【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
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いざ実食。全員で同時にスパインポルポを口に入れる。
「「「いただきます」」」
口に入れた感じはなんていうか、普通のタコだ。次は、噛みしめる。一度、二度と噛みしめるごとに……
「美味しい……!」
「うんま!」
「美味しい!」
すごく美味しい!噛めば噛むほど旨味が出てくる感じだ!タコのような食感だし、味も似ているけど、スパインポルポの方が濃厚だ。飲み込んだあとも、口の中に余韻が残っている感じである。
ちなみに、視界の隅では鬼灯がすでに酒を飲み始めていた。早いよ。
"おおあたーりぃ!”
"やったぜ”
"ホオズキちゃん酒飲むのはえぇw”
ともかく、食べ足りないので追加を切る。いいや、もうこの1本全部きっちゃえ。食べられるでしょ、この美味しさなら!
ぶつ切りにするだけでなく、刺身みたいにスライスもしてみようかな。醤油は常備してるからな……!わさびはないけど、まぁいいでしょ。
1本分を半分ぶつ切り、半分スライスにし、醤油を取り出して皿に注ぐ。箸……はないから、代わりに竹串をみんなに配る。飲み物は水しかないけど、気にならない。存分に味わうぞー!
「いや、美味いなこいつ……日本酒にあうわー……」
「飲むの早すぎでしょ」
「これを食べておいて、飲まないなんて選択肢はねぇんだよなぁ?」
お酒を注いだ盃を傾けながら、鬼灯が嗤う。様になってるな……本当に酒好きの鬼みたいだ。実際、鬼だけど。
「ここがダンジョン内じゃなかったら私も飲みたい……!」
彩音さんまで……お酒ってそんなに美味しいのかな?お父さんとか見てると美味しそうではあるけど……
「飲んじゃえ飲んじゃえ。帰りは全部ユキに任せようぜ」
「いや、流石にそれは……」
「アヤネさんに勧めるのはやめて」
流石にそれは辞めて欲しい。鬼灯と違って、彩音さんは酔わないわけじゃないのだから。一杯だけなら……なんて飲んだ後でイレギュラー発生なんてことだってあり得る。
「ちぇー……アヤネさん、今度地上で飲も?」
「ホント?美味しいところ連れてってね!」
「おん。何飲みたい?」
「えっと、たまにはワインとか!」
「ワインか……肉バルで良ければ、美味い赤ワインがたくさんあるところ知ってるよ」
「ホント!?」
"ホオズキちゃん、そういうのも詳しいんだ…”
"クラン入ってるって言ってたし、それで知ったのかね”
"お酒ガンガン飲める年下の女の子とか、めっちゃ可愛がられてそう”
お酒飲める2人は別の世界に入ってるなぁ……若干蚊帳の外だけど、そういう繋がりも必要だろうなと思う。特に彩音さんは抱え込みがちみたいだし、お酒の力が必要なときもあるだろうしね。叔父さんもそう言ってたし、鬼灯も言っていた。お酒のせいにして、ちょっと言いにくいことも話せるのだと。
とりあえず2人が盛り上がってる隣で、私は本題のアヒージョに取り掛かることにした。もう一本解体して、茹でないと行けないからね。とは言っても、解体するのもそんなに大変じゃないし、茹でるだけなのも楽だ。ヌメリ取りが若干面倒くさいくらいかな。
こいつは、今後も食べようかな。倒し方にさえ気をつければ、こんなに簡単に食べられる美味しいモンスターはなかなかいない。次は、たこ焼きとか作ってみようか……鬼灯は食べられないから、鬼灯がいないタイミングでね。
「あ、ごめんユキちゃん!」
「おん?あ、すまん!」
「気にしないで大丈夫。今からアヒージョも作るから、食べていいよ」
1人で黙々と作業をしていたら、2人に謝られた。別に気にしなくていいのに。美味しいって食べてくれてるんだから、私としては満足である。そもそも、私の冒険に付き合ってもらってるんだし。
「そういう問題じゃねぇんだけど……でも、手伝うことがねぇのも事実か……」
「確かに……邪魔になっちゃいそう……」
「ね?とりあえず食べててよ」
何より、本当に2人に手伝ってもらうことってないんだよね。具材の準備も家でしてきちゃったし、何よりアヒージョってほぼ工程ないんだよね。良くも悪くも、油で煮る。それだけの料理だし。
「……おん。ありがとな」
「ユキちゃん、ありがとうね……」
「どういたしまして」
2人とも、ちょっと納得してないような反応だったけど、とりあえず受け入れてはくれたみたいだ。
今回作るアヒージョは、本当に単純なんだよね。まず、フライパンにオリーブオイルをいれて、そこにニンニクひとかけら、鷹の爪少々、塩をひとつまみ入れて中火で加熱。油がふつふつとしてきたら、スパインポルポと、下処理したマッシュルームとブロッコリーを投入。再びふつふつしてくるまで加熱して、その後弱火にして数分程度煮る。これだけである。
「というわけで、アヒージョ出来たよ」
「え!?はやくない!?」
「はっや……マジ?こんな単純なのこれ」
「お洒落料理って感じだけど、手間自体は少ないよ」
"はっや!?”
"そんなに簡単にできるんだそれ…”
"ちょっと味付けした油で煮るだけだもんよ”
とりあえず、出来上がったアヒージョをテーブルに置く。なんというか、完全にキャンプの様相である。だって、折りたたみ式のテーブルに、レジャーシート、調理用のコンロとキャンプ椅子を持ち込んでいるのだから。むしろ、キャンプでなければ何なのかと言いたくなるレベルだ。
テーブルに置かれたアヒージョを見て、2人の目が輝いた。
「美味そう……」
「美味しそう……」
「んふふ……食べていいよ?」
「「いただきます!」」
2人とも勢いよく口にスパインポルポを放り込んで……熱かったらしく、はふはふしながら飲み物を口に入れた。
「あっついけど美味い!」
「ホントに美味しいよユキちゃん!」
「良かった。私も食べよ……うん。美味しい!」
"完全にキャンプなんだよなぁ”
"※ダンジョン内です”
"キャンプ配信だろこれ”
美味しいなぁ……スパインポルポが本当に美味しい。マッシュルームもブロッコリーも美味しい。スパインポルポから出汁が出ているのか、全体的にタコの味になってるけど、それがいい。
存分に味わっていたら、鬼灯が収納魔法から白ワインを取り出して、きゅぽん!という音ともに開封した。収納魔法がワインセラーになってるんじゃないだろうなこいつ……鬼灯は水が飲めない関係上、ウォーターボトルで水を生成するという手が使えないので、収納魔法に酒を入れることでどうにかしている。
その様子を見ていた彩音さんが、驚きの声を漏らした。
「いやぁ、やっぱ白ワインでしょこれは」
「ホオズキちゃんも収納魔法使えるんだ……」
「おん?そりゃね。君たちと違って命に関わるから必死こいて練習したよ」
「命に関わる……?」
「ボクは水飲めねぇのよ?水分の確保なんて最重要じゃん?」
"そっか、水飲めないから、酒を大量に持ち運べないとヤバいんだ”
"死活問題すぎる…”
"ウォーターボトル使えないもんな…”
白ワインも盃に注いで飲んでるけど、それでいいのか……?でも、ワイングラスなんて割れやすいもの持ち運べないか。
彩音さんが神妙な顔をしながら、鬼灯に質問を投げかける。
「どれくらい習得に時間かかったの?」
「あー……3年くらい?結構キツかった」
苦虫を噛み潰したような顔をしながら、鬼灯が呟く。確かに、あの練習してた時期は結構荒れてたもんなぁ、鬼灯……
「3年……」
「ちなみに、そこの魔法使いは1週間」
「え!?」
"3年かぁ…やっぱ大変だよなぁ……”
"収納魔法ってムズいって聞くもんな”
"ユキちゃん!?”
"魔法に関してバグりすぎでしょwww”
彩音さんが驚愕の叫びをあげて、私の方を向く。視線が嘘であってほしいと訴えている気がする。うん、鬼灯が間違ってるよ。収納魔法の習得でしょ?
「1週間じゃないよ」
「そ、そうだよね、そんな短期間で――」
「3日だよ」
「嘘でしょ!?」
「やっぱり君イカれてるよ……」
"3日!?”
"えぇ……(ドン引き”
"イカれてるよ……”
全員にドン引きされてるけど、こればっかりはなぁ……ユニークスキルの効果からして、【魔法】という分野においては、私は正真正銘の怪物なのである。特に【魔法】を習得するという行為に関しては。むしろ、
「ユニークスキルの効果的に、妥当だと思うよ?」
「あー……そういや、君のユニークスキルそんなんだったな……」
「あ、そっかぁ……確かに……」
"良かった、本人の素の才能じゃなかった……”
"どんなユニークスキルなんだよむしろ……”
"魔法がバグってるのもユニークスキルのせいっぽいと分かってちょっと安心してる”
"アレが素だったら怖すぎるもんな…”
2人には私のユニークスキルについて、魔法だったらなんでも使えるという風に説明しているわけだから、さすがに納得してくれた。あんまり詳細は話したくないけど、これくらいならね。
ちょっと空気がおかしいけど、気にせずにアヒージョを食べる。うむ。美味しい。ただ、半分くらいまで減ったけど、だんだんお腹いっぱいになってきた……
ちょっとお腹が苦しくなってきたとき、鬼灯が私に質問を投げてきた。
「……そういやさ、マッシュルームってどんな感じ?」
「うーん……どちらかといえば香りを楽しむ系かな」
「おん……ブロッコリーは?」
「歯応えよくて、これ自体の味はあんまりしない。こっち側に油がよく絡んで美味しい」
「ほーん……」
鬼灯は、食べられない食べ物について、たまにこういうことを聞いてくる。興味はあるんだけど、食べるのは無理だ。ということで、どんな感じなのかを聞いてくるのである。とはいえ、完全に私の主観の話になるので、ちゃんとした説明になっているのかちょっと不安だ。
「ホオズキちゃん、食べたことないの?」
「腹壊すもん食べないよそりゃあ」
「あ、そっか……」
鬼灯の返答を聞いて、彩音さんが神妙な顔になる。ちょっと気にしすぎだと思うな、彩音さんは。
「アヤネさんは気にしすぎ!ボクは楽しく生きてるからね?」
「う、ごめん……」
まぁ、これは鬼灯の言う通りだと思う。必要以上に気にかけても気まずいだけだからね。
ちょっと気まずくなったのか目を逸らした彩音さんに、鬼灯は盃に白ワインを注ぎ直して差し出した。
「よし、アヤネさんには、罰としてこの白ワインを……」
「ダメだってば」
「ちぇー……」
"隙あらば飲ませようとすんの草”
"まぁ、本人が気にしてないのにこっちが気にすんのもね”
"気にしてなさすぎるけどな……”
こいつ、隙あらば飲ませようとする……!ダメだって言ってるじゃないか!
とりあえず、飲ませるのは阻止したので、再びアヒージョに集中……いや、段々本当に辛くなってきた……
「というか、タコ多くね?腹いっぱいになってきたわ……」
「私もだよ……」
「2人ともキツいなら残りは私が食べるよ。任せて」
彩音さん……!なんて頼もしいんだ……!実際、食べてくれるのはありがたい。美味しいからって2本は調子に乗りすぎちゃったな……
彩音さんが食べてくれているのをみていると、鬼灯が肩を叩いてきた。
「あのさ、ユキ」
「どうしたの?」
「残りの脚、冷凍してくれねぇ?持って帰りたい……」
「分かった」
その気持ちはすごくよく分かるよ。私も持って帰りたい。
「あ、私も!」
「全員2本ずつ持って帰ろうか」
「やった♪」
「やーりぃ♪」
"あの、視聴者プレゼントとかになりませんか……?”
"自分で狩ってこい”
"他のモンスターよりは可能性あるぞ”
"棘取れないだろ!”
"そこは頑張れよ”
残り六本の脚を全部茹でて、《フリーズコフィン》で冷凍する。《フリーズコフィン》は氷系の拘束魔法だけど、食材を凍らせるのに便利なんだよね。そのおかげで、地味に熟練度が上がっている。
2本ずつ一応袋に入れて、全員で分ける。お父さんにも食べさせてあげよう。鬼灯がお酒に合うと言ったからには、お酒に合うはずだから、きっとお父さんも喜ぶだろう。
全員で食べすぎて苦しくなったお腹を擦りながら、八王子ダンジョンを後にした。もうちょっと、食べる量については考えて行動することにしよう……苦しい……
裏設定として、八王子ダンジョンのモンスターは全部美味しいです。主人公が気付くのはまだ先の話ですが。