【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「ぷはっ……よし、解体しますね」
「……ああ、任せた」
力尽きたドラゴンの前、マナポーションを一気飲みし、無表情ながらもウキウキしているのがよくわかる物前君が、ナイフを取り出す。
しばらく一緒に行動していたからか、無表情な彼女の感情がある程度分かるようになってきた。
……いや、物前君が分かりやすいだけか?
「いやあ、それにしても、楽だったな……」
「物前さんが本気出すとああなるんですね……」
近くでは浜面君と灰原君が何とも言えない表情をしている。
彼らの言う通り、凄まじく楽だったのは事実だ。
何せ、喉の袋に不意打ちの槍を当てるまでは同じだったが、その後が違った。
いくつかの強化魔法を自身に付与した物前君が、使い魔のクラーラ君と一緒に全力の七重《グラビティ》で地面に縫い付け……その隙に美弥子君が殴り飛ばした。
ドラゴンの頭部が下顎を残して綺麗に吹き飛んでいて、何とも言えない気持ちになる。
それにしても、七重の重力魔法か……どれほどの重さになっているのか、考えたくないな。
「最初からあれでよかったのでは……? この方法の方が安全でしょうし」
「その後のことも考えてたからじゃないかな? あの戦法、魔力大盤振る舞いしてるから。単純計算でも普段の五倍以上は使ってるわけだし」
「ああ、なるほど。物資と期間の目途が立ったからこその戦法ですか。先ほどもマナポーションを飲んでおられましたものね」
後ろでは、北条君と美空君が小さく今の戦いについての振り返りをしている。
実際、彼女たちの言う通りだろう。今の戦法を最初からしていればよかったのでは? というのは俺も思ったところだ。
とはいえだ。《グラビティ》がどの程度効くのか、ブレスのクリスタル化を防げるのか、ドラゴンがどの程度の耐久性を持っているか、そのすべてが不明、という状況で、今の戦法をするのはだいぶリスクが高い。
物前君は、強化魔法を自身に付与すると浮遊魔法が使いにくいと言っていたし、今回火力を大幅に上げてくれているクラーラ君も地上限定である以上、万が一の回避が間に合わない可能性は考えるべきだ。
また、美空君のいう通り、その後のことも考えると、索敵、怪我人運搬用のクー君の維持魔力、戦闘における防御に遠距離攻撃のことも考えると……後衛の仕事を彼女の万能性に依存しているパーティである以上、彼女を失いかねない戦法を取るわけにはいかない。
それと、美弥子君が近づけるのか、という点も問題になる。彼女自身の身体能力はそれほどでもないようだし、殴るまでに死亡する可能性もあった。
これらのことを考えると、やはり最初の戦闘での策は正解だったと思う。
いや、それらを差っ引いても何とも言えない気分にはなるが。あまりにも余裕すぎやしないだろうか……。
「それにしても、美弥子の《無敵》ってマジで何にも効かないのな」
「あの《グラビティ》の中に入っても、何の影響も受けていなかったのは凄まじかったですね……」
「効果時間中は本当に無敵ですからねえ、彼女。毒物なんかも効きませんよ」
単純に物前君たちと顔見知りで、研究者として優秀という点で選んだ美弥子君が、あそこまで一点特化だとは思っていなかったのもあるが……。
地上に戻ったら、一度探索部門以外の面々のスキル、その効果を把握しておく必要がありそうだな……研究員の中にも、まだああいった規格外がいてもおかしくない。最終手段として、手札の中に入れておくのも大事だろう。
流石に、美弥子君ほどおかしな存在はいないと思うが……いないよな? いないでくれ。頼むから。
「……まあ、気にするのはやめるか」
今考えても仕方がない。ダンジョンを出てから考えればいいことだ。
だが……うむ。
地上に土産の一つでも用意しておくべきだろうか……?
通常のクランに所属しているのならそんなことは考えないのだが、俺たちが所属しているのは『
新たな階層が出来た以上、まずは他のクランが調査に入るだろう。あくまでも研究機関である『
つまり、俺たちがアドバンテージを持っているとするなら今だけ。
さらにいえば、間違いなくあの熱心な研究者たちが、金に糸目をつけるとは思えない。探索部門の設立でわずかばかり出来たらしい財政の余裕がすべて消えかねないだろう。
長谷川君や美弥子君の方でも、何やら集めていたが、その程度でどうにかなるとは思えないしな。
そして、恐らくだが、物前君はあのドラゴンの肉を土産にするつもりだ。恐らくではなく、間違いなくだな。美味い肉なのも事実だし、ダンジョンからの土産でなければ、割と喜ばれる部類のものだと思う。
となると……通常のドロップアイテムを可能な限り持って帰るのが良いだろう。水沼君にも多少持ち帰ってもらっていたが、さらに集めておいた方が良さそうな気がする。
目の据わった彼らに詰め寄られるのは、精神的に来るからな……。
精神の安定を図るため、詰め寄ってくる顔の中にいないメンバーを思い浮かべ、犬束君のことを思い出したとき、ふと疑問がわいた。
「そういえば、美弥子君」
「はい!」
「君は、昨日あのゴーレムを倒し、今日ドラゴンを倒したわけだが、体に異変はないか?」
今回の調査に呼んだ時点での美弥子君のレベルは87。研究職なのでかなり低いのだが、その護衛は俺たちが確実にこなすしかない。探索部門が出来る以前は、こういったダンジョンの調査は他のクランと連携して行っていたが、その時も同じような編成だったようだ。
そんな彼女が深層のボス級のモンスターを二体も倒している。
そして、少し前、犬束君がスキルのせいで一気にレベルが上がり、体の制御に苦慮していたのは記憶に新しい。
だが、彼女にはそんな兆候は一切ないのが不思議だった。
「《無敵》発動中は何してもレベルが上がらないので! 経験値の獲得に対しても無敵になっているみたいです!」
「……そうなのか」
にこやかに答える美弥子君に何とも言えない気持ちになる。いや、失礼なのは承知なのだが。
しかし、想像以上にピーキーなスキルだな《無敵》……本当に、ありとあらゆる事象に対して無敵になっているということだろうか。
そのピーキーさを補って余りあるほどの強力さではあるが。
「なんだってこう……」
思わず、普段から考えていたことが口から漏れそうになった。
慌てて口をふさいだが、近くにいた美空君たちに気付かれてしまった。
「どうしたんですか?」
「何か問題でもございまして?」
純粋に心配そうな目を向けてくる彼女たちに、誤魔化すのは簡単だ。
だが、誠実ではないな。少しばかり吐き出させてもらおう。
「……どうしてユニークスキルというものは、こうも面倒なのだろうと思ってな……」
俺が冒険者になってからずっと考えていることだ。
冒険者になることは、ユニークスキルを獲得することでもある。そこに今のところ例外はない。
ユニークスキルは強力なものが多い。だが同時に、色々なデメリットもついてくる。中には、デメリットに対してメリットが少ないのではないか? と思うものもしばしばある。
その中でも、浜面君のようなスキルはそれこそデメリットの方が大きいように感じる。
体格や力に恵まれるといっても、その反動で姿も食性も何もかもが変わるのだ。今までの暮らしに戻る方法もない。
もう少し、どうにかならなかったのかと、考えてしまう。意味はないだろうが。
俺が吐き出したものを、2人がどう解釈するか。しばし二人の言葉を待つと、ぽつりと声が聞こえた。
「……そういえば、わたくしのスキルのデメリットは何なのでしょうか……?」
「え?」
「ん?」
北条君の言葉に、美空君と二人で彼女をじっと見てしまう。
確かに言われてみれば、彼女のスキルにデメリットがあるとは聞いていない気がするが……そういえば、物前君《錬金》にも、デメリットがなかった気がするな。
やはり、ユニークスキルというのは面倒だ。もっとシンプルに、強力なスキルたちであったならよかったのだがな。
「本当に、特には思いつかないの?」
「ええ……強いて言うのであれば、魔法や奇跡がさっぱり。というくらいなのですが、わたくし盾使いですからね。デメリットと言っていいのかどうか……」
美空君の質問に、いつも通りの調子で北条君が答える。その答えに、少し思考が固まった。
…………。
いや、それはその……違うんじゃないか? 因果が。逆だろう、多分。
「なんの話してんだ?」
浜面君がやってきたので、軽く今までの話をすると、彼も俺と同じ結論に至ったらしい。
「いや、お前の場合、本来は多分盾使わねえんだよきっと。というか、なんでヒーラーが盾持って最前線にいんだよって話だしよ」
浜面君の言う通りだ。本来ならヒーラーならば後衛で守られているべき存在だと思うのだが、彼女は最前線で大暴れしている。
実際、盾の使い方も上手いので、非常に頼りにしているのだが、それとこれとは別の問題だ。
恐らくだが、そのデメリットと引き換えに、効果の高い範囲回復スキルをユニークスキルとして持っているのだと思うのだが……。
そんな考えをよそに、北条君はさらに先を行った。
「スキルの効果範囲からしても、わたくしが前線にいる方が効率がいいではありませんか」
「そういう問題だったの!?」
「それで盾使いに……マジで?」
「ええ。それに、カッコいいでしょう?」
美空君と浜面君の困惑を前に、ふふっと微笑みながら胸を張る北条君は、とても恰好いい女性だと思えた。
少なくとも、未だにこの体になったことへの未練を少しばかり引きずっている自分よりは。
「ふっ、そうだな。北条君は格好いいな」
「ブルヒィ! そうだな!」
「ふふふ、ありがとうございます」
俺たちの称賛を聞いて満足そうな北条君だが、その横では美空君が大分もの言いたげな目をしている。
「…………普段からそうだったら手放しで賛同できたんだけどなぁ……」
「彩音さん? どういう意味ですの?」
「だって花奈ちゃんってお酒のことしか頭にないし……」
「わたくしの人生そのものですもの。当然ですわ」
「……そういうとこだよ、そういうとこ!」
北条君の相変わらずなアルコールへの執着を聞きながら、自分の未練を思い返す。まあ、大したことはない。
いや、個人的には大したことなんだが……物前君のおかげでどうにかなりそうだしな。
そう思いはせていると、浜面君が体を縮めて俺の耳元でささやく。
「……なあ、この異常な酒好きがデメリットって可能性、あると思うか?」
「ぶはっ」
浜面君のあんまりな考察に思わず吹き出し、しばらく笑いが止まらなかった。
※デメリットではないです。素です。