【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
久々の配信です。
凉の家でパーティをした翌日、学校から帰ると、私宛にギルドから手紙が届いていた。中身を見てみると、先日の件の謝罪、依頼協力への感謝、そして、犬束さんたちからギルド経由で手紙を送る。というものだった。パーティのリーダーは彩音さんなのに、わざわざ私にまで送ってくるなんて律儀な人たちだな……検閲済の赤い判が押された手紙を開くと、犬束さんと庄吉さん、それぞれから迷惑をかけたことへの謝罪と、協力への感謝がつづられていた。
ただ、庄吉さんの方には、二度とこのようなことがないように徹底的に叩き直しておく。という一文が入っていた。犬束さん、頑張れ……
今日はダンジョンに行く予定なのだが、どこに行こうか悩んでいる。昨日使ったラードを使って、何かしら揚げ物を作る予定なのだが……メニューが悩む。どうしようかと悩んでいると、彩音さんから電話が掛かってきた。
「もしもし彩音さん?」
『もしもし、夢希ちゃん?いきなりごめんね』
「ううん。大丈夫」
『ありがと。それでね、今日はダンジョン潜るよね?』
「うん、そのつもり」
『どこに潜る予定?聞いてなかったなって』
確かに、その相談はしていない。あ、そうか。彩音さんからも希望を聞こう。そうだよ。パーティなんだし、私の都合だけに付き合わせるのもちょっとアレだし。
「……そのことで相談があるんだけど……」
『相談?』
「今日の夕飯は唐揚げと、トンカツならどっちがいい?」
『…………え?』
「夕飯は唐揚げと、トンカツ。どっちがいい?」
『…………は?え?なに?……唐揚げ……?トンカツ……?』
「うん。どっちがいいかなって」
『…………ふぅ……トンカツ……かなぁ……』
「だ、大丈夫?疲れてない……?」
なんか声が疲れてる気がするんだけど、大丈夫かな……?
『…………大丈夫!それで、どこの予定になるの?』
「渋谷ダンジョンに行く予定になるよ」
『渋谷ね……分かった。またあとでね』
「うん。また後で」
通話を終える。うーん、彩音さん大丈夫かな……?昨日の休みではしゃぎすぎちゃったとか……?私は寝不足と思われるかもしれないが、冒険者としてレベルが上がると多少の寝不足程度では影響が一切出ない。なんなら、私のレベルくらいになると3徹くらいやってようやく、ちょっとキツくなってくるくらいだったりする。危ないからちゃんと寝ること推奨なんだけどね。
昨日取り出した諸々を、全部収納魔法に戻す。折りたたみ式の机、キャンプ椅子、鍋、コンロ、食器等々……キャンプ用品だなこのラインナップ……やってることほぼキャンプだけども。場所がダンジョンなだけで。調味料を諸々と、キャベツを千切りにしてタッパーに入れて、と。あと、ダイコン1本とおろし金。これで、いいかな?あ、米忘れてた。危ない危ない。
「よし。渋谷ダンジョンに行こう」
今日の夕飯は、ダンジョンブーブーのトンカツだ!
待ち合わせした渋谷ダンジョンにたどり着くと、彩音さんが先についていた。なんか、毎度待たせているような気がする……
「待たせてごめん」
「大丈夫だから気にしないで。私、人を待たせるのがなんか嫌いで……」
頭の後ろをかき、苦笑しながら彩音さんがそんなことを言う。そうなのか。ちょっと納得したと同時に気になることが出来たので聞いてみる。
「時間決めてる待ち合わせだと、どれくらい前から待つようにしてるの?」
「30分くらいかな……」
「は、早くない……?」
「まぁ、うん。自覚はあるよ……」
30分は早くないかな……?まぁでも、最初に待ち合わせしたときも15分くらい前の時点でいたもんな……あのとき、予定が早く終わったからって言ってたけど、そうじゃなかったのかな。
彩音さんのちょっと不思議な生態?も知ることが出来たので、そのままダンジョンへ。今日はダンジョンブーブーのトンカツを作る予定だけど、その前に彩音さんのソロ練習だ。今日は、集団戦を一人でやる練習である。今日は、というかしばらくこっちかな。最低限、後ろを警戒するなりなんなり出来るようにならないと厳しいしね。ソロの場合、物量とかよりも危ないのは、意識外からの奇襲だ。うまく盤面コントロールしてるつもりが、その一手で全部崩されるとかもよくある話。
「今日の予定は、彩音さんのソロ練習で、ホブゴブリンの群れと戦ってもらうよ」
「ホブゴブリンの群れ……理由は?」
「対集団戦の練習」
「なるほどね、分かった」
「そのあと、ダンジョンブーブーをトンカツにする」
「ダンジョンブーブーって"トン”でいいの?」
「猪は豚の先祖だから、多分"トン”」
「うーん……分からなくもないような……」
今日の予定について話しながら、メインルートから外れて小部屋に行く。ここでカメラを取り出して、配信を始める準備をする。スマホを取り出す前に彩音さんをみると、なんだか緊張しているような?
「緊張してる?」
「んー……ちょっと。前はそうでもなかったんだけど、今回は何故か緊張してるかな……夢希ちゃんは?」
「私も少しだけ。慣れちゃうとマズイけどね」
「マズイの?」
「彩音さんにやったみたいにやらかしちゃう可能性があるし……」
「あぁ……そうなると、適度な緊張感は必要だね」
「だから、挨拶するようにしたんだよね。切り替えのために」
「そういうの大事だよね。ルーティンってやつ?」
「そうそう……始めるね」
「オッケー」
スマホを取り出し、配信画面を開く。配信開始をポチッとな。
「……映像よし、音声よし。こんにちは、ユキです」
「こんにちは、アヤネでーす」
"2日ぶりの配信だー!!”
"元気してた?”
"怪我でもしたんかと思ったよ”
"体調崩した?”
「めっちゃ心配されてる……」
「なんで……?」
思わず首を傾げてしまう。こんなに心配される謂れある……?
"連休は初やぞ”
"ユキちゃんの連休は初めてなんだよなぁ……”
"1日休みはあったけど、2日続けてはないんよマジで”
謂れあったよ……弁解の余地がないよこれ……
思わず彩音さんの方を見ると、なんだか微妙な視線を向けられていた。な、なんだよぅ……
「ユキちゃん。もうちょっと休んだら……?」
「え……だってダンジョン内で休んでるし……」
「ものすごい矛盾してること言ってる自覚ある?」
"ダンジョン内で休んでる草”
"いやまぁ、休んでると言えば休んでるが……”
"飯食ってるしな……”
"警戒とかはしてるでしょうよ”
警戒はしてるけど、どうせただ《魔力感知》してるだけだし、あんまり疲れるようなことはしてないんだけどな。どちらかといえば、ご飯作ることの方が神経使ってるよ。
「2日間お休みだったのは、私に指名依頼が来て、その依頼やってたからで、体調不良とかじゃないよ」
「結構大変だったけどね。丸く収まって良かった」
「ね。で、昨日は単純にお休み」
「うん」
"指名依頼かー”
"単純にお休みという一文にちょっと感動してる”
"2人はお休み中何やってたん?”
「私はねー……好きなバンドのライブ映像見ながらお酒飲んでたよ。昼間から!」
「その部分だけ聞くとダメな大人だよ……」
「ダメな大人になるのが、最高なんだってば」
「えぇ……?」
"最高の休日じゃん”
"昼間から酒飲むの最高だよな!”
"ダメな大人になるのいいよな……”
リスナーさんたちまで……いやでも、確かにお父さんもたまに休みの日は昼間からお酒飲んでるな……結構メジャーなのかな、この休み方。
「あ、今日は、ダンジョンブーブーのトンカツを食べます」
「リスナーさんたちさ、ダンジョンブーブーのトンカツって、違和感ない?特に"トン”の部分」
"トンカツかー”
"猪は大体豚なのはそう”
"ブーブーが豚感あるから、あんまり違和感ない”
"それはある”
「なるほどね。確かにそれはそうかも?」
「名前か……ワイルドボアのトンカツ。大分違和感あるね……」
「名前って大事だね……」
"ワイルドボアのトンカツは違和感やべぇ”
"ボアとトンが致命的にズレてる感”
"日本語っぽいか否かはデカそう”
こういうくだらない議論が出来るのはちょっと楽しいな。愛依や凉だと、モンスターのこと知らないから、こういう話出来ないんだよね。それはあっちもなんだろうけど……こう考えると、本当になんであんなに仲良く出来てるんだろう私たちは……?
議論を一旦切り上げて、上層を進み始める。もうちょっと彩音さんがソロに慣れたら、ショートカットで降りよう。彩音さんに戦闘は任せて。練習になるしね。
今回は魔力による威圧で進んでいく。試しにやってみたいんだよね。今日は中層までしかいかないから、彩音さんの方に行くかどうか試したい。行かないなら、今後これでいいしね。消耗少なく済むから。
「お。モンスターが逃げてく……魔力の威圧って結構効果あるんだ」
「上層のモンスター相手だと大抵逃げてくれるよ。楽でいいんだ」
「確かに楽だね」
ゴブリン、バロメッツ、ジャンボイナゴと上層の全モンスターが逃げていく。中層のモンスターともなると逃げていくと危険だから殲滅するけど、この辺のモンスターはね。数も少ないし。
こうなると、スマホを見る余裕があるね……あんまり良くないけど。
"威圧便利だなー”
"全力どんなんなんだろ……?”
"全力の威圧ヤバそう……”
「全力かー……」
「やめてね!?絶対やめてね!?」
「やらないよ?」
「ホントに……?」
「やらないって……」
そ、そんなに信用ないかな私……ないか……ないよな……
若干萎れながら上層を進んでいく。ちなみに、全力の威圧は多分、彩音さんが気絶するレベルだと思う。魔力量多いからね私。小さい時から訓練してるのは伊達じゃないのだ。
「そういえばさ、ユキちゃんは昨日何してたの?」
「昨日は、友人の家でお泊りしたよ」
「お泊り!いいね、楽しそう!」
「うん。楽しかった」
"いいじゃん”
"泊まり楽しいよなー”
"夜更かしとかしてな”
「具体的に何やったの?」
「串カツパーティやった」
「く、串カツパーティ……?買ってきてみんなで食べたの?」
"いいじゃん”
"串カツパーティっていうのが可愛い”
彩音さんがちょっと困惑してるな。でも、確かにあんなことしないか普通は。
「えっとね、串にさした具材をたくさん用意して」
「うん」
「机の真ん中に油を置いて、自分で好きなの揚げて揚げたてを食べる感じ。最初の1本目は、熱すぎてみんなで口の中火傷した」
「…………なにそれ楽しそう」
「映画も見たよ。昔の名作映画。結構面白かったし、夜遅くまで見ちゃった」
「…………そっかー……」
「今朝はみんなで寝坊しちゃって、慌てて学校行ったよ。遅刻ギリギリだったんだよね」
「……………………」
「……?アヤネさん……?」
彩音さんが、立ち止まって顔を両手で覆ってしまった。ど、どうしたの……?
思わず、助けを求めてスマホの画面を見る。
"あまりにもアオハル”
"なんか……俺の休みって……”
"やめろ!言うな!”
"俺たちには遠すぎる……”
"クソほどダメージ受けたわ……”
おかしい。なんでみんなダメージ受けてるの……?私はただ昨日何をしてたか言っただけなのに……!
その後しばらくして、彩音さんが復活したんだけど、そのとき彼女の目に光るものがあった気がした。気の所為だと思いたい。
ダメな大人の休み方披露した直後に、青春を見せつけられてダメージを受ける図
前回、お風呂のあとに顔パックしてカ◯ナシのモノマネするっていうネタを入れようとしたんですけど、顔パックは愛依しかしないし、このネタやるのは間違いなく凉だしで、入れられなかったんですよね……なので、ここで供養です。