【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
私たちが未探索領域の探索を再開して早々、面倒なことに遭遇していた。
「……なんか、多くね……?」
「多いな……」
目の前には、今倒しきったモンスターの死体の山。それを前に、浜面さんと金守さんが腕を組んでうなっていた。
具体的には、カメレオン8匹、カニ12匹、ヤドカリ4匹である。一塊の群れの数にしてはだいぶ多かった。
いやまあ、対処法が分かっていたので、早々にヤドカリを彩音さんと私で仕留めて後衛を排除。そして、カメレオンを私と灰原さんで潰して回り、カニは他のみんなで倒してもらった。そのため、見た目に反して結構すぐに終わった。
数が多かっただけに、ドロップアイテムもたくさんである。カメレオンは舌の先の槍部分、カニは爪部分の刃、ヤドカリは……なんだろう? 真珠? 紫色なのでちょっと不気味だが、結構綺麗な見た目をしている。爪と舌先は、どちらもクリスタル製なためか、水色に近い色……だと思う。周囲のクリスタルのせいでわかりにくいが、作った槍がそんな色だったから。
「大量発生してるとか……?」
「それにしては、バランスがいいと思いますわね」
「多少違うけど、偏ってはないもんね」
私の呟きに、花奈さんと彩音さんから返事が返ってきた。
ふむ。確かに……基本的に、大量発生は一種類のことが圧倒的に多い。たまに複数種類のこともあるけど、それも大抵同じような系統のモンスターなことが多い。
例えば、品川の深層みたいなところだと、オークジェネラルもライダーも同時に大量発生したりするのだ。ただ、ホースサウルスは大量発生しないので、とことこ歩いているオークライダーっていう変なものを見ることが出来る。
その例から考えると、今の状況はおそらく大量発生ではなさそうである。
でも、多いよねぇ……
「……今後もこの量が基本になる。そのつもりで行こう」
「わかりました」
金守さんの号令を受けて、改めて警戒をして進むことしばし。
「なあ、やっぱ多くねえか?」
「……どうにもならない量が出てきているわけではないが、多いな」
「まだ何とかなってますけど、これ以上増えたら厳しいすね」
灰原さんの懸念はもっともだ。あの後、モンスターの群れと四回ほど交戦することになったのだが、いずれも最初と同じく20匹を超えるような群れだったのだ。品川のオークたちじゃあるまいに、こんなに多いのはなかなかないことである。
そもそもとして、昨日の時点だとこんなにモンスターに出会ってすらいない。ドラゴンを待ち伏せするために移動している間でも、多くても10匹もいない程度の群れと2回しか会わなかったくらいである。明らかに、モンスターの量が昨日よりも多いのだ。
「もしかしたらですが、あのドラゴンから逃げていたのが戻ってきたのかもしれませんね」
クーの上でマッピングをしていた長谷川さんが、仮説としてそんな話をする。
「あのドラゴンからは他のモンスターも逃げていましたし、居なくなったからこそ戻ってきたのではないでしょうか? 何かから逃げているというような雰囲気でもありませんから」
「……あり得るかもしれないな。だが、となると一旦引き返した方がいいか……」
「引き返すんですか?」
「ああ。探索は必須だが、モンスターが多い現状ではリスクも高い。ドロップアイテムの回収というもう一方の目的は果たせたんだ。一旦引き返し、時間をおいて再度探索に繰り出すぞ」
「わかりました」
「了解!」
金守さんの発言を経て、一旦引き返すことで全員が同意した。確かに、数が多い中無理矢理探索するのはよくないよね。危ないし。
個人的には、まだもうちょっといけるんじゃないかなーとは思うんだけどね。
そんなわけで、拠点に向けて引き返し始めた。途中でモンスターの死体を回収して、今日のお昼に味見しようかな……なんて考えていたら、先頭を歩いていた浜面さんが片手をあげて立ち止まった。
モンスターだろうか? 特に何もないように見えるけれど……
「……地響きが聞こえる」
「……若干ですけど、地面も揺れてますね」
灰原さんの言葉に集中してみると、言われてみたら揺れてるかも……? くらいの振動がある。
でも、地響きが聞こえるようなモンスターとなると……
「ドラゴンですか?」
「……いや、二足歩行の足音だな。トロルとかあの辺の感じだ」
「となると、新種ですね!」
美弥子のテンションの上がった声を聞いて、ちょっと肩の力が抜ける。いつでも平常運転が過ぎる。が、ちょうどその時、ゆっくりと通路の向こうからその地響きの原因が現れた。
「……浜面さんの予想が当たりましたね」
「当たっちまったなあ……」
それはぎこちなく、でも確実にゆっくりと動いている、クリスタル製のゴーレムだった。多分4メートルくらいかな。ゴツゴツした感じではなく、つるつるしている印象だ。関節の部分もクリスタル製らしく、継ぎ目がほとんど見えない。
頭もなくて、胴体に赤い光が六個光っているので、多分あれが目なのかな? 見た目の上では大分ヘンテコだけど、結構威圧感がある。
「クリスタルのゴーレムか……大きさもそれなりだが、何とかなるか?」
「流石に、あのドラゴンよりは強くないとは思いますが……」
金守さんの疑問に、花奈さんが思案しつつ答える。
確かに、あのドラゴンよりは強くなさそうである。待ち伏せして奇襲を仕掛けてそれなりにひやっとする場面もあったあのドラゴンと、今目の前にゆっくりと動いているだけのゴーレムだと、流石にね。
そして、私たちは念のため倒す、という選択を取ることにした。彩音さんの槍で先制し、結果にもよるが金守さんが変身して抑え込み、全員で畳みかけるという作戦である。
「……美空君、頼む」
「はい!」
金守さんの指示で投げられた槍は、カンッ! という甲高い音ともに弾かれて、空中で砕けてしまった。
「ええっ!?」
「うっそだろ!?」
あまりの光景に彩音さんと浜面さんが素っ頓狂な叫びをあげる。私もびっくりした。まさか彩音さんの《乾坤一擲》がダメージにならないことがあるなんて……
まあでも、こういう物理にめっぽう強いモンスターは魔法に弱いと相場が決まっているのである。
「よし……うわっ!?」
「魔法まで弾きますの!?」
そう思って《魔力の矢》を連続で打ち込んだら、こちらも弾かれてしまった。何発かこちらの方まで跳ね返ってきたので、一旦攻撃を中断する。
これだけ攻撃したにもかかわらず、まったく変化なく前進を続けるゴーレム相手に、金守さんが変身して抑え込み始める。
そうしてようやく、ゴーレムが反応して金守さんと取っ組み合いを始めた。
「よし、抑えた! 突破口を探してくれ!」
金守さんの号令を元に、全員による一斉攻撃が始まった。
「おいこれどうすんだ……?」
「どう、いたしましょうか……?」
その後、ひたすらみんなで、手を変え品を変え攻撃してみたのだが……
前衛のみんなの武器はまったく歯が立たないし、私の魔法も全部弾かれちゃうしで、どうにもならなかった。全身は当然、関節を狙おうが、目を狙おうがダメ。まったくダメージにならない。
強いて言うならば、
もう本当にどうしようもないので、お母さんの魔法を使うことも考えたけど、万が一弾かれようものなら周りが危険すぎるのでやめておいた。特に金守さんが本当に危険である。
その金守さんも、抑えつけながらブレスを吐いたり噛みついたりしているんだけど、それも全くダメ。むしろ歯が欠けてないか心配である。
「ここまで硬いモンスター初めてすよ……」
「物理も魔法も全部効かないじゃん!」
結果、呆然と全員で立ち尽くすしかない状態になってしまったのである。
ゴーレムも動いていないけれど、こちらも全く打つ手なし。ゴーレムはゴーレムでこちらを一切気にせず金守さんと掴みあっている。怪獣大決戦の様相だが、まったく動きがない。
このままだと、膠着状態が続くことになってしまうし、そうなったら体力的に金守さんが不利である。ゴーレムに体力の概念あると思えないしさ。
まあ、あの動きの遅さだし、逃げればいいっちゃいいんだろうけど……うん。
「…………美弥子」
「はい!」
「ゴー」
「はい!!」
最終手段、投入。例えどんなモンスターだろうが、美弥子が攻撃さえできれば倒せないわけがない。
私の指示に元気よく返事をした美弥子が、ノータイムでゴーレム目掛けて走っていく。
唐突な私の指示と美弥子の突撃に、他のみんなが目を剝いた。あまりに驚いたのか、全員の反応が遅れる。
「待て待て待て!!」
「ちょ、ちょっと!?」
「何をしているんですの!?」
みんなのそんな叫びを背に受けた美弥子はというと、すでにゴーレムの足元までたどり着いていた。そして。
「《無敵》! パーンチ!!」
スキルの発動と同時に黄金の光に包まれた美弥子が、右腕でゴーレムの右足にパンチを叩き込む。
素人丸出しのテレフォンパンチだったのだが、彼女のユニークスキルを使った上でのそのパンチは、文字通り無敵の拳である。
先ほどまで、ここにいる全員でかかってもびくともしなかったゴーレムの右足が、たった一発のパンチで、
「……は?」
「……え?」
あまりの光景に、全員の時が止まる。みんな口開いてるよ。長谷川さんだけは知ってたからか冷静だけども。
まあ、事前に話だけ聞いてても、見た目がね。どう考えても、あんな適当に放ったパンチで出ていい火力じゃないもんね。
砕けた足の破片がキラキラと舞い散る中、美弥子は2発目の拳を繰り出すべく、右腕を引き戻していた。
「もう! 一発! パーンチ!!」
突然片方の足がなくなってバランスを崩し、美弥子めがけて倒れこんだゴーレムめがけ、アッパーを繰り出す。
目であろう光の辺りに当たったそのアッパーによって、ゴーレムの上半身が粉々になる。
アッパーの体勢のまま、拳を突き上げてドヤ顔をしている美弥子は、まるでヒーローのようであった。
ちょうどゴーレムの上半身を粉々にした結果、その欠片がキラキラと舞い落ちているし。見た目だけなら完璧である。
そこに、今までゴーレムを完璧に抑えてくれていた金守さんが、急に押さえつけるものがなくなってちょっとバランスを崩し、大きな音を立てて地面を叩いた。
その結果発生した地響きが、ドヤ顔を披露していた美弥子を直撃した。
「ふぎゃんっ!?」
情けない声を上げて、美弥子がひっくり返る。両腕と左足しか残っていないゴーレムのパーツが地面に落ちる。
うーん……やっぱりあのスキル、文字通りに《無敵》すぎるな……
「…………もう全部アイツ1人でいいんじゃねえか……?」
「すごいですわね《無敵》……」
「私たちの苦労って一体……?」
呆然とした様子でこの結末を見ていたみんなが思い思いの呟きを漏らし、最後に灰原さんがこう締めくくった。
「なんか、助かったんすけど……納得できない光景、すね……」
その呟きに、みんなでうんうんと頷きあう。
安心してほしい。あのスキルに納得しているのは、おそらく美弥子以外に誰もいないはずだ。
本来は、熱して冷まして……ってやると耐久性が下がるギミックモンスターです。
まあ、美弥子の前では関係なかったですが。