【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
あとがきの方にお知らせがございます。
ダンジョンブーブーの肉を軽く洗って結界の中に戻ると、彩音さんが野菜を切り終えていた。切り終えた野菜を入れてあるボウルの中を軽くのぞいてみると、すごく均一に切られていてちょっと感動してしまった。こんなに均一に切れたことないな私……
「ありがとうアヤネさん。すごく綺麗に切れててびっくりした」
「なんか得意なんだよね、均一に切るのって」
「『なんか得意』なんだ……」
「そう、『なんか得意』なの……」
ちょっと困ったような顔をしながら、彩音さんが苦笑する。なんとなく感覚としては分からなくもないような……私もなんでか知らないけど得意なことってあるし。
切ってもらった具材を鍋に投入する。蓋がギリギリ閉まるくらいの野菜たっぷりである。煮込むとだいぶ減るけども。
"『なんか得意』なこと、確かにあるよな…”
"お前らも『なんか得意』なことあんの…?”
"指笛得意だぞ”
"高速拍手かな”
"謎に絶対音感持ってるわ”
"マジかよ…”
"意外と多才だな俺等…”
リスナーさんたちもそういうのあるんだね……今度、愛依達や鬼灯にも聞いてみようかな。
彩音さんが軽くまな板と包丁を洗いながら、話をつづけた。
「ユキちゃんもある?『なんか得意』なこと」
「私は……けん玉かな」
「けん玉……?」
「そう。なんでかは本当にわからないけど」
これに関しては本当に不明である。なんかスキルでも目覚めたかと、わざわざ調べたくらいだし。ちなみに、けん玉に関係するスキルは発見されていない。強いて言うなら、けん玉の形状的に槌系スキルは使えるかもしれないくらいか。
「お皿に乗っけるのとかできるの?」
「できるね。連続でもできる」
「上の棒に刺すのもできる?」
「できるよ。玉のほうを持って本体を刺すのもできる」
「すご……えっと、失敗したりとかは……?」
「するにはするけど、成功する確率のほうが高いかな……」
「…………練習したことは……?」
「いや、まったく」
「えぇ……?」
"そこまでできるんかーいw”
"異能だろもはや”
"マジで意味わからんくて笑う”
質問に答えるたびに少しずつ彩音さんに引かれているけど、本当に『なんか得意』なんだよけん玉……!役に立ったことはないけれど、どこかで役に立ってほしいな……どこで役に立つのかさっぱりだけど。
そんな会話をしつつ、洗った肉を別の鍋に入れる。今度は生姜、長ネギ、にんにくと一緒に煮込む。臭み取りその2である。長ネギはちょっと古くなったやつで、生姜とにんにくは調味液の余りだ。これをやると綺麗に臭みが取れる。参考にしたのは猪だけでなく熊の下処理だ。
いつか熊型のモンスターを食べてみたいが、下処理をどうしたものかと今から悩んでいる。美味しそうなんだけどなぁ……軽く調べてみた限りだと、地上の熊で6時間とかなのでモンスターとなるとさらにかかるのは間違いない。最悪何日も煮込むとかになりそうだし……
「えっと、これも臭み取り?」
「うん。アクを捨てるだけでも大分取れるんだけど、これもやるとほぼ完全になくなる感じ。ちょっと硬くなっちゃうけど」
「何度も火を通すわけだし、確かに硬くなりそう……でも、ここまでやる必要あるの?」
彩音さんが鍋を覗き込みながら不思議そうに呟く。前回の反省で、本当にガチガチにやったほうが美味しくなるだろうって思ったからね。
「この前の塩水で洗うだけじゃ取りきれてなかったけど、これは綺麗になくなるから」
「結構臭み取りで苦戦するんだね、モンスターって」
「大体臭みとの戦いになるね……」
"大抵臭み取りしてるよな”
"してないのは海産系くらいか?”
"虫系もだな”
"虫系は臭み取りの代わりに煮詰めてるから…”
思わず遠い目をしてしまった。正直、臭み取りをしないで食べられるモンスターの方が少なかった。虫系、海産系のモンスターは大丈夫だけど、動物系は大抵必要だし。その辺は地上の生物たちと大差ないよね、モンスターって。
こう考えると、やっぱり豚とか牛とかってすごいよなぁって思う。食べるために品種改良されてるとはいえ、美味しく食べられるもんね。
「初めて食べたモンスターがバロメッツで、次がブレイクレッグ、そのあとがダンジョンブーブーだったんだけど、ブレイクレッグが臭み取りがいらなかったから油断して酷い目に遭ったよね……」
「あぁ……」
彩音さんも遠い目をした。以前の失敗したトンカツを思い返せば、ある程度想像はつくと思うしね。あれは、なかなかない失敗の仕方だったな……食べられるけど激マズっていう。大抵、不味いものって食べられないんだよね……主に毒とかで。
「でも、焼いて食べたんでしょ?そんなにひどくなかったんじゃないの?」
「初めての時は、解体下手くそでボロボロなうえに、血抜きもろくに出来てなくて……」
「あっ……」
何かを察したらしい彩音さんが顔を青ざめさせて口をふさいだ。そうだよ、超不味いうえに血が抜ききれてなかったせいか、食中毒までおこして酷い目にあったよ。ブレイクレッグは良くも悪くも血抜きしやすい形状してるんだよね。頭と両足切って吊るすだけだし。で、初めて大型の四足歩行型だったのがダンジョンブーブーである。事前にバロメッツで練習してるし大丈夫でしょとか思ったのがダメだった。バロメッツは体長1メートルくらいなので、解体も血抜きもしやすかった。
ダンジョンブーブーがほぼただの大きなイノシシなのは事実だが、高さが大体1メートルで、体長が2メートルくらいある。当然、サイズが大きい分血抜きも大変だし、解体に時間がかかる。無理矢理切ったり折ったりしていた筋繊維や骨なんかがまったく切れず折れずと、根本的に難易度が桁違いだったのだ。ちゃんと食べられるように解体できるまで、一か月くらいはかかったはずだ。ナイフも数本折った。
ただ、ここでちゃんと練習したおかげか、他ではあまりそういった失敗はしていない。あとは普通に毒やら内臓やらのせいだ。
"あっ…(察し”
"マジで不味そう…”
"配信開始前の時か…”
"解体下手なの見たことないしな…”
「ダンジョンブーブーで散々練習したし、あとは《解体》スキルのおかげかな」
「そういえば、そのスキルっていつくらいに発現したの?」
「大体一年位前だね」
「配信始める前くらい?」
「うん。ちょうど配信始めるくらいの時」
なんだかんだ、このスキルとはそれなりの付き合いになるなぁ……まだ三年しか冒険者やってないから、なおさらだ。ただ、このスキルはあくまで動作の補助しかしてくれないので、知識は自分で用意しないとダメである。
"そういや、なんで配信始めたんだ…?”
"確かに。完全にやる気ないもんね”
"最初に見た時の驚きはなかなかだったね”
"挨拶すらせずにぶち切るの笑ったんだよなマジで”
リスナーさんたちの疑問を、彩音さんが拾い上げた。
「ユキちゃんってなんで配信始めたの……?」
「……友人たちが無理矢理……生存確認用にって」
「……あぁ……」
なんで納得するの彩音さん……?おかしくない?
"生存確認用か…確かに説明文にもあるな…”
"何故配信で生存確認を…?”
"普通に電話すればいいんじゃ?”
"確かに。スマホあるしな”
うん。私もそう思ってたよ正直。でも、渋谷のイレギュラーの時に思い知ったのだ。ニュースとかで報道されるようなイレギュラーが発生した時に、スマホを触っている余裕なんてものはないのだということを。いや本当に。
「生存確認したくなるのは、イレギュラーが発生したときだけど、そもそもニュースになるほどのイレギュラーが発生したら、スマホ触ってる余裕なんてないから、電話されても対応できないんだよね」
「そうなんだよね……ちょっとしたイレギュラーでも、結構現場は大慌てだしね」
彩音さんも理解を示してくれた。いや、本当にちょっとしたイレギュラーでも、対応に苦慮する時はあるのだ。分かりやすいものだとモンスターの大量発生や階層移動だけど、大抵の場合は巻き込まれた人たちの救助とかもやらないといけない。モンスターを瞬殺したとしても、次に怪我人の治療とかもやらないといけないし、場合によっては地上まで護衛したりなんかもする。なんだかんだやることがたくさんあるのだ。何より私は強いので、周辺警戒並びに安全確保が仕事になる。結果として、地上への連絡なんかは他人任せになりがちだ。
なお、イレギュラーの解決に協力すると、報酬が貰えるので、私としては積極的にやっている。これは未成年とか関係なしに貰えるし。今使っているこの結界石だって、その報酬として貰ったものだ。
"確かに触ってる余裕なさそうだわ…”
"何度か配信中にイレギュラー解決してたけど、結構大変そうだったもんな”
"なんていうか、対人が大変そうだったな…”
"対モンスターは瞬殺だもんな…”
なんだか不穏なリスナーさんたちの発言を見て、彩音さんが残念な人を見る目でこちらを見た。な、なんでそんな目で見てくるのさ!
「ユキちゃん……」
「待ってアヤネさん、おかしいって」
「でも、リスナーさんたちがこう言ってるし……」
「パニックになってる人たち相手にするなら、大変なのは当たり前でしょ!分かるよね!?」
「それは分かるけど、ユキちゃんのせいでパニックになってた人とかもいるんじゃない?」
「そんなことは……」
彩音さんの指摘に反論しようとして、言葉が途切れる。脳裏に浮かぶのは、モンスターが目の前で爆散して血塗れになった人と、その人を見て私から庇おうとしたパーティの人たち……完全に私のせいだなこれ……
「ある、かも……」
「やっぱり……」
「ぜ、全員じゃないし……!」
「全員だったら、もう悪人だよそれ……」
彩音さんの呆れたような表情が突き刺さる。やめてくれ……!いや、本当に全員ではないんだよ。時々そうなっちゃうってだけで……!
"人助けしてるのは良いことなんだけどね…”
"目の前でモンスター爆散して血塗れになってた人とかいたしな…”
"声のかけ方の問題もありそう”
"声のトーンがめっちゃ平坦だからなユキちゃん…”
もう少しだけ助け方を考えようかな……自分が原因でパニックを起こすのは本意じゃないし。でも、結構難しいんだよな……イレギュラーの解決って、目の前で突然起こるから、咄嗟の行動になっちゃうんだよね。結果として大体の場合、モンスターに《魔力の矢》を叩き込むことになるわけで……うぐぐ……
助けてるんだからいいじゃないかって開き直ってもいいかもしれない。でも、それやっちゃうと他のことでも同じように開き直っちゃう癖が出来そうだから、それはやらない。好き放題生きてるからには、なるべく他人に迷惑をかけるべきじゃないと思うし。
まぁ、今後の課題ということで考えておこう。それに肉の下処理が終わったので、鍋を作ってしまうことにする。切り替えは大事。
「……肉の下処理が終わったから、鍋作るよ」
「え!?あ、うん……」
「?」
彩音さんがなんだか微妙な反応をしている。どうしたんだろう?
「いや、切り替えすごいなって……」
「切り替えは大事だよ」
「それはそうだけどね……!」
なんだか言いたげな彩音さんを置いておいて、鍋にとりかかる。
野菜を入れた鍋の中にお肉を投入して、ボウルを取り出す。水を注いで味噌を入れて、みりんと料理酒も加えて混ぜる。味噌が溶け切ったら、鍋に注いで火にかける。ひと煮立ちさせたあとに、すこし煮込んだら完成だ。
「別に開き直ってるわけじゃないんだけど、今すぐどうすればいいのか思いつかないし、だったら目の前のことやったほうがいいでしょ?」
「……とりあえず、笑顔で話しかけるのがいいと思うよ。ユキちゃん、表情硬いから……」
「笑顔、かぁ……」
笑顔、苦手なんだよな……こう、すごくぎこちなくなっちゃう。一時期鏡の前で練習したから、多少マシになったけど、それでもちょっと違和感がある感じなんだよね……
彩音さんは可愛らしい笑顔を浮かべられるし、愛依はもちろん、鬼灯や凉も愛嬌あるし……うぐぐ……
"表情硬いのかユキちゃん…”
"無表情なままで、平坦な声のトーンは普通に怖いな…”
"結構カメラが動いてるから、ボディランゲージはしてるっぽいんだが…”
"リアクションを顔じゃなくて身体で取るタイプか…”
お知らせがあります。
皆さんのおかげで、この小説が書籍化させていただくことになりました!
詳しいことは後ほどになりますが、そちらの作業もあるので、一層不定期になるかと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。