【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とスパインポルポ

 

 八王子ダンジョンの第一層、メインルートから外れた小部屋で、配信の準備だ。ボディカメラをつけて、スマホを用意。そして、注意事項を確認する。

 

「注意事項として、鬼灯のクランについては明言しないし、遠征に行っていることも、どこに行っているかも発言しない。でいい?」

「オッケー」

「おん。流石に特定されるだろうから、頼むわ」

「……よし、じゃあ始めよう」

 

 コメントを見るためか、彩音さんも鬼灯もスマホを取り出したのを見ながら、私は配信開始のボタンを押す。

 

「……映像よし。音声よし。こんにちは、ユキです」

「こんにちはー!アヤネです!」

「また会ったな!ホオズキだぜぃ」

 

 "こんちはー”

 "ホオズキちゃんおるやん!”

 "また会ったな!”

 "まさか2日続けてとは”

 

「準レギュラー目指してるんで、よろしくぅ!」

「え?」

「おん?ダメ?」

「いや良いけど……」

 

 別に鬼灯が一緒に冒険をしたいというなら、私は特に気にしないんだけど……こいつ、自分が食べ物について結構制限があること分かってるのか……?

 

「なんだよ?」

「食べられるもの少なくない……?」

「………………そ、それは後で考えるわ……」

「考えてなかったんだねホオズキちゃん……」

「…………おん……」

 

 "ホオズキちゃんwww”

 "準レギュラーの座は遠かったかー…”

 "まぁ、確かに厳しいよなぁ”

 "調理前の肉食べる横で調理済みの料理食べんのもね…”

 

 こいつ本当に……露骨に目を逸らして、声を震えさせながら答えた鬼灯に、ジトッとした目を向けてしまう。

 と、ここで、新たな問題が発生したことに気がついた。鬼灯は、そもそもアヒージョを食べられるのか……?特に油。

 

「ホオズキ、配信の前に確認するべきだったんだけど、今日の料理は食べられるの?」

「おん?あぁ、野菜食わなきゃ大丈夫。タコはイケるから」

「いや、油は?」

「液体なら問題なし。酒と一緒に飲めばいいだけ」

「液体『なら』ってことは、液体以外があるとダメ?」

「……心配してくれんのはありがたいけど、そもそも食えないならついてこねぇって。ボクはユキの冒険の邪魔したくない。それに、今までもそうだったろ?」

「それは……そうだね。ごめん」

「おん。ま、心配してくれてさんきゅーな」

 

 これは私の冒険だから、こいつに遠慮とかはしない。私がルールだから。私がこいつの冒険にお邪魔することになったら、私は鬼灯に従う。鬼灯がルールだから。確かに、そうやって私たちは過ごしてきたのだ。今回の話は、ちょっと無粋だったな……

 そして、彩音さんは一歩引いたところで、こちらを暖かい目で見つめている。なんだろうな、叔父さんとか白石さんが昔よくしていた目だ。私たちの話がついたことを確認した彩音さんがリスナーに呼びかける。

 

「さて、問題です。今の会話から、今日何を作ろうとしてるのか分かる人!リスナーさんたち!」

 

 "え!?”

 "突然振られたが……タコは確定だな”

 "油も確定で、野菜も確定してるな”

 "となると、アヒージョじゃね?”

 "野菜と油とタコ……なるほど。確かに”

 

 リスナーさんたちすごいな。いきなり振られてもちゃんと正解まで辿り着くんだ……確かに要素は全部出てたから、いけるといえばいけるのかもしれない。

 

「すごい!ちゃんと正解まで辿り着いてる!」

「今回はスパインポルポでアヒージョを作る予定です」

 

 "スパインポルポは初だな”

 "あいつは……解体が大変そう”

 "そもそもバラせんのか……?”

 

 スパインポルポは、八王子ダンジョン上層にいる、全長150センチくらいの、全身を黒い棘に覆われたタコである。なんていうか、オニヒトデっていう生き物が一番近い見た目をしている。あれに頭がついて、大型化したような感じだ。

 オニヒトデと違って毒はないものの、棘にはカエシがついているし、折れやすいしで、結構面倒くさいモンスターである。体内に入ったあと、放置すると化膿するから、ちゃんと処置しないといけない。ただ、生態としてあまり攻撃的ではなく、こちらから刺激しなければ、積極的には襲ってこない。流石に、隙を晒しすぎると襲ってくるけどね。

 あとたまに砂ウツボやハイエナワシに捕食されているのを見る。多分、あの棘は身を守るためにあるんだろうけど、あんまり役に立ってないのかな……

 

「確かに。アイツ解体できんの?」

「棘さえどうにかしてしまえばいけると思う」

「その棘をどうにかするのが大変そうなんだけど、何か策があるの?」

「浮遊魔法で壁に押し付けて紅葉おろしにする。棘に大した強度はないから、多分これで行けるはず」

「…………」

「…………」

 

 "お、おう……”

 "こっわ……”

 "なんか、スパインポルポに同情したわ……”

 "内容はともかく、言い方よ……”

 

 なんか空気が凍ったぞ……?あと、彩音さんと鬼灯がドン引きした目で見てくる。な、なんだよ、ちゃんとした策じゃないか!

 

「前から思ってたけど、その発想はどこからきてるの……?」

「母親譲りだと思うぜアレは。かなり破天荒な人だったし」

「そうなんだ……」

「おん。あんな人他に知らねぇもん」

「そんなに!?」

 

 鬼灯の説明に、彩音さんが驚いている。確かに多分この辺の発想はお母さん譲りだとは思うけど。それに、私もお母さんほど破天荒な人は知らないけど……あれ?私が周りとズレてる最大の原因ってお母さんなのでは……?

 とりあえず話を切り上げて、スパインポルポを狩りに行くことにした。解体に時間かかる可能性があるからね。

 

 

 

 

「というわけで仕留めたのがこちら……」

 

 目の前に、頭を綺麗に切断されたスパインポルポの死体がある。浮遊魔法で吊るして、全ての脚の先端を切って、血抜きをしている途中だ。鬼灯が仕留めてくれた。

 ただ、これを仕留めるまでが問題だったけど……

 

「君の《魔力の矢》の威力どうなってんだよマジで」

「爆発したもんね……ホオズキちゃんのお陰で助かったよ、ありがとう……」

「本当にごめん……ホオズキ、ありがとうね」

「おん。でも、マジで気をつけろよ……?」

 

 "汚え花火だった…”

 "むしろ、爆散したせいで棘が飛び散って危ないとかいう”

 "マジで危険だったよあれ……”

 

 見つけたスパインポルポの頭に《魔力の矢》を打ち込んだら、威力が高すぎて爆散した上に、その衝撃で棘が飛び散るとかいう超危険な事が起きたのだ。

 鬼灯が咄嗟に、私たちを抱きかかえて脇道に飛んでくれなかったら、全身棘まみれになっていたかもしれない。ちょっと、本当に、気をつけたほうがいいなこれは……

 

「つかさ、ショートソード持ってんならそれ使えよ……そっちのほうが安全だって」

「そういえば、私それ使ってるの一度しか見たことないかも……」

 

 私の腰にあるショートソードに2人の目が向く。確かにそうなんだけど、ちょっとなぁ……私は、ロングソードは指導されたことがあるけど、ショートソードは指導された経験がないので、かなり苦手だ。レベル差がこれだけあるのに、彩音さんよりもブレイクレッグを倒すのが遅いくらいである。そもそも手に持って振るように作ってないしね……それに

 

「まだ制御が完璧じゃなくて……」

「制御……?」

「こう使ってるんだよね」

 

 ショートソードを抜いて、浮遊魔法で振り回す。天井近くで回しているんだけど、やっぱりちょっと感覚がズレていて、うまくいかない。たまに天井を斬ってしまっている。自分を飛ばすならともかく、他のものを細かく動かすのはやったことがなかったので、絶賛練習中なのだ。

 鬼灯と彩音さんが口を開けて固まってしまった。しばらくして、先に再起動した鬼灯が叫ぶ。

 

「………いや、普通に振れよ!!なんでそんなことしてんの!?」

「こっちの方がロマンがあるから」

「……君、『魔女の大鍋(コルドロン)』の素質あるよ」

「酷くない!?」

「妥当な評価だわ!」

 

 "確かにロマンはあるな、ロマンは”

 "コルドロンの素質があるとかいう直球の暴言”

 "お前、狂ってるよ(意訳”

 

 流石に酷くないか!?あそこまでおかしくないよ!

 その後、鬼灯とぎゃーぎゃー言い合いになっている横で、再起動した彩音さんが暖かい目をして私たちを見ていた。ある程度見守ったあと、私たちを止めに入る。

 

「はい、そこまでにしようねー」

「はぁ、はぁ……そうするか……」

「はぁ、はぁ……そうだね……」

 

 お互い、言い合いに集中しすぎて息が切れてしまった。たまにこんな感じになるんだよね、こいつと会うと。

 

 "息切れするまで言い合ってたの草”

 "マジで、これで仲良い自覚なかったとか…”

 "多分、喧嘩友達ってやつなの……かな?”

 

 とりあえず、言い合いの間に血抜きが済んだようなので、先に説明した通り、浮遊魔法で壁に押し付けて、紅葉おろしにする。スパインポルポが通ったあとの壁に、棘がごっそり残ったままになっているのを見て、さっきこうなっていたのは自分たちだったかもしれない思うとちょっと冷や汗が出た。本当に気を付けよう……

 とりあえず、全身の棘が取れたようなので、確認してみる。うーん、身にちょっと刺さっちゃってるな……

 

「ちょっと身に刺さっちゃった……」

「まぁ、それはしゃーねぇだろ。内側?使おうぜ」

「丁寧に抜いてたらどれだけかかるか分からないもんね……」

 

 2人の言う通りだな。よし、解体しよう。とりあえず、胴体から脚を分離し、脚の真ん中辺りで内側と外側に分けて、外側は破棄する。棘が残ってたら怖いしね。胴体は……と今回はナシの方向で。にしても、これ1本で相当な量だな……

 

「1本で十分じゃね?」

「確かに。お鍋に入り切らないね」

「そうだね。とりあえず、これでアヒージョを作ろう」

「よ、待ってました!」

「楽しみ!」

 

 "いえーい”

 "皆のもの、飯は用意したか!?”

 "酒も持ってこーい!”

 

「でも、その前に……」

「おん?」

「どうしたの?」

「1回茹でて食べてみよう」

「あー、味見か」

「そもそもが美味しくなかったら、どうしようもないもんね」

 

 というわけで、まずはスパインポルポに塩をまぶして揉んでいく。地味にヌメリがあったから、落とさないとね。十分に揉んだあと、水で洗い流したあとに確認。うん、ちゃんとヌメリが取れてるね。この工程の間に沸かしておいたお湯でスパインポルポを茹でる。

 スパインポルポ自体は、砂色って感じだったけど、茹でた途端に、市販のタコみたいな赤色に変わった。

 

「おお、タコみてぇ」

「すごいね、スパインポルポも赤くなるんだ……」

「ね、ちょっとびっくり」

 

 "おお、赤くなった!”

 "そもそも、タコってなんで赤くなんの?”

 "細胞に色が何色か入ってて、熱で赤になるんだっけか?”

 "じゃあ、こいつも色変えられんのか?”

 

 確かに。タコには保護色とかあるし、こいつにもあるんだろうか?でも、色が変わってるなんて聞いたことないし……

 リスナーさんたちの会話を見ていた鬼灯が、何とも言えない顔で呟く。

 

「…………身体の色変えられたとしても、表面に棘しかないから無意味じゃね?身体見えねぇじゃん」

「あ……」

「身体の色変えたところで、棘の色は黒だもんね……」

 

 "そうじゃんwww”

 "なんか途端にマヌケな生き物に感じ始めたんだが???”

 "棘タコ自体、八王子ダンジョンでかなり下の方だから…”

 "たまに、砂ウツボに食われてるらしいしな…”

 "ドジっ子みたいに思えてきたわ…”

 

 やっぱり、スパインポルポってちょっとアレな感じのモンスターなのかな……

 茹で上がったので、お湯から取り出し、少しだけ切る。一口大にして、みんなに配る。

 いざ、実食。

 

 




タコが色が変わる理由は今のところ判明してないそうです。説はいくつかあるようですが、仮説の域を出ないとのこと。

世の中、解明されていない不思議なことがいっぱいあってびっくりしますね。
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