【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
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動きやすいようにと裾を切ったひょうたん柄の着物を着て、ショートの黒髪に、瞳孔が縦長の深紅の目。腰に日本刀と水筒代わりのひょうたんを携えている。そして、何より目立つのは、
まるで絵本からひょっこり出てきたかのような『鬼』がそこにいる。ただ、本人は結構可愛い系の顔した女の子なので、威圧感的なものはそんなにない。背も私より低いし。
「……今、身長のこと」
「……カンガエテナイヨ」
「君さぁ……」
「角込みならボクのほうが高いんだけど?」
「角を身長に入れるのはおかしいでしょ」
「『頭頂』なんだから、ここが頭頂であってるじゃん?」
「あってないよ。相変わらずその屁理屈好きだね」
欠片もあってないよ。大抵の場合はつむじ辺りだよ。でも、このやりとりも久しぶりだ。こいつとは会うたびに毎度こんなことをしている。
「はー、やだやだ。そんなだから胸ないんだよ」
「……あぁん?」
「やーい、ぺったんこー」
なんだぁ、やんのかぁ……!?ちょっと私よりも胸大きいからって調子に乗りやがって……!
「はいそこまでー!」
彩音さんが、私たちを止めに入った。しかし、こんなんでは私たちは止められない……!決着をつけてやる……!
私たちが睨み合いを続けていると、彩音さんがため息混じりに、ばっさり切った。
「2人とも大差ないでしょ」
「いや、あるから!」
「そうだそうだ!ちゃんとみろー!」
「どっちもどっちだよ。私からしたら」
「うぐっ……」
「ぐふっ……」
"決まったー!”
"ワンパンで草”
"アヤネさんスタイルいいもんなあ…”
それは反則……!彩音さんを引き合いに出されたら、もう敗北以外ないんだよ……!140センチ台の幼児体型同士の争いに、170センチのモデル体型を投入するのは反則だよ!
平等に傷を負った私たちは、とりあえず一時休戦することにした。そもそも、彩音さんのこと紹介してないし、彩音さんにも紹介してない。
「ユキちゃん、この子は?」
「わ……えーと、ホオズキ。同い年だよ」
「どうもー」
あっぶな。フルネーム言いそうになっちゃった。配信中だよ。大惨事になるところだった。
「おん?なんで名前だけ……あー、配信してんだっけ?」
「うん。だから、そっちも名前だけでお願いね」
「おん……ん?そういや、ボク、君の名字知らない」
「知らないんじゃなくて、覚えてないだけでしょそれ」
「そうとも言う」
鬼灯がからから笑いながらすっとぼける。こいつ……!まぁ、マイペースなのはいつものことだし。 それに、確かにあんまり名字で呼ばないから覚えてないのはあるかも。
「でそっちの……モデル体型の人は?」
「アヤネさん。パーティ組んでる」
「よろしくね、ホオズキちゃん」
「……は?パーティ……?君に!?」
めっちゃ驚くじゃん君……いやまぁ、分かるけども。多分私も去年の私に、パーティメンバー出来たよって言ったら、絶対信じないと思う。やってることがやってることだしね……
何度か私と彩音さんを交互に見たあと、彩音さんが特に訂正しないので本当だと納得したのか、鬼灯が満面の笑みを浮かべた。
「良かったじゃん。おめでと」
「……ありがとう」
こういうやつだから嫌いになれないんだよなこいつ……お互い煽ったり煽られたり、喧嘩したりしなかったりだけど、嫌な奴ではないんだよね。ちょっっと合わないところはあるけど。でも、お互い認め合っているのは事実だ。
「に、しても……まさかモンスター食べたい人が他にもいるとはねぇ……あ、ちょっと貰っていい?腹減った」
「そこにあるやつあげるよ」
「こんなにでっかいのは流石にいらんて……どう食えと」
ロース肉らしき肉の塊をあげようとしたら断られた。鬼灯のことだから、家に持ち帰るかと思ったんだけど……
とりあえず、新しく肉を焼いて1枚彼女に進呈する。それを受けとって、嬉しそうに頬張りながら、懐から盃を出し、ひょうたんから酒を注いでぐびりと飲む。形から入ったやつだけど、流石にこれだけ経つと様になってるね……追加の肉を切るだけ切って、皿に置いて彼女の前に置く。
「いただきまーす。追加もさんきゅー……うむ、美味い。ダンジョンブーブーだっけ?美味いね。ちょっと臭いけど、あれかな。ジビエの味ってやつ?」
「多分……?」
「なんで自信ねぇの……?」
「いやだって猪食べたことないし」
「そういやボクもないなぁ」
コンロの前に胡座をかいて座り、肉を焼きつつ、焼けたら食べながら酒をグビグビ。相変わらずだなこいつ……完全に行動が呑兵衛だ。
"完全に呑兵衛で草”
"焼肉屋で呑んでるおっさんだろこいつwww”
"ホントに酒のんでないだろうな……?”
"未成年だしないでしょ”
そして、そんな彼女を見ていた彩音さんが、怪訝な表情で声をかけた。
「……ホオズキちゃんって、ユキちゃんと同い年なんだよね?」
「おん?そうだよー、17」
「未成年飲酒はダメだよ!」
「おん?って危な!溢れるって!」
"おいマジで酒のんでんのか!?”
"証拠まで残ってしまって……”
"アカンよ!”
年齢を聞いた瞬間、彩音さんが彼女から盃とひょうたんを奪いにかかった。レベル差があるから、軽くひょいひょいと避けてるけど、溢れそうなのは事実だね。でも、彩音さんもなんでそんな……そっか、説明してないや。
「アヤネさんストップ」
「ユキちゃんも手伝って!止めなきゃ!」
「そいつは
「そうだそうだ!」
「未成年飲酒に合法なんてないでしょ!」
「いや、本当に許可取ってるよ」
「そんなわけ!…………あ、もしかして……」
"未成年飲酒が合法とは”
"合法的……?”
"許可とかあんの?”
彩音さんが何かに気づいたのか固まった。そして私の方を見て、何か言おうとして、止まって……を何度か繰り返したあと、口を開いた。
「……えっと、前に聞いた『ユニークスキルで鬼になってる知り合い』ってこの子のこと?」
「そう。ホオズキのこと。だから、飲酒の許可は出てる」
「鬼でーす。肉と酒しか飲み食い出来ませーん」
「……ごめんなさい!事情も知らずに……」
「お、おん……頭あげてよ。なんか、アレだし……」
"そんなスキルあんの……?”
"肉と酒だけってキツくね……?”
"それで特例的に許可されてるから合法的と。なるほどね”
"水とかもダメなんか?”
鬼灯は、真摯に頭を下げて謝る彩音さんに面食らったらしい。私知っている限りでは、この対応をしてくる人はいなかったはずだ。大抵、だったら水飲め!とか言い出してなおさらヒートアップするしね……飲めないんだけどさ、鬼灯は。
鬼灯は本当に、肉と酒しか飲み食い出来ない。野菜も米やパンも無理だ。調味料がギリギリくらいで、それでもワサビをちょっととか、塩コショウを軽くとか、そのレベルじゃないと無理。無理に食べるとお腹を壊してしまう。飲み物に至っては、アルコール度数がある程度ないと吐いてしまう。お陰でほぼ常にお酒を飲んでいる。魚が結構微妙で、いけるものもあるし、いけないものもあるって感じ。法則性はよく分からない。
彩音さんが、頭を上げて鬼灯に確認を取る。犬束さんを思い出してるのか、ちょっと沈んだ表情だ。
「水とかもダメな感じなんだね……?」
「おん。気持ち悪くなって、吐いちゃうんだよね。アルコールが入ってないと無理」
「そうなんだ……」
「気にすんなって。知らなかったんだからしゃーない」
「でも……」
「んな気になるならそうだなぁ……最近、甘い酒にハマってんだよね。なんかオススメ教えてよ。それでチャラ」
「…………前飲んだやつだと蜂蜜酒かな……」
「蜂蜜酒!いいじゃん♪どこのやつ?」
「えっとね……」
"水もダメなの!?”
"いやキッツ……”
"アルコール以外無理なんか…”
"でも、常飲して大丈夫なんか?ダンジョン内やぞ?”
話が話だけに大丈夫だろうかと、配信画面を確認したら、リスナーさん達は心配してくれてるね。優しい人ばっかりで助かるよ。
ただ、鬼灯は鬼灯で、あんまり悲観してないというか、食えない飲めないならしゃーなくね?それに、野菜は嫌いだし、肉は好きだし!くらいのノリで生きている。飲み物に関しても、酒うめー!って酒を飲みまくっていた。ただ、彼女の身長が小さいのはそのせいだと思う……ずっとお酒飲んでたら、そりゃあね?
一通り彩音さんからお酒について聞き出した鬼灯は、こっちに向き直ると、油が入った鍋を指差した。
「……んで、なんか油の入った鍋あるけどあれは?」
「ダンジョンブーブーでトンカツ作ろうと思って」
「おぉ、ついに揚げ物に手を出したか……あれ?食ってねぇじゃん」
「獣臭くてちょっとね……」
「あははっ!失敗かー……ドンマイ!酒飲む?」
「ダメだよ!」
「!……やだなぁ、じょーだんだって……」
彩音さんから強めのストップがかかって、鬼灯が驚いてる。まぁ、こんなに普通に接してくる人珍しいだろうしね。デメリットの重さを聞いて、変に気を使う人が多いから。そういう意味でも、彩音さんは希少な人かもね。
「あ、アヤネさんは飲む?辛口の日本酒だから、結構合うよぉ?」
「いや、いいよ。酔ったら危ないし……ってそうだよ、酔ったら危ないよ!」
「このくらいじゃ酔わないよ。一升瓶一気飲みしたって平気だぜ?」
「そ、そうなの……?」
「おん」
"つっよwww”
"強いとか通り越してるだろそれ”
"そら常飲するわな……”
言われてみたら、常に飲んでるイメージあるけど、全く酔ったところ見たことないな……
「確かに、酔ってるとこ見たことないね」
「君の前では、酔ったことないねぇ」
「じゃあ、酔ったこと自体はあるんだ?」
「前に、とあるパーティに喧嘩売られてムカついたから、『飲み比べで勝負して、ボクに勝てたら何でもしてやる』って条件だして、そいつら全員潰したときくらいかなぁ……」
「どれくらい飲んだの?」
「具体的な量は分からんけど、
「え"……」
あんまりな発言に、彩音さんが固まった。いやなんだ店の酒全部って!
「それ、いくらしたの……?」
「
「「えぇ……」」
"そ の 店 の 酒 全 部”
"パーティ対1人で勝つなwww”
"それ絶対100万程度で済んでないだろwww”
私も彩音さんもドン引きだよ。何してんの君……いや、平和的な解決方法な気はするけどさ……殴り合いとかするよりは。冒険者同士の喧嘩って本当に洒落にならないからね。
そんなこんなで、鬼灯が彩音さんとも打ち解けたので、軽い会話をしながら食事を再開。私たちも食べ切ってないしね。
「あー、美味かった。ごちそうさまー」
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま。お粗末様でした」
2人が率先して片付けをやってくれてるので、私が暇になってしまった。手伝おうとしたら、作ったやつは休めと言われてしまった。そういうことなら、ちょっとのんびりさせてもらおうかな……うん?そういえば……
「あのさ、ホオズキってクラン入ってるんだよね」
「おん。強制加入だけどな」
「お目付け役とかいないの?」
「いないよ。それに、ボクはソロで潜っていいって言われてる」
「未成年なのに?」
「おん」
「なんで?」
「クランの幹部と同じくらいボクが強いから」
「あぁ……」
それなら分からなくもないような……実際強いのだこいつは。純粋に、シンプルに、単純に強い。ただ、身体能力が高くて、剣術の技量が天才的という、ただそれだけの強さを突き詰めた存在だ。そして、強くなるためだけにダンジョンに潜っている。
「ホオズキちゃんって、そんなに強いんだ……」
「まぁね♪でも、レベル的にはユキの方が上」
「あ、そうなんだ」
「いや、こいつの頭イカれたレベリングに追いつけるやついないって。内容知ってる?」
「うん知ってる……」
「なら分かるっしょ?」
「そうだね……」
「流石に酷くない?」
「嘘だろ、自覚ねぇの……?」
「ユキちゃん、悪いけど擁護できない……」
「えぇ……」
2人して、酷くない……?そこまで言われるほどかな……?
"毎日渋谷ダンジョンのモンスターハウス殲滅はイカれてるんだよ”
"キラーホーネット殲滅レベリングもイカれてるんよ”
"マジで、3年で3200は本当に、狂人なのよ……”
"でも、おそらくそれに近いところにいるんですよね、ホオズキちゃんも……”
"どこのクランかにもよるけど、ユキちゃんと比べられるってことは……”
"あれ、この子も化け物……?”
"『女帝』の後輩が育ってきてるなー(白目)”
鬼灯の身長は143(角込み146)なので、主人公の145より、ちょい小さいくらい