【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

182 / 182
感想、お気に入り登録ありがとうございます。


配信に興味のない私とヤドカリ鍋

 

 さて、突然だけど、鍋の具と聞いて、みんなは何を思い浮かべるだろうか。

 鍋と言えばこれでしょ、と即決する人や、メインの具材に合わせて決めるからメインを教えてほしいという人、どの鍋料理なのかを教えてくれ。なんていう人もいるかもね。

 でも、大抵の鍋に入っている食材もある。白菜とか豆腐とかエノキとか長ネギとか。

 そして今、私たちの前には美味しいヤドカリがある。味と見た目はほぼカニ。となればカニ鍋だろう。

 だが、問題がある。今回の調査では、閉じ込められたことを想定して色んな食材を用意してきた。でも、日持ちしないものは持ってきていない。

 だからその……鍋の具材が無いのである。カニ鍋だし、薄めの味付けでいいとして、少なくとも白菜と豆腐は欲しいじゃん。

 欲を言えば、しいたけ、長ネギ、くずきり、水菜あたりも欲しい。

 しかし、ないものはない。だから、諦めるしかない。

 そう思っていた。

 

「あーしが持ってこよっか?」

「涼子……!」

 

 救いの女神がいた。代金は外に出たら払うということで、涼子に鍋の材料を持ってきてもらうことになった。

 発光現象が収まったため、涼子は物資の補充に、私たちは食料の補給に向かう。

 未探索領域のモンスターとはいえ、私たちもすでに対策を確立している。拠点周辺のモンスターたち相手に危なげなく完勝し、拠点に帰ってきた。

 彩音さんの槍の素材も黒字である。群れのモンスターの数が減ったら、投げなくてもよさそうなんだけど、まだ厳しいね。明日以降は楽になってほしいものだ。

 拠点に戻って槍の製作とヤドカリの下処理を終えた頃、涼子が帰ってきた。

 

「ただまー。とりまこれでおけ?」

「ありがとう涼子」

「うぇーい」

 

 涼子とハイタッチ。好きなのかな? ハイタッチ。

 涼子の持ってきてくれた野菜を片端から灰原さんと彩音さんと一緒にひたすら切っていく。

 白菜、しいたけ、長ネギ、豆腐、エノキ。

 ダンジョン内だというのに、かなり豪華なお鍋になりそうである。

 並行して、浜面さん用にニンジンも入れた野菜のみのお鍋を作っておく。

 なんとポン酢まで持ってきてくれた。ありがたいにもほどがある。

 お鍋の中にみんなで切った具材を投入し、ぐつぐつと煮ていく。

 

「ありがとう水沼君」

「金守っちー、明日か明後日あたりに出られそうだって」

 

 ……え? その場にいた全員の手が止まり、涼子の方を見た。

 明日か明後日……? 渋谷の時は一週間だったのに?

 鍋の煮えるぐつぐつという音をBGMに固まったみんなを代表し、金守さんが口を開いた。

 

「……早くないか?」

「前の時と違って、ダンジョンの形が谷だから、横穴に瓦礫投げ込みまくれるし、崩落もそんなに気にする必要ないから早いんだって。マジで瓦礫で横穴ガンガン埋めててウケたんですケド」

「なるほど、そういうことか」

 

 あー……なるほどね。

 確かに、八王子ダンジョンは大きな谷にたくさんの横穴があるダンジョンで、崩落したのが一番上の天井だけなら、横穴に瓦礫を放り込めば終わりだもんね。しかも、横穴塞げばモンスターも出てこないし。

 そうなると、渋谷のときよりも早くなるのも頷ける。

 

「思ったよりも早く出られそうで何よりですわ」

「ね」

 

 花奈さんが嬉しそうに微笑むのを彩音さんも笑いながら肯定する。

 彩音さんも、昨日あたりボソっとシャワー浴びたいって言ってたから、花奈さんもそうなのかな。花奈さんの場合髪も長いしね。

 私もお風呂にゆっくりつかりたい。とけたい。というとちょっと大げさかもだけど。

 そう思ってたんだけど……

 

「ですので、お酒を……」

「……花奈ちゃん……」

 

 うん、花奈さんにお酒以外を求めるのが間違っていたかもしれない。

 そして、目力がとんでもなくなってるのがすごく怖いので、金守さんに救援要請だ。

 

「金守さん、お酒返してあげてくれませんか? 目が怖いので……」

 

 金守さんが花奈さんの凄まじい目力を確認すると、預かったワインの中から一本だけ花奈さんに返した。

 うん、金守さんから見ても危険水域だったらしい。

 すごかったもん。血走る一歩手前位の目力だった。

 

「……一本だけ渡しておく」

「ありがとうございます!!」

 

 今までで聞いた中で一番の大きな声を出す花奈さんを、彩音さんと二人でジトっと見てしまう。

 本当にこの人は……お酒が中心にありすぎじゃないかな……

 ワインの蓋を外すが早いか、コップに注いでぐびーっと一杯。一気呑みである。

 

「ああ、わたくし、生きておりますわ……!」

 

 とってもいい笑顔だけど、こんなことで生きていることを実感しないでほしい。

 ほら、彩音さんだけじゃなくて、周囲の大体の人も呆れてるし……

 

「こんなことで実感しないで……」

「こんなこと……? 今、こんなことと申しましたか?」

 

 呆れて思わず心の声が漏れた私に、ワイン片手に花奈さんが迫ってくる。

 漏れてしまったものはしょうがないので、思っていることをはっきり言うことにした。

 

「こんなことでしょ」

「夢希さんとは一度本気で話し合う必要があるようですわね……!」

 

 なんだか変なスイッチを入れてしまったらしい。

 またコップ一杯のワインを一気飲みした花奈さんは、早口でまくし立てる。

 

「今までわずかな量しか飲めなかったところに、一本丸々お酒を飲めるのですよ? 砂漠を彷徨った後のオアシスに等しいのです! それをこんなこととは!」

 

 怒っているのは分かるし、言いたいこともわかると言えばわかるんだけど……でもさあ。

 

「いや、今少しだけ飲んで実感を得るよりも、地上に出て思う存分飲んでから実感すればいいと思うんだけど……?」

 

 うん。こうじゃない? だって、今も制限されているわけで、地上に戻ったらそんなこと気にせずに好きなだけ飲めるんだから、地上に戻った後で実感すればいいと思うんだよね。

 いや、オアシスの例えもわからなくはないんだけど、今目の前にあるのは水たまりで、オアシスは地上にあるじゃん……?

 そう思って反論してみれば、花奈さんはしばし固まり、困ったように眉を下げた。

 

「…………それは、そう、ですわね……」

 

 どうやら納得してくれたらしい。

 

「花奈っち、よっわ」

「喧嘩にすらなってないもんね」

「流石夢希ちゃんです!」

 

 花奈さんが女性陣から好き放題言われている……

 うーん、普段愛依や凉にぼろ負けしているときの私ってこんな感じなんだなあ……

 そんな一幕もありつつ、お鍋が煮えたので取り分けていく。

 美味しそうな匂いだ……カニ鍋なんていつ以来かなぁ。お父さんが貰ってきた時くらいしか食べないしね。ちょっと高いし。奮発するぞ! って思うほど好きなわけでもないし。

 美味しいけど、このお値段出すのはちょっとな……私の中でそんな位置にいるのがカニというものなのである。

 そんなことを考えていたら、彩音さんが受け取ったお椀を見ながら微妙な顔をしている。

 

「それにしても、ヤドカリ鍋かあ……相変わらず名前だけは何とかならないのかな?」

「ゴックンチャクの煮物とか食べておいて今更じゃない?」

「うーん、モンスターの名前じゃないから、そのものを思い浮かべちゃって、ね?」

「あー……」

 

 彩音さんの言葉にちょっと納得がいく。確かに、ヤドカリそのものを思い浮かべちゃうと……うん、私もちょっと嫌かも。

 見た目だけならどう考えてもモンスターの方がゲテモノじゃない? みたいなのも多いんだけど、何故かヤドカリの方が嫌だな。何故だろうか。

 ちょっと自分の中で考え始めたところで、ふと思いついた。というような感じで、灰原さんが呟いた。

 

「そういえば新種だから、名前つけないといけないんすね」

 

 確かに。名前かあ……いやなこと思い出しちゃったなぁ……渋谷のヌシの名前本当にどうしよう? 今のところ本当に渋谷のブッシーになりかねないよ? 流石にひどすぎるから、どうにかしたいところなんだけど……

 一人思考の海に沈んでいったら、浜面さんが金守さんの肩を叩く音がした。

 

「金守、任せた」

「待ってくれ、俺なのか!?」

 

 金守さんが悲鳴を上げるが、申し訳ないけれど、助けられない。

 ……リーダーだし、頑張ってほしいな……

 金守さんが助けを求めるように周りを見た時、私に目が合ったので、正直に伝えて断ることにする。

 

「私は他に考えないといけないのがいるので……」

「……待て、その話を詳しく聞こうか」

 

 途端に凄く真面目な顔になった金守さんに、詳細を説明していく。

 そういえば、入る前のことだから話してないなあ。

 

「渋谷のヌシを映像記録に残したので、そのせいでヌシの名前を考えないといけなくて……」

 

 いや、本当に。

 嬉しかったのも事実。誇らしいのも事実。でも、それについてきた事象があまりにも喜べない。

 私のセンスのなさが後世まで語り継がれることになってしまう。

 その事実から目をそらし続けたいのだが、いつが期限になるのかわからないので、いつまでも目をそらしておけないのが実情である。

 今度凉辺りにもお願いしておこう。ゲームやらマンガの知識でそれなりのものを出してくれる……はずだ。

 

「おお! ヌシをですか!」

「流石夢希さん……」

「お前、本当にすげえな……」

「いや、何も聞いていないんだが……?」

 

 男性陣それぞれから反応を貰ったが、金守さんの反応的に言っておいた方が良かったのだろうか?

 うーん、どこまで金守さんに報告するべきなのかわからないな……彩音さんに一回確認を取った方がいいだろうか?

 まあ、特に今のところ報告するような事柄ってないけども。

 

「入る前の話なので言わなかったんですけど、言った方が良かったですかね……?」

「いや、入る前だというならまあ……いや、どうせ調査依頼が来て知ることになるだろうが、言っておいてくれた方が良かったか……?」

 

 金守さんが悩み始めてしまった。まあ、名前のことで悩まなくなったので結果オーライということで……

 現実逃避ともいう。

 

「他にもなんかねえの?」

 

 わくわくした様子の浜面さんに尋ねられる。いや、そんなにいろんなイベントに関わっているわけじゃないんですけど……

 

「浜面さんは私を何だと思っているんですか?」

「面白びっくり箱」

 

 酷い言い草である。

 

「……酷くないですか?」

「モンスター食ってて、イレギュラーに複数遭遇してて、一年の間に二回もダンジョンに閉じ込められるような奴は面白びっくり箱だろ」

「……」

 

 何も言い返せなかった。いや、そう言われると酷いな……というか、そうだよ。なんで一年で二回もダンジョンに閉じ込められてるんだ?

 お祓いとか行った方がいいのかな?

 

「花奈さん、私ってお祓い行くべきだと思う?」

「さ、流石に大丈夫じゃないでしょうか……?」

「むしろ、私の方が行くべきかも……」

 

 彩音さんが遠い目をしている。うーん……確かに、私とパーティを組んだきっかけといい、その後のイレギュラーといい、彩音さんの方がマズいのかな……?

 言われてみれば、彩音さんと出会ってからの方が変なことが多いような……相乗効果って奴だろうか?

 

「……うん。2人で行こうか」

「ね」

「そういうことならわたくしも」

 

 というわけで、今度の草津旅……ダンジョン調査の時に、一緒にお祓いに行くことになった。

 お鍋は非常に美味しかった。浜面さんも満足そうに食べてくれた。

 

 




この調子でペース上げていきたいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【本編完結】 ハンマー少女はバズらない! 固有スキル【隠遁】で自由に探索してたら伝説になってました(作者:chikuwabu)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 魔物からも認識されないし、人間からも認識されない、配信にだって映らない。そんな癖の強いスキルのおかげで人知れずソロ探索をしていたら、いつの間にかドワーフだとか座敷童子だとか、変な目撃証言が広まっちゃった、見た目子供な女の子(18)のお話。▼ そんな噂は気にもせず、妖精少女をパートナーに従えて、カレーを食べたり、探索したり、人助けをしたり、たまに目撃されたり…


総合評価:10543/評価:8.8/完結:649話/更新日時:2026年07月03日(金) 23:00 小説情報

低身長美少女配信者のダンジョンすくすく成長記(作者:タナボルタ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 何の前触れもなく世界中にダンジョンが出現してから百有余年。▼ 世界はダンジョンという異常にすっかりと慣れ切ってしまい、ダンジョン探索者、ダンジョン配信者といった職業まで当たり前に存在するようになった。▼ 一人ダンジョンに潜り、とある夢を叶えるためにダンジョン配信者である“るぷす”は今日もマイペースにダンジョンを探索する。▼「む、魔物が逃げた。きっと私の溢れ…


総合評価:663/評価:7.74/連載:25話/更新日時:2026年09月23日(水) 20:40 小説情報

【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~(作者:サイリウム)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

旧題『TSダチョウ獣人』▼バチクソにアホなダチョウ、その獣人になってしまった奴のお話。▼なろう、カクヨムにも連載しております。▼カドカワBOOKS様から第二巻が4/10に発売です!▼(https://www.kadokawa.co.jp/product/322412000240/)▼支援絵を頂きましたため、此方でもご紹介させていただきます。また掲載した話の所…


総合評価:23053/評価:8.76/連載:105話/更新日時:2026年07月26日(日) 17:00 小説情報

魔法少女はニチアサ展開に付き合いたくないって話。(作者:暁真)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

▼一宮弍乃(いちみやにの)は歴戦の魔法少女である。▼日常をこよなく愛し、面倒事を忌み嫌う彼女は定期便の如く現れる異世界からの侵略者にキレながら今日も今日とて魔導士(マギスター)ユノとして戦い続けている。▼そんなある日、偶然見つけた自分とはまるで系統が違う魔法少女を見て彼女は思った。▼「あの子ニチアサ主人公じゃん、関わりたくねぇ」▼世界がニチアサ時空である事を…


総合評価:19423/評価:8.85/連載:74話/更新日時:2026年09月28日(月) 07:05 小説情報

スタイリッシュ異能バトルの世界で俺だけ魔法少女としてエロゲの敵と戦っている(作者:かませ犬S)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

気付いたら俺が大好きだった漫画『アビリティ・ストライク』の世界に転生していた。▼その漫画は所謂、能力もののバトルファンタジーで、主人公やヒロイン、魅力的な敵キャラたちの能力を駆使した時に戦闘シーンが魅力の作品だった。▼漫画の大ファンだった俺はこの世界が『アビリティ・ストライク』の世界であることに気付いた。▼好きだった漫画の世界に転生したなら、原作に介入してみ…


総合評価:5955/評価:8.64/連載:46話/更新日時:2026年06月12日(金) 07:04 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>