【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
ダメージ(?)から復帰した彩音さんと一緒に、上層を超え、中層へとたどり着く。本当に、リスナーさんたち含めて何にダメージを受けたんだろうか……
しばらくして、彩音さんが申し訳なさそうに切り出す。
「変な空気にしてごめんね……」
「いや、別に大丈夫だけど……アヤネさんこそ大丈夫?」
「うん、大丈夫。なんていうか、こう……大人になったんだな私も……って実感したというか……」
「……?」
「今は分からなくていいからね、ユキちゃん」
なんでそんな決意を固めたような目で私を見るのさ……配信画面を確認して、リスナーさんたちの反応も見てみる。
"マジで今知らなくていいぞ…”
"大人になったら分かるから…”
"この気持ちが分かる日が来る…”
リスナーさんたちまで……ちょっと恐怖を感じつつ、大人になったときの楽しみ……楽しみかな?にしておこうと思う。掘り返すのも気まずいしね……
中層にたどり着いたので、当初の予定通り、ホブゴブリンの群れに挑んでもらう。ホブゴブリンの群れに挑む理由としては、あのモンスターたちは連携してくる上にずる賢いので、対応力を鍛えるのにちょうどいいのだ。正面に数体で陽動、一体が後ろから奇襲する。くらいのことは平気でしてくる。
「話した通り、ホブゴブリンの群れ相手に練習しよう。対集団戦闘の練習」
「うん。分かった。優先することとかある?」
「今回優先して欲しいのは、視覚外への意識の向け方。パーティだと視覚外の警戒はしなくていいけど、ソロだとそこも警戒しないとダメだから。特に背後」
「なるほどね。でも、それって出来るの?後ろにはユキちゃんいるし……」
「それは大丈夫。こうするから」
彩音さんの言う通り、今回は私が一応後ろにいるから完全なものではない。なんてことにはしない。ホブゴブリンを選んだ意味がなくなっちゃうからね。
浮遊魔法で天井まで移動する。そして、《グラビティ》を発動し、威力を調整して天井に逆さまに立つ。
《グラビティ》は一定範囲の重力の方向や強さを操作する魔法で、モンスターの足止めに使われる事が多い。突進してくるモンスターの脚をちょっとだけ遅くすることで、その後の対応をしやすくするためだったり、飛行型モンスターを落としたりするための補助魔法って感じ。ユニークスキルとかで強化された《グラビティ》は、モンスターを潰すまでいけるみたいだけど、私にはそこまで出来ない。熟練度を上げればいけるかもしれないけど。
私は、基本的に壁や天井に立つことで足場を確保するのに使っている。浮遊魔法よりも制御が簡単だし、攻撃は《魔力の矢》で事足りる。
「すっご……それ頭に血が上らない?」
「それも大丈夫だよ。《グラビティ》で重力調整してるから」
「そっかー……よーし、頑張るね!」
「危なくなったら援護するから、安心してね。怪我は治せないから、その前に助けるよ」
「うん。ありがと」
"《グラビティ》ってそう使うんでしたっけ…?”
"ユキちゃんの魔法に常識が通用しなさ過ぎる”
"それ範囲動かしながら移動してるってことですよね…?”
"最初に決定した範囲から動かせるんだその魔法…”
私が怪我を治せないのは単純な理由で、回復系は【奇跡】と呼ばれる別系統のスキル群になっているからだ。私が出来るのはあらゆる【魔法】の習得であって、【奇跡】は対象外なんだよね。それに、汎用スキルとして習得しようとしたら、まったく出来なかった。教えてくれた人曰く、私が理解できていないものがあるらしい。魔力の扱いなら自信あったんだけど……何が問題だったんだろう?
彩音さんを地上に置いたまま、探知したホブゴブリンの群れに向かう。流石にホブゴブリンも天井までは見ていないので、私は割と自由に動ける。魔力で気付かれないように調整はしてるけども。
「そういえばさ、今回の視覚外へ意識を向けるってやつなんだけど」
「うん?何かわからないことあった?」
「わからないことっていうか、《気配察知》のスキルを習得する!とかじゃないんだなって」
「私もこの練習してたとき、同じこと思ったよ」
「じゃあ、理由があるんだね?」
理由はある。当時の私も説明されるまではスキルでよくない?って思っていた。でも、言われてみたら確かにってなったんだよね。
「お父さんに言われたんだ。スキルを持っていても、それを使わないなら意味がないって」
「使わない……?」
「後ろを見るための鏡を持ってても、鏡を見るっていう動作が意識できないと、そもそも鏡を見ないよねって話」
「あー……なるほど、確かにそうかも」
「だから、スキルよりも先に意識からやらないとダメなんだって」
スキルはあくまでも便利な道具でしかない。故に、使わないなら、持っている意味がない。厳しいと思ったけど、それはその通りだと今なら思う。備わっているだけじゃ、持っているだけじゃ、いざというときに使えないんだ。普段から使う練習をし続けないと、いざというときに使えない。特に命がかかっている場面では。冷静じゃないしね。
「《気配察知》はあとで習得しよう。私が習得したときの方法でやれば2週間くらいで習得出来ると思う」
「…………何やったの……?」
「2週間目隠し生活」
「ずっと!?」
「家にいる間はずっとだね」
「えぇ……」
"そんな荒業あってたまるかwww”
"えぇ……(ドン引き”
"やっぱイカれてるよ……”
なんか彩音さんに引かれてるけど、多分これが最速だと思うんだよね。どちらかといえば、《魔力感知》を発動しないように意識するのが大変だった記憶がある。この方法は、一人だと危ないから、その時は私が住み込みになるのか……?それは、彩音さんに迷惑かかりそうだし、ちょっと別の方法考えたほうがいいかな……?
こんな話をしていたら、すぐそばの曲がり角の向こうにホブゴブリンが6体。いい感じの群れだね。探知した通りだ。彩音さんに覚えたてのハンドサインで合図を送る。彩音さんがハルバードを構え直してモンスターを待ち構える。
ハンドサイン覚えるの大変だけど、パーティだと結構大事だね。音出せない場面での意思疎通が取れるし。こういった場面とか、やり過ごすときとか奇襲するときとか。ちゃんと覚えないとね。
「せいっ!やぁあ!」
曲がり角からホブゴブリンが現れた瞬間に、彩音さんが先頭の1体にハルバードを振り下ろして頭をかち割る。それに驚いた横にいたもう1体にスパイクを突き刺して、そのまま壁に叩きつける。開幕で2体すぐに片付ける辺り、意識が改善されてるね。多分前だったら、この時点でもまだ攻撃しないで、少し待ってからやつらの目の前に《地砕き》を叩きつけてたと思う。隙を作るなら多分これが一番だから。
いきなり2体潰されたけど、ホブゴブリンたちは冷静さを失わなかったらしい。3体横に広がって前衛に、その後ろに1体で陣形を組む。それぞれナイフというか、石製の短剣を持っている。あの武器どっから出てくるんだろうな……そして、後ろの1体は……あの感じだと投石でもしてくる気かな?
彩音さんは、全体を視界にいれるように少し下がった。それに合わせてホブゴブリンたちが距離を詰める。こいつらは、こういうことしてくるから鍛錬にちょうどいいんだよね。
「《スマッシュエッジ》!」
彩音さんが、前に出てきたのに合わせて一歩踏み込んで、ハルバードを横薙ぎに振り抜く。一度に前衛の3体を巻き込んで壁に叩きつけた。《スマッシュエッジ》は確か……なんだっけ?……横振りの威力が上がるんだっけ?あとで彩音さんに確認しよう。それにしても、思い切りがいいやり方だね。一度に排除出来るならいい方法だと思う。
後ろの1体がそれを見て、武器を振り抜いて隙を見せた彩音さんを刺しに行く。それを見て、彩音さんは一旦武器から手を離して、そいつの腹を蹴りとばす。距離が空いたので武器を掴み、頭に振り下ろした。うん。いい感じではあるんだけど……気付いてないのかな?
「ふー、いい感じだったんじゃない?」
「うーん……」
「え、なんかダメだった!?」
"アヤネさん、後ろ後ろ!”
"一匹生きてる!!”
"危ないよ!”
壁に叩きつけた3体のうち1体だけが生きていて、この会話の隙をついて彩音さんの背後から背中を刺そうとしてるんだけど、気付いてないね。やはりこいつらは、練習にいいな。危ないので《魔力の矢》で吹き飛ばす。
「うわっ!?」
「1体倒し損ねてたよ」
「……うわー、ショック……」
彩音さんが項垂れる。あの威力で叩きつけて、なお死なないのは想定してなかったのかもしれないけど、それでもちょっとやらかしてるね。でも、ちょうどいいことをやってくれたな今のアイツは。
「一番無防備になるのは、勝ちを確信したときだから、気を付けてね」
「………はい」
"漫画とかでもよく聞くなそれ…”
"というか、平然とその隙ついてくるホブゴブリンやべぇな”
"あいつらはずる賢さで脅威になってるとこあるし”
これは真面目に大事なことなのだ。終わったー!と気を抜いた瞬間が一番危ない。今みたいに奇襲されて大変なことになりかねない。ちゃんと安全であることの確認が取れるまでは気を抜くべきじゃないんだ。
とはいっても、こればっかりは言葉では分かってもやっちゃう行動なので、仕方ないとも言える。特に疲れてる時とか。でも、理解してるかしてないかで大分違うからね。あ、そうだ、聞いておかないと。
「アヤネさん、《スマッシュエッジ》ってどういうスキル?」
「えっとね、斧系の威力強化スキルなんだけど、《地砕き》と違って、どんなタイミングでも使えるの。その分効果は控えめなんだけどね」
「へー。便利なスキルだね」
なるほど、《魔力放出》みたいなもんか。いつでも使えて、威力が出る、と。多分、今回倒しきれなかったのは、ちゃんと刃の部分に当てたわけじゃないからかな。柄の部分でぶん殴った感じだったし……首狙いではあったけど、折るまでは行かなかったみたいだ。
「じゃあ、次に行こうか」
「うん。次はちゃんと倒すよ!」
「頑張って」
その後、ホブゴブリンの群れに何度か挑んだ。ある時は左右から挟まれ、ある時は背後を取られ、またある時は投石による奇襲を受けと、結構ホブゴブリンたちに翻弄された結果となった。想定通りである。こいつら本当にずる賢いから、良い練習になるんだよね。
《グラビティ》を解除して、彩音さんの横に着地する。
「こいつらって、ソロだとこんなに大変なんだ……」
「お疲れ様。いい練習になるでしょ?」
「そうだね……もうちょっと、考えて戦わないとなぁ……」
「良い動きもたくさんあったから、あとでアーカイブ見せながら説明するね」
「ありがと。お願いね」
こういうときも、アーカイブというか、録画があると便利だよね。まぁその……今回は逆さまになっちゃってるので、説明するのが大変かもしれないけど……
時間も時間になったから、今日はここまでにして、ダンジョンブーブーを倒しに行こう。
「そろそろダンジョンブーブー倒しに行こうか」
「オッケー!」
トンカツ……楽しみだな……
"ヒヤヒヤする場面がたくさんあったぜ……”
"危ない!って画面の前で叫んじゃったよ”
"今までああいうのが一切なかったユキちゃんってすげぇんだな”
"ソロ専だしなぁ……”
"にしてもよ”
"父親が冒険者っぽいし、鍛錬自体は前から積んでるんでしょ”
"それはありそう”
"お、ついにトンカツが……!”
"そういや、揚げ物って初だな……”
戦闘描写って、カロリーがすっごい…