【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
今話から2話ほど、鬼灯視点でお送りします。
スパインポルポを食べた日から数日後の金曜日の夕方、ボクはクランの守衛のおじさんに、外出申請の紙を差し出した。
「外出申請、お願いしまーす」
「ん?おぉ、鬼灯ちゃん!どっか飲みに行くのかい?」
おじさんは、にっこり笑いながら聞いてくる。ボクは、クランの中では、年上の人たち、特に男性には大体好かれている。飲みニケーションは偉大なり。お酒の力を讃えよ。
外出申請に関しては、点呼対策。帰ってきてない→ダンジョン内にいるかも→捜索隊結成!みたいな流れにならない様にするためのやつ。ちょっと面倒だけど、大事だよね。ちなみに紙なのは、機械でやってたら、雷が直撃してダメになったことがあるからだそうで。そういうときはアナログが強いらしい。
「おん。新しい友達とね♪」
「おおそうかい!楽しんでおいで!」
おうともさ。おじさんににこやかに送り出されて、ボクは彩音さんとの飲み会に向かった。夢希曰く、彩音さんとの待ち合わせは、時間よりちょっと早めに着くようにした方がいいとのことだったので、15分前に着くように出たのだ!ちなみに、夢希は意外と、チャットアプリでスタンプ爆撃とかやってくるようなタイプだった。そんな愉快なやつだっけお前……
で。予定通り15分前に着いたんだけど……金色の髪に水色のインナーカラー、170近い身長に、ジーパンにシャツとジャケットというシンプルな服装ですらかっこよく見えるスタイルの良さ。間違いなく彩音さんだあの人。え、早くね……?もしかして時間間違えて……ないな。
「ごめん彩音さん。待たせちゃった!」
「ううん、大丈夫。私、人持たせるのが苦手で……」
彩音さんが苦笑しながら、頬をかいている。まぁそういう人もいるか。
「ちなみに、いつから?」
「大体15分前くらい」
「おん……早くね?」
流石に待ち合わせ30分前は早すぎない?でも、夢希の言う通り、早めに来て良かったな。具体的に時間を言わなかったのは、多分彩音さんに負担かけないためかねぇ。30分前に来るよって言われたら、ボクは35分前に着くように動いてたよ。なんか……行動読まれてるみたいでムカついて来たな。
「ふふ」
「どったの?」
「いや、前に夢希ちゃんと同じようなやりとりして、同じような反応してたからつい」
そう言ってくすくす笑っている彩音さんは、やたらと絵になった。この人、モデルでもやったらいいんじゃなかろうか……あと、ちょっとだけ身長分けてくれない?無理?
とりあえず合流出来たので、予約した店に向かう。場所は、この前話した肉バルだ。
「そういや、彩音さんってどんなワインが好きなの?」
「実は全然飲んだことなくて」
「おん?」
「お酒に詳しい人がいたら、美味しく飲めるかなって……それに、夢希ちゃん見てると、新しいのに挑戦したくなったっていうか……」
「なるほどねぇ……」
確かに、夢希を見てると、なんか挑戦したくなるんだよなぁ……ただ、こう、一大決心!とかではなく、なんとなーくやってみようかなー?どうしよっかなー?みたいやつに対して、挑戦してみっか!みたいな気持ちになるんだよね。
ただ、そういうことなら、ちょっとばかり好みを聞いて、あとはマスターに任せようかな。ボクは飲む専門なので、そこまで詳しくない。美味しいかどうかの判断はついても、初心者にオススメかどうかまでは分からんのです。
「彩音さんは、どんなお酒が好きなの?もしくは嫌いなの?」
「どっちも聞くんだ?」
「どっちも聞いたほうが答えやすいっしょ?」
「ふふ、そうだねー……甘いのが好きなの。果実酒とか。で、苦いのとか渋いのは苦手」
「おん。何系が好きとかある?」
「柑橘系かな。蜜柑とか柚子とか」
なるほどなるほど……うーん、そもそもワインって結構渋いんだよなぁ……渋くなくて、柑橘系に近いもの……あー、1個しか出てこない。
「おん……うーん……ボクの頭だとサングリアしか思いつかないなぁ……」
「サングリア?」
「果物をスライスして、そこにシロップとか加えて漬け込んだワイン。果物の香りがして美味しいよ。味も大分マイルドになるし」
「へー、美味しそう……」
「あとは店のマスターに任せようと思います!」
「ふふっ、楽しみ」
楽しみにしていておくれ。きっと楽しく飲めるとも。マスターのお陰で!
一応、今回の飲み会の前に、淳平に彩音さんについて聞いたら、抱え込みがちなので愚痴を吐かせてやってくれと言われた。いや、地雷とかないか聞きたかったんだが?え、特に知らない?……こういうとき頼りにならないんだよな淳平は。冒険者としてはあんなに頼りになるのに……やはり下戸なのが悪いのか?お酒の力は偉大なのに……
予約した店は、クランのOBの家族がやっているお店だ。なぜだかしらないけど、『
「こんばんはマスター。予約した
「おういらっしゃい。あそこの角の個室な。そっちは友達か?」
「どうもー。そうだよ!」
うーん、いつ見てもデカい。この店のマスターは、2メートル超えてるムキムキマッチョである。なのに、声はやたらハスキーなので、慣れるまでは毎回笑ってしまっていた。
ちらっと彩音さんを見たら、あいさつとして頭を下げていたけど、口がむにむに動いていたので、笑いをこらえているっぽい。角度的にマスターから見えないけど、ボクからは見えてるよ。だよね、おもろいよね。
「マスター、友達がワイン初心者なので、いくつか見繕ってくれません?」
「ん?おういいぞ。どんなんだ?」
「軽め、甘めで。あと、サングリアも!」
「なるほど。分かった」
「ありがとうございまーす。じゃ、いこうか」
部屋まで辿り着いて中に入ったら、限界だったのか彩音さんが笑い出した。分かるぜその気持ち。あの見た目からのあの声はズルいよな……彩音さんが落ち着いたころに、個室のドアがノックされて、マスターがワイングラスを8つ持って入ってきた。
「この3つでどうだ?こっちはうちの自家製サングリア」
「ありがとうマスター!」
「お通しはもうちょっと待ってくれ。あと、料理はどうする?」
「ワインに合いそうなお肉!たくさん!」
「ははは!分かった、待ってろ!」
「うあー!頭ぐしゃぐしゃすんなー!」
マスターの大きな手で頭をぐしゃぐしゃにされる。ちょくちょくやられるけど、やめてくれ!なんていうか、OBの人たちからは、完全に子供というか孫みたいな扱いを受けている気がするけど、だからって女の子の頭をぐしゃぐしゃにするのはやめるべき。ボクじゃなかったらマジギレされるぞ!
彩音さんはマスターの不意打ちに耐えるのに精一杯らしく、すごい顔をしていた。頑張れ……!
一通りボクの頭を撫で回して満足したのか、マスターが個室から出ていくと、彩音さんが再度笑い出す。よく耐えたよ。存分に笑うがいい。ボクは髪を整えながら待ってるから。
しばらくして、彩音さんがようやく復活した。お酒はお通しが来るまで置いておくことにする。空きっ腹にワインは結構辛いだろうし。彩音さんは。ボクはまったく関係ないけどね。
とりあえず、彩音さんに話を振る。内容は、当然マスターについてだ。にっこり笑って問いかける。
「分かるよ。あのギャップはズルいよな?」
「や、やめて、思い出させ、んふっないで……ふふっ……んふ……」
ふひひ、いいぞー、もっと笑えー!
「ふふ……んん"……なんていうか、大分フランクなマスターさんだったね」
今回は復活まで早かったな。まぁ、確かに大分フランクではあったけど、誰にでもああなわけではない。誰にでもだったら、もうちょい見た目をどうにかしないと怖がられる。2メートル超えのムキムキマッチョだもん。顔も結構いかつめだし。
「クランのOBの店なのよここ」
「あ、そうなんだ」
「ちなみに、奥さんと娘さんと息子さんと一緒にやってる」
「一家経営なんだ……なんか、いいね」
「ねー、いいよねー」
ちょっと羨ましいんだよね。一家経営。ボクも引退したら、両親と一緒に仕事しようかな。その時にボクが五体満足だったらの話だけどね。
そういや、彩音さんの両親って何してんだろ?質問しようかと思ったら、先に彩音さんに質問されてしまった。
「鬼灯ちゃんのご両親って、何やってるの?お母さんは元冒険者なんだよね?」
「おん?酒造会社の社長と職人」
ちなみに、開業資金は冒険者時代の貯金だそうで。もしかして、ボクが仕事に参加するってなったら、下手すると次期社長扱いでめちゃくちゃ大変なんじゃ……?い、いや、今はいいや、とりあえず。
「え!?すごいね」
「なんか、自分で酒造るのが夢だったんだってさ。童部酒造って知らない?」
「童部酒造…………あ!前に賞取ってたところ?」
「そう、あそこ。すごいでしょ」
ふふん。いやぁ、親の会社の業績知られてるって嬉しいね。大概、ボクも親バカならぬ子バカな気がしてきたな……
あと、純粋に目を輝かせて褒めてくれる彩音さんいいな……こう、心にしみる。酒並みに。
「ホントにすごいよ!」
「でもさぁ、その受賞した酒に『鬼灯』ってつけようとしたんだよ?親バカが過ぎるし、ちょっと配慮不足だと思わない?」
「えー、良いじゃん。記念になるし」
彩音さんが、優しい目でボクを見ている。なんていうか、それくらい聞いてあげればいいのに。みたいな感じの目だ。
確かに、分かるよその考え。でもね、記念がどうとか、そんな話ではないのだよ彩音さん。自分の名前が酒の名前になるというのは、想像以上に嫌なことなのだ。
「いやいや、想像してみてよ。彩音さんで例えるなら、酒場にいったら、『彩音は美味いな!』とか、『彩音の味がいい』とか聞こえてくるかもしれないんだよ?嫌じゃない?」
「あぁ……それは嫌かも……」
想像したらしい彩音さんが、眉を潜めて同意してくれた。彩音さんもわかってくれたか……誰にもそんな気はなくても、変にセクハラされてる気分になるんだよな……
「でしょ?だからやめさせたんだけど、そしたら『かがち』だよ?」
「その名前がどうかしたの?」
「『かがち』って、鬼灯の別名なんだよ」
「んふふ……どうしても鬼灯ちゃんの名前使いたかったんだね」
「ホントに親バカなんだよなぁ……」
もうこっちは事後承諾だったからどうしようもないし、まぁ、関係こそあるけど、そこまででもないから許すことにした。にしたってちょっとさぁ……愛されてるのはいいけど、過ぎたるは猶及ばざるが如しって知らないのかね?
「彩音さんのご両親は何してんの?」
「私の両親は、普通の会社員だよ」
「普通の会社員っていうと、スーツ着て会社に行く感じ?」
「そう、スーツ着て会社に行く感じ」
ふーん……身の回りにそういう人いないから、よくわかんないんだよな、その普通。周りにいる人冒険者ばっかだし。あ、クランの事務の人たちみたいな感じなのかな?
「そこから冒険者になったのはなんで?」
「冒険譚を読むのが好きで、それに憧れたから。両親には猛反対されたけどね」
「おん?そうなん?」
「そうだよ。危ないからって」
「……」
「……?鬼灯ちゃん?」
「うんにゃ、よく分からん世界だなーって」
「よく分からない?」
「おん」
「そう、かな……?」
マジでよく分からん世界だ。ボクは、冒険者になるのが当たり前だと思って生きてきたし、特に抵抗もなく冒険者になった。実際なって後悔したこともない。両親にも、特に反対とかはされなかった。多分、夢希もそうだと思う。
一般の人から見ると、冒険者っていうのは、やっぱり遠い存在なんだろうか?というか、子供が夢を追い掛けるのを、なんで反対するんだ?
ボクが黙ってしまったせいで、ちょっと個室の空気が変になってしまった。ちょうどそのタイミングで、マスターの娘さんがお通しを持ってきてくれた。お通しは、肉のデミグラスソース煮込みかな?ボクの方にはタマネギが入っていなくて、彩音さんの方には少し入ってる。こういう配慮してくれるのが嬉しい。他の店だと、お通しは他の人にあげるってなりがちだ。食えないからね。
「……来たね。飲もうか!」
「……うん。飲もう!」
「じゃあ乾杯!」
「乾杯!」
なお、変な空気を払拭しようとした結果、乾杯を力強くやりすぎて、グラスを割った。そりゃもう綺麗にパリンと。
机の上がガラスとワインで大変なことになって、マスターに平謝りすることになったけど、変な空気は完全にどっかにいったから、結果オーライってことで。
冒険者コミュニティの普通と、一般人コミュニティの普通は違うのだ……
追記:なんかちょこちょこ主人公が顔を出していたので修正しました。