【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と魔女の大鍋(コルドロン)

 

 私たちは、『魔女の大鍋(コルドロン)』の本拠地に向かっていた。東京の郊外にあるから、少し時間がかかる。メンバーは、私と彩音さん、犬束さん、庄吉さんの4人だ。室井さんと緒方さんはいない。何故なら、ここからは、個人と個人のやりとりじゃないからだ。

 個人と個人だと、後で色々言った言わないで揉めることがあるので、間にギルドを入れることが多い。公的な文書に残すために。ただ、個人とクランのやり取りとなれば、文書はクランで保管するので、ギルドの出番はないのだ。

 

「『魔女の大鍋(コルドロン)』に行くのはいいが……大手も大手だろう?アポイントもなしに話を聞いてくれるのか?」

「知り合いがいるので、その人に話を通します。アポも取りました」

「お、おう、そうか……」

「『魔女の大鍋(コルドロン)』に知り合いいるんだ……夢希ちゃんって一体……?」

「どんな人なんすか?」

「ロマン大好きな技術バカ」

「結構ざっくりいったね!」

 

 いや実際、それ以外に形容しようがないよあの人は。関係性としてみるなら、年の離れた従姉妹のお姉さんとかになるんだろうか?気安い関係ではあるんだよね。こっちからも頼み事をするし、あっちから頼み事もされる。たまにご飯を食べに行ったり、相談に乗ってもらったりもする。そんな感じだ。私が物心付いたときから知っている人で、よく私に魔力で動く玩具を作ってくれた人でもある。

 本拠地に着いた私たちは、クランの入り口の受付の人に用件を伝えて、彼女の部屋まで行く。会議室とかじゃないのかって?全部埋まってるから私室しか空いてないって言われちゃった。流石、大手のクランだよなぁって。

 彼女の部屋の呼び鈴を鳴らす。防音のはずの部屋の外まで聞こえる爆音ベルである。これくらいじゃないと気付かないらしい。ガチャガチャと重い鍵の音が響いた後、内から、扉が開いた。中から、ボサボサの黒髪を適当にまとめ、顔に油汚れとおぼしき黒い筋を付けた、ジャージにオーバーオールという出で立ちの女性が現れる。

 

「やあ、久しぶりだね夢希」

「久しぶり、白石さん」

「それで、後ろの彼女が……話していた子?」

「そう」

「分かった。とりあえず入って。中で話を聞こう」

 

 案内された部屋は、紙が山積みになった机と、端に追いやられたホワイトボード、椅子が6脚あるだけの部屋だ。隣の部屋に通じるドアが3つあって、それぞれユニットバス、寝室、作業部屋に繋がっている。

 全員で椅子に座ったあと、犬束さんを促して、説明をしてもらう。

 

 

 

 

 

「……というのが、今の状態なんすけど、どうにか出来るっすか……?」

「……出来る出来ないでいうなら、出来るとは思う」

 

 一通り話し終えた犬束さんに白石さんが答えを返す。まぁ、出来ない訳ないよね。

 

「ほ、ホントっすか!?」

「ただ……」

「ただ?」

「知り合い経由の裏道とはいえ、依頼は依頼だ。きっちりと対価はもらうよ?でないと、クランとしての面子が立たないからね」

 

 白石さんが犬束さんを見据えて話す。なんていうか、身だしなみ整えてないだけで結構美人だから、ちょっと凄みがあるんだよね、白石さんは。

 そして、対価についてはそりゃそうだよね。技術もそうだけど、開発費や開発した製品の値段もあるしね。というか、これオーダーメイドってことになるの……?値段が怖くなってきたな……

 

「わかっている。いくらだろうと俺が払う」

「爺ちゃん!?」

「お前、彼女らに払う依頼料とギルドへのペナルティ払って、金あるのか?」

「…………ないっす」

「なら、黙っておけ」

「はいっす……」

 

 庄吉さんが犬束さんを一蹴した。まぁ、事実としてそうだよね。駆け出しも駆け出しな犬束さんには、厳しいだろう。

 ちなみに、今回犬束さんに課せられるであろうギルドからのペナルティは、罰金の支払いと3ヶ月間の冒険者資格の停止だ。ユニークスキル由来っぽいから、そこの情状酌量込みでの罰だね。ここで、ユニークスキル由来だって確定したら、そのまま。それ以外なら再度審査し直すらしい。ちなみに、停止期間明けにもう一度講習を受ける必要があったりとか、他にもなんか色々あるみたい。私も一応気をつけよう。

 

「対処法の発見、ならびにその道具の作成。最低でも300万は覚悟して欲しい。作るものにもよるけれどね」

「分かった」

 

 庄吉さんが即答する。スゴイな……

 

「……いいお爺さんを持ったね、犬束さん」

「はいっす……」

 

 白石さんは、部屋の隅にあったホワイトボードを持ってきた。なんかすでに真っ黒だけど、消していいのかな……?あ、消した。そして、現状を書き込んでいく。

 

「とりあえず、軽く整理をさせてくれ。犬束さんの味覚障害が恐らくユニークスキル由来であり、治療法が現状皆無。そして、モンスターと夢希の血液に関しては味覚があったことから、魔素(マナ)を感じ取ることで味覚が反応していると仮説を立てた。故に、食材に魔素(マナ)を付与する方法を探しにここに来た。ここまであっているかい?」

「あってるっす」

「ふむ……」

 

 白石さんが、ホワイトボードを見ながら考え込む。彼女は技術屋なので、私たちから見ても分からないことまで分かるし気付く。頭もいいしね。ちょっとおかしいところもあるけど……

 

「どうにかなりそう……?」

「……解決策自体はある」

「え!?」

魔素(マナ)とは、魔力の元であり、残滓でもある。であるならば、単純に、食材に魔法をかければいいだけだ」

「すごいっす!もう解決っす!」

「そ、そんな簡単に……?」

「いや、簡単じゃない。問題は、食材に魔法をかける方法だ」

「……?」

 

 全員の頭に、疑問符が浮かぶ。単純だけど、簡単じゃない?浮遊魔法をかけるとかじゃダメなのか……?

 

「より正確に言うならば、表面だけでなく、内部にまで浸透させる方法が問題だ。例えば、肉を焼くのに《ファイアボール》を使ったとする。中まで火が通ったとしても、魔法が当たったのは表面だけ。サイズにもよるが、内部が味がしない可能性はある。実験してみよう」

 

 白石さんが実験と称して持ってきたのは、飴玉だった。丸くてちょっと大きめのやつだ。そして、それに浮遊魔法をかける。しばらく空中に浮かばせたあと、犬束さんに差し出した。

 

「舐めてみてくれ。味が最後までするかどうか確認したい」

「は、はいっす……」

 

 犬束さんが口にいれて……一分もしない内に吐き出した。本当に表面にしかなかったみたいだ。結構めんどくさいぞこれは……内部まで行き渡らせるってどうすればいいんだ……?穴でも開けて……いや、穴の周りだけが味するようになるだけか……

 ただ、ちょっと進歩はした。厚さが薄いものなら食べられるだろうということだ。どこまで大丈夫かは分からないけど。

 

「もし良ければ、何か案を出してくれるかい?ふざけていないなら何でも構わないよ。そこから解決策が見つかるかもしれない」

「まず、確認なんだけど、薄いものならいけるってことでいいの?」

「……確かに、確認しておこう」

 

 白石さんどこからともなくポテトチップスを取り出してきて、同じように浮遊魔法をかける。そして、犬束さんがそれを食べて……しばらくして変な顔になった。

 

「途中で味なくなったっす。急に消滅したっす……」

「ふむ。なかなか厳しいかもしれないな……」

「いやでも、ちょっとでも味がしてくれてるんで、食べられるっすよ。急いで食べればいいんすから」

 

 確かにそれはそうかもしれないけど……ちゃんと浸透していないと、最後まで味がしないという状態ってことは理解した。理解したが……どうすればいい?

 

「……ウォーターボトルで水を出して煮込んだら、中まで入るんじゃ?」

 

 彩音さんが案を出してくれた。ウォーターボトルは、魔力で水を出してくれる水筒だ。めちゃくちゃ便利なアイテムなので、冒険者の必需品である。犬束さんも持ってるだろうし、結構いい案じゃないか?

 

「ダンジョン内ならともかく、地上においては、魔素(マナ)は徐々に拡散していく性質があるし、ウォーターボトルで発生する魔素(マナ)はそこまで多くない。水に変換されているからね。よって、煮込んでいる間になくなる可能性が高い。理想は、食べる直前に食材全体に魔素(マナ)を行き渡らせることだ。それも、なるべく早く」

 

 ダメか……水で煮込むとかの間接的なものでなく、魔素(マナ)そのものに漬け込むとか……あ!

 

「収納魔法の中にしまっておくのは?」

「悪くない案だが、そもそも使える人間が少ないのが難点だな。犬束さん、使えるかい?」

「む、無理っす……」

 

 ダメかぁ……うーん。どうしたものか……

 みんなで考え込んでいると、今まで黙っていた庄吉さんが口を開いた。

 

「熱を内部まで伝えるのと同じ原理では、不可能なのか?」

「方法によっては不可能ではない。くらいかな恐らく」

「では、電子レンジはどうだ?」

「……ふむ……なるほど。電子レンジか……」

 

 で、電子レンジ……?どういうこと?彩音さんを見てみるけど、彩音さんもよく分かってなさそうだし、犬束さんも分かってなさそうだ。その様子を見ていた白石さんがホワイトボードに向かった。

 

「電子レンジは、マイクロ波によって、食材内部の水を振動させることで熱を発生させている。そして、その熱が周りに伝播することで、全体が温まるんだ。つまり、電子レンジは食材内部に対して直接働きかけている機械なわけだ」

 

 白石さんがホワイトボードに軽く図を描いて説明してくれる。そうなんだ……初めて知った。

 

「魔法でマイクロ波を発生させるもしくは、マイクロ波のように魔素を飛ばせればあるいは……その場合食材に引っかかるかが問題だが……やってみる価値はある。少し待っていてくれ。なに、30分もあればいい」

 

 白石さんが、隣の部屋に入っていってしまった。あっちは作業部屋だから、多分作りに行ったな。というか、30分で作れるもんなの?電子レンジって……?

 思わずみんなで顔を見合わせてしまった。どうやら、みんな考えることは一緒だったらしい。

 

「とりあえず試作してきた」

「ホントに、30分で作ってる……」

 

 本当に、ゴテゴテとした機械がいくつもついている電子レンジらしき何かを抱えて30分で戻ってきた白石さんに、彩音さんがドン引きしている。正直、私もちょっと引いてる。電子レンジをマジックアイテムとして改造するだけでももっとかかりそうだけど……

 

「中にいれるのは……とりあえず、先ほどの飴玉にするか」

「それ、大丈夫なの?」

「温度の調整機能はないから問題ない。夢希、魔力を流してくれるか?」

「ここ?」

「そうだ。充電式だから、流してくれればいい」

 

 いやもう、30分でどこまでやったの……?

 魔力を流し込んで充電?したあと、スイッチを入れた。瞬間、魔力は感じるけど、光はない。音もしてないから、なんか変な感じだ。魔力を感じ取れなかったら、動いてるかどうか不安になるレベルだ。

 一分間その中に飴玉を入れたあと、再度犬束さんが飴玉を舐める。その間に、何故か再度作業部屋に行って、別の電子レンジを持ってくる白石さん。なんで2つ目まであるんだよ!

 

「最後までは味しなかったっすけど、ほぼほぼずっと味してたっす!」

「よし、この方法はいけるらしい。次にこちらも試してみてくれるかい?」

「……こっちはどういう機能なんだ?」

「先ほどのは、魔素(マナ)をマイクロ波のように飛ばすもの、こちらはマイクロ波を発生させる魔法を組み込んである」

「なんで両方できてるの……?」

「私を誰だと思っているんだい?」

 

 ドヤ顔がムカつく……!でも、なんか納得しちゃった。白石さんだもんな……そうだよな。うん。技術バカだもんね。

 一人で納得していたら、彩音さんが横からジトッとした目でこちらを覗き込んでくる。

 

「夢希ちゃん、何か失礼な事を考えてない?」

「ん?白石さんはつくづく技術バカだなって思っただけだよ」

「やめてくれ、照れるじゃないか」

「照れるとこなの!?」

 

 彩音さんの叫びもなんのその、テキパキと再度用意し、飴玉を入れる。こちらは熱が発生するかも、とのことだったけど、スイッチ押しても……魔力しか感じないし、一分ほど経っても飴玉に変化がない。熱が発生したら、多少溶けると思ったんだけど……あれ……?

 取り出して見ても、硬いままだ。再度飴玉を口に入れた犬束さんだけど、すぐに吐き出した。

 

「表面しか味しないっすよこれ」

「ん?おかしいな……何か間違えたか……?」

「ま、まぁ、片方は成功してたわけだし、そっちをメインでってことで……」

「…………それもそうだな。きちんと製品にしなければ。家で使うなら、電気を変換できた方がいいだろうし……サイズは問題ないかな?」

「はいっす!」

「よし、待っていてくれ」

 

 ちょっと白石さんがしょんぼりしている。多分こっちの方がうまくいくと思ってたな……彩音さんのフォローですぐに切り替えると、作業部屋へ再び戻る。

 ちなみに、白石さんは何故か、自信がある方ほど失敗する人だったりする。本当に、なんでかそういう人なのだ。

 

「いやしかし……こんなにすぐに対処法が見つかるとはな……」

「助かったっすよ……それに、久しぶりに甘いものも食べれてなんか満足っす」

 

 庄吉さんと犬束さんが噛み締めるように呟く。私もこんなにすぐに見つかるとは思ってなかったよ。

 予想以上にあっさりと解決し、ちょっと拍子抜けしたような、そんな空気の中、彩音さんがちょっとした疑問を口にした。

 

「でも、これで300万って……ちょっと高くない?」

「実際、それくらいはするよ」

「なんで?」

「なんでって、オーダーメイドの一点ものだよ?『魔女の大鍋(コルドロン)』の職人の」

 

 白石さんは、あんなんだけど、『魔女の大鍋(コルドロン)』の職人の一人だ。それにオーダーメイド頼んでるんだから、相応の値段はして当然である。物は電子レンジだけど。いや、機能的には、電子レンジじゃなくて魔素(マナ)レンジか……?

 

「理屈はわかったけど、物が物だから、ちょっと納得いかない……」

「気持ちはわかるよ……」

 

 彩音さんが、なんとも言えない顔をしている。いや、分かるよ。その気持ちは。だって、電子レンジだもんね……

 白石さんを待つこと45分。再び戻ってきた白石さんの手には、先ほどと違って、機械が全て外された普通の電子レンジ。あと、さっきはなかったコンセントが付いてる。完全に普通の電子レンジにしか見えないよこれ……ん?なんか左手に持ってるな?水晶?

 

「さて、これでいいだろうか?」

「あの、ホントにさっきの機能ついてるんすよね……?」 

 

 だよね、不安になる見た目だよね。

 

「試運転するかい?さあ、やってみたまえ。機能の問題でボタンが1つしかないがね」

「は、はいっす!」

 

 犬束さんが、飴玉を入れてボタンを押す。一分待って、再度舐める。うんうんと頷いているので、間違いなく完成しているようだ。

 

「よし、問題ないね。まぁ、当然だが……さて、ここからはちょっとした商談をしようか」

「商談か……なんだ?」

「そんなに構えないでくれ。単純に、私個人の興味の話だ」

「…………ハァ」

「夢希ちゃん?」

「犬束さん。私に、君のユニークスキルを解析させてくれないか?」

「え!?」

「メリットとして何が起きるのか分かっていないそうじゃないか。味覚障害という大きなデメリットを背負っているにも関わらず。実に興味深い」

「え、えーと……」

「受け入れてくれるなら、依頼料として100万出すよ」

「ひゃくまん!?」

 

 本来、ユニークスキルの効果の解析なんて、ユニークスキルを持ってる本人が依頼を出すものだ。それを解析する側が出すなんて……そういう人なんだけどさ。興味があることは手段を厭わずやるタイプ。そして、彼女には有り余るお金という手段がある。というだけの話。

 

「待て、何が目的だ?」

「私の目的は、彼女のユニークスキルの解析だ。先も言ったが」

「それだけのために100万もの金を出すと!?」

「もちろん。金などただ、目的のための手段にすぎない。足りないというならさらに出すよ」

「そうまでして、何故こだわる!?何が欲しいんだお前は!!」

 

 庄吉さんが混乱している。初見の人には分からないかもしれない。でも、彼女は『魔女の大鍋(コルドロン)』の職人だ。酔狂の極みたちの中の職人である。そこに欲しいものなんてものはない。彼らは、欲しいものは自分で作る。だから、今回の件は本当に、ただ……

 

()()()()?今、私の目の前には未知があり、それにロマンを感じた。ただ、それだけだとも」

 

 どこまでも。真っ直ぐな狂気に満ちた目で、白石さんは言い切った。本当に、ただそれだけなんだ。この人は。それだけのために全てをかけてここにいる人だから。この人は、どこまでいってもロマン大好き技術バカなんだ。理解しがたいかもしれないけどね。

 庄吉さんも、ついでに彩音さんも固まってしまった。でも、犬束さんは違った。2人が固まっている間に、勢いよく頭を下げる。

 

「お願いするっす……!」

「いいのかい?」

「私だって知りたいっす!これが何なのか、こんな思いまでして、何が出来るのか!だから、お願いするっす!」

「……ふふ。契約成立だね」

「ま、待て……!」

 

 白石さんと犬束さんが握手をしている。庄吉さんが再起動したみたいだけど、もう遅い。口約束とはいえ、契約は契約だ。

 

「さて、早速だけど、これを握ってもらえるかい?」

「この水晶……記録水晶っすか!?なんでここに!?」

「なんでって……これを作ったのは『魔女の大鍋(コルドロン)』だからね。そりゃああるさ。君のスキルを確認したい。さ、握って」

「は、はいっす……」

 

 犬束さんが記録水晶を握る。あれに映し出されるのは、冒険者のレベルとスキルだ。『魔女の大鍋(コルドロン)』の初代クランマスターの創り上げた叡智の結晶である。どうやってるんだろうな、あれ……

 

「あ、あれ?なんすか、このスキル……?」

「ん?どれだい?」

「《蹴撃》と《豪脚》っす。こんなんなかったっす!」

「!最後に計測したのは!?」

「ギルドに運び込まれた日なんで、2日前っす。身分確認込みでやったはずなんで」

「ダンジョンに潜ってはいないね?」

「はいっす。あと、レベルも70から上がってるっす」

「ふむ……夢希。食べさせたのはブレイクレッグ。そうだね?」

「うん。それ以外は食べさせてない」

「なるほど……素晴らしい!まさにロマンだ!!」

 

 白石さんがテンション上がってる。立ち上がって、バンザイみたいのポーズをしている。実際、ギルドに救助されて以降に彼女がしたことは、彩音さんに依頼を出すことと、ブレイクレッグを食べる以外ほぼないはずだ。なのに、スキルが増えててレベルも上がってるって、もしかして、この《魔素捕食》ってスキル、結構化け物スキルなんじゃ……

 

「え、なんすか!?」

「恐らくだが、君のスキル《魔素捕食》は、食べたモンスターから魔素(マナ)を捕食し、そのスキルを獲得するというユニークスキルだ……!」

「……!」

「私の頭の中には全ての汎用スキルが入っているけれど、《豪脚》なんて見たことがない!素晴らしい……!」

 

 何でスキル全部覚えてんの……?ロマンだからか?ロマンだからだろうな……

 

「夢希!何か持っていないかい!?今食べさせれば何か覚えるかもしれない!!」

「ブレイクレッグしか持ってないよ」

「………………そう、か……そうか……」

 

 白石さんが床に崩れ落ちた。四つん這いになって、この世の終わりのようなうめき声を上げている。うーん、この落差慣れないなぁ……玩具を目の前にした子供の目から、社会に絶望しきった人の目みたいになるんだよ?怖いって……

 

「つまり、私はモンスター食べれば食べるほど強くなるってことっすか……?」

「……推測ではあるが、その通りだ」

「…………私、ちゃんと、スキルあったんすね……」

 

 犬束さんが静かに涙を流していた。今までデメリットで苦しむだけだったのが、メリットが結構な効果であるのが分かったわけだし、対処法として……魔素(マナ)レンジ(仮)も手に入った。あとはペナルティを乗り越えたら、その時はきっと、彼女の冒険者生活の始まりになるだろう。

 とりあえず、なんとか丸く収まった……のかな?

 このあと、犬束さんと庄吉さんは白石さんと話があるとかで残るというので、私たちは先に帰らせてもらうことにした。

 

「2人とも、ホントにありがとうございましたっす!!」

「本当に助かった。礼を言う」

「どういたしまして」

「どういたしまして、頑張ってね!」

「はいっす!!」

 

 元気いっぱいになった犬束さんに見送られて、私たちは帰路についた。外に出ると、すでに空が暗い。いやぁ、濃い1日だったな……

 

「濃い1日だったね……」

「うん。ちょっと疲れた……」

「明日はお休みにする?」

「そうしようかな……」

「臨時収入あったから、夕飯奢るよ」

「本当?やったー」

 

 2人で笑いながら、どこに行こうか話し合って、対立して、最終的にじゃんけんの結果、お寿司に行った。私は焼肉に行きたかった……!

 ただ、人のお金で食べるお寿司は美味しかった。とても。

 




次回から、いつも通りの感じに戻ります。
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