【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と八王子までの道行き

 

 油をダンジョンに捨てれば良いじゃない。という彩音さんからの啓示によって、油系料理を作りたくなった私は、ついでに新たなモンスターに挑戦することにした。

 頭を悩ませていた『渋谷の女神』については、同窓会のときに彩音さんに聞いてもらうことにして、とりあえず切り替えることにした。本当になんなんだろうな……

 

 

 八王子行きの電車の中に乗り込み、八王子ダンジョンに向かう。電車には冒険者専用車両があって、冒険者はそこに乗るのが()()である。一般人と身体能力が違いすぎて、電車が揺れたから慌てて手をつきました。そしたら、目の前の人が潰れてしまいました。なんてことになりかねないからね……あと、普通に武器の問題もある。カバーとかで隠すのが義務だけど、そもそも重いものも多いから危ない。

 忘れてはいけないが、メイン武器は大きな大剣で、重量は30キロ!片手でぶんぶん振り回せます!みたいなのが冒険者なのだ。そのため、一般人とはだいぶ生活圏が分けられている。お互い不幸になりかねないからね……例外は一部学校と役所くらい。

 なお、私みたいに収納魔法が使える人間は、収納しておくだけなので、すさまじく楽だ。彩音さんのハルバードもギリギリ入ったし。本当にギリギリだったけど。

 

「油をダンジョンに捨てればいいって分かったから、油を使う料理に挑戦してみようと思って」

「それで、スパインポルポでアヒージョを作ろうってことね」

「うん。うまくいくかは分からないけど……ダメだったら、その時は砂ウツボを食べよう」

「上手くいくといいね!アヒージョかぁ……楽しみ」

「アヒージョか……やっぱ白ワインかな。いや日本酒も捨てがたい……」

「で、なんでいるの……?」

「おん?ダメ?」

「ダメじゃないけど……」

 

 で、何でか鬼灯がいる。いや、駅でたまたま会ったから付いてきたってだけなんだけども。いや本当に何でいるんだ……

 

「クランの方はいいの?小糸くんは遠征って言ってなかった?」

「ボクは未成年だから、未探索領域はいけないのよねぇ」

 

 私も行けないからなぁ。でも、それならそれで、これだけの戦力を遊ばせておくのも勿体ないと思うんだけどな。未成年が行けないのは未探索領域だけ。深層は行けるはずだ。

 

「その前までの戦闘とかしなくていいの?主力の温存とかするんじゃ……?」

「あのね、彩音さん。夢希なら分かると思うけど、目の前に未探索領域があって、お前は法律でダメだからそこでお預けって言われても、我慢できるわけねぇじゃん……?」

「うん。無理だね」

「無理なんだ……」

 

 うん。無理だ。間違いなく行く。私だってそうする。ちょっと彩音さんが引いてるけど、目の前にそんなものあったら無理だよ。やったら冒険者として生活できなくなるとか、そういうことが頭から吹き飛ぶと思う。だから、私は未探索領域があるダンジョンには行かないようにしている。

 私の同意を得てちょっと安心したような鬼灯が、ため息をつきながら続けてボヤく。

 

「んで、それ見抜かれてるから、お前は待機って言われて暇なんだよ……」

「でも、他にも人はいるでしょ?」

「仲良い人は大体遠征行ってる。あとは事務員的な人たちだから、仕事の邪魔したくない」

 

 こういうところちゃんとしてるんだよなこいつ……ちょっと意外だけど。自分が何かを集中してやってるときに、邪魔されるのが嫌いだから、他人にもしないようにしてるとは言ってたっけ。

 

「同年代の子たちは?」

「そいつらは、話が合わないんだよねぇ……」

「え、そうなの?なんか意外……」

「おん。そもそも、ボクのコミュニケーションって大抵飲みニケーションだからさぁ……飲めないやつ相手はどうやったらいいのか分かんない……」

 

 鬼灯が飲みニケーションが得意なのは容易に想像がつくけども。ついでにアルハラしてる姿も想像出来るけども。ボクの酒が飲めないのかぁ?とか。でも、確かに話は合わないかもなぁ……お酒しか飲めない弊害で、どうしても年上とのコミュニケーションが多くなるだろうし、それしかしてこなかっただろうから。

 私以外の同年代と話してるところなんて、昨日の小糸さんくらいしか見たことがない。小糸さんを同年代と言っていいのかは、議論の余地がありそうだけど。

 

「でも、小糸くんとは仲良いんでしょ?小糸くん下戸って言ってたけど」

「淳平は、パーティ組むことが多いからってのがデカいよ。他の同年代だと、レベル差もあるし……」

「あぁ……そういう問題もあるんだ……」

「小糸さんはレベル近いの?」

「うんにゃ、大分低い。でも、将来の幹部候補だからね、アイツは。ちょっと上の連中と組ませて、経験つませてんじゃねぇかな?」

「なるほどね……」

 

 クラン内でも色々事情があるんだな……でも、将来的に幹部として、つまり指揮官として働いてもらうつもりなら、その時に前衛で暴れ回るであろう存在と仲良くなっておくのは大事だよね。小糸さんの性格からしても、問題なさそうだし。

 

「ま、というわけで暇なのよ。だから一緒に行こうかなって」

「そういうことなら私は構わないけど……」

「私も夢希ちゃんがいいならそれで」

「よっしゃ。ま、たまにはゆったりすんのもいいでしょ。それに、彩音さんと飲みたいし」

「ダンジョン内だから飲まないよ?」

「えー!?アヒージョだよ?白ワイン合うと思わない?」

「だとしてもだよ」

「1杯!1杯だけ!」

「ダメだってば」

「そんなぁ……」

 

 断られた鬼灯が大げさに項垂れる様を、彩音さんは苦笑しながら見ている。そりゃ、ダンジョン内では普通飲まないよね……

 

「でも、びっくりしたよ。鬼灯ちゃんが『白の騎士団(ホワイトナイツ)』所属だったなんて」

「まー、親のツテみたいなもんよ。縁故就職ってやつ?」

「それでもすごいよ」

「そんなもんかねぇ……」

 

 『白の騎士団(ホワイトナイツ)』は、日本国内の三大大手の一角であるトップクランだ。鬼灯の場合、お母さんが元『白の騎士団(ホワイトナイツ)』の冒険者で、そのツテであるとは言ってたけど……ツテだけで入れてくれるほどトップクランは甘くない。本人がこの強さだから許されているのである。

 ちなみに、三大大手の中には『魔女の大鍋(コルドロン)』も含まれる。あくまで人数とか規模が大手かどうかであって、強いかどうかではない。故に『魔女の大鍋(コルドロン)』もそこに含まれている。ということらしい。

 しかし……冒険者の中では、「この世で最も恐ろしい未探索領域は、『魔女の大鍋(コルドロン)』である」なんていうジョークがあるくらいだ。あくまでもジョークとして話されているけれど、内情をそこそこ知っている私としては、その通りだろうな……としか思えなくて笑えない。あのロマンに狂った職人たちが、世界に発表出来ないような危険物を作ってないわけがないからね……

 

「そういえば、小糸さんはいつクランに入ったの?」

「おん?確か……4年前?」

「小糸くんは、冒険者学校の2年生のときにスカウトされたんだ。みんなでお祝いして送り出したの、懐かしいな……」

「それで、その面子で同窓会ってわけかー……いいじゃん」

「楽しそうだよね」

「ボクらにゃ縁のない世界だもんなぁ」

「うん」

「これからでしょ、2人の場合」

 

 彩音さんが暖かい目で見ているけど、私たちには本当に縁遠い世界なんだよね。冒険者との同窓会は、冒険者学校生だからあるんであって、私たちにはそういう繋がりがほとんどない。同世代からも浮いてるところあるし……

 強いて言うなら、今この場で鬼灯と話してるのが同窓会みたいなもんである。

 

「……そうだ、連絡先!昨日交換し忘れたからさ」

「あ、うん。これでいい?」

「さんきゅー!あ、彩音さんもしよーぜ?」

「いいよ。どうぞ」

「やーりぃ、2人増えたー♪」

 

 鬼灯がウッキウキだ。そんなに連絡先が増えるのって嬉しいかな……?よくわかんないや。

 

「あとさ、配信のチャンネルってどれ?夢希の名前で検索しても出てこねぇんだけど……」

「えっと……これ」

「君さぁ……なんか、もうちょいこう……あるじゃん……?」

 

 鬼灯がすごい顔してる。なんというか、どう表現していいのか分からないものをみた顔だ。

 

「いやだって、別にやる気あって始めたわけじゃないし……」

「にしてもだって!せめてチャンネル名くらい、初期の意味不明なやつから変えろって……」

「うーん……」

「何が嫌なん?」

「検索で引っかかること」

「おん……?あー……ならしゃーねぇか……」

 

 納得してくれたらしい。事実なんだよね。検索に引っかかって欲しくないのは。今の感じで続けられればいいのだ。今がわりと楽しいから。停滞を望むのはよくないと言うけれど、これは停滞していて欲しい。

 私たちの会話が途切れたのを見計らって、彩音さんが別の話題を投げかけた。

 

「そういえば、未探索領域ってどこのダンジョンの未探索領域なの?」

「おん?あぁ、広島の厳島ダンジョンだってさ」

「そこってどんなダンジョンなの?私、東京以外のダンジョンあんまり詳しくなくて」

「厳島ダンジョンは、現在の探索範囲が17層で、まだ下があるから、かなり深いダンジョンだね。モンスターは、海にいる生物系が主で、龍宮城なんて呼ばれてる」

「うわ、そんなにあるんだ……」

「あそこは深さよりも、モンスターの強さの方が問題だけどなぁ……」

「確かにね」

「強さ?」

「おん。あそこは()2()()()()()()()()なんだよ」

「嘘でしょ……?」

 

 ちょっと分かりにくいけど、ダンジョンにおける上層や中層といった区別は、地上からの深さではなく、ダンジョン内の魔素(マナ)濃度によって決められている。魔素(マナ)濃度が高いほど強いモンスターが出てくるので、それに合わせてこういう形をとっている。

 だから、例えば八王子ダンジョンみたいに中層までしかないダンジョンがあったり、厳島ダンジョンみたいにほぼ深層しかないダンジョンがあったりするのだ。そして、下層以上の階層があるダンジョンにはボスがいる。

 厳島ダンジョンの凄まじさを聞いて、彩音さんが不安げな表情になった。

 

「小糸くん大丈夫かな……」

「淳平は下まで潜らないよ。地上付近で指揮の練習とレベリングするってさ。未探索領域に挑戦するのは別の人たち」

「そうなの?」

「あくまでアイツは将来有望な冒険者であって、今強いわけじゃないからね。最前線までは連れてかないよ」

 

 その発言を聞いて、彩音さんがホッとした雰囲気になった。同級生が未探索領域に行くってなったら、流石に心配するよね。

 

「遠征の雰囲気に慣れて貰うっていうのもありそうだね」

「あるだろうねぇ……慣れないとキツいし」

「やっぱり、遠征って違うんだ?」

「なんていうか、適度な緊張感を保つのがめっちゃムズいんだよね。緊張しすぎちゃって、無意識に消耗する感じ?」

「なんか分かるかもその感覚……」

「初めての階層に足踏み入れるときのあの感じって聞いた」

「そうそう!あれがずっと続くからなぁ、遠征は」

「そう考えると、確かに慣れないとキツそうだね……」

 

 両親曰く、あの雰囲気に慣れていないと、ひたすらに精神的に消耗してしまうので、何度も挑戦して慣れる必要がある。勝手知ったる場所ならともかく、そうじゃないなら特に。それに、あまり馴染みのない場所だと、休むところでも休めなかったりするしね……枕が変わると眠れなくなる。とかも含めて。お父さんはそのタイプだったらしくて、常に枕を持ち歩いていたらしい。

 

 遠征の話で盛り上がっていたら、電車が八王子に着いた。話を切り上げ、ダンジョンに向かう。

 さあ、スパインポルポでアヒージョをしよう!

 

 




ちょっとずつ将来に向けての色々を混ぜ込むので、頭こんがらかってきました……
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