【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
第一層のメインルートから外れた小部屋で、配信の準備をする。各ダンジョンのこういった場所は把握済みなので、ここはスムーズだ。
いつもどおり、胸の前にカメラを固定し、スマホで配信を始める。
「……映像よし。音声よし。おはようございます、ユキです」
"おはー”
"おはよう”
"あれ?アヤネさんは?”
"1人?”
本当に、君たち絶対にいるけど、どういう生活してるの……?始めた瞬間から配信見るって難しくないかな。事前に告知してるわけでもないのに……
それと、彩音さんについては質問が来るだろうなとは思った。1人で配信するのも久々だしね。
「今日は1人だよ。アヤネさんは……昨日の飲み会でホオズキが潰したせいで二日酔いだって」
"二日酔いはツライ……”
"Oh……”
"お大事に……”
経験者なんだ君たち……私はお酒が飲めるようになっても、飲みすぎないようにしよう。絶対に。
さて、今日の目的を話そう。今日の目的は、完全に手探りだから、時間もかかるし、リスナーさんたちの知恵も借りたい。
「今日は、スライムに挑戦するよ」
スライム。多分、誰もが想像するあれで間違いない。ぷよぷよした色付きの球体型モンスターである。なんでこいつを食べようと思ったというと、以前凉に、『スライムってゼリーみたいで美味しそうだよねー』なんて言われたからだ。それがメモ帳に残っていた。
今日私が配信をしている浅草ダンジョンは、別名スライムの楽園と呼ばれるスライムオンリーのダンジョンである。地形としては、草が生えそろった草原のような大部屋と、石造りの小部屋、それらを繋いでいる土の道って感じのダンジョンだ。初めて見た時は、本当にダンジョンの中なのか疑ったくらいには、長閑な風景のダンジョンである。ただ、生えている草のせいでスライムが見えにくく、奇襲を受けやすいため、見た目に反して結構危険地帯なのだ。
上層から下層まであり、ブルー、グリーン、イエロー、パープル、レッドの5種類のスライムがいる。ダンジョンボスはブラックスライムだ。レアモンスターとして、ホワイトスライムという、真っ白な餅みたいなスライムがいるそうなのだが、見たことはない。
"食えんの!?”
"スライムを……?”
"マジで言ってる?”
「まず、どうやって食べられる状態にするかを考えないとダメなんだけどね……」
"そっからかー……”
"倒すだけじゃダメなん?”
"あいつらは、倒すと氷が溶けるみたいに消えてく”
"そういう感じなのか”
そう、スライムたちは、それぞれ核があり、それを破壊することで倒すことが出来るのだが、それをやると死体が残らないのである。なんというか、核を中心にして結界のようなもので身体を覆い、その中に液体の肉体がある感じで、核を破壊すると結界が消えて、液体が地面に流れ落ちて消えてしまうのだ。
なので、まずは死体を残す倒し方の研究からしていく必要がある。ふふ、楽しみだ。
「とりあえず、冷凍してみようかなとは思ってるんだけど、他に何か思いつかない?」
"冷凍するのはよさそう”
"単純だけど焼く”
"乾燥させてみるとか?”
"搾るとかどう?”
おお、すぐに知恵が集まる……ありがたい限りだ。リスナーさんたちと話すようになって、純粋に発想が増えたのが嬉しい。でも、あんまり配信者としては活動したくない。というちょっと身勝手な欲望はあるけども。
「ありがとう。片っ端から試すよ。とりあえず……ブルースライムで実験しようかな」
ブルースライムは、上層にいるスライムである。というか、上層にはブルースライムしかいない。普段だと、あまり上層でこういった行為はしないんだけど、ここ浅草ダンジョンは、人気が無い。本当に、全くと言っていいほどない。
というのも、このスライムたち結構強いのだ。油断してると、私レベルの冒険者でさえ上層で死ぬくらいには。凉に教えてもらったゲームで、序盤の雑魚敵扱いされてて本当にびっくりしたよ。何故そんなに強いかというと、スライムというモンスターそのものの特徴が結構えげつない。
まず、核を破壊しない限りは死なないという特異性。核は体内にあるし、身体は結構な弾力性があるので、下手な攻撃だと核まで届かない。
次に、彼らのサイズ。直径にして25〜30センチほど、ちょっと潰れているので、高さは15〜20センチほどである。小さい分、同時に、大量に飛びかかってくると数の暴力で押し切られる。草に隠れやすいサイズなのも強みだ。
最後に、なんでも溶かして捕食するという生態。武器だろうが防具だろうが溶かして捕食するので、核を破壊するのに手間取ると武器が溶けて無くなって、そのまま押し切られて……なんてことになる。
総じて、近接職にとっては地獄のような敵であり、それしかいないダンジョンは、そりゃ人気なんてものはないのである。
まぁ、《魔力探知》で全部探知できる私にとっては大して怖くもないんだけども。攻撃が核まで届かないなんてこともないし。なんなら、《魔力の矢》で爆散させられる。
とりあえず、1匹のブルースライムを見つけて、そのスライムに《フリーズコフィン》をかけて冷凍する。中身が割と液体なので、多分これで凍ると思うんだけど……うん。凍ったね。でも……
「……核が残ってるから、これでも生きてるのかこいつ……」
"まじかよ。生きてるんだ…”
"固まってるから食えそうだけど、そのまま食べるとどうなるん?”
"多分、体内で溶けたあとに内側から食われる”
"ひえっ…”
全身凍らせてるはずなのに、核が壊れてないとか、耐久性がとんでもないな……あと、リスナーさんのその予想は多分正しい。解凍されたらそのまま捕食し始めるだろうね。マジで洒落にならないんだよねこいつら。食欲旺盛だし。
とりあえず、こいつは《魔力の矢》で倒し、次に見つけたやつに《フレイムスロワー》をかけてみる。《フレイムスロワー》は早い話が火炎放射を発生させる魔法である。丸焼きにしたんだけど……火力が高かったのか、核が壊れてそのまま死んでしまった。死体も残らなかった。
仕方ないので、もう一匹見つけて、《グラビティ》で抑えつけ、火力を極低にした《フレイムスロワー》で焼くというか、炙ることで乾燥させてみる。本当は温風とかが良いんだろうけど、流石に今手元にドライヤーはないし、そういう魔法もない。
「焼いてみたけど、これは普通に倒しちゃったね。乾燥は……今やってるけどどうなるかな……」
"普通に死んだもんな”
"案外脆かったね”
"というか、乾燥のさせかたそれであってんのか?www”
"ま、まぁ、ドライヤーみたいなもんだから多分…”
"弱火の火炎放射で炙るのはドライヤーって言わねぇよwww”
しばらく熱し続けていたら、なんというか干からびるようにしなしなになっていき……身体の端の方から粉のようになっていく。最終的に核が壊れて、粉だけが残った。元のブルースライムの色を反映してか、少し青みがかっている。
「お、なんか粉?が残ったね……」
"ちょっと青い粉だな”
"マジで粉だな……”
"薬かなんか?”
とりあえず、舐めてみようかな。指でつついてぺろり。これくらいなら、問題ないだろう。
「ふむ……無味無臭だこれ……」
"味しねぇんかーいw”
"なんの躊躇もなく舐めるなwww”
"いきなり食うなよwww”
完全に無味無臭だ。あと、口の中で変に粘つく。このままだとあれだし……とりあえず、水に溶かしてみるか。ウォーターボトルを取り出して、持ってきたビーカーに注ぐ。
白石さんが誕生日プレゼントとしてくれた実験器具一式を、今日持ってきている。なんだかんだ便利に使わせてもらってるんだけど、貰った当時はいらねぇ……って思ってたんだよね。ごめんよ白石さん。当時の私はまだ6歳だったんだ……
「……粉だし、水に溶かしてみようかな……うわ、なんかドロドロになった!?」
"すげぇ、ドロドロw”
"水飴よりはちょっと緩いくらいか?”
"量調整したらあんかけになりそう”
"嫌だよ青いあんかけwww”
うわっ!すっごいドロッドロ……えー、何これ……水飴混ぜてるみたいだ……
確かに量を調整したら、あんかけになりそうだけど、私もちょっと嫌かな、青いあんかけ。他にどういう特性があるかは分からないけど、今のところは片栗粉みたいなものなのかな、この粉は。
「最後に搾る……搾る?」
"雑巾みたいにこう…”
"多分手が溶けるぞ”
"圧縮するしかないのでは?”
なるほど、圧縮するのはいい案だね。となると……《グラビティ》だと出力不足だし、何より搾ったあとの液体を受け止めるものまで潰れてしまいそうだから……《魔力障壁》を操作して潰すか。《魔力障壁》はそのまま、魔力で壁を作る魔法で、大抵防御に使われる。硬さは込めた魔力依存だ。
ブルースライムを《魔力障壁》で作った檻に閉じ込めて、下に少しだけ穴を開ける。そして、ぎゅっと圧縮する。
「えい」
お、ちゃんと下から液体が溢れてきた。下にビーカーを置いて受け止める。ぎゅーっと圧縮されているブルースライムは、今大体一辺5センチくらいの立方体の中にいる。
"あー!ブルースライムがー!”
"軽い掛け声からの凄惨な光景”
"こ、こんなに小さく……これが人のやることかよぉ!!”
"あ、核が潰れた……”
さらに圧縮を続けると、耐えきれなくなったのか、核が壊れた。とりあえず、これでよし。さて、中身の方は……ふむ……軽くビーカーを振ってみると、ゆっくりと動くから、ちょっと粘性のある液体って感じかな?
ニオイは……特にしないね。指を入れて……あ、これダメだ。触った時点でちょっと溶けてるなこれ。急いで水で洗う。
……よし、大丈夫。まさか酸性の液体になるとは思ってなかったな。危なかった。ニオイもないし、ビーカーに変化がないからって油断した。どのくらいの酸性なんだろうか……うーん……あ、石でも入れてみようかな。ぽとっと。
じゅっ!……
「……うわぁ……」
"じゅっ!(迫真)”
"クソ劇物じゃねぇか!!”
"石が一瞬で溶けるのヤバすぎだろなんだそれ…”
"まぁ、スライムってそういうモンスターだし…”
き、危険物過ぎるよこれ!というか、よくガラス製のビーカー溶けてないな……まぁ、そこは結果オーライってことで……この液体はあまりにも危険なので、すぐに廃棄し、ビーカーを念入りに水洗いした。
ただ、となるとこの粉しか残ってないし、食べられないのかなスライムって……あ!
「核を破壊した瞬間に冷凍してみよう」
"それ、中身と一緒で強酸性なのでは?”
"圧縮されてる時の怒りで酸性の可能性あるし……”
"あんのかそんな可能性…?”
リスナーさんたちの言う通りな可能性はあるが、試してみる価値はある。というか、粉が酸性ではなかったのだからイケる可能性は十分にあるはずだ。
というわけで、再びブルースライムを《グラビティ》で抑えつけ、普段使っている鉄串で核を刺すことで破壊する。破壊すると同時に、一気に引き抜いて、《フリーズコフィン》で冷凍!消えずに固体として残ったね。
"お、消えない”
"ちゃんと残ったね”
"問題は食えるかどうかだが…”
「とりあえず……割るか。そい!」
拳に《魔力障壁》を纏わせて、チョップを入れる。結構、綺麗に粉々になる感じで割れた。なんか割った時の感触がちょっと変な感じだったな。硬いんだけど弾力がある……みたいな。
触った感じは問題ないし、指の熱で溶けた液体に触れても特に問題は起きていない。よし、この小さな欠片を食べてみよう。
「あむ」
"ちょっとは自重してくれませんかねぇ!?”
"躊躇しろや!”
"幼児か???”
「……スゴイなこれ。完全に無味無臭の凍らせたコンニャクって感じ。シャリシャリしてるけど、謎に弾力がある……」
不思議過ぎるなこの食感……でも、食感自体は悪くない。味しないけど。ちょっと食感が違うかき氷みたいな感じかもしれない。いや、わらび餅とかかな……?
"逆にすごいヤツ来たな…”
"マジで意味分からんやつやん”
"完全に無味無臭なのなスライムって…”
「この感じだと、他のスライムも似たような感じかな。となると……よし、1回ダンジョンから出るから、配信切るよ。お昼食べてくるのと、調味料買い揃えて来るね」
"りょーかい”
"もうお昼なのか…”
"理科の実験してるみたいで楽しかったわ”
"おつー”
調味料でひたすら味変するのがいいだろうこれは。とりあえず……かき氷用のシロップと黒蜜辺りは確定としておこうかな。
※この主人公は特殊な訓練を受けています。絶対に真似しないでください。