【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
そろそろ本格的に雪とか降りそうで嫌になる寒さですね。お体にお気をつけ下さい。
「ユキちゃん、良かったら、解体する方法教えてくれない?」
「いいけど……どうしたの突然?」
ダンジョンブーブーを狩り、いざ解体というときに、彩音さんからそんなことを言われた。今いるところはモンスターハウスである。出入り口が一つしかないから、中のモンスターを全滅させたら、使いやすい小部屋に早変わりするのである。
私としては別に構わないけど、どうしたんだろう?彩音さんは、なんだか言いにくそうな雰囲気で、こんなことを言いだした。
「いやその……ご飯作ってもらって食べてるだけで、私何もしてないなって思って……」
「別にいいよ?私に付き合ってもらってるわけだし。それに、片付けは手伝ってもらってる」
「それはそうなんだけど、そういうことじゃなくてね?」
「……?」
どういうこと……?何が気になってるんだろうか。モンスター食については、完全に私の冒険なわけで、彩音さんはそれに付き合ってくれているんだから、気にすることなんてないのに……
思わず首を傾げてしまったけど、やってみたいというなら止める理由もな……いやダメだ。やらせるのはマズイ。防護服がないから血塗れになっちゃうし、手袋もないから、危ない可能性はある。万が一、モンスターの血液が体内に入ったらどうなるか、なんて知りたくもないし……私と彩音さんは身長が20センチは違うから、サイズ合わないせいで貸せないしね。
「……ごめん、やっぱり私がやるよ」
「え……」
「防護服と手袋ないし、貸すにもサイズ合わないから。アヤネさんが血塗れになっちゃう」
「あー……そっかー……」
「それに、アヤネさんにはこれやってほしい」
「ん?あぁ、お米ね。任せて!」
なんか遠い目してるな彩音さん。本当にどうしたんだろう?でも、こういうときは美味しいご飯だ。とりあえず、手早くやってしまってさっさと揚げよう。それと、彩音さんにはお米を炊くという大事な仕事があるからね。
ダンジョンブーブーは、大きい猪なので、普通に猪と同じように解体する。皮を剥いでから、関節にナイフを差し込んで外して……内臓引きずり出して……そしてあとは肉をサイズ別に切り分ける。大きさが大きさだけに、切り分けるのはナイフじゃ厳しいので、ショートソードで切る。相変わらず、切れ味良すぎて切れてるのか分かんないなこれ……
とりあえず、肩の上の背中の辺りを切り分けておく。部位的には、肩ロース……だと思う。本来ならヒレ肉とかがいいんだろうけど、ヒレ肉がどの辺か分かんないんだよね……この辺っていうのは豚の図で見たんだけど、ダンジョンブーブーのどこからどこまでがヒレ肉で、こっからロース肉とかっていうのは分からない。
ちょっとだけ薄めに切るのがいいかな。そこそこ歯ごたえあるんだよねこいつ。あと、臭みはあるにはあるけど、火を通すとだいぶ緩和されるみたいで、ステーキみたいに焼くだけで良い感じになる。
「よし、こんな感じかな」
「手際ホントにいいよね、ユキちゃん……」
「慣れるまでが大変だったよ」
今でこそ、スキルまで発現したからこのスピードだけど、昔はダンジョンブーブー1頭に2時間とかかかっていた。
「慣れるまでは、どんな感じだったの?」
「関節の位置が分からなくて、何度もナイフ入れたせいでボロボロになったり……」
「想像できるなぁ、それ」
「血抜きに失敗して、超血なまぐさい肉になったり……」
「ホントに美味しくなさそう……」
「内臓傷付けたせいで、中身が出てきて食欲がなくなったり……」
「…………中身が何だったかは聞かないでおくね」
「えっとねー」
「やめてー!」
「むごごご」
"防護服着てるせいで何も見えねぇ…”
"話してる内容が割と普通に苦労話で草”
"中身言おうとすんなw”
"絶対やべぇのよ、モンスターの内臓の中身とか…”
彩音さんに思いっきり口を塞がれる。血塗れだから、抱きつきはしてこないけど、結構力強い……!ちょっとふざけただけじゃないか。それに……流石に配信に乗せられないからね。
そんなやり取りをしたのち、鍋のラードを溶かして油にし、肉に衣を付けて揚げていく。揚げ物自体が初めてなので、とりあえず一切れだけだ。油に投入して…………よし。きれいな感じに揚げられた。ちょっと余熱で火を通してから切るので、しばらく放置。
「見た目は完璧なトンカツだね」
「味は分からないんだ……」
「ダンジョン内で揚げ物揚げたの初めてだからね」
「そうなの?」
「うん。油の持ち運びがめんどくさいなって……特に後処理」
「後処理?」
「ほら、固めて捨てないといけないし……そうなると持って帰るのが大変だしさ」
「…………そこの、モンスターの内臓とかを放り込んでる穴に捨てちゃえばいいんじゃないの……?」
「!!」
「気付いてなかったの!?」
そうじゃん!あの穴に放り込んでおけば勝手にダンジョンが吸収してくれるじゃないか!!うわもっと早く気付けば良かった……!揚げ物出来たじゃないか……!
"確かに油の処理はめんどくさいよな”
"あー!!”
"そうじゃんwww”
"確かにwww”
"気付いてなかったの草”
彩音さんに告げられた事実に若干へこみつつ、トンカツを切り分ける。彩音さんが炊いてくれたお米をよそって、持ってきた千切りキャベツを用意。一通りの用意をすべて終えてから、彩音さんと一緒に、口に運ぶ。
「「いただきます」」
"初揚げ物のお味は……?”
"どうだ……?”
ラードで揚げてるのもあるのか、衣がサクッとしていて歯ごたえがいいん……だけど……
「「獣クサっ!?」」
"獣臭いのかwww”
"ダメだったかー”
"久々の失敗やね”
なんだこれ!?めっちゃ獣臭い!!く、口の中が獣の臭いに……!水で口をすすいで、なんとかなった。彩音さんも同じだったらしい。なんとも言えない顔をしている。
「なんでこんなに獣臭いんだろう……?」
「臭み消しとかしてないから……?」
「前に、普通に焼いて食べたときはこんなに臭くなかったから、いけると思ったんだけど……」
「そうなんだ……うーん、何でだろうね……?」
本当に何でだろう……ぐぬぬ、ちょっと悔しい。臭み消しをちゃんとやってみてからにするか……別の鍋を取り出して中に水を投入。ちょっと塩を加えて、肉も入れる。何度か揉み込んで……水を捨てる。そして、また最初から行程を繰り返す。これを4、5回繰り返してキッチンペーパーで水気を切る。
"流れるように臭み消しするやん”
"慣れすぎなんよ”
"最初からやれば良かったんじゃ(小声”
"結構雑なところあるからユキちゃん…”
「今のが臭み消し?」
「そう。猪肉の臭み消しのやり方なんだって。ただ、前はやらなくても食べられるくらいだったんだよね……」
「そうなんだ……うーん、個体差とかあるのかな?」
「個体差……肉の味に?」
「肉の味に」
ふむ。確かにそれはあるかもしれない。まぁでも、横着したのが一番悪いんだろうな……今後は、きちんと毎回色々やろう。美味しく食べるためだ。
下処理した肉に衣をつけて、再び揚げる。今度も同じように揚げられた。余熱で火を通してから切り分けて……
「「いただきます」」
"さぁ!今度はどうだ!?”
"臭み消しは成功したのか!?”
"判定は……!?”
「うーん……なんか微妙……」
「うん。なんか臭いが微妙に取り切れてない感じ……」
「何でだろう……?」
「とりあえず、一回ただ焼いたやつ食べてみてもいい?」
「うん。焼くね」
確かに。ちょっと味を比べてみようかな。とりあえず、コンロの上に網を置いて焼く。切った肉をそのまま焼く。脂が下に落ちるけど、このコンロは液体を通さない結界を貼ることが出来るマジックアイテムだから、問題ない。このコンロは、白石さんと相談しながら作ったんだけど、作るのが本当に大変だった。白石さんが余計な機能を付けようとしてくるのを止めるのが特に。
肉に火が通ったので、彩音さんに切って渡す。
「ほ、ホントにただ焼いただけ……」
「まぁ、味の確認用だし」
「そうだね……」
2人でパクり。うーん。ちょっと硬い豚肉って感じで、あんまり獣臭さは感じない。あるにはあるんだけど、そこまで強烈な感じではない。何でだろう……?
「確かに、獣臭さはあるけど、普通に食べられるくらいだね」
「そうなんだよね……なんで揚げるとダメなんだろう……?」
「うーん……リスナーさんたち何か思いつく……?」
"揚げ物だけダメなんか”
"なんでやろうな……?”
"焼くのと違って、肉の脂が落ちずに中にあるからじゃね?”
"あー、衣の中にあるのがダメってことか”
"脂のせいなら、確かにそれかもしれんな”
なるほど、脂か……落ちた脂を指で触って鼻先に持ってくると、強烈な臭いがした。これのせいかぁ……
「本当だ、脂が臭い……」
「すごい顔してるよユキちゃん……」
「すごい臭いよこれ……」
「手よく洗いなね……リスナーさんたちありがとね」
"それほどでも”
"いやいやそんな”
"お前らは何もしてないだろ!”
"俺たちに向けられてんだよなぁ?”
「もう、ケンカしないの」
「相変わらず仲いいよね、君たち」
リスナーさんたちとやり取りも、ちょっと楽しいと思える時間になった。でも、配信自体にはあんまり興味をそそられない。なんていうか、この緩い友人関係みたいなのが心地良いのであって、不特定多数の人に見て欲しいわけじゃないからだと思う。今後もこんな感じでやっていければいいな。
夕飯はまだ食べられていないから、ちゃんと調理しないと。揚げ物にするには向いてないみたいだから、焼くか……はぁ……
「とりあえず……今日のところは焼いて食べようか……」
「あぁ!?ユキちゃんが萎れちゃった!」
……現実を直視すると辛い。美味しく食べられると思ったやり方がうまくいかないのはよくあるけど、なんていうか、他人も含めて失敗するのが辛い。うぐぐ……
萎れていたら、彩音さんに髪をくしゃくしゃにされる。なんだよぉ……
「ユキちゃん。失敗するのも冒険でしょ?」
「…………そうだね」
「だから、気にしないで。私はほら。こういうのも含めて楽しそうだなって思ったから、パーティ組みたいって言ったわけだし」
「……分かったよ」
口だけは同意しておく。ちょっとの後ろめたさも後悔もある。でも、それも含めて楽しんでくれるのは嬉しい。複雑な気持ちだ。あと、なんで髪くしゃくしゃにするんだみんなして。いや、髪形にこだわりとかあるわけじゃないけどさ……
塩コショウを振って肉を焼き始めたら、彩音さんが髪を手櫛で整えてくれる。よくわかんないなこのマッチポンプ……友人たちもそうだけど……髪触るのが好きなのかな?
当初の予定とは違う形になったけど、ダンジョンブーブーの焼肉を夕飯にする。揚げ物が出来る上に、後処理が必要ないことが分かったのが今日の収穫だね。
出来上がった夕飯を彩音さんと食べていたら、部屋の入り口から突然声がした。
「なーんか
「……久しぶり。3ヶ月ぶりくらい?」
「あー……そんなくらいかも?久しぶり、夢希」
部屋の入り口に、裾の短い着物を着て刀を携えた、黒髪の『鬼』が立っていた。
"誰だ?”
"ユキちゃんの知り合いっぽいが……”
"あれバトルクロスなんか?普通の着物にしか見えんぞ?”
"着物にしては脚出過ぎだけどな”
"太ももが眩しい”
"マジで誰……?”
たまには失敗もしますとも。
ちなみに、現実の猪は血が臭いので、臭い消しでちゃんと消えます。