【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
夕飯を食べ終えた後、各々腹ごなしをしていた。
と言っても、のんびり雑談していたり、ストレッチ程度の軽い運動をしたり、研究をしたり程度である。
私は、偵察役として未だに活躍中のクーを撫でまわしていた。
先ほど涼子が持ってきてくれた、明日か明後日に地上に帰れるかもというニュースのおかげか、昨日よりもかなりみんなの雰囲気が柔らかい。
去年の渋谷に比べると……うん。比べ物にならないくらいの柔らかさだったね。最初から。ドラゴン戦前後は流石に少々硬い雰囲気ではあったが、それ以外はかなりいい雰囲気ではあった。
事前に閉じ込められてもいいように準備していたのが非常に大きいと思う。特に食料。
次いで、涼子の存在。この閉鎖空間にある程度の物資を定期的に届けてくれる人だもの。本当に気持ちが楽になった。怪我とかも気にしなくてよくなったしね。
……うーん、『
「ん?」
なんて考え事をしながらクーを撫でていたら、スマホがぶるぶる震えた。
圏外になってからというもの、無用の長物と化していたのになんだろうかと取り出してみると、まさかの愛依からの着信だった。電波まで復旧するとは……
圏外になっていたのは、瓦礫のせいだろうか? いや、流石にそうじゃないか。
そんな考察をしつつ、いつものように電話に出る。
「はい、もしもし」
『……』
あれ? 返答がない。おかしいな?
念のため、スマホを耳から離して画面を見るが、特に問題はなさそうだ。
首を傾げつつスマホを再び耳につけると同時に、電話の向こうからすごく大きなため息が聞こえてきた。
『はあ……アンタ、普段と変わんなすぎでしょ……』
「まあ、普段と大差ないから」
なるほど、そういう呆れの時間だったのね。
でも、私にとって、本当に普段と何ら大差ない感じだったからなぁ……
もちろん、最初に落ちてきたときとドラゴンのブレスを見た時は本気で焦ったし怖かったけど、今愛依に言うことでもないしね。
そう思って軽い感じで返答したら、電話の向こうから愛依の大声が聞こえてきた。
『いや、ダンジョン崩落して閉じ込められたんでしょ!? 大事でしょうが!』
「いやまあそうだけど、閉じ込められる前提で装備を整えてたし……」
『どういう前提してんのよ!?』
うーん、ものすごく久しぶりに正論の連打を叩き込まれている気分。
でも、間違いなく愛依が正しいと思う。ダンジョンが崩落して閉じ込められたのも大事だし、閉じ込められる前提で装備整えるのもおかしい。
そのおかげで今の状態があるとしても、おかしいのは間違いないしね。
そんなところをちゃんと指摘してくれるのが愛依のいいところだ。
今のところ私がズレすぎていない理由は、間違いなく愛依なのである。
『……まあその辺はいいわよ。とりあえず、アンタも他のみんなも無事なのね?』
「うん。全然大丈夫」
『ならいいわ。凉、繋がったわよー』
少し電話から遠くなった愛依の声に、はーいとさらに遠くから返事する声が聞こえた。
2人で一緒にいるのか。ということは凉の家にいるのかな? 愛依の家だったら、多分愛依のご両親の声とかも聞こえてくるはずだし。
というか、さっきまで遊んでたんだか見ていたんだかわからないけど、なにかゲームっぽい音が聞こえるし。
スピーカーからガサゴソと音がした後、凉の声がした。
『おーす。夢希、無事ー?』
「うん、無事だよ」
『どのくらい?』
どのくらい……こういう時、怪我はないよ。とか、問題ないよ。とか答えるのが世間一般的には正しいのかもしれないけれど、私たちは違う。
いや、凉に教えてもらった悪ノリの仕方というかそんな感じだけど、それに則って応えるのなら……。
「ドラゴンの焼き肉が美味しかったくらい、かな」
『んふふ、いいもん食ってんねー』
気の抜けた笑い声が返ってきたので、正解だったようだ。
まぁ、嘘はいっていない。本当に。実際ドラゴン美味しかったし、なんなら今食べたばかりのヤドカリだって美味しかった。
カメレオンは変則的ではあるけど美味しいのは美味しいし、カニは……ミソだけは美味しいらしい。
私にはその美味しさがいまいちわからなかったけれども。
「そっちは変わりない?」
『そーねー。強いて言うなら、めっっっちゃ心配してた友達がすっごい呑気に楽しんでたくらいー?』
だいぶ心配をかけてしまったらしい。それはそうか。さっき愛依も言ってたけど、結構大事だもんね、私たちの状況。呑気に楽しんでいるのも、否定できないし。
何より、凉の声から若干の怒りを感じたので、素直に謝ることにする。
凉は基本的に対人ゲーム以外では滅多なことでは怒らないので、怒ったときはそれなりに怖いのだ。
たまに怒ると、愛依すら正座するほどである。そのくらいのやらかしをしたということでもある。
「……ごめんなさい」
『夢希らしいから私はいいけどさー。愛依が見てられないくらいだったから後で覚悟しときなねー?』
「はい」
神妙に返事を返したら、後ろから愛依の、余計なこと言ってんじゃないわよ! という声が聞こえた。ついでに叩いたのかべしっという打撃音も。
というか、スピーカーモードにしなよ2人とも……そしたら普通に話せるじゃん……。
そんな感じで久しぶりの友人2人との会話をしていたら、彩音さんがそれに気づいた。
「あれ? 夢希ちゃん電話? つながったの!?」
「うん。彩音さんもつながるかも」
「……あ、行けそう!」
彩音さんもスマホを取り出して、操作した後誰かに電話をかけ始めた。
多分、家族の人とかかな。
何で今まで長谷川さんのスマホで連絡しなかったのかって? 自分のならともかく、他人の電話番号なんて覚えてないよ……私の場合、家の電話にかけたところでお父さんが仕事だったらそもそも出ないしね……
唯一覚えているのが、ギルドの緊急対応窓口の電話番号なことは秘密である。悲しいことに、何度もかけていたら覚えてしまったんだ……
「……俺のもつながったな」
「俺もです」
「灰原、後で俺にも貸してくれ」
「わかりました」
後ろの方で、男性陣もスマホの確認をしているみたいだ。落としてしまった浜面さんが、灰原さんに借りようとしているのを見て、ふと思い出す。
同じようにスマホを落としてしまった花奈さんにも、後で貸してあげた方がいいだろうか? と思ってそちらを見たら、美弥子がすでに渡していた。
いや、美弥子は連絡しなくていいの? 長谷川さんの定期連絡で無事が伝わってるから別にいい? あ、そう……本当かなぁ?
そんな感じで話していたら、電話の向こうで愛依の心配そうな声がした。
『……他のメンバーも無事なのよね?』
「うん、9人全員無事だよ」
文句なしに全員無事である。エリクサー様々だ。
強いて言うなら、ちょっと前に発光してたのは無事じゃなかったかもしれない。腹筋的な方向で。
『あれ? 閉じ込められたのは八人じゃないのー?』
「一人救援で来てくれた」
『……いや、救援来れるなら帰れるでしょ? なんでまだいんのよ?』
「えっと……その人、体がスライムだから瓦礫の隙間を縫って……」
『うっわ、めっちゃ会ってみたーい』
凉の楽しそうな声がする。ゲームとかアニメが好きだからかな? 結構そういうの好きだよね。フィギュアもあるし。
やたら露出度高いのが気になるけど。特に足。
涼子の話を出したからか、愛依が恐る恐るといった感じで問いかけてくる。
『……まさかと思うけど、他にもそんな感じの人がいるんじゃないでしょうね……?』
「今ここにケンタウロスと竜人と獣人がいるよ」
『そんなに色々いるの!?』
『流石夢希。身の回りに変人が多いねー……』
「変人って」
『ま、類友でしょ』
『それはそー』
「……まあ、『
困ったことに反論しにくい。中身が常識的でも外見は常識的じゃないからなおさら困る。
でも、『
ところで、である。
「類友っていうなら、2人もそうなるけど……?」
私のそばにいるのが変人で、類友だというのなら、その筆頭は2人になると思うのだが。
『私は自分を変人だと思ってるけどー?』
まぁ、凉はそういう反応するよね。当人曰く、オタクは変人しかいない! とのことだった。
流石に偏見だと思う。そう思いたいけど、魔法オタクの叔父さんとか美弥子を見てると、何とも言えない。
『私は変人じゃないから。アンタら2人に振り回されてる常識人よ』
愛依はそういうと思っていた。間違ってはいないと思う。
でも、自宅の部屋一つが全部服で埋まってるのはどうかと思うよ。ウォークインクローゼットとかじゃなくて、普通の部屋がそうだもん。それに、新作出たら試さなきゃ! ってすごい量の化粧品集めてるし。凉のオタクグッズと大差ないよあれ。棚2つ分あるじゃない。
モデルさんだとしてもどうなの? って個人的には思う。そして、それを普通と言い切るんだから、十分に変人である。間違いなく。
『いやいやー、愛依のファッションオタクっぷりは変人でしょー』
『はあ?』
『オタクは皆変人! 認めて楽になろうねー?』
『認めるわけないでしょうが!』
電話の向こうで2人がぎゃーぎゃーと言い争いを始めたので、しばらく待つことにする。スマホを膝において、クーの頭を両手でわしゃわしゃー。うーん、いい手触り。クーも満足げである。
そういえば、クーにブラッシングとかしたことないけど、換毛期とかあるんだろうか……? 毛並みが変わっているのは見たことがないからなさそうだけど……どうしよう? 実は指輪の中は抜け毛でいっぱいです! とかなっていたら。
少し怖くなったものの、そもそもこうして撫でまわしているのに一切手に毛が付かないので、抜けないんじゃないか? という結論に落ち着いた。
電話の向こうが静かになったので、少し気になったことを聞くことに。
「そういえばさ、地上ではどういうニュースが報道されてるの?」
『ダンジョンが崩落して、『
『まー、無事ってだけだと、生きてるから無事って言ってるだけなんじゃ? って疑問が拭えなくてねー』
「そういうもの?」
『そういうものー』
うーん、無事は無事なんだから、素直に受け取るべきなのでは……?
2人の発言に首をかしげていたら、愛依が補足説明のようなものを入れてくれた。
『あれよ。行方不明者の保護と無事保護の差よ』
「なにそれ?」
『愛依ー、夢希テレビ見ないんだからわかんないってー』
『ニュースは見てんでしょ? だったら伝わるかと思ったんだけど……』
『じゃあ訂正するねー。見てても興味がない』
『あー……』
納得しないで欲しかったけど、事実なのでしょうがない。
実際、興味がないことばっかりだからね……たまーに気になったものを調べるくらい?
アウトドアメーカーのCМとかのやつ。
それにしても、さっきのやつは何が違うんだろうか?
「何が違うの?」
『保護は生きてはいるけど問題あり、無事保護は特に健康状態に問題なし。こんな感じの差があるわね。結構こういう隠語って多いのよ テレビって』
「……ニュース見るのが怖くなったなぁ……」
そのくらいの差を無事の一言で表すの怖いなぁ……他にも何かあるんじゃないかって疑っちゃいそうだ。
そう思ってちょっと憂鬱になっていたら、容赦のない追撃が来た。
『ちなみに、発見の場合は死んでるわ』
「もっと怖い情報はいらないよ!」
真面目に聞きたくなかった……見つかってよかったーとか思ってたのに! 何にも良くない!
……ああいや、死体だとしても、見つかること自体はいいことか。何もないよりはずっといい。
ちょっとだけお母さんのことを思い出してしんみりしていたら、悪ノリの権化が悪ノリを始めた。
『ちなみにねー、事故とかの時の――』
「あー! なんか電波悪いなー! 切るねー!」
さらに怖いことを言い出しそうだったので、とりあえずぶちぎった。
ともかく、無事の連絡は出来たのだし、これでオッケーのはず。問題なし!
……ダンジョンの中よりも、地上にいる友人たちの方が怖い気がしてきたなぁ……