【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「ユキちゃん、自然に笑ってるときは笑顔なんだけど、普段が無表情なんだよね……」
「普段が無表情じゃない人ってむしろどうなの……?」
「いや、なんていうか……本当に『無』表情なんだよ、ユキちゃんは」
「……?」
無表情を超えた無表情ってこと……?いや、自分で言ってて混乱してきた。なんだ無表情を超えた無表情って。
「今もそうなんだけど、表情が変わらないままで首をかしげて疑問を表現してるでしょ?」
「うん?……そうだね……?」
「普通だったら、眉間にしわが寄ったり、唇がとがったりすると思うんだけど、ユキちゃんそれがないからこう……人形めいてるというか……顔に変化がなさすぎるんだよね……」
「……」
「それが悪いってわけじゃないんだよ?個性だと思うし。ただ……初対面だと警戒されちゃうのかなって」
"そこまで無表情なのか…”
"人形みたいなってフィクションでは言われる表現ではあるけど…”
"そのレベルの無表情が突然現れたら、そら怖いよw”
"ガトリングみたいに魔法ばらまきながら来るしなw”
なるほど……確かに、愛依も凉も、初対面の時笑顔だったな……白石さんもたしか笑顔だった。鬼灯はちょっと覚えてないし、彩音さんはそういう感じじゃなかったけど、二回目にあったときは笑顔だった。
ふむ。これは本格的に笑顔を練習したほうがいいかもしれないな。私としても、笑顔で面倒が減るなら大歓迎である。ちなみに、私の笑顔は愛依には酷評されたが、なぜか凉には好評だった。あれはなんでなんだろうな……
と、ここで一つ疑問が浮かんだ。
「……ねぇ、そんなに表情が変わらないのに、なんで私の考えてることがある程度わかるの……?」
「それはねー……表情は変わらないのに、目だけすごく泳ぐからだよ」
「そうなの!?」
「そうなの。何か考えてるときは特にね」
彩音さんにクスクス笑われてしまった。そ、そうだったのか……でも、対策はしなくていいかな。わかってもらえるなら、そのほうがコミュニケーションしやすい気がするし。いいや、隠し事がすぐバレるのはマズイから、対策は必要だ……!後で何か考えよう。
こんな会話をしていたら、鍋がいい感じになったので食べることにした。匂いから判断する限りは、結構いい感じだと思う。
にしても懐かしいな……最後に食べたのは、渋谷、ダンジョンのイレギュラー、その3日目の夕飯だった。食材がなかったもんだから、鍋というよりも具が肉だけの味噌汁みたいな状態になってしまったけど、それでも美味しかった。
「……アヤネさん、出来たよ」
「お、やったー!」
"お、完成か”
"見た感じ普通の味噌鍋やね”
"大体の見た目は、普通定期”
さっさとお碗によそって彩音さんに渡す。はやく食べたい。
「いただきます」
「いただきまーす」
まずは白菜から。うむ。次にしいたけ。うむうむ。うーん……なんかちょっと物足りないというか……多分、臭み取りをガッツリやった結果、肉の脂を落としすぎちゃったみたいだ。なんかコクが足りない。くそう……
ただ、それを除いてもそんなに美味しくないな……おかしいぞ。あの時は、あんなに美味しかったのに……
「ユキちゃん、どうしたの?」
「アヤネさんこれ美味しい……?」
「うん。美味しいよ?ちょっとお肉硬いけど、ちゃんと味噌味のお鍋って感じで……」
「そっかー……」
そっか、美味しいのか……いや、多分贅沢言ってる気がするんだけど、でもこれより美味しかったんだよね、あの時のは。
「ユキちゃん?」
「…………申し訳ないんだけど、前食べた時ほど美味しく感じない……」
「そうなの?あ、臭み取りでお肉硬くなっちゃったから?」
「いや、そういう感じじゃなく、本当になんか……こう……うん……」
「お野菜入れたから、とか?」
「うーん……」
そういう感じじゃないんだよな……というか、むしろこっちの方が美味しいような気もするくらいだし……何でだろう?
"思い出補正とか?”
"場面補正とかもありそう”
"キャンプ補正的なやつ?”
"そんな感じ”
思い出、場面……あー……確かに、あの時は食材なくてひたすら焼いた肉か魚だったし、碌な調味料も無かったからかもしれない。久々に、ちゃんとしたご飯食べたって感じだったもんあの時。
その反省という訳じゃないけど、今は料理のさしすせそは全部持ってきてる。あとチューブ系のやつ。何かと使いやすいし。
「そういえば、前にこれいつ食べたの?」
「渋谷のイレギュラーの時だね」
「そういえば、巻き込まれたって言ってたもんね……」
彩音さんがしんみりした感じになってしまった。
世間的には大事だったのは間違いないんだけど、私からすると、本当に大したこと無かったんだよね……
"アレ巻き込まれてたんか!?”
"大丈夫…だったから今配信やってんだわな…”
"大事だったけど、マジで大丈夫だったん?”
リスナーさんたちも心配してくれてるし。なんというか、結構温度差感じるな……ただ、私の認識としては……
「まぁ、中層に閉じ込められてただけだし、大したことなかったよ」
「5日もダンジョンに閉じ込められるのは、"だけ”って言わないから!」
「下層や深層に潜ってたパーティと合流したら、私と同レベルかそれよりも上の人たち5人もいたんだよ?"だけ”でしょ」
「…………そ、れは安全確保出来てそうだけど……!」
"過剰戦力で草”
"虐殺でしょもはやw”
"ひっでぇことになってそうw”
いや、本当に心配されるようなことは何もなかったのだ。というか、彩音さんもリスナーさんたちも理解してくれたようだけど、過剰戦力なんてもんじゃなかったのである。そもそも、中層に籠城するなら、戦力的には私1人でも出来る。それが5人もいた上に、そもそも彼らはクランのレベリングに来ていたから、今の彩音さんくらいの人があと10人はいた。
他の人たちもいれると、渋谷ダンジョンの踏破すら出来るほどの大戦力だったのである。
「……あの時って、死者も出てた大惨事だったけど、大丈夫だったの?」
彩音さんが心配そうに私を覗き込んで来るけど、本当に気にするようなことは何もなかったんだけどね。
死者に関しても、
「あの死者は最初の崩落に巻き込まれた人たちだけで、閉じ込められてた側は誰も死んでないよ」
「そうなの……?」
「うん。怪我人はいたけどね」
「そっか……」
彩音さんの顔がちょっと戻った。
うーん……この辺は多分慣れというか、環境の差なのかな。誰かが死ぬことに対する慣れというか。私の場合、お母さんが死んでいるけれど、そういうことじゃなくて、ダンジョン内で死体を見た事があるかどうかな気がするな……私は何度も見ているし、イレギュラーに対処しないといけないとかじゃないなら、必ず持ち帰るようにしている。入り口でギルドの人に渡すだけだけど、しないよりはきっといい。
私はお父さんが持って帰ってきてくれたから良かったけど、空の棺にお花を詰めるなんて、想像するだけで辛い。
"そうなのか…”
"あれって、爆発→崩落の流れだったっけ?”
"確かそう”
"爆発って、あれなんでなん?”
あれ?原因に関しては究明されてないんだっけ……?いや、多分、崩落とかその他諸々のせいで確実な原因が分かんなくなっちゃったんだろうな。ダンジョンである以上、時間が経てばなくなっちゃうし尚更だ。
爆発したのは分かるんだけど、それが火薬なのか魔法なのか、はたまた別のものなのか。特定までいけなかったんだろうね。とはいえ、あの日のネットニュースを見た限り、原因は魔導鉱晶だろうな。
「多分、魔導鉱晶に魔法が当たったんだろうね」
「魔導鉱晶って、杖の先についてるやつ?」
「うん。これ」
彩音さんの疑問に、自分の杖の先端に付いている翡翠色の丸い宝石のようなものを見せる。これは魔導鉱晶を加工して作られたもので、魔法の増幅や使用の補助をしてくれる。
ないと魔法が使えないなんてことはないけど、指向性を定めたりするのはこれがある方が便利だ。手から発動すると、威力が分散しやすいんだよね。
逆に弱めに発動したいときや、広範囲にちょっとした魔法を使うときなんかは手からの方が良かったりする。《ガイアウォール》で竈を作るとか、《ファイアボール》で火を着けるとか。
"それってあぶねぇの?”
"魔法使いの杖に付いてるやつだよね?”
"爆発するようなもんつけてんの…?”
「……もしかして、それって危ないものなの?」
彩音さんもリスナーさんも知らないみたいだね。私も白石さんに教えてもらってなかったら知らなかったよ。
「加工前の魔導鉱晶は、増幅する時の指向性が定まってないから魔法が当たると危険なんだ」
「えっと……色んなところに魔法が飛んでくってイメージでいい?」
「それもあるんだけど、たまに指向性が内部に向かってる時があるんだよ。それに魔法が当たると、魔法が内部で増幅しながら乱反射して、許容量超えた瞬間に爆発するんだ。鉱晶が大きければ大きいほど許容量が増えるから、爆発の威力も上がる」
「あぁ、それで……」
「あの日のネットニュースを見た時、大きな鉱晶が見つかったってあったから、多分それかなって」
魔導鉱晶は、ダンジョン内部の
ダンジョン内でしか採れない物なのだが、結構見つかるのでレベルが低い人たちの大事な収入源である。基本的に下に行くほど大きな物が見つかりやすいのだが、たまに上層でも大きな物が見つかって、それが色々と問題になったりする。取り合いとかね。多分、あの時もそうだったんだろう。
というか、話がズレすぎだ。もとに戻さないと……あれ?何の話してたんだっけ……?
「話が大分ズレちゃった。えっと……なんの話だっけ?」
「…………なんだっけ?」
彩音さんと2人で首をかしげあってしまった。いや、本当に何の話してたっけ……?
"鍋の話やで”
"鍋いつ食ったかの話”
"お前らよく覚えてたな…”
本当だよ。よく覚えてるなリスナーさん……そうだった。鍋の話だ。確か……3日目だったかな。
「その時の……えっと、3日目?に食べたのは美味しかったんだよね。本当に」
「それは流石に補正かかってると思うな……」
「そっかー……」
まぁ、それはそうか……あの時本当に食べるものなかったから、久々の料理って感じだったしね。
"というか、5日間何食ってたの?”
"そりゃモンスターでしょ”
"閉じ込められてたの40人とかじゃなかった?”
「Mr.クマかダンジョンブーブーだったね。だから、私は5日間ひたすらモンスターの解体をやってたよ」
「……5日間ひたすら?」
「うん。そして、《解体》スキルが発現した」
「あ、なるほどそれで」
彩音さんが手をぽんと合わせた。その気持ちは分かるよ。私も、確認した時ちょっと笑っちゃったし。
"なるほどな…”
"すげぇ納得したわ”
"どんだけ解体してたんだ…”
実際、あの時は食料確保が問題だったんだけど、食べられるモンスターがたくさんいて助かったよね。確保しやすい上に食べやすいやつが。Mr.クマはちょっと生息域が限られるから、数がそこまででもなかったけど、ダンジョンブーブーはどんどん狩れるからね。
その後、鍋を食べきって後片付けをして、渋谷ダンジョンを後にした。彩音さんに付き合ってもらってるのに、美味しくないのはちょっとアレだな。失敗も冒険とはいえ、それでも気になるものは気になるし……今回でも作ったし、また調味液作って、ブレイクレッグの唐揚げに挑戦しようかな。醤油ベースと塩ベースで2種類作って……
出口に向かいながらそんなことを考えていたら、彩音さんからこんなことを言われた。
「夢希ちゃん、明日……というか、月曜日をお休みにしてもいいかな?」
「………………え?」
な、なんかやっちゃったかな私!?やっぱり連続失敗は良くなかった!?
どうにか週一投稿にしたいところ……