんは追加のニンジンを食べていた。
なお、水沼さんは食べた直後は口に入れたトマトパスタが見えていたが、のどから胸の辺りで消化されて見えなくなっていった。味覚もちゃんとあるらしい。
デザートも食べ終えて、今日の予定を話し合うことになった。
『