【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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今後、年末が忙しいので、時間がズレたり、投稿が不定期になるかもしれません。


配信に興味のない私と童部鬼灯

 

「え、二日酔い?」

『おん。すまん飲ませすぎたわ。さっきまでヤバかったけど、今は寝てる』

「そっか……分かった」

 

 土曜日の朝、鬼灯から電話がかかってきた。内容としては、彩音さんが二日酔いで完全にダウンしてるから、今日は厳しそうとのことだった。昨日鬼灯と飲み会だったし、飲み過ぎちゃったのかな。いや、こいつが飲ませまくった可能性もあるな……

 

『まー、介抱はボクがするんで安心してくれ。慣れてるから』

「慣れてるのもどうかと思うけど」

『あっはっは』

 

 笑い事なのかなぁ……?確かに、鬼灯は信じられないほどお酒強いから、慣れてるのは分からなくもない気がする。お父さんも、強い人ほど介抱する側に回るって言ってたし。

 あと、二日酔いはお父さん見てる限り地獄の苦しみみたいだから、彩音さんはゆっくり休んで欲しい。

 

「そういえば、今どこにいるの?」

『おん?彩音さん家』

「…………は?」

 

 は?え?私もまだ行ったことないんだけど!?こいつに先越されたんだけど!ぐぬぬ……!

 私の嫉妬を知らないまま、鬼灯があっけらかんと続ける。

 

『まー、あんだけ泥酔してたら、寝ゲロが怖かったしなー』

「………?ねげろ……?」

 

 なんだその単語。聞いたことないぞ?ねげろ……寝、ゲロ……かな?吐くのが怖いってどういうこと……?

 

『あー、知らねぇか。えっとな、泥酔してる人が、寝ながら吐いちゃうことを言うんだけど、下手すると死ぬんだよね』

「え!?」

 

 死ぬの!?吐くだけで!?

 

『こう、上向いてゲロ吐いたあとに、気管に詰まると死ぬんだよね。で、普通なら苦しいから起きるんだけど、泥酔してるとそのまま……ってわけ』

「そ、そうなんだ……」

『まー、だから、誰か付いてたほうがいいんだわ』

 

 そりゃ、誰かいないと危ないよね……というか、飲ませすぎでしょそれは。そこまで泥酔させるのはヤバいって。

 

「いくら何でも飲ませ過ぎじゃない?」

『おん。マジで悪いとは思ってる……』

 

 ガチめな反省トーンなので、本当に反省してるみたいだ。にしても、お酒で失敗なんて珍しいんじゃないだろうか?あれだけ飲み慣れてるのに。

 

「お酒で失敗なんて珍しいんじゃない?」

『そうでもないよ。酒の席だからってハメ外し過ぎちゃって怒られるなんてしょっちゅうだし。今回も、ちょっとやらかしたし……』

 

 そうなのか。お酒の席ってよく知らないけど、普段言えないことを言える場らしいから、言い過ぎちゃうこともあるんだろう。

 それにしても……落ち込んでる……いや、怒ってるのか?なんか結構珍しい感じだな。普段はあれだけカラカラ笑ってるのに……

 

「何かあった?」

『はぁ……君にはバレるかぁ……あー……なぁ、夢希。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「……」

 

 鬼灯の弱音らしき何かに耳を澄ませる。本当に、どうしたんだろう?にしても、内容が不穏だ。

 

『いや、その、まぁ……たまにさ、言われんのよ。冒険者歴短いのに、自分たちより前にいるのは、スキルがすごいからだよね。とか、剣術の天才だからだよね。みたいなさ』

「あー……うん。私も言われたことあるよ」

 

 確かに、言われたことあるなぁそれ。私の場合、それは事実だなぁ……としか思わないけど。実際、魔法だったら何でも覚えられます!って、破格すぎるしね。努力してないわけじゃない。でも、少なくともこのスキルじゃなかったら、前にはいなさそうだなとは思う。

 電話の向こうで静かに怒っている鬼灯の声がする。

 

『ボクは、もうめちゃくちゃムカつくわけ。ガキの頃から努力してんだよこっちは!って』

「それはそうだね」

『なのにさ、なんかこう……そういう風に見えてんのかなって……』

 

 いつもの勢いがなくなった。まぁ、ちょっと分かる。頑張ってるのに、天才だからとか才能だからとかで片付けられるのは悔しいし、イライラもするだろう。

 ただ、その……私の場合は普段の行動がですね……

 

「うーん……鬼灯がどう見られてるのかは、ちょっと分からないけど、私の場合はそう見えても仕方ないのかなって思う」

『あ?なんで?』

 

 完全にキレてる声だけど、申し訳ないが私は自分のことを擁護できないんだ……!

 

「だって、やってることが完全に趣味人のそれだし……」

『は?……あー…………』

 

 一気にトーンが落ちたな……いや、擁護できないのは分かってるんだけど、納得されるとそれはそれでちょっとへこむ……

 

「流石に、あれだけ強くなることと関係ないことに全力出してる姿を見られて、スキルのおかげだよねって言われるのは仕方ないかなって……」

『いやでもさぁ……おかしいだろやっぱり。スキルが強かろうが、使いこなせるかは別の話だろ。使いこなせるだけの努力はしてるじゃねぇか』

 

 それはその通り。でも、世の中のユニークスキルは、大抵の物が解析済みなんだよね。私たちや犬束さんみたいな、正体不明のスキルの方が、今は珍しいんだ。

 大抵の人はスキルの使い方を調べれば分かってしまう。そして、調べればすぐに分かることを努力だとは思わない。だから、そこの齟齬に関してはしょうがないところはあると思う。

 それはそれとして、イラッとするのは事実だよ。そこは否定しない。

 

「私は特に気にしないよ。そのへんは。だってしょうがないじゃん?スキルが何なのかは外から分からないんだから。一部を除いて」

 

 それこそ鬼灯とかね。外見に影響がないとわからないし。

  

『ムカつかないの?』

「もちろんイラッとはするよ。でも、それだけ」

『なんで?』

「お母さんに、努力は知ってほしい人にだけ知ってもらって、あとは放置でいいって言われてたから。努力は他人に誇るもんじゃないとも」

 

 多分、お母さんは、お父さんだけに知っていて欲しかったのかもしれない。私は、お母さんが冒険者として努力してるところを見たことがないから。私の先生とか、母親として努力してるところはいっぱい見たことがあるけどね。

 

『おん…………じゃあ、君は誰に知ってもらってんだよ』

「両親、白石さん、叔父さん。あと君」

『おん?ボク?』

 

 なんでそんな困惑してるんだよ鬼灯お前……長い付き合いじゃないか。それこそ、出会ったことは覚えてても、いつだったのかを忘れるくらいには。

 ……おかしいな、白石さんの暴走を鬼灯が止めてくれたことしか思い出せないぞ……?い、いや、今はそれはいい。

 

「当たり前でしょ鬼灯。逆に、君の努力も私はよく知ってるよ。毎朝早起きして刀振ってるのも、寝る前に魔法の練習してるのも、クランの人たちとよく模擬戦してるのも。全部知ってる」

『…………君さぁ……』

 

 鬼灯が、ちょっと笑った気配。本当によく知っている。本人から聞いたわけじゃなくて、周りから聞いたものだってあるけれど、私が見たものじゃないものだってあるけれど。それでも、彼女の努力はよく知っている。

 

『確かに、ボクも君の努力はよく知ってる。毎日、反省ノート書いてることも、朝から晩まで《魔力探知》してることも、なんでかは知らないけど、格闘戦の訓練してることも。全部知ってる』

「……それじゃ、納得いかない?」

『……まぁ、納得は出来ない。ムカつくもんはムカつくし』

「……そっか」

 

 それはしょうがないかな……私には私の、鬼灯には鬼灯の考えがある。参考になればいいなと思ったけど、相容れないならしょうがない。

 そのとき、電話の向こうから、憑き物が落ちたような声がした。

 

『でも……これからは我慢できそう』

「!……そっか」

 

 良かった。なんとか、鬼灯の助けになれたらしい。鬼灯に限らず、私は周りに助けてもらってばかりだから、お返しできてちょっと安心した。

 ……うん?()()()()()()()()()()()

 

「…………その言い方だと、前になんかやらかした?」

『…………淳平ぶん殴ったのと、飲み比べで潰したのと、昨日は、彩音さんにちょっとキツく言い過ぎました……』

 

 ちょっと黙ったあとに、バツが悪そうに鬼灯が呟く。うん。結構な数だね……?

 

「大分やらかしてるじゃん……」

『マジでムカつくんだもん……バカにすんじゃねぇ!ってなっちゃって……』

「にしてもでしょ……というより、彩音さんも?」

『あ、やべっ……えっとそのだな……』

 

 めちゃくちゃ焦ってる声がした。内緒にするつもりだったのかな。悪いことした。隠し事というか、ちょっと言えないことなんてない方がおかしいし。私だって、愛依や凉のちょっとしたことなんかを鬼灯や彩音さんに言ったこともある。

 あ、もしかして私に対してのあれやこれやを……?うーん……あー、でも考えれば考えるほど、なんかそういうことを言いたくなる気持ちも分かるような気がする……

 

「なんか言いたくなる気持ちは分かる気がしてきた……」

『え?なんかやったん?』

「彩音さんは、真面目に5年間冒険者として活動してきたわけでしょ?」

『おん』

「たまたま出会ったモンスター食べてる未成年に、パーティの戦い方以外の全部で追い抜かれている現実見せつけられて、何か思うことがない方がおかしいよなって思ってさ……」

『……あー……』

 

 今思い返せば、ちょくちょくあったのだ。彩音さんが、こう年上として何かしないと……!みたいな行動をしているときが。それに、今は彼女にソロの戦い方を教えているけれど、それだって結構キツかったんじゃないだろうか。実際は違うけど、彩音さんの中では、年下の後輩に抜かされてる先輩の図なわけで……そりゃ、溜まるものもあっただろうな……コミュニケーションをもっと取るべきだったかもしれない。

 

「とりあえず、聞かなかったことにするとして……どうしよう?」

『その点はもう大丈夫だと思うよ』

「ん?」

『昨日、吐き出させるだけ吐き出させたからさ』

 

 鬼灯の声がちょっとだけ震えた。何吐き出したんだ彩音さん……ただ、それは嬉しいことではある。小糸さんからも、抱え込みがちって言われてたし。でもさぁ……

 

「その結果が泥酔からの二日酔いなのは、荒療治過ぎるでしょ……」

『それは……あれよ。必要経費よ』

「酷い経費だよ……」

『あっはっは……』

 

 乾いた笑いが電話から聞こえる。鬼灯も大分無理あるっていうのは分かってるんだな。というか、さっきの話の流れ的に、わざと潰れるまで飲ませた可能性あるな?

 

『多分、酒なりなんなり、言い訳がないと吐き出せないタイプでしょ彩音さんは。たまに誘うわ……ちょっと気まずいけど……』

「それは、自業自得でしょ?頑張って」

『おん。頑張るわ……ありがとな。聞いてくれて』

「どういたしまして」

『夢希も、なんかあったら言えよ?ろくに周りを頼ろうとしねぇんだから』

「え、そうかな……?」

『そうだよ。自覚ねぇの?』

「うーん……分かった。意識しておく。その時はよろしくね」

『おん。じゃ、またな』

「うん。またね」

 

 鬼灯との通話を切った。私って、そんなに周りに頼ってないだろうか……?結構頼る……というか、助けられてばっかりなような……あれ?確かに『助けられて』はいるけど、『助けてもらった』ことはあんまりないかも。周りが私を見て助けてくれてるだけってことか。その前に頼れってことね。意識だけはしておこう……

 

 

 

「にしても、今日どうしよう……?」

 

 ダンジョンに行くのは確定だ。土曜日の1日使える日を休みにするなんてあり得ない。

 本来なら、また渋谷ダンジョンに潜って彩音さんのソロ練習をしつつ、ダンジョンブーブーの鍋を作ろうと思っていた。あいつが美味しく食べられることを知ってほしかったからね。

 こういうときは、メモ帳を見る。思いつくだけ思いついたことが書いてあるから、その中から探せば……あ、これいいかも。それに、彩音さんがいないのがちょうどいい。

 




次回は配信します。
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