【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
近頃、急激な温度変化が凄まじいので、健康に気をつけて過ごしましょう。(一敗)
色んな人に振り回されて、まったく休んだ気がしない休日を終えた私は、翌日品川ダンジョン前に集合した彩音さんと鬼灯に向けて、宣言した。
「今日は品川ダンジョンでブレイクレッグを食べるから」
「う、うん……」
「お、おん……」
彩音さんも、鬼灯も、ちょっと目を逸らしながら返答してくる。なんか二人とも歯切れが悪いな……なので、再度宣言する。
「今日は、品川ダンジョンで、ブレイクレッグを食べるから」
「分かった、分かったって!」
鬼灯に肩をガッチリと捕まえられて、くるりと反転させられる。なんだというのだ。そのまま軽く背中を押されたので、とりあえず、ダンジョンに入ってしまうことにする。
「夢希ちゃんどうしたのかな、眼力すごかったけど……?」
「どうせ、昨日『魔女の大鍋』で振り回されたとかそんなんだって」
「あー……」
「ちなみに、ストレスを料理とヤケ食いで発散するタイプだよ夢希は」
「……そっかー……」
後ろで2人が何か話しているけど、なんだろう?まぁいいや。今日の目的は、ブレイクレッグで鶏肉料理をたくさん作ることだ。
美味しいものをたくさん食べればストレスなんてとんでいく。世の中とはそういうものなのだ。
「今日は色々作るから、いっぱい食べよう」
「……うんそうだね!いっぱい食べるよー!」
「彩音さんも切り替えはえー……ま、酒のつまみになりそうなもの頼んだ」
「任せて」
「……何だろうな……別の意味で任せちゃまずい気がしてきたなぁ……」
斜め上を見ながら、鬼灯がボヤく。別の意味ってなんだよ別の意味って。なんだか腑に落ちないまま、配信の準備をするべく、ダンジョンの一角に向かった。
いつものようにダンジョンのメインルートから外れた小部屋で配信を始める。段々これも慣れてきたな。今ではすっかり普通の配信……たぶん普通の配信みたいになっていると思う。たぶん。
「……映像よし、音声よし。こんにちは、ユキです」
「こんにちは!アヤネでーす」
「おひさー、ホオズキだよー」
"こんにちはー”
"ホオズキちゃん、おひさー”
"マジで準レギュラーだな”
"今日は何するの?”
みんなで挨拶をすると、リスナーさんたちもコメントを打ってくれる。にしても、本当にこの人たちは何をしているんだろう?大抵の人は仕事の時間だと思うんだけどな……9時から18時の人が多いイメージなんだけど、なんで16時過ぎにみんないるんだ……?
「今日は品川ダンジョンで鶏肉祭りを開催する」
「と、鶏肉祭り……」
「んな大仰に言ったって、ただのヤケ食いだろ?」
ごくりと喉を鳴らした彩音さんの横で、ニタニタとしている鬼灯の肩を小突く。黙ってて。いや、事実だけど。事実だけども!
それなりの威力で小突いたと思うんだけど、まったく意に介さずにケラケラと笑っているのがちょっと腹立たしい。
"鶏肉祭りかー”
"色々作るってこと!?”
"祭りだー!”
"ヤケ食いなんだw”
「……こほん。唐揚げを塩と醤油の2種類、炒め物、焼き鳥は作ろうと思ってる」
「大分作るね!?」
「おーん……焼き鳥の味は?」
「気にするところそこなの!?」
今日も彩音さんのツッコミが冴えている。鬼灯は単純に聞いてるだけだね。ちなみに、鬼灯が今日いるのは、ブレイクレッグ食べるけど来るか?と聞いたら秒で行くと返ってきたからだ。
「塩を予定してる」
「タレもちょっと欲しい」
「分かった」
「当たり前のように順応しないで……!」
順応というか、いつものやりとりというだけである。彩音さんもリクエストがあるならいつでも言っていいんだよ?作れるものならいくらでも作るから。
"作り過ぎでは???”
"大分量ありそうw”
"食い切れるんか?”
"余ったら全部アヤネさんが食べてくれるでしょ(適当”
リスナーさんが彩音さんに期待をかけているらしい。というか、私も結構期待している。というより、普通に彩音さん結構食べるじゃないか。少なくとも、私たちの1,5倍から2倍くらいは食べるよね。
「そんなに食べられないからね!?」
「ボクたちよりは食べるじゃん?」
「うん。アヤネさんは健啖家」
「期待が重い……!」
彩音さんが頭を抱えてしまった。流石に食べきれなかったら普通に持ち帰るので気にしなくていいのに。あとでレンジか何かで温めれば食べられるものばかりにしたんだから。
何にしても、ブレイクレッグを用意しないと始まらない。
「とりあえず、ブレイクレッグを仕留めて解体する」
「はいよー……あ、ユキ」
「ん、何?」
「魔法で仕留めるなよ?また爆散しそうだから」
「…………分かってる」
「忘れてたね?ユキちゃん」
いや、忘れてたわけじゃ……うん、忘れてたけども。1回爆散させたことあるんだけどね、ブレイクレッグは。とはいえ、アレは胴体に当てたからであって、頭に当てれば……いや、スパインポルポもそう思って頭に当てたら爆散したんだった……
"スパインポルポ……”
"嫌な事件だったね……”
"ブレイクレッグが爆散しても、あんまり危険じゃなさそう”
"食えなくはなるけどな”
「とりあえず……首ちょんぱでいい?」
「脚も切ってほしい」
「おん?脚?」
「血抜き用にね」
「あー、なるへそ。おーけーおーけー」
「ユキちゃん、どこにいるの?」
「こっちに3頭いる」
《魔力探知》で見つけておいた群れに二人を案内する。ショートソードも抜いて、準備万端だ。いざ、ご飯のために。
「というわけでちょんぱしたのがこちらー」
「3頭とも仕留めちゃったね」
「アヤネさんとホオズキが速すぎて、私がやることなかったんだけど」
"マジで速すぎて草"
"ホオズキちゃんがおかしいレベルで速いよ……"
"1頭目の処理速度がおかしいんだよなマジで……”
二人が速攻で3頭仕留めてしまったので、本当にやることがなかったんだけど。
ブレイクレッグの群れを見つけた瞬間、鬼灯が飛び出して1頭目の首を切り飛ばし、他2頭がこちらに気づいたころには2頭目の首が飛んでいた。その状況に3頭目が驚いて硬直したところを彩音さんがスパンと一発。鮮やかだったね。
彩音さんは前と違って自分からどんどん倒そうとしているから、いい傾向だと思う。
「そりゃ、君の仕事は今からだからねー」
「そうそう。私とホオズキちゃんも手伝うけどね」
それは確かにそうか。解体は私の仕事だもんね。
「じゃあ、よろしく」
二人の前にも浮遊魔法で浮かべたブレイクレッグをぶら下げて、三人で羽根をむしりまくる。
そこそこ頑固に生えているので、ちょっと大変なんだよねこの作業。
"ひたすら羽根むしってるの草”
"羽根むしると、割と見たことある鶏肉って感じだよな”
"意外とモンスターって解体すると普通の肉だよな”
「結構頑固だなこの羽根……!」
「結構しっかり生えてるよね……!」
「慣れればどうってことないよ」
「おん、そういうもん……って、はっや!?君それどうなってんの!?」
鬼灯が何やら驚いているけれど、そんなに驚くことかな?
そういえば、鬼灯の前でこれ披露したの初めてかもしれないな。こう、肉を解体しているときは分かりにくいけれど、今みたいなときは分かりやすいかもしれない。
"マジで速いの草”
"早送りみてぇwww”
"並ばれると速さが分かるなw”
「羽根むしるのにも《解体》スキルが発動するんだよね」
「マジ……?いや真面目に1,5倍速くらいで動いてるよな……?」
「よし、終わり。私は解体するね」
「お、おん……いや、アヤネさんもツッコもう?絶対おかしいって……」
「……ホオズキちゃん。慣れだよ慣れ」
いつものように防護服を来て解体を開始する。血抜きが終わっているから、あんまり気にしなくていい気もするんだけど、やっぱり内臓関係がちょっとね……さっさと解体して、唐揚げの調味液に浸さないと。
"暗転しまーす"
"音声のみでお楽しみくださーい”
"目が死んでそう”
"まぁ、慣れは大事よな”
"そうそう”
「羽根むしり終わったら、私が解体してる間に2人はセッティングをお願い」
「おん。任せろー」
解体をする前に、収納魔法からレジャーシートやらテーブルやらを取り出して隅に積み上げておいた。
鬼灯と彩音さんが羽根をむしり終わり、セッティングをしていると、彩音さんが何やら言い始めた。
「……すっごく、本当にすっごく今更なんだけどさ」
「おん?」
「完全にキャンプだよねこれ……」
「……アヤネさん、今更すぎるぜ……?」
"本当に今更なんよw”
"完全にキャンプなんだよなぁ……”
"むしろ、キャンプでないとでも?”
「リスナーさんたちもそう思ってたんだ……」
「そりゃそうでしょ……」
鬼灯の呆れた声がする。そして、リスナーさんたちもそう思っていたらしい。私も正直そう思っている。実際、やってる場所がダンジョンなだけで、普通にデイキャンプだしね。
成人したらダンジョン内に泊まり込みとかしてみようかな?景色がいいダンジョンを探して候補地にしておこう。みんなでやればきっと楽しい。
その後、3頭とも解体が終わったので、料理に移る。彩音さんたちもセッティングが終わってお皿やら飲み物やらの準備をし始めていた。
「アヤネさん、調味液の入ったタッパー出してくれる?」
「うん……えっと、この2つでいい?」
「ありがとう。これに漬け込んでおいて……その間に、まずは炒め物を作るね」
「アスパラとネギ?」
「単純だけど美味しいから。メインが出来るまでの繋ぎにはちょうどいいでしょ。で、ホオズキ」
「おん?」
「焼き鳥は塩とタレどっちが先がいい?」
「塩で」
「オッケー」
スキレットに油を軽く引いて、肉とアスパラとネギを投入。塩コショウで味付け!超簡単で美味しいご飯である。
で、こっちに火を通している間に串に肉をぶすりぶすりと刺していく。こっちも塩コショウ振りかけて、コンロで焼く。こういう時に、魔法による汚れ防止結界が便利なんだよねこれ。
"もう完全に休日のお父さんムーブなんだよなぁ…w”
"普段見てるとアヤネさんが長女で、他2人が双子の姉妹感あるんだけどな”
"妹の趣味に付き合う姉2人の間違いでは?”
"それだ!”
「言いたい放題言われてておもろ」
「割とリスナーさんたちってズバズバ言うよね」
手が空いたからか、スマホでリスナーさんたちとやり取りを始めたらしい。私は流石に見れないので、話を聞いてみるとしよう。
「なんて?」
「君が末っ子だってさ」
「……は?」
彩音さんはともかく、鬼灯が姉なのは意味がわからない。どう考えてもあっちの方が下でしょ。私の方がお姉さんだよ。背も高いし。何を言っているんだ一体。
「そういえば、ホオズキちゃんって唐揚げとか食べられるの?」
「おん?あー、レベル上がったら、許容量が若干増えたんだよね。内臓が強くなったっぽい。だから、確かめる意味でも2個くらい食おうかなって」
「そうなんだ」
「そうなのだ。それに、ダメでもどうせトイレにこもるだけだし問題なし!」
「問題ない……かなぁ……?」
いつの間にか鬼灯が酒瓶を取り出して、蓋を開けた。きゅぽんといい音が鳴る。この音はいい音だなぁ……としみじみ思う。
あと、私も彩音さんに同意しておく。トイレにこもるのはそこそこ問題あると思うよ。
"きゅぽん!”
"お前さぁ…www”
"気付いたら酒飲み始めるやんw”
「もう呑むの……?」
「おん。そら飲むよー!アヤネさんもいる?」
「……いらないかな」
「素直になりなよー……鶏肉に合うように、冷えたビールも持ってきたよぉ……?」
「い、いいってば……」
"悪の誘い過ぎるw”
"アヤネさん負けないで!”
"アヤネさん頑張ってー!”
"ニチアサか???”
鬼灯が彩音さんに絡み始めた。だからやめろってば。酒を勧めるな。魔力を威圧に使うのではなく、普通に《魔力の矢》を発動待機状態にして脅す。
「ホオズキ……?」
「いや待て!冗談冗談!だからそのマジな魔力はヤメロ!!」
「はいはい、そこまでねー」
そんなこともありつつ、鶏肉に火が通って料理が出来上がるころ、鬼灯が何かを思い出したらしい。
「あ、そうだ!……ユキ、これ」
「うん?……ぶどうジュース?」
渡されたのは、ワインボトルくらいのサイズのぶどうジュースだった。うーん、見たことないやつだ。というか、なんか高そうだぞこれ……
「そう!結構お高いやつ。普段の食い物代」
まぁ、確かにちょくちょく食べてるしな。とはいえ、普段から帰り道の掃除は鬼灯に任せてるんだし、気にしなくてもいいのに。だが、素直に貰っておこう。突っ返すのも悪いし。
「……ありがとう。味わって飲むね。アヤネさんも一緒に飲もう?」
「え、いいの?」
「もちろん」
鬼灯もそのつもりで持ってきてるだろうしね。私的には、美味しいものは分け合うのが幸せなのである。鬼灯も、美味しいお酒は周りに勧めるタイプだし。
まぁ、持ってきた当人はと言うと……
「そしてボクはー、この日本酒ちゃんをー……うん、うめー!」
……相変わらず呑兵衛が過ぎるなこいつ……!
"この呑んべぇがよぉwww”
"ホオズキちゃんマジで美味そうに飲むからCMとか出たらバカ売れしそう”
"モザイク掛かってて表情見えないのに美味そうなの才能があり過ぎる”
"何の才能だよ”
"酒飲み”
"間違いないなw”