【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
今日の私の目的は、ここ八王子ダンジョンの中層に出現する、ソードスコルピオのドロップアイテムでショートソードを作成することだ。
ソードスコルピオは、尻尾が鋭利な剣になっているのが特徴のサソリ型モンスターだ。毒はないものの、尻尾の斬れ味は凄まじく、下手な鉄製装備だとそのまま切り裂いてしまうほどである。そして、こいつのドロップアイテムはその尻尾なのだ。それを集めて、煮詰めて、形を整え、鞘を作成するまでが今日の目的だ。
私は魔法職なので、本来は剣を持たないのだが、モンスターの中には魔法に対して耐性を持っているものも少なくない。大抵の場合、ダメージが通るなら死ぬまで射てばいい。の精神で無理矢理突破してしまうのだが、昨日ミノタウロスの肉を煮込んでいるときの暇つぶしに、友人からオススメされた漫画を読んでいると、剣を魔法で操り攻撃するというキャラが出てきたのである。これなら魔法職でも物理攻撃が出来る!!と、天啓が降りてきた気分だった。
ミノタウロスのシチューを味わい、満足して家に帰った私は、早速ドロップアイテムの吟味を始めた。何故ドロップアイテムの吟味をするのかというと、自作以外で入手するのがほぼ不可能だからだ。私が普段潜っているのは下層である。剣を手に持つわけではない以上、かなり斬れ味がよくないと斬れないだろうことは容易に想像がつく。最低でも、【投げた時に下層の敵に通用する】ほどの斬れ味がいるはずだ。投剣以外でその条件となると、高品質なものは軽く1000万円を超える。学生の私に手が出るものではない。未成年のドロップアイテムの持ち出しが禁止でなかったら、しばらく貯金すれば買えるとは思うが……この禁止がなかったら、何人死ぬか分かったものじゃないので仕方ないのだ。仕方ない……でもなぁ……
「……試験合格したら許可。とかにならないかな……」
"なんの話???”
"今禁止されてて許可制にして欲しいってなるとドロップアイテムの売却かな?”
"この子くらい強かったら、許可してもよくね?”
"試験の内容が一生決まんなそう”
"下層ボス突破とか?”
"死人めっちゃ出るやろそれ”
お金があれば贅沢出来るんだけどなぁ……などと、取り留めもない独り言を呟きながら、ダンジョン上層を進んでいく。途中でモンスターが出てくるが、軽く魔力で威圧すると逃げて行く。モンスターは、魔力で強弱を判定しているようなので、上層のモンスターはこんな感じで追い払えるから楽だ。
そのまましばらく進むと、八王子ダンジョン最大の特徴である、とんでもない大きさの渓谷が姿を現す。ダンジョンを南北に分断するこの渓谷は、上層から中層の一番下まで続いている。向かい側に行くには、何故か掛かっているボロボロの吊り橋を渡るか、渓谷の端まで行く必要がある。
端まではとんでもなく距離があるし、吊り橋は渡っている途中で飛行型のモンスターに襲われると洒落にならないしで、かなりの不人気ダンジョンだ。ちなみに、下の方に降りる階段は交互にあるために、何度も渓谷を渡る必要がある。めちゃくちゃ面倒くさい。
私はそんな渓谷の端に立って、ダンジョン全体を眺めていた。あまり来ないダンジョンではあるが、私はここのダンジョンが好きだ。特に景色が。
「綺麗だなぁ……まぁ、もうちょっと明るいと、もっと良い景色だと思うんだけど……」
何度見てもそう思う。巨大な岩の渓谷にボロボロの吊り橋、遥か遠くに見える、冒険者が持っているらしき松明の灯り、モンスター達のはばたきや鳴き声など、なかなか良い景色だ。暗くて下まで見えないのが残念でならない。下まで見えたら、きっともっと綺麗なのに。
「魔法で照らす……いや、単純に天井ぶち抜けばあるいは……?」
"おいバカやめろ”
"大問題だわやめろw”
"天井ぶち抜こうとすんなwww”
"出来そうだから怖いわwww”
天井をぶち抜くのは、流石に冗談だけれども。あぁ、でも。やっぱり、一度でいいから光に照らされたこの渓谷が見てみたいと思う。
一通り景色を堪能した私は、本来の目的を果たすことにした。ソードスコルピオがいるのはこの渓谷の底。正規ルートで行くには、何度も橋を渡り、次のルートへの迷宮を抜ける必要がある。場合によってはモンスターとも戦わないといけない。余りにも面倒くさい。だが、大抵の場合、何事にも抜け道は存在するものだ。
「さて、そろそろ一番下まで行かないと」
"八王子ダンジョンの一番下となると、お目当てはソードスコルピオか”
"やっぱナイフ作りじゃね!?”
"いやまだ分からんぞ。ソードスコルピオで唐揚げとかやるかもしれん”
"意味分からんのに、この子の場合ありそうなのがヤバいわ…”
当然、このダンジョンにも抜け道がある。
「よし、行こう」
私は、空中に身を投げ出した。
""""は!?!?!?””””