【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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GWが終わりましたね。皆さんはどう過ごされたでしょうか。
自分は仕事です。


配信に興味ない私とイレギュラーモンスター

 

 トロルは品川ダンジョンの下層にいるモンスターの中で最強のモンスターだ。緑色の皮膚の10メートル近い巨人であり、見た目に違わぬパワーとタフさを持っている。その巨大さゆえか数が少なく、レアモンスター扱いされているモンスターだ。

 

 モンスターによるイレギュラーは、基本的に3種類に分類される。

 1つ目はモンスターの大量発生。大体50前後、大変な時だと1000とか2000とかの集団が発生することもある。発生頻度はそこそこ高いけど、大きなものが来ない限りはそこまで危険でもないって感じ。感覚としては地震みたいなものかな。

 2つ目はモンスターの階層移動。今みたいに下層のモンスターが上層にいるといったような状態。発生頻度は低めで、起きた時の対処も簡単。とはいえ、めちゃくちゃ危険。新米冒険者にミノタウロスなんかぶつけたら、血煙になってしまう。

 3つ目は強力なモンスターの発生。身体が大きくなっていたり、特殊な能力を持っていたりするなどの変異種。純粋に強くなったモンスターである強化種。どちらも満たした特殊個体。こういったモンスターが発生することだ。発生頻度は稀で、起きたら大惨事になることが多い。特に特殊個体が発生した場合、大規模な討伐隊が組まれることもあるくらいだ。

 今回の場合は、2つ目3つ目の両方だね。洒落になってない。何より、モンスターの変異種が上層にいるにも関わらず、イレギュラーの警報が鳴っていない。

 冒険者用のスマホアプリを入れておくと、イレギュラーが発生した場合に緊急地震速報みたいなアラームがなるようになっているのだ。それがトロルが下層から上層に移動してくるまでの間に鳴っていない。

 考えられる事態は2つ。1つ目はこいつが誰にも見つからずにここまで来た。2つ目は……目撃者が通報する間もなく全滅した。前者は希望的観測がすぎるので、恐らく後者だ。となれば、こいつはかなりの脅威であると認識するべきだ。ここでどうにか足止めなり仕留めるなりしないといけない。

 幸い、私と鬼灯は深層に行けるほどのレベルだし、彩音さんも下層で活動出来るレベルだ。それに、簡易的ではあるけどヒーラーも兼ねてくれるし。

 

「とりあえず、ボクたちで対応する。あくまでも目的は足止めと情報収集。仕留めるのは次善ね」

「わかった」

「おん。にしても……なんだろうなあれ。ウロコか?」

 

 変異種のトロルの体表面を覆っているらしき、青っぽいウロコのような何か。実際、あれが何なのか分からないとどうにもならないだろう。

 

「連絡終わったよ。脅威度に関しては、ユキちゃんの配信見て判断付けるって」

「おん、サンキュー。アヤネさんは何だと思う?あのウロコみてぇなやつ」

「うーん……トロルのサイズがサイズだから、ウロコってサイズじゃなそうだよねあれ……」

「確かに……青色に近い色。サイズが大きくて丸っぽい。《魔力探知》がうまく機能しない。今のところの情報としてはこんなんか?」

 

 鬼灯がとりあえず情報を並べる。今のところそんなところだけど……なんかというか、この()()()()()()()()()()()()()()()はどっかで……まさか。

 

「アンチマジックシェル……?」

 

 アンチマジックシェル。品川ダンジョン下層のモンスターで、見た目は青色の殻をまとったホタテって感じのモンスターだ。問題はその生態で、殻には()()()()()()()という性質があり、吸収して溜め込んだ魔力を放出することで攻撃してくるのだ。私がショートソードを作ろうと思った理由の一つである。

 ……いつかこいつを無傷で仕留めて網の上で焼いて食べてやろうと思っている。醤油とバターで。

 《魔力探知》のスキルは、その名前の通り魔力を探知するスキルだけれど、正確には魔力によるエコロケーションみたいなスキルである。だから、魔力を吸収する特性のものがあると、そこが空白になる。まさに今のこいつみたいに。

 

「あれがアンチマジックシェルだとして、共存してんのか、服みたいに着てんのか……?」

「アンチマジックシェルって、ホタテみたいなモンスターだよね?2枚分の厚さは無さそうじゃない?」

「だとしたら、服みたいに……にしては肌にぴったりくっついて……!?」

「!」

「わっ!」

 

 大音量でアラートが鳴り響いて、びっくりした。そりゃ、今通報したんだから、警報は出るよね。

 そして、その音でこっちに気付かれた。トロルがこっちを向いている。こちらを睨みつけたまま口を開けて……?咆哮でもするかと思ったらそのまま固まっ……魔力が口に……っ!?

 

「2人とも私の後ろに!」

 

 《魔力障壁》を発動する。念のため、同時に使える最大数である3枚分展開しておく。

 直後。凄まじい衝撃が私たちを襲った。

 

「あいつブレス撃ってくんの!?」

「今の何!?何も見えなかったよ!?」

 

 "は!?”

 "ヤバいでしょ今の!”

 "変異種ってこのレベルなの…!?”

 

 周囲の状況を見るに、守った範囲の外はクレーターになっている。防御自体は出来たけど、あの威力は洒落になっていないなんてものじゃない。万が一直撃したら、私や鬼灯でも間違いなく死ぬ。というよりも、光が無かったし、音もそこまで大きくない。単純な魔力の発射じゃないぞあれは。多分だけど空気砲みたいなもんだろうか?巨体故の肺活量を活かした砲撃であると見るべきだろう。

 それに……とある事実に冷や汗を垂らしていたら、その様子を鬼灯が見ていた。

 

「ユキ?なんかあったか……?」

「……1枚抜かれた」

「マジ……?」

 

 《魔力障壁》が1枚破壊されている。ユニークスキル《ソロモン》の効果で、熟練度が限界突破している《魔力障壁》がだ。

 ただ、これではっきりした。こいつは、『アンチマジックシェルの能力を獲得した()()()()のトロル』だ。魔力を吸収し、それを攻撃手段として転換することの出来るトロルということだ。

 他のモンスターの能力を獲得したモンスターは、すべて特殊個体である。何故なら、モンスターが別のモンスターの能力を獲得するには、そのモンスターを大量に捕食する必要があり、その結果として()()()()()()()()()()()()()。その上、ここまで冒険者を何人も殺しているならなおさら上がっているはずだ。

 レベルというのは、人間だけに適応されるものではないし、レベルを上げる方法はモンスターを倒すだけじゃない。一番単純な方法がモンスターを倒すことなだけだ。

 レベルというのは『体内にどれだけの魔素(マナ)を溜め込んでいるか』で測られる。そして、魔素(マナ)というのは、何故だか知らないが、死んだあとに周囲に拡散し、自らを殺した相手に対して取り込まれやすいという性質がある。それがモンスターを倒して冒険者がレベルが上がる理由だ。そして、逆に冒険者がモンスターに殺されるようなことがあれば……

 

「ユキ、周囲にパーティいるか?」

 

 鬼灯の問いに一旦周囲に《魔力探知》を行う。

 

「……3、いや4パーティ」

「近くに行き止まりの大部屋」

「通路2本向こうにある。そこまでのルートにパーティはいない」

「おん……アヤネさん、周りのパーティの避難誘導して」

「え、2人だけで大丈夫なの!?」

「正直かなり微妙。でも、他のパーティはあのブレスに巻き込まれたら死ぬのは確定。だから、ボクたちは被害を抑えるために動かなくちゃいけない。となれば、戦力的にもアヤネさんがやるのが一番だから」

 

 クランで動いてる鬼灯は、こういった対処の時に本当にありがたいな……判断も早いし、的確にやってくれる。

 その間私はというと、再度の障壁の展開と、《魔力の矢》の圧縮をしていた。これが届かないようなことがあれば、間違いなく私は何の役にも立たない。

 

「…………わ、かった……」

 

 鬼灯の提案に彩音さんが泣きそうになりながら了承してくれた。

 

「……悪いね」

「……2人とも、絶対死なないでね!約束だからね!!」

「おん。約束な」

「約束するよ」

 

 彩音さんに他のパーティの位置を伝える。そのまま全力で走っていく彩音さんの足音だけ聞きながら、こちらを見たまま動かないトロルを警戒し続ける。

 にしても、あいつなんで動かないんだ……?いや、さっきのが防がれたから警戒してるのか。恐らく耐えた冒険者が私達が初めてだったんだろう。文字通りの必殺だったんだろうね。

 

「……さて、どうする?」

「どうするも何も、生きて帰る」

「おん。そうだな」

「大部屋までのルートは――」

 

 動かないなら動かないで鬼灯と作戦会議させてもらった。ルートも話したし、あとは動くだけだ。

 障壁を解除し、先ほどから圧縮していた《魔力の矢》を解き放つ。狙うは顔面だ。トロルは特に動かなかったので、顔に直撃した。結構な威力なはずなんだけど、そこまでダメージを受けてる感じじゃない……!

 ただ、効果はあった。トロルが唸り声をあげてこちらに向けて走ってきたからだ。地面が揺れるので浮遊魔法で飛びながら、牽制で《魔力の矢》を撃ち込んでいく。

 だが、それらはトロルに届く前に霧散してしまった。圧縮しないとまともに届かないとか……!

 

「《魔力の矢》がまともにきいてない!」

「……やーい、ユキのお荷物ー!」

「そういう君は何もしてないでしょ!」

「ボクは指示出ししたもんねー!」

「そうだった……!」

 

 揺れる地面に若干足を取られつつ走り続ける鬼灯と煽り合う。惨敗したが。本当に私のほうがお荷物じゃないか……!

 正直、この会話をしているのは、緊張感の緩和が目的だ。深刻になりすぎると動きが硬くなってしまうし、何より目の前のトロルがヤバすぎる。どういう魔法耐性してるんだ。

 

 "軽口叩いとる場合かー!”

 "余裕ありすぎだろ…”

 "いや、心の余裕を無理矢理作るための軽口だろこれ”

 

「ホオズキ、脚潰せる?」

「大部屋着いたらアキレス腱切ってやるわ」

「お願いね……!?」

「おいおい、あいつどうなってんだよ!?」

 

 "もう一発来たぞ!?”

 "こいつホントにトロルなのか?ドラゴンじゃねぇか!?”

 "本当に2人とも大丈夫なのか……?”

 

 また口に魔力を……!魔力量的に、私が打ち込んだ《魔力の矢》よりも遥かに多いので、あの巨体に溜め込んでいるのだろう。本当になんなんだこのトロル。深層のモンスターたちの中に放り込んでも大分上位になりそうだぞ。

 再度《魔力障壁》を展開して防ぎきる。やはり1枚は割られるな……最低でも2枚以上は貼らないといけないし、万が一あれ以上の威力がある攻撃が飛んできたら防ぎきれないかもしれない。

 

「ユキ、魔力量的には大丈夫か?」

「それに関しては余裕。とはいえ、下手に連発されたらダンジョンが崩落しそう」

「うげ、そっちの心配もしないとかぁ……よし着いた!」

 

 予定していた大部屋に到着した。あとは、ここからトロルを外に出さずに援軍が来るまで耐えるだけ。その難易度が高いかどうかはこれから分かる。

 あの砲撃は脅威だけど、それはあくまでも()()()()だ。私と鬼灯なら、空間さえあればどっちを狙われても避けるだけならいくらでもできる。一番最初は彩音さんがいたし、先ほどは通路で横幅がなかった。

 他にも何か特殊な能力がないなら、まだなんとでもなる。しかし、あれ以外にも何かあるなら、途端に難易度が跳ね上がる。そういうことだ。

 大部屋の奥まで行き、トロルに向き直る。あちらもこちらを睨みながら立ち止まった。ここからが、本番だ。

 

「さて、とりあえず定石通りにやるかー」

「じゃあ私は……ハエになるよ」

「ぶはっ!ハエって……頼むわ」

 

 ちょっと硬くなってた鬼灯も良い感じに解れたな。ヨシ。

 トロルの顔の周りを飛び回って注意引くつもりだから、実際ハエみたいなものだ。甚だ不本意だけど。

 




アンチマジックシェルは魔法には強いですが、物理には弱いので、大抵の冒険者からは雑魚扱いされています。
魔法職でソロやってる主人公が異常者なだけです。
鬼灯ならチョップ一発で仕留められます。
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