【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と休(めない)日(1)

 

 突然の彩音さんの発言に私は大慌てしていたけれど、彩音さんは至って自然体だった。何故なら、彩音さんの休みが欲しい発言の真意は、割と当たり前の話だったからだ。

 

「いや、そもそも毎日ダンジョン潜るのはおかしいから。ちゃんと休みは取らないと」

「うーん……」

 

 前も言ったけど、ダンジョン内で休んでるし、あんまりその発言に納得出来ないんだよね……冒険者として活動し始めた直後とかなら分からなくもないんだけども。あの時は動き回ってたし。

 

「そもそも、普通の冒険者って週2、3回しか潜らないからね?」

「…………え?」

 

 彩音さんの発言に固まる。え、そうなの……?噓でしょ、もったいない……!

 呆然と彩音さんを見ていたら、彩音さんが大分変な顔になった。

 

「……夢希ちゃんのご両親も冒険者なんでしょ?だったら聞いてないの?」

「基本毎日潜ってたって。休みはお母さんがあの日だったときくらいだって言ってた」

「えぇ……嘘でしょ……」

 

 そう聞いていたから、ほぼ同じスケジュールで冒険してたんだけどな……彩音さん、ドン引きである。なんていうか、私の家族についておかしいとか、ズレてるとは思っていたし、自覚もあったけど……これ私が思っている以上に深刻にズレているのでは……?

 

「…………最近思うんだけど、もしかして私の家族って大分おかしい……?」

「その、うん……えーと……大分、おかしい……かな」

「……そっかー……」

 

 言葉を選ぼうとしたけど何も思いつかなかったらしい彩音さんが、視線をそらしながら肯定した。そっかー……そうかぁ……

 私と世間とのギャップの原因が私の家族というか、白石さんたち含めた周囲の環境のせいであるというのを強く感じつつ、遠い目をしていたら、彩音さんが話題を転換した。

 

「そ、それと、装備の手入れもあるから、週一は絶対に休みが欲しいよ!自分でするのも限界あるし……」

「装備の手入れ……そっか、彩音さんは必要だよね」

「いや、夢希ちゃんだって必要が……あれ、もしかしてない?」

 

 鎧もハルバードも、汚れ落としたりある程度研いだりは出来るだろうけど、それ以上となると専門の人にお願いする形になるよね。ソロの練習でたくさん使ってるし、あと地味に《地砕き》で地面に叩き付けてるから、消耗も凄そうだし。

 ちなみに、私の場合はほぼ必要がない。だって、魔法で吹き飛ばして終わりだから。杖で殴る時はあるけど、その時は《魔力障壁》で杖を覆ってるから、杖自体は傷つかない。服に関してもほぼダメージ受けてないから必要ないしね。

 強いて言うなら、解体用のナイフくらいだろうか?あとは……うん。調理器具ばっかりだな。

 

「うん。基本的にないかな」

「魔法職ちょっと羨ましいかも……!」

 

 彩音さんから、なんだか嬉しくない称賛?を貰った。気持ちは分かるよ。実際、魔法職は結構経費が少なくすむ傾向にある。なので、パーティとかだと魔法職の方が消耗品の経費を出すみたいな感じで分担するらしい。ただ、杖というか魔導鉱晶が高いので、買う時は覚悟がいる。普通の武器と一桁違ったりするからね……私が成人したときは改めてその辺を話し合わないとね。

 私の杖は、14歳の時の両親からの誕生日プレゼントだ。お母さんはもう死んでしまっているけれど、2人で誕生日プレゼントに贈ろうと話していたそうだ。私が冒険者になるのは確定してたしね。

 ただ、今の私にちょうどいいくらいの性能なので、14歳当時の私からすればオーバースペックにも程があったけども。親バカが過ぎるよ本当に。

 

「夢希ちゃんは土日は1日潜りたいだろうし、そうなると月曜日が休みな方がいいかなって」

「うん。分かった」

「……あれ、思いの外あっさり……」

「…………思いっきり駄々こねたほうがよかった?今からでもこねようか?」

「ううん大丈夫!ありがとね!」

 

 意外そうにしていた彩音さんにちょっと不満を表明しておく。

 失礼しちゃうよ本当に。私をなんだと思ってるんだ。

 

「うーん……とはいえ、明日何しようかな……」

「いや、休んでね?明日はダンジョン行くの禁止!」

「…………はい」

「油断も隙もない……!」

 

 何でバレたんだろう……おかしいな……

 彩音さんは私をジトッとした目で睨みつけてくる。

 

「この前大鍋が凹んだって言ってなかった?」

「あ、そうだった。直さないと」

「ナイフの斬れ味も良くないって言ってたよね?」

「うん。言ったね」

「スライムの粉?だかなんだかを白石さんに渡したいって言ってたよね?」

「……言ったね……」

「……調理器具も追加したいって言ってたよね?買えないから作らないといけないって。確か、ミキサー……みたいなやつ」

「…………ミンサーね、ミンサー。ひき肉作るやつ」

「ダンジョン外でやることたくさんあるよね……?」

「…………あったね……」

 

 とんでもない量のダンジョン外でやることが彩音さんから出てきてびっくりした。全然覚えてなかったよ。というか、やろうと思ってるんだけど、それよりもダンジョンに潜りたいから優先順位が低いんだよね。

 彩音さんとはその話をして別れた。家に帰る道すがら、しばらく考えてみたんだけど、言われたことのほぼ全部は白石さんのところに行けば解決するよなっていう結論になった。

 なので、早速電話をかける。ほぼ身内だからこんなに雑に連絡してしまっているけれど、本当ならこんなことをしていい人ではない。白石さん本人は、割と自由に生きている感じがするけど、魔女の大鍋(コルドロン)の職人というだけでどれだけ忙しいか分からないし。

 電話をかけて、10コールくらいで白石さんが出た。白石さんは大抵何かしらやっているので、即応してくるほうが珍しいし、折り返しにならなかったのが意外なくらいだ。

 

『もしもし夢希?何かあったかい?』

「こんばんは白石さん。あの、明日って予定空いてる?空いてるならちょっと話がしたいんだけど……」

『問題ないよ。最近は実験続きで、仕事自体はあまりしていないからね』

 

 いや、それは社会人……というか、クランの人としてどうなんだ……?少なくとも、クランに入っている以上仕事はあるだろうに……

 

「それは、どうなの……?」

『ははっ。何気にすることじゃないさ。金ならたんとある』

 

 白石さんが私の疑問を笑い飛ばしてしまう。いや、笑い飛ばしていいのそれ。というか、お金があるとかの問題じゃないでしょ。

 

「いや、そういう問題じゃなくない……?」

『仕事なんてものは金稼ぎの手段でしかない。そして、金も手段。使いたい時使えるように貯めているだけに過ぎないし、そのために働いているに過ぎないよ』

「それでクランから何か言われないの……?」

『言われると思うかい?魔女の大鍋(コルドロン)だよ?』

「……そっかー……」

 

 思わず遠い目をしてしまう。その言い分ズルくない?全部謎の説得力が出るじゃん。魔女の大鍋(コルドロン)だからって。いや、まぁ納得しちゃったけども。

 ちょっと現実逃避をしていたら、白石さんが話を進めてくれる。

 

『明日は……月曜日だから、夕方かな?』

「うん」

『軽く内容だけ聞いておこうかな。どういった用事になるんだい?』

「えっとね、錬金用の釜が凹んじゃったから、その修復をお願いしたいのと、作りたいものがあるから設計とか諸々手伝って欲しい」

 

 錬金用の釜は自分で《錬金》を使っても直せない。何でかと言うと、まったく構造が分かんないからである。材質とかも全然分かんないんだよねこれ。白石さん特製だし、設計図とかも知らない。《錬金》は色んな事ができるけれど、どこまで行っても加工スキルなので、元が分からないとうまくいかない。下手に弄って壊したくないし。

 ただ、『基本的に何があっても壊れない強度で作った』と言われただけあって、今の今までまったく傷がついていないほどの強度をしている。目立つものといえば、煤でちょっと汚れてるくらいである。

 

『む?あれが凹むとは中々なことをやったね……強度を見直すか……?ああ、夢希が作りたいものは大体面白いからね。いくらでも手伝うとも。何が作りたいんだい?』

「ミンサーを作りたくて」

『ミンサー?ひき肉用のアレかい?』

「うん。ハンバーグとか、ソーセージとか……色々使いたいなって」

『なるほど、モンスターの肉は基本的に硬いからね。専用に作らないと耐久性が足りないか。ちょっと資料を用意しておこう。ふふ、楽しみだ』

 

 電話の向こうから楽し気な白石さんの声が聞こえてくる。楽しみにしてくれているみたいで何よりだ。調理器具ってわざわざ自作しないから、白石さんは大抵ノリノリでやってくれる。

 

「あと、渡したいものがあるんだ」

『なんだい!?気になるじゃないか!』

 

 電話の向こうから若干音割れしてるくらいの白石さんの叫びが響いた。

 声うるっさ!テンション上がりすぎでしょ……思わず耳からスマホ放しちゃったよ。

 

「……教えたら今すぐ家に突撃してきそうだから教えない」

『その発言ですでに突撃したい気持ちに駆られているが……そうか。なら明日を楽しみにしているよ』

「うん。じゃあ、また明日ね」

『あぁ、また明日。おやすみ、夢希』

「お休みなさい」

 

 電話を切って寝る……前に髪の手入れしないと。一日してないだけで愛依が即見抜いてくるから、絶対にやらないとまずい。それに、なんだかよくわからないけど、みんなからも好評?だし。ほめられるから続いてるところあるなぁ。

 

 

 

 翌日の放課後。魔女の大鍋(コルドロン)についた私はエントランスで受付をしている小川さんに声をかけに行く。小川さんは少し長い黒髪をきっちりそろえて、レディーススーツを着こなしているのでお堅い感じがするのだが、中身は気さくなおばちゃんって感じの人である。私がここに来るようになってからの付き合いなので、姪っ子かなにかだと思われている節がある。誕生日とか毎年祝ってくれるし。お返しはスイーツを返している。

 そういえば、私が知っている限り、常にこの人が受付に座ってるんだけど、いつ休んでるんだろうか……タイミングがいいだけかな?

 

「こんにちは」

「あら、夢希ちゃん!元気してた?」

 

 挨拶をすると、まぶしい笑顔が返ってくる。年齢的にはお父さんと同年代か少し上くらいだと思うんだけど、全然そんな感じしないのはなんでなんだろう?若く見えるとかそういうレベルではなく、初めて見た時から見た目が変わってない気がするんだよね。気のせいだとは思うんだけど……気のせいだよね?流石に十年以上見た目変わらないなんてことないよね……?

 変なことを考えていたせいで返事がちょっと遅れてしまった。

 

「……はい、おかげさまで」

「ならよかった。今日はどうしたの?」

「白石さんに用事がありまして」

「相変わらず仲がいいわねぇ。あの子なら部屋にいるはずよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 ここでいう部屋というのは、作業部屋というか仕事部屋のことなんだけど、あそこに住んでるからね白石さん。魔女の大鍋(コルドロン)では、一応ちゃんと寮みたいなものがあるんだけど、大部分の人は作業部屋に住んでいる。

 缶詰になることがあるからって、ユニットバスやら仮眠室とは名ばかりのちゃんとした寝室を用意してあるから、普通に居心地いいのだ。ここにいる人たちがそんな環境を用意されて、わざわざ寮まで帰るわけがないだろうに。と言いたいが、そもそも作った人が魔女の大鍋(コルドロン)の人たちなんだから、もうしょうがないのだ。彼らにとって、作業するのに理想的な環境にしようぜ!って作ってしまった以上、そこから出なくなるのは当然というか。

 結果、寮の部屋は住所を書くのが必要な時にしか使わないとかいう謎の状態である。物置にすらされていない。白石さん曰く、自分の部屋には水道も電気も通ってないし、家具も何もない。らしい。もう引き払ったらいいんじゃないかなその部屋。本人宛の荷物なり郵便は、魔女の大鍋(コルドロン)宛てに送らないと、何か月も本人に届かないとかザラなんだけど、それで本当にいいんだろうか……改善されてないってことは、いいんだろうな多分。

 いや、本当はよくないけど、うるせーしらねーの精神なだけかもしれないな……そんな気がしてきた。

 

「あ、そうだ、パーティ組んだって聞いたけど、相手はどんな子なの?」

「それは……」

「この前来た金髪の子?スタイルよくてかっこよかったわ~」

「あ、はい」

「もし男の子だったら夢希ちゃんに春が来たのかなって思ってたのよ~!」

「いやあの……」

「あ!実は、ああいう子が好みだったりするのかしら?おばさん、応援しちゃうわ!」

 

 ああ、小川さんの悪い癖が!マシンガントークが!私じゃ止められないんだよこれ。誰か助けて!

 何故か私が彩音さんと恋人になろうとしている前提で話し続ける小川さんを前に、私の願いが通じたのか、エントランス横から男性に声をかけられた。

 

「お、夢希じゃないか、久しぶりだなぁ!」

「誠一叔父さん、久しぶり」

 

 赤褐色のちょっとぼさついた短髪に、数日剃っていないらしい無精ひげ。誠一叔父さんだ。お父さんの兄にあたる人で、ここで魔法の研究をしている。

 叔父さんはそのままこっちにきて、意図的に小川さんを無視して会話をしてくれる。ちょっとあれだけど、こうでもしないと叔父さんまで巻き込んでマシンガントークが続くからね、小川さんは……ここの人たちは癖がありすぎるよ……

 

「なんだ、俺に会いに来たのか?」

「違うよ」

「おい、そこは嘘でもそうですっていうところだぞ!」

「えぇ……あ!ちょやめ……」

「可愛げのないやつはこうしてやる!」

 

 素直に答えたら、髪をぐしゃぐしゃにかき回される。普通にやめてほしい。なので、両手をつかんで引きはがす。叔父さんとはレベル差があるから余裕である。

 とりあえず止まったものの、このままエントランスに居続けると小川さんが再度マシンガントークを始める可能性があるので、別れの挨拶だけして退散させてもらう。いや、本当に助かった。ありがとう叔父さん……それはそれとして髪をぐしゃぐしゃにしたのはきっちりと〆させてもらうけども。

 

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