【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
私たちは片付けを終えたあと、渋谷ダンジョンから出るべく動き出した。帰りのメインは鬼灯だ。ご飯のお礼とのことで、前に出て片っ端から切り捨てている。モンスターと遭遇するたびに、一瞬で相手の目の前に踏み込んで、切り刻み、こちらに帰ってくるの繰り返しだ。相手が何体いようが関係ない。あまりの早業に、彩音さんが目を白黒させていた。
「全然何やってるのかわかんない……」
「おん?ただ踏み込んで切ってるだけだよ。スキルも使ってないし」
「スキル使ってないのにその動きなの!?」
「ユニークスキルで身体能力は上がってるけどねぇ」
「ホオズキは、身体能力高くて剣術の技量が天才的ってだけだからね。シンプルに強いよ」
「それ、『だけ』って言わないから!!」
"スキルなしでこれってマジ……?”
"一応、ユニークスキルは発動してるから(震え声)”
"身体能力高くて、技量が天才的な『だけ』は草”
"マジでシンプルに強くて笑う”
鬼灯は、『剣術を極める』ことを冒険として選んだやつだ。その結果が、目の前のこれである。今の目標は、『空間を切る』ことらしいだが、まぁ、そのうち辿り着くと思う。鬼灯だし。
そのまま鬼灯が暴れまわることしばし、中層から上層に戻ってきたので、ここからは、私が威圧して進む。楽だからね。
そうなってくると、みんなで雑談しながら帰るだけになる。そんな中、彩音さんが鬼灯にとある質問を投げた。
「……そういえば、ホオズキちゃんって、なんで和装なの?」
「ズバリ、見た目重視!と言いたいところだが……」
「だが?」
「普通の服だと、頭通す時に角が刺さるんだよね。服に」
「あー……」
こう、ブスッと。なんて言いながら、服を着るジェスチャーをしている。確かに、あの角は刺さりそうだなぁ……
「だから、基本的に前合わせのやつ着てんだよ。チャック着いてるやつとか」
「なるほどね……そういうところも気を付けないといけないんだ……」
「でも、和服選んだ理由は見た目重視ってのは事実なんだよね。やっぱ、鬼なら和服だろって思ってさ。このひょうたんもそう」
「そこはこだわりなんだ」
「そうなんだよ!かっこいいだろ?ユキもそう思うよな?」
ニンマリと笑みを浮かべた鬼灯が、自慢気にこちらに話を振ってくる。申し訳ないけど、思っていることを話そう。
「見た目はいいけど、行動がちょっと」
「おん?なんだぁ……?」
「ただの呑兵衛なんだよね。行動が」
「うるせぇやい!」
"確かに呑兵衛だった”
"堂に入った呑みっぷりであった”
"まぁ、鬼らしくはあると思うw”
"鬼ってか飲んだくれ親父だったろあれは…”
多少自覚があったらしい。さっきの食事光景は本当に、ただの呑兵衛だった。彩音さんも、さっきの鬼灯を思い出したのか苦笑している。ぐぬぬって顔をしていた鬼灯だけど、何かを思い出したらしく、声をかけてきた。
「あ、そうだ、ユキさぁ」
「ん?なに?」
「後で連絡先交換しようぜ」
「うん。いいよ」
「え、こんなに仲良いのにしてなかったの!?」
思わず出てしまったらしい彩音さんの声を聞いて、鬼灯と顔を見合わせてしまう。仲が良い……?私たちが……?
「仲良い……か?」
「分かんない……」
「いや、仲良いでしょどう考えても……」
「ボク達仲良いらしいぞ……」
「みたいだね……」
「なんでそんな反応になるの!?しかも多分素だよねそれ!」
いやだって、確かに付き合いはそこそこ長いけど、こう、遊んだりとかしたことないし、そもそも連絡先知らないくらいの関係だしなぁ……
「たまにダンジョンとかその周辺で会って、ちょっと話すくらいだよ?」
「そうそう。どっかに遊びに行ったりとかもしたことないし?」
「……それでこのやりとりしてるなら、十分仲良いよ……」
「「そうなんだ……」」
"え、これで仲良いと思ってないんですか!?”
"お互いに仲良い自覚ないの草”
"だいぶ仲良しだよお前ら…”
そうなんだ……仲良いって判定なんだこれ……
鬼灯と再び顔を見合わせる。なんだか変な気分だ。仲良いのか私たち。お互いを認め合ってるのは事実なんだけど、仲良いのか……そうか……
なんかちょっと照れくさくなって、お互いに顔を逸らしてしまった。
「ねぇ、もうわざとだよね?わざとだって言って?」
「いや、特に何かしてるわけじゃないよ……?」
「ユキがやろうっていいました」
「……は?」
は?いや、何いってんの?ちょっと、鬼灯……?困惑してる私の元に、彩音さんから冷たい声がかけられる。
「ユキちゃん……?」
「いや待ってアヤネさん、おかしいって!?」
「さっき、酒奢るからアヤネさんからかうの手伝ってって言われたんですよぉ……」
「君はちょっと黙ってて!!」
「ユキちゃん……」
「アヤネさんも信じないで!」
「いやぁ、楽しいわー」
「楽しくない!!」
「ユキちゃんなんで……?」
ダメだ、彩音さんが鬼灯を信じちゃってる!ど、どうしよう……あ、そうだ!!
「アヤネさん、未成年の私が酒を奢れるわけないでしょ!?」
「…………ホオズキちゃん……?」
「あ、やっべ……スゥ~これはっすねぇ……」
形勢逆転。勝ったな……!勝利の余韻に浸ろうと思ったら、突然、スマホの着信音が鳴り響いた。鬼灯の方からだ。
「おん……?あ、ちょっとごめん……もしもし鬼灯ちゃんですよー?どったん?……今?渋谷ダンジョン。もう帰るとこだよ。もうちょいで地上……あ、そう?分かった。はーい、じゃねー」
「知り合い?」
「おん。クランの年上の後輩……みたいな?結構一緒にパーティになること多くて、仲良いんだよね」
「なんかあったの?」
「なんか相談があるらしい。明日でよさそうなもんだけど、わざわざ今って言うんだから、なんか急ぎなんでしょ」
「じゃあ、ちょっと急ごうか。あ、配信はここまでにしよう。お疲れ様でした」
「あ、そうだね。お疲れ様ー」
「おつかれー!またな!」
"おつー”
"お疲れ様ー”
"おう、またな!”
配信を切り上げ、全員で走ることにした。あと3層分だし、大した距離じゃない。レベル的に、彩音さんが結構遅いかと思ったらそうでもなかった。身長ってズルいな……ちくしょう……
あと、なんで鬼灯はまた配信に出るつもりなんだ。
地上に戻って検問を抜けると、鬼灯が周囲を見渡し、声を上げた。
「へい、淳平!お待たせ!」
「あぁ、
「あ……」
鬼灯が駆け寄ったのは、ラフな格好の青年だった。茶髪に緑の目で、全体的に柔らかい印象を受ける人だ。彩音さんがちょっと反応したな……?知り合いだろうか?
「気にすんなってー。で、内容は?」
「月島さんいるだろう?彼に私用で世話になってね。御礼として酒を用意したいんだ」
「あの人酒好きだもんなぁ」
「ただ、僕自身が下戸なのもあるし、彼の酒の好みも知らなくて……君なら何かオススメの酒を知っていないかと思って」
「おん。任せろよ。でもそれ、今じゃなくてよくねぇ?」
「いや、僕が明日から遠征だから、なるべくなら今日がいいんだ。帰ってきてからでは遅くなってしまうし、下手したら御礼を言えずに終わってしまう。わがままで迷惑をかけてしまうが……」
なるほど。ちゃんとした人というか、ちゃんとした冒険者って感じの人だ。死ぬ可能性があるから、御礼は先にちゃんとしておきたいっていう考えは素晴らしいと思う。私も、なるべくそうありたい。
「そういうことならしゃーねーな。よし、行こうぜ!あの人が好きそうな酒売ってる酒屋は9時までだから、ちょっと急がないとな」
「助かるよ!……ただ、ちょっとだけ待ってくれないか。彼女たちと話がしたいんだ」
「おん?いいけど、急げよー?」
「ああ!」
青年がこっちに来た。やっぱり彩音さんの知り合いなのかな?となると、私ちょっと邪魔かな?少し離れよ。
青年はこちらにやってくると、彩音さんに心配そうな顔を向けた。
「……久しぶりだね、美空。その……元気かい?色々あったと聞いたよ」
「久しぶり小糸くん。大丈夫、元気だよ!」
前のパーティのいざこざの件かな……?彩音さんは自然な笑顔で接しているし、もう大丈夫だと思う。青年の方も、それを見て嬉しそうに微笑んだ。
「そう、か……なら良かった。あ、権田から話が来てないかい?」
「権田くんから?特に何も……」
「そうか……この前会ったときに、同窓会をしようという話になってね。4人で」
「ホント?みんなに会うの久しぶりだし、楽しみ!」
「あぁ、僕も楽しみなんだ。多分、後日権田の方から話があると思う」
「分かった。絶対行くね」
同窓会、か。私もいつか、愛依や凉とやるんだろうか?うーん、なんか想像つかないな……というか、言っちゃ悪いのだが、適当に凉の家に行くだけで、いつでも会えそうなんだよね。わざわざ目の前の2人みたいに、タイミング合わせて集まる感じにならないというか……
なんて考えていたら、青年から声をかけられた。ちょっとびっくりしたけど、表には出してないはず。
「蚊帳の外にしてしまって申し訳ない。初めまして。僕は
「冒険者学校で、初めてパーティ組んだ時のメンバーなの」
あー、それで同窓会……多分、初めてのあとのパーティがあれだったんだよな……いやいや、こんな事考えてないで、ちゃんと挨拶しないと。
「……はじめまして。物前夢希です。鬼灯の知り合いで、彩音さんにはお世話になってます」
「私の方がお世話になってるよ。今のパーティメンバーなんだ」
「そうなのか……!物前さん、これからも、美空のことを頼むよ。彼女、何かと抱え込みがちだから……」
「ちょっとー?」
「わかりました。よく見ておきます」
「夢希ちゃんまで!もう……!」
小糸さん、見た目通りの人って感じだな。なんというか、丁寧だ。彩音さんは抱え込みがち……確かに、パーティでの騒動のあと、半分弱み握ってる相手にじゃないと吐き出せないくらいだもんね。そりゃそういう評価にもなるよね。
彩音さんは、からかわれていると思ったのか、ちょっと不機嫌になっている。その横で、小糸さんが何か違和感に気づいたような、何か引っかかっているような、そんな顔になった。どうしたんだろう……?
「……ん?物前、夢希……?」
「はい。そうですが……?」
「間違えていたら申し訳ないんだが……去年、渋谷ダンジョンの崩落に巻き込まれなかったかい?」
「巻き込まれました」
あー、あの時に小糸さんの知り合いも巻き込まれたのかな?だったら、私の名前を知っててもおかしくない。ただ、色んな冒険者と協力してたからなぁ……私が覚えてないかもしれない……
小糸さんは、私の返答に目を見開いたあと、静かにこう呟いた。
「そうか……君があの『渋谷の女神』か……」
「…………?……!?」
いや待って、なんだその名前!?誰がそんなこと言ってるの!?
あまりの驚愕に声も出せずに固まっていたら、鬼灯の大きな声がした。大きいはずなのに、なんか遠く感じる。
「おーい、店閉まっちゃうよー!」
「すまない、すぐ行く!あのときは本当にありがとう。あなたのおかげで、クランのメンバーが救われた。慌ただしくて申し訳ないが、僕はこれで。美空、またな」
「う、うん。またね……」
小糸さんが、鬼灯に返事をしたあと、私に対して頭を下げ、彩音さんに別れを告げて去っていった。本当に慌ただしい感じだが、そのまま鬼灯と一緒に出口に走っていった。多分、先ほど言っていた酒屋に行ったんだろう。
私は、先ほどの『渋谷の女神』なる発言に驚愕しすぎて、全く反応を返せずに、彼が鬼灯と一緒に走って出ていった出口をしばらく呆然と見つめてしまう。
「………………」
「………………夢希ちゃん」
「………………何?」
「『渋谷の女神』って……?」
「知らない……本当に知らない……」
「えぇ……?」
いや、本当に知らないんだけど……誰か、誰か教えてくれ……!
悲しいことに、教えてくれる人なんていないので、もやもやしたものを抱えたまま家に帰った。お風呂に入っている時に、鬼灯と連絡先を交換してないことに気付いたけど、それは別にいいか……
鬼灯は、所属クランの人たちと酒飲みまくってるので、情報収集要員としてめちゃくちゃ有能です。年齢的に、姪っ子みたいな扱いされてるせいもありますが。