【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
彩音さんの家を出た私たちは、渋谷ダンジョンに来ていた。いつも通りにメインルートから少し離れた小部屋で配信の準備をする。
彩音さんと確認しあってから、配信開始のボタンを押す。
「……映像よし、音声よし。おはようございます、ユキです」
「おはよー!アヤネでーす!」
"おはー”
"おはよー”
"アヤネさん二日酔い大丈夫?”
本当に君たちなんで毎回いるの……?どういう理屈?いつものリスナーさんたちの行動に疑問符を浮かべていたら、横から彩音さんのジトッとした視線が突き刺さった。
「あはは、大丈夫……ユキちゃん?」
「……欠席理由は話すべきかなって……」
「もう!」
「ごめん……」
流石に話すべきだと思ったんだよ!…………普通に、体調不良とだけ伝えれば良かったのか?そうかもしれない。
ぷりぷり怒っている彩音さんに頭を下げる。次からは改善するので許して欲しい。
"まぁ、恥ずかしいよねw”
"ホオズキちゃんはおらんのね”
"あの子は準レギュラーだから”
鬼灯についての質問も飛ぶけど、あいつは気まぐれだし、そもそも暇なら勝手に来るだろうから、来てないってことはなんかあるんだろう。なんの用事かは知らないけどね。
そんなとき、横から彩音さんの声がした。
「ホオズキちゃんなら、今日はバイトなんだって」
「え、バイト……?」
思わず固まる。え、鬼灯が、バイト……?バイト!?あの鬼灯が!?いや、確か昔に節分の鬼役とかのバイトはやってた気がするけど。でも、恒常的なバイトをやってるとは思えない。その暇があったら刀振ってそうなのに……
「そう。あ、本人いないから内容は秘密ね」
「…………」
なんで彩音さんは知ってるの!?私知らないんだけど!?
"バイトかー……”
"何やってんだろ?”
"酒関係してそう”
"居酒屋の店員とか?”
確かに……クランのOBの店で看板娘でもやってるんだろうか?お酒に詳しいから、その辺は軽くこなしそうだし。それに、用心棒にもなるだろう。
リスナーさんたちの予想を見て、彩音さんがくすくす笑い始めた。
「ふふ、お酒は関係してないよ」
「え!?」
「してないの。聞いた時びっくりしちゃった」
関係してないの!?え……?本当に何やってるんだろう?まったく想像がつかないけど、聞いた時にびっくりするようなバイトなんだよね?うーん……まったくわからん……
深く考え込んでしまった私を見て、彩音さんが軽く背中を叩いた。
「ユキちゃん、今日は何をするの?」
「……今日は、ダンジョンブーブーのリベンジをします。揚げ物の。あと鍋食べる」
"揚げ物リベンジか”
"この前臭いがダメだったもんね”
"鍋かー、美味いんか?”
"確かに。臭いんじゃないの?”
リスナーさんから疑問が上がるが、その辺は心配ないのだ。下処理は必要だけども。そこそこ時間もかかるけども。
「あいつの鍋は美味しい。下処理は必要だけどね」
「なんだってさ。楽しみだなぁ……」
横で彩音さんがにこにこしている。うむうむ。楽しみにしてて欲しい。去年のイレギュラーの時に振る舞って大好評だったからね!
「そういえば、リベンジって具体的にどういう風にするの?」
「これを使う」
私はタッパーを取り出して、彩音さんに見せる。中には黒い液体が入っている。中身は単純なものだ。
「にんにくと生姜をすりおろしたものに、醤油と料理酒を混ぜて味を調えた臭み取り用の下味液」
"…………?”
"あっ……”
"ふーん……?”
「…………」
ふふん。みんなしてびっくりしているみたいだね。にんにくと生姜という臭み取りに於いての鉄板品に、それだけでは漬け込めないので醤油を加えて味を調え、料理酒で少しだけ風味を付けたものだ。これなら、臭みを取りつつ下味も付けられるから、一石二鳥だ。彩音さんが、数度瞬きしたあとに口を開いた。
「……美味しそうだね!」
期待していてくれ。間違いなく美味しいから……!
とりあえず、中層を目指して移動することにした。ホブゴブリンでのソロ練習もしたいし、何より漬け込む時間も欲しい。彩音さんを背後に従えて、威圧でモンスターを追い払いながら進んでいく。
「リスナーさん、アレってさ……」
"唐揚げ……だよなぁ……?”
"唐揚げの下味かな?”
"完全に唐揚げの味になりそうw”
"本人気づいてなさそうwww”
「やっぱりそうだよね……」
「……?どうかしたのアヤネさん」
「なんでもないよー」
ならいいか。よし、行くぞー!
渋谷ダンジョンの中層に着いたので、メインルートから外れた位置のモンスターハウスに入る。モンスターハウスは、大抵15メートル✕15メートルくらいの大きさで、中にはモンスターがぎっしり詰まっている場所だ。大体学校の教室4つ分よりちょっと小さいくらいかな。
本来なら危険極まりない場所なのだが、中にいるモンスターさえ倒してしまえば、扉と天井の落とし穴部分以外は入り口がないので、結構安全な場所なのだ。入り口も《アースウォール》辺りで塞げるし。完全に防ぐのではなく、1メートルほどの塀を作るだけでもほとんどのモンスターは入ってこなくなる。再度補充されるまでは拠点扱いにもされる場所の完成だ。
中のモンスターを殲滅するのが大変というのはあるものの、私からしてしまえば余裕である。ついでに彩音さんのレベリングもしてしまおう。モンスターハウス内にはモンスターが溢れかえっているので、それらを倒すだけでもかなり効率良く稼げる。なので足止めは私がやって、倒すのは彩音さんに任せてしまうことにした。
「えっと、この扉を開けて中に入ったら、片っ端から倒す……でいいんだよね……?」
「うん。私は《ライトニング》でひたすら足止めするから、アヤネさんはひたすらモンスター倒して」
「わ、分かった」
緊張した面持ちで彩音さんが武器を構える。そんなに緊張しなくて平気だよ。余裕だとも。
《ライトニング》は雷属性の魔法で、攻撃力は低いものの麻痺効果が高いという特徴がある。攻撃に使うよりも、麻痺効果狙いの補助魔法って感じの魔法である。発生までに少しだけ時間が必要で、設定した範囲に軽く電流が走ったあと、本命の雷が発生するといった感じの魔法だ。範囲は結構自在に変えられるので使いやすく、私としてもよく使う魔法だ。大量のモンスター相手にするなら、とりあえず《ライトニング》で足止めしてから《魔力の矢》で殲滅するのが安全なのだ。
なお、《ライトニング》の欠点として、雷が地上を走るという特性があるため、空中には当たらないという点がある。飛行型モンスターが大量に来たときは、ソロだったから浮遊魔法でドッグファイトをしていたけど、今はパーティだしあとで彩音さんに定石を聞いておこう。いや、こっちに向かって来るモンスター達の目の前に、通路の横幅サイズの《グラビティ》置けばいいだけか。
「じゃあ、いくよ」
「うん」
私が扉に手をかけて、彩音さんを見る。彩音さんは静かに頷いて、《
扉を開いてモンスターハウスの中へ。《魔力感知》で調べた限り、ホブゴブリンが84体いる。とりあえず、彩音さんが中に入る前に、全域に《ライトニング》をぶっ放す。パリッという特徴的な音とともに小さな電流が走り、それにホブゴブリンが気付いた時には、本命の雷で彼らが麻痺して棒立ちのまま硬直する。あとは、彩音さんが片っ端から切り捨てるだけだ。
「アヤネさん、やっちゃって」
「うん!《スマッシュエッジ》!!」
手前にいたやつから首に目掛けてハルバード一閃。5体も一気に首が飛ぶのは、見てて気持ちいいな……見た目はちょっとグロテスクだけどね。その後もバンバン首が飛んでいく。横薙ぎって結構筋力いるんだけど、全然身体がブレたりしないのスゴイな……
麻痺効果が解ける時間を見計らって、彩音さんに合図を出す。
「アヤネさん、2秒後に使うね」
「分かった!」
「……《ライトニング》」
彩音さんの周囲を避けて、全域へもう一発《ライトニング》を放つ。もうすでに半分近く減ってるから、これで終わるかな。死体の後処理に関しては、気にしなくていい。どうせダンジョンがやってくれるし、今すぐ使うわけじゃないからね。
そんなことを考えていたら、彩音さんが最後の1体の首をはねていた。
「これで、最後!」
「……お疲れ様」
「ふぅー、流石にこの量一気にやるのは疲れるね……」
彩音さんにウォーターボトルを渡す。流石に息が上がっているね。確かにあの量一気にやるのは疲れるだろうなぁ……私の場合は魔法使うだけだから動かないしね。
"おつかれー”
"こんなに安全にモンスターハウスって制圧出来るんだ…”
"《ライトニング》エッグいわぁ……”
"熟練度いくつなんですかね……”
"範囲と麻痺時間がおかしい”
「このあとは、ソロの練習だよね」
「うん。その前に1頭ダンジョンブーブー仕留めて解体したいかな。アヤネさんはその間休憩ってことで」
「ありがとう……」
「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃーい」
彩音さんは部屋の中で少し待機してもらって、その間にさっさとダンジョンブーブーを倒して帰ってくる。行って帰って来るまで3分くらいだ。浮遊魔法様々だよ本当。
「ただいま」
「おかえり……早くない!?」
「そう?」
"はっや!?”
"3分くらいやな”
驚いている彩音さんを横目に、解体を開始。いつも通りにやってしまい、20分ほどで解体を終える。切り分けるのを含めて30分くらいだ。そして、薄めに切った肉を液体に浸しておく。よし、これでオッケーだ。
その後、彩音さんのソロ練習として、ホブゴブリンを倒しに行ったのだが、動きに大分迷いがなくなっていて驚いた。話を聞いたら、鬼灯からアドバイスを貰ったらしい。あいつは慣れてるだろうし、何より近接職だから私よりも適切に教えられそうだな……その後4セットほど群れを倒して時間がいい感じになった。
「今日の練習はここまでにしようか」
「うん。ありがとうね!」
「じゃあ、お昼にしよう」
「あ、そうだね……!」
"あっ……”
"えー、味はどうなるかな……?”
"いけるかな……?”
ん?なんか彩音さんの反応がおかしいような……?モンスターハウスに戻って結界石を使用し、キャンプ用具で拠点を作成した後、いつもみたいに彩音さんにご飯を炊いてもらう。
私はまず油を温めるところからだ。鍋に油を入れて、170度まで温める。温度に関しては、本当は180度がいいんだけど、今回は2度揚げするつもりだからね。最初に170度で火を通す。パン粉を油に入れた時に、半分くらいで沈まなくなるのが170度、完全に沈まなくなるのが180度だ。油を温めている間に、キャベツを千切りにする。
そして、肉をタッパーの中から取り出して、少しの間キッチンペーパーの上に置いておく。水分が多いと揚げるときに邪魔になるから、もったいないけど少しだけ液体を落とす。
目に見えて調味液が落ちなくなったら衣を付けて、油に投入。油が温まるタイミングがバッチリだったので、ちょっとうれしい。2度揚げするために170度の時に投入して、数分揚げて引き揚げる。次に180度の時に再度投入して30秒ほど。よし、完了だ……!
「出来たよ!」
「美味しそう!」
"完璧なトンカツだな”
"見た目は完璧”
"2度揚げまで流れがスムーズ過ぎる…”
"さて、問題は味だな”
うん。前と同じで見た目は完璧だ。見た目は。あとは味。流石に今回のは臭みも取れているだろう……!
お皿にキャベツとトンカツを置き、隣に彩音さんが炊いてくれたご飯をよそったお椀を置く。トンカツ定食の様相である。よし。
「いただきます」
「いただきまーす」
2人でトンカツに齧り付く。揚げたてだから熱いけど、衣はサクサクで美味しい。中身は、臭みはないんだけど……なんだろうこれ……?味が何かに似ているような……?いや、美味しいよ。美味しいんだけど……なんだこれ?
横で彩音さんが半笑いで食べているから、やっぱりなんか違うよねこれ。
「……アヤネさん、何の味だろうこれ」
「……ユキちゃんあのね?」
「うん?」
「これ、何使った調味液だっけ?」
「にんにくと生姜と醤油と料理酒」
「それってさ……唐揚げの下味だよね……?」
「………………………あ」
"やっぱり気づいてなかったんかwww”
"そして、ほぼ唐揚げ味とwww”
"トンカツなのか唐揚げなのかw”
分かってたなら言ってくれればよかったのに!!なんかめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!
あまりの恥ずかしさに、彩音さんをぽこぽこ叩いて不満を表明することにした。彩音さんには笑いながら頭をぐいっと押されて腕が空を切る。成功したのに、なんか失敗した気分だよ!!