【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と休(めない)日(4)

 

「犬束さん……!」

「いやいや陽向さん、それは通りませんよ!夢希ちゃんは私たちに協力してくださっているのですから!」

「美弥子さん、そもそも夢希ちゃんは白石さんのところに相談の予約入れてるんすよ。なのに、時間になっても来ないから、こうやって私が迎えに来たんすよ」

 

 予約までは入れた覚えがないけど、嘘も方便ってやつだね。ありがとう白石さん!

 というか、なんで犬束さんが当たり前のように美弥子と話してるんだ……?初対面じゃないっぽいけど、会うことあるんだろか?美弥子は良くも悪くもここに引きこもりっぱなしなはずだけど。

 犬束さんの話を聞いた美弥子の首が、勢いよくぐりんとこちらを向いた。ちょっと妖怪じみてて怖い。

 

「なんと!?夢希ちゃんごめんなさい!言ってくれれば良かったのに!」

「ウンソウダネ……」

 

 言う暇あったか?いや、挟む余地があったか……?なかったよね?

 自分は今遠い目をしているんだろうなぁ……なんて逃避していたら、犬束さんに手を取られた。

 

「じゃあ、行くっすよ。夢希ちゃん」

「あ、はい。えっと、じゃあまた……」

「ええ、また今度!」

 

 いい笑顔の美弥子に見送られて、私と犬束さんは研究室を後にした。

 

 

 研究室から出たところで手を離され、そのまま2人並んで白石さんの部屋に向かって歩き出す。若干気まずい空気なのは何故だ……

 

「いやー……その……お久しぶりっす……」

「はい。お久しぶりですね」

 

 さっきまでの快活さはどこへ!?頼りになる感じの雰囲気も消し飛んだけど!

 手を開いたり閉じたり、視線があっちこっち行ったり、口を開けたり閉じたり……挙動不審とはまさにこんな感じなんだろうな……

 

「あ、えっと……あー……」

「……?」

「……すぅよし!あの!」

「!はい!」

 

 何か覚悟を決めたような顔をした犬束さんに大きな声を出されてびっくりした。 何とか返事が出来たから良かったけど。

 そのまま、彼女はバッと頭を下げた。

 

「この前は大変ご迷惑をおかけしてすいませんでした!それと、助けてくれてありがとうございました!」

「そんな改まらないでください……手紙も貰ったのに」

 

 わざわざいいのに。いやまあ、確かに迷惑かけられたのは事実なんだけど、状況的には情状酌量の余地があると思うし。なんなら、今後モンスター食仲間が増えそうでちょっとうれしいくらいである。

 それに、私は切り替えが早いのだ。いやなことがあってもすぐに切り替えられるのが私である。最近は覚えておくとコミュニケーションの一部になると知ったので、少し覚えておこうかと思っているけど。こう、失敗いじり的な『この前こんな事やってたよねぇ?』みたいなやつ。

 犬束さんは頭を下げたまま、顔だけこちらにむけると、小さな声でつぶやく。

 

「……その、直接ちゃんと言わなきゃって思ってて、すね……」

「……えっと……どういたしまして」

「それで、何かお詫びというか、お礼になんか用意できてればよかったんすけど、いつ会うか全然わかんなくて何にも用意できてなくってすね……本当にごめんなさい……」

 

 体勢を戻した犬束さんが申し訳なさそうに続ける。まあ、連絡先とか何も知らないもんね……

 うーん。こういうときってどうすればいいんだろうか。正直私としては別に謝罪とお礼もらったしいいかなって感じなんだけど、犬束さん的にはちょっとキツそうというか……未成年に依頼を出せない関係上、彩音さんには依頼料という支払いがあったけど、私にはないから、それもあるんだろうなって。

 こういうときは、小さな御礼をしてもらうのが一番だし、となると、ご飯を奢ってもらうとかでいいんじゃない?とは思わなくはないのだが、犬束さんって外食出来ないし……うーん。思いつかない……後で白石さんあたりに相談しよう。

 

「彩音さんにも伝えたいと思うんすけど、会う機会がないんすよね……今ダンジョン付近に行くわけにもいかないっすから」

「資格停止中ですもんね……」

 

 犬束さんは、体調不良であることが分かっていながらダンジョンに入って救助されたことで、三か月の資格停止処分を受けている。そもそもルール上体調不良であることが分かっているなら入っちゃダメなのである。他人に迷惑かけちゃうし、ダンジョン内の場合、その迷惑が命にかかわるからね。

 極端な話、私たちの配信からどこにいるのか特定して先回りみたいなのが会いやすいんだろうけど、凉曰くそれは絶対にやっちゃダメな行為とのことだったので、多分犬束さんもそれを守っているんだろうね。その上、ダンジョンの近くになるから、資格持っていないとかじゃなく、停止中の人がいるのはこう……違反とかではないけど、居づらいよね。

 

「そうなんすよ……たまたま会うってことも今のところないんすよねぇ……あ、敬語はいらないっすよ!私、敬語で話されるの慣れてなくて……」

「あ、うん。分かった」

「というか、前は普通に話してたっすよね?」

「あの時はその辺気にしてる余裕がなかったから……」

 

 割と必死だったし、他人の人生の今後にかかわるようなことになるのは、結構怖かったっていうのは事実。ダメだったらどうしようって思ったし。結果として丸く収まってよかったけども。

 

「……ホントにご迷惑おかけしました……」

「いえいえ……」

 

 再度頭を下げる犬束さんに返事をしつつ、白石さんの部屋まで歩いていった。先ほどよりは気まずい感じじゃなくなってホッとした。

 

 

「白石さん、連れてきたっすよ!」

「お邪魔します」

「お、やっと来たね。疲れているだろうから、ココアを入れておいたよ」

「ありがとう……!」

「ありがとうっす」

 

 部屋に入ると白石さんから、ココアの入ったマグカップを渡された。振り回されて疲れてきていたから、甘さが染みるなぁ……!

 

「表情変わんないのに、何考えてるのかなんとなーく分かるのちょっと面白いっすね……」

「だろう?」

「っす」

 

 犬束さんと白石さんもなんだか仲良さそうだし……というか、なんで犬束さんいるんだろう?

 

「そういえば、犬束さんはなんでここに?」

「あぁ、実は彼女はね」

「正式に『魔女の大鍋(コルドロン)』所属になったんすよ」

「…………え?」

 

 思わず犬束さんを凝視してしまう。全然合わない気がするんだけど。性格的に。

 疑問に思っていたら、白石さんが口を開いた。

 

「ユニークスキルのデメリットから考えて、いてくれたほうがいいし、何よりも解析が終わっていない」

「そこなんだ……」

 

 白石さんのロマンを追い求める姿勢にちょっと呆れていたら、白石さんが真剣な顔をして続ける。

 

「実際大事なんだ。本当に特異なスキルだからね」

「そうなんすよ……もう振り回されっぱなしっす……」

「そんなに……?」

 

 犬束さんがげんなりしている。そんなに変なスキルなのか、彼女の《魔素捕食》って。

 あと、不思議でしょうがないんだけど、なんでこんなに犬っぽいんだこの人は……今だって、なんか頭の上に垂れ下がった耳が見える気がする。それもユニークスキルだったりする?

 

「この前発現したスキルが今はなくなってたり、レベルが上がったり下がったり。とんでもないだろう?」

「そんなことあるの!?」

 

 想像を遥かに超えるへんてこ具合にびっくりしてしまった。一時的に特定のスキルを付与するユニークスキルは聞いたことがあるけど、レベルって増減するんだ……

 冒険者のレベルは、早い話が体内にどれだけ魔素(マナ)を溜め込んでおけるかを数値化したものである。外部から取り込むをつづけると少しずつ上限が増えていって、レベルが上がるわけだね。ほぼ筋トレみたいなもんである。

 なお、レベルという数値として表すようになったのは、記録水晶を作った人が『そっちのほうが面白そう』というただそれだけの理由だそうで。そして、数値として出てくれると管理がしやすいって政府が目をつけて、それが一般化したんだとか。

 

「ここまで来ると、言い方は悪いが取り込んでしまった方がむしろ安全だろう?」

「実際、なんかあったらすぐに対処してもらえるのはありがたいっすよ。骨折とか一瞬だったっす」

「救護体制手厚いからねここ……というか、骨折?」

 

 『魔女の大鍋(コルドロン)』は救護体制がめちゃくちゃ手厚い。実験で負傷者なんて日常的に出るから当たり前なんだってさ。ついでに治療の実験も出来て一石二鳥だそうで。あらゆるところで研究しているクランなのだ。本当に。

 にしても、骨折なんて穏やかじゃないね。浮遊魔法の練習で全身折りまくった私が言えた義理ではないけども。

 

「この前の《豪脚》と《蹴撃》を同時に使ってもらったら、身体が追いつかなかったらしくてね。より正確に言うなら脛骨にヒビが入った」

「そんなに威力出たんだ……」

「あれを自在に使うとしたら、《身体強化(ストレングス)》を身に着けないと厳しいだろうね」

「なんで今練習中っす!魔法使うの初めてなんで、結構苦戦してるんすけどね。ただ、習得出来たら色々やれそうなんで楽しみなんすよ!」

 

 犬束さんが目をキラキラさせながら、ふんす!と両手を握る。色んなスキルが使えるけど身体が追いつかないっていうのは、私も覚えがあるから、そのワクワク感はちょっと分かるな。私の場合は魔法と魔力だったけど。

 魔力に関しては、体内の魔素(マナ)の変換効率が量の多い少ないを決めているので、そこの練習をし続けると量が増える。私は極限まで無駄なく運用できるように練習したからね。その結果として魔力量が多いのだ。

 この部分にもある程度才能があるらしくて、出来ない人は全く出来なかったりするみたい。でも、そういう人ほど身体能力が高い傾向があるのが分かっているので、多分そこでバランスが取られてるんだと思う。

 白石さんが、犬束さんの研究資料らしき物をぱらぱらとめくりながら、話を続ける。

 

「現状分かっていることとしては、食べたモンスターのスキルが発現する。それらは一定時間で消失する。時間の長さや上昇幅は食べた量依存。食べることによってレベルが上がる。一定時間後下がる。2上がれば1下がるといった感じ。こちらも食べた量依存。こんなところだね」

「大分ピーキーだね……」

 

 それ、下手するとダンジョン内でスキルが使えなくなったりして大変なことになるやつじゃん……とはいえ、食べることでレベルが上がるのはスゴイね。まぁ、魔素(マナ)を体内に取り込むことでレベルが上がるんだから、そりゃ上がるか……ん?もしかして、モンスター食べてる私も同じように上がってたりするんだろうか?

 いや、流石に上がってはないか……私の場合、レベルがレベルだしね。

 

「あとは、不確定な部分としては汎用スキルの習得が困難というところかな。ここは夢希も似たようなものだ。特定のスキルに対して特化した結果。という感じなのだろう」

「確かにそうだね」

「夢希ちゃんもなんすか?」

「私の場合は、物理攻撃系のスキルが覚えられない。あと奇跡も……かな」

 

 私の《ソロモン》のデメリットは多分『魔法系スキル以外のスキルの習得不可』に近いものなんだと思う。実際、今のところ《気配察知》以外で魔法じゃないスキルは何も発現していない。練習してきた武器系のスキルも一切である。まぁ、それくらい魔法に特化しているというだけなのであまり困ったことはない。デメリットとしてはそこまで重くもないし。

 犬束さんがなんだか納得したという感じで、ふんふん頷いている。

 

「やっぱり、デメリットってあるもんなんすねぇ……」

「デメリットのないスキルの方が少ないのは事実だ。とはいえ、生活に支障が出るレベルでデメリットがあるスキルは、そう多くないよ。犬束さんも含めて私が直接知っているのは7人だけだ」

「直接じゃなければ?」

「情報だけなら無数に。とだけ言っておこう。全世界からの情報なのでね」

 

 まぁ、そりゃ全世界含めれば無数にいるか……むしろ、居ないほうがおかしいだろうし。というか、あんまり冒険者とか関わりがない私ですら3人も知ってるもんな……

 

 

 犬束さんの現状とスキルの話になってしまったけど、私が今日ここに来た本題は違う。いい加減やることをやろう。じゃないと門限までに帰れなくなる……!

 




長くなってしまってますが、次で終わる予定です。
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