【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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感想、誤字報告ありがとうございます。


配信に興味のない私と食べ物の話

 

 魔力切れ寸前の彩音さんを止めたあと、とりあえず野菜の処理をお願いする。テーブルの上にまな板と包丁を置き、野菜を並べていく。私が鍋の野菜類が好きなので、そこそこ多めだ。特に白菜。

 とはいえ、目的としては一旦冷静になってもらって自分の状態を把握してもらうことなので、彩音さんにやってもらうかどうかは別である。魔力切れ寸前だと、手が震えたりして危ないしね。

 テーブルの上にどざどさと置かれる野菜を見て、彩音さんが目を丸くしていた。

 

「わぁ、すごい量のお野菜……」

「鍋に入ってる野菜好きなんだよね」

「ふふ、ちょっとわかるなー、白菜とか美味しいよね」

「うん」

 

 "やっぱ、鍋と言えば白菜よ”

 "いや、豆腐だろ”

 "いーや長ネギだね!”

 "は?シメジだろ”

 

 お鍋の準備をするにあたって、タイマーに使うのでテーブルの上にスマホを置いていた。それをちらりと覗いたら、リスナーさんたちが喧嘩していた。

 鍋の野菜で喧嘩しないで欲しい。いや、わかるけどねその論争。すごくよく分かるけど、それはそれとして喧嘩しないで欲しい。

 

「リスナーさんたちは喧嘩しないで」

「そうだよ、どれも美味しいんだから」

 

 彩音さんもにこやかに呼びかけてくれる。どれも美味しいでいいのだ。どれが好きかはあっても、どれが美味しいかは喧嘩になるからね。味覚なんて個人個人で違うんだから。そういえば、彩音さんが好きな食べ物って何だろう?

 

 "はーい……”

 "怒られちった……”

 "確かに美味いしな!”

 "俺たちが間違ってたよ”

 

 とりあえず和解してくれたようなので一安心。なので、彩音さんに聞いてみよう。

 

「アヤネさんは、好きな食べ物って何?」

「カレー、から揚げ、かつ丼!」

「茶色しかない……!」

 

 とても良い笑顔で彩音さんが言い放つ。見事な茶色1色だ。カツ丼か……ふむ、いつか作ろうかな。

 

「美味しいからね!ユキちゃんは?」

「私はカレーと味噌味のものかな……」

「あはは、ユキちゃんも茶色じゃん!」

「んふふ……そうだね」

 

 確かに、私も茶色1色だな……カレーはなんというか、安定感があるし、作りやすいしで好きって感じ。味も好き。ただ、変に凝り始めると大変なことになりそうなので、カレースパイスには手を出さないようにしている。

 ちょっと彩音さんに親近感を覚えていたら、リスナーさんたちが騒ぎ出す。今度はなんだろう?

 

 "お野菜とりなさい!”

 "お前はおかんか???”

 "野菜は割ととってる気がするけどな……”

 "なんだかんだ野菜持ち込んでるもんね”

 

 野菜ね。ちゃんととってるとも。健康じゃないと冒険者やってられないから。

 カロリーの計算はやってないから、そのうちダメかもしれないけど動いてるから大丈夫!……なはず。多分。

 

「野菜はとるようにしてるよ。健康にもいいからね」

「私もある程度はとってるけど、自信持って言えるほどじゃないかな……」

「カレーにたくさん野菜いれるといいよ」

「あ、それいいね!今度からそうしようかな」

 

 野菜たっぷりカレーは美味しいからね。なんだけど、あんまり人気がないようだから、布教である。彩音さんも好きになってくれると嬉しい。

 一通り話終わったタイミングで、彩音さんが手を握ったり開いたりし始めた。魔力切れの自覚が出てきたみたいだ。

 体調に影響が出てないか、一応声を掛ける。

 

「体調とか大丈夫?」

「うん、大丈夫。魔力切れなんて久々になったから、ちょっとびっくりしただけ」

「したことあるんだ?」

「うん。初めて魔法使えるようになったときにはしゃぎ過ぎちゃって……」

 

 照れくさそうに笑う彩音さんを見て、なんだかさらに親近感が湧いた。私も、新しい魔法が使えるようになると限界に気付かずにやっちゃって魔力切れしてたんだよね。

 手に震えとかはないようで、少し身体がダルいくらいとのことなので、彩音さんに野菜を切ってもらうことにした。

 私は私で肉の下処理だ。とは言っても、茹でて煮汁を捨てて、再度ネギやら生姜やらと一緒に煮るというだけなので、時間はかかるけど、手間はそうでもない。鍋に入れる前に火を通してしまうと少し硬くなっちゃうんだけど、そうしないと臭いんだよね……

 それぞれ作業をしていると、彩音さんが話題を振ってきた。

 

「ユキちゃん、さっき味噌味のものが好きって言ってたけど、具体的にどんなやつ?」

「味噌汁とか、鍋とか……味噌味の汁物っていうのが正確かも?」

 

 なんというか、味噌味の飲み物?みたいなのが好きなんだよね。ただ、ここまで好きになったのは間違いなく味噌に臭み消しの効果が一定量あるからだと思う。モンスター食べる時の定番と化してるんだよね。カレーと味噌が。

 

「味噌カツとかは?」

「好きだよ。でも、やっぱり汁物……というか汁も飲めるもの?」

「えっと……ラーメンとかうどんとかもってこと?」

「うん」

 

 麺類も好きだ。麺というか、スープ部分が好きなんだけども。いや待てよ?味噌汁、鍋、ラーメン、うどん……味噌というか、出汁が好きなのでは……?

 

「……もしかして、出汁が好きなだけ……?」

「出汁"も”じゃない?」

「そうかも?」

 

 彩音さんの言葉にちょっと疑問を抱きつつも同意する。確かに、出汁だけが好きなわけじゃないから、"も”が正しいかも。

 

 "出汁好きなの分かるわー”

 "出汁美味いよな”

 "顆粒出汁入れるだけで大抵の料理が美味くなるからな”

 "顆粒出汁いいよな”

 

 リスナーさんたちも出汁が好きみたいだ。顆粒出汁いいよね。持ち運びもしやすいし。今日の鍋には入れるつもりだ。

 彩音さんに野菜を切ることをお願いしたけど、すごいキレイに均等なサイズで切ってる。焼き鳥の時にも思ったけど、丁寧な人だな……

 

「ユキちゃんは、カレーだと何辛が好き?」

 

 彩音さんの包丁捌きを眺めていたら、彩音さんから再び質問が。カレーかー……

 

「……野菜をたっぷり入れて甘くなった辛口……かな?」

「それは……何になるの……?」

 

 "辛…口…?”

 "多分辛口……?”

 "味的には中辛くらいかもしれん”

 

「分かんない……アヤネさんは?」

「私は中辛が好きなの。甘口だとちょっと物足りなくて、辛口だとちょっと辛いなーって感じで」

 

 なるほど、彩音さんは中辛派と……ん?中辛?

 

「この前のミノタウロスカレー辛口だったけど大丈夫だった?」

「あんまり気にならなかったかなー……とっても美味しかったし」

 

 彩音さんは笑いながら言ってるけど、あんまりってことは、多少気になったってことだろうし、今度から中辛にしよう。辛味が足りなかったら、私のところにだけ足せばいいだけだしね。

 

「今度から中辛にするね」

「いや、大丈夫だからね?ホントに」

「辛さは個人で調整すればいいから、甘い方に合わせたほうがいいよ。美味しく食べて欲しいし」

「……そういうことなら、お願いしようかな」

 

 うんうん。美味しいのが一番だよ。本当にね。あ、嫌いな食べ物とかあるんだろうか?付け合わせとか気をつけないと。

 

「あ、嫌いな食べ物って何?」

「嫌いな食べ物……うーん……辛いものは苦手だけど、嫌いなわけじゃないんだよね」

「そうなの?」

「うん。ほら、辛いから美味しいものってあるじゃない?麻婆豆腐とか」

 

 他にも担々麺とかエビチリとか……といくつか料理を挙げていく彩音さん。

 なるほど……確かに辛味が欲しいなそれは。甘いのもあるし、悪くないけど麻婆豆腐は辛いほうが好きだな私も。

 

 "辛い方が美味いものって確かにあるよな”

 "中華料理に多いイメージだわ”

 "ちょっと違うかもしれんが、汁物に七味も似たようなもんか?”

 "ちょっとの辛味ってアクセントになって美味いんよな”

 

 リスナーさんたちの言う通り、ちょっとの辛味って美味しいよね。

 

「確かに、その辺は辛い方が好きかも」

「でしょ?……ユキちゃんは嫌いなものあるの?」

 

 嫌いなものか……食べ物としては、あんまりないんだけど、強いて言うなら……

 

「……パセリかな」

「パセリ?」

「うん。付け合わせでついてるような房のまんまのが嫌い。口の中の水分が消えるし貼り付くし……」

「ちょっと分かるかも……でも、それは別に食べなくてもいいんじゃない?」

「うん。おかげで助かってる」

 

 彩音さんが歯に何か挟まったみたいな顔をしながら理解を示してくれる。本当になんであんなに貼り付くんだろうねパセリって……

 あとは嫌いなものって言えばあれだな。

 

「あとは、血抜きに失敗した肉かな……」

「美味しくないの?」

「うん……すごく臭いし、それに火の通りが甘いとお腹に来るんだ……」

「そ、そうなんだ……」

「アヤネさんも、モンスター食べる時は気を付けてね。全部豚肉だと思って焼くこと。食中毒で死にかけるから」

 

 "経験者は語るってやつか……”

 "そりゃダンジョン内で食中毒は危険なのよ”

 "そのうち、食中毒耐性とかスキルで出てくるんじゃね?”

 

 本当に死にかけるよ。尊厳が。

 

「う、うん分かった……ユキちゃんは経験あるんだね……」

「何度かね……ダンジョン内でのたうち回ったこともあるよ」

「うわぁ……気を付けるね……」

 

 彩音さんが引きつった顔になる。本当に気をつけて欲しい。

 

「うん……あ、毒耐性とか持ってる?」

「一応、麻痺と睡眠と一通り持ってるよ。熟練度は大したことないけど」

「うーん、となると食べられないものもあるね。食べるものを気を付けないとアヤネさんが大変なことになりそう……」

「……?待って、毒物食べる気だったの!?」

 

 驚いたらしい彩音さんが叫ぶ。

 ……?そりゃもちろん。毒物だろうが、美味しいなら食べるのが日本人というものでしょう?フグもそうだし、梅もそうだし。なんなら、毒耐性のお陰で食べられない食べ物も食べられるんだから、積極的に食べていくべきだと思う。いつか、カエンタケとかイッポンシメジ辺りも食べてみたい。

 美味しいかは食べないと分からないしね。

 

「毒持ってるモンスターって、大体美味しいんだよ?」

「…………えぇ……?」

 

 彩音さんが完全に信じていない目をしている。実際、毒があるのに美味しい食べ物だってあるじゃないか。

 

「ほら、フグだって毒持ってるけど美味しいでしょ?」

「あーうん……なんかちょっと納得したけど……」

 

 "毒取り除いてるだろそれは!”

 "やっぱり、ユキちゃんおかしいよ……”

 "理論はちょっと分かるのが腹立つw”

 

「そのうち、毒耐性がカンストしたら、フグを丸々食べようと思うんだ。唐揚げとかで」

「そ、そうなんだ……」

「アヤネさんも耐性つけて一緒に食べよう?」

 

 じっと彩音さんの目を見る。私の冒険だし、彩音さんが嫌なら食べさせるのはやめるつもりだ。無理矢理食べさせたくないし。

 しばらく目を合わせたあと、彩音さんが目をそらした。ダメかな、やっぱり……

 

「………………そ、そのうちね……?」

「うん!」

 

 一緒に冒険してくれるなんて彩音さんは本当に優しいなぁ……ちょっと顔色が悪いし、冷や汗が出てるけど、魔力切れのせいかな……?ご飯食べて回復してもらおう。それに、彼女の耐性スキルを安全に上げる方法を考えないと。あ、白石さんにスライムの粉持っていってみようかな。

 肉の鍋がアクまみれになったから、そろそろ一度お湯を捨てないと。一旦離れて捨てに行こう。結界の外に鍋を持っていく。アクが残っていると臭いが残るから、洗わないといけないしね。

 

 

 

 

「リ、リスナーさん!助けて!」

 

 "諦めてくれアヤネさん……”

 "肯定したのが間違いだよ……”

 "死なないでくれ……”

 

「見捨てないで!あんなにじっと見つめられながら言われたら、断れないよ!」

 

 "ユキちゃんのことだし、無意識だろうなそれ……”

 "でも、断ってたら無理矢理食べさせないと思うよ”

 "そこはちゃんとしそうだよね”

 "やはり、肯定してしまったせいなのでは……?”

 

「そ、そんな……!」

 

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