【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
砂ウツボは、名前の通り砂の中に潜んでいるウツボで、全長は2メートルほどだが、胴体に伸縮性があり、獲物を狩る時には4メートルほどまで伸びる。突然地面や壁に作った巣から弾丸もかくやという勢いで飛び出して来て、強力な顎で噛みつき獲物を巣に引きずりこんで丸呑みにして食べるという生態をしている。実際に見たことはないが、図鑑によると尻尾付近に吸盤が付いていて、それで自分の体を固定することで、弾丸のように身体を射出する不意打ちを可能にしているらしい。
不意打ち上等な危険なモンスターかと思うかもしれないが、実はまったく脅威じゃないタイプのモンスターだったりする。というのも、巣を粘膜か何かで保護しているせいか、そこだけ湿ってるんだよね。全体的に乾燥している八王子ダンジョンだと、円形に湿っている地面や壁があったら、そこにいる。不意打ち以外まともに攻撃手段がないのに、単体だと不意打ちすら出来ないちょっとおバカなモンスターだ。他のモンスターに追いかけられていて周りを見る余裕がないとかでもないと、引っかかる冒険者はまずいないくらいにはバレバレなのだ。ついでに音に反応するので、巣穴付近に石を投げるとそれに飛び出してくる。
というわけで早速。音を出さないようにゆっくりと巣穴に近づき、適当に石を投げて音を出す。音に反応して飛び出してきた砂ウツボの頭を《魔力の矢》で吹き飛ばして即死させる。巣穴から引きずり出し、吸盤の辺りで胴体に一周切れ込みを入れたあと、逆さ吊りにして血抜きする。吸盤部分はちょっと分からないので使わないとして、吹き飛ばした頭を除いても軽く1メートルはある。太さも40センチくらい。私は食べるの好きだが、大食いなわけではないので、これは食べ切れないな…
「流石に一匹でいいよね、このサイズだし」
"一匹でもデカいが???”
"砂ウツボって食えるの?”
"食えるかどうかで言うなら、食えそうではある”
"本気で言ってんのそれ……?(ドン引き)”
”ミノタウロスとどっちが食えそう?"
”俺が悪かった"
しかし、初見のモンスターの解体が完璧に出来るわけないので、半分使えるか使えないかになると思う。あと、内臓は食べない。昔、なんの内臓だったか思い出せないけれど、食べたときはやばかった。食あたりらしき何かを起こして、ダンジョン内で死にかけた。主に乙女の尊厳的に。
モンスターを食べるって全く研究されてない分野だから、本当に、全部手探りだ。解体方法、調理方法、味付けetc…全部手探り。そもそも、ダンジョンに食べ物を持っていくのが荷物の容量的に難しい側面がある以上、現地調達するのは誰もが考えることだと思うんだけど……何故か研究されていなかった。だからこれは、私が始めた、私だけの冒険だ。心が躍る。私は、冒険に憧れて、冒険がしたくて冒険者になったんだから。冒険に憧れた理由は、両親が冒険者で、その冒険譚を聞くのが楽しくて仕方なかったから。なんてありきたりなものだけど。
ただ、周りにこの冒険譚を話すと気狂いをみる目をされるのが難点だ。例外として、お父さんと友人たちは割と楽しげに聞いてくれるし、食べてもくれる。美味しいと思ったものしか持って帰ってないから、今のところ不味いって感想は返ってきたことはない。だから、私の舌がおかしいとかではない…はず。
誰もしたことがない冒険だから、失敗だってたくさんする。お腹を壊したり、吐き気が止まらなくなったり、毒で死にかけたり、不味すぎて嗅覚と味覚がおかしくなったり。よく生きてるなーって自分でも思うことがあるけど、それだって冒険なんだ。最近は耐性スキルが充実してきたから、そういうことにならなくなってきて、嬉しいけどちょっと寂しい。
先ほど大鍋とコンロをセットした場所に戻り、結界石を使うと、直径6メートルほどの大きな半球状の結界が展開される。砂ウツボの解体を始める前に、スキルを使いつつ火をつけて、ソードスコルピオの尻尾を全部放り込んで煮込んでおく。見た目がパスタ茹でてるみたいになっているが、問題ない……はず。ちなみに、煙や水なんかは素通りするし、人間も問題なく通ることが出来るとかいう凄まじく便利な結界だ。どうやって作ってるのかすごく気になる。
「とりあえず……魚を卸す要領でいいかな」
”はい一旦カメラ暗転しまーす"
”防護服で隠れちゃうからしゃーない"
”カメラも汚れるしな"
リュックから防護服と手袋を取り出して着込む。適当な岩の板を水で洗って砂ウツボをそこに置く。粘液を洗い流す必要がありそうなので、魔法で水を出しつつ、たわしでこすっていく。一通り綺麗にしたあと、吸盤のついた部分を切り落とし、お腹を割いて内臓を取り出す。食べない部分は、適当に用意した穴に放り込む。こうしておくと、ダンジョンが勝手に吸収してくれる。便利だよね。まぁそのせいで、冒険者の死体の回収率も低いんだけど。
結構大きいが、なんとかなりそうだ。マグロの解体みたいな絵面になっているため、もうちょっと大きなナイフが欲しいけど。三枚下ろしは無理そうなので、五枚下ろし……いや、真ん中で真っ二つにしたあとで、五枚下ろしにしよう。長さ的にもそれくらいのほうが調理しやすそうだ。骨は今回は捨てる。早速真っ二つにして、頭側から下ろしはじめても、ほぼ血が出ないので、血抜きはうまくいったみたいだ。ここがうまくいかないと、大抵生臭くて美味しくない。
何の問題もなく無事に8つに分割出来たので、軽く洗う。大体幅20センチ、長さ25センチくらいの切り身になった。意外にも、透明感のある綺麗な白身だったので、砂ウツボだって書かずにスーパーに置いてあったら普通に買う人もいるだろうな……今後の作業の邪魔になるので防護服を脱いで、水をぶちまけ軽く洗ったあとで岩に置いて干しておく。
”なんということでしょう……!?"
”普通の白身魚にしか見えねぇw"
”何も知らなかったらマジで美味そうw"
”これをどう料理するのかが問題"
”王道にムニエルとか"
”フライにしても美味そうじゃない?"
”煮付けとかでもいけると思う"
生食はさすがに怖いので、火を通すことは前提。決めてある料理法にはこんなに使わないので、味見がてら他の方法でも食べていきたいところだが……ふむ。とりあえず白焼きにでもしてみようかな。ウツボは食べたことないけど、ウナギみたいなもんでしょたぶん。
尻尾側の切り身を1枚、まな板に置く。そして、鉄串を取り出し、皮と身の間にぶすり。四本刺して、調理用のコンロの上で焼きはじめる。
”あー!!いけません!!"
”蒲焼きは想定しなかった"
”くっそ美味そうな音してる!!"
”手元に飯がなかったら死んでたぜ…!"
脂がそこそこあるようで、いい感じの音と匂いがする。やっぱりウナギみたいだなこれ。皮に焦げ目を付けて、身にも焦げ目を付けて……ちょっと火から離して余熱で火を通す。
見た目は完璧な、砂ウツボの白焼きが完成した。しかし、問題は味だ。
「……いただきます」
何度やってもこの瞬間は緊張する。見た目は美味しそうなのに、美味しくないなんてよくあるパターンだ。バロメッツとか。とりあえず端っこにかぶりつく。パリパリの皮、ホロホロと崩れる身と濃厚な脂の風味が口に広がって……
「!?美味しい……!」
ど、どうしよう。想像以上に美味しいんだけど…!二口目を食べても美味しい。ちょっと脂が多く感じるので、わさびをつけて、三口目をかぶりつく。口の中がさっぱりして、うーんたまらん…!あ、これ柚子胡椒もあうんじゃない?……やっぱり美味しい!この辺でまた素の味を楽しんで…
そんなこんなしていたら、あっという間に切り身1枚食べきってしまった。
「はぁ、美味しかった……」
”マジ???"
”あ"ー美味そう!!"
”ぐあぁぁぁぁぁあああ!!"
"めっちゃがっついてるの可愛い”
”酒に合いそー!"
”薬味までばっちり持ち込んでるの草"
”これは蒲焼きの流れでは…?"
”死人出るでそれは…!"
もうこれ、当初の料理予定を無視して全部蒲焼きにしたい…うな重ならぬ砂ウツボ重を作りたい…!
…………いや、冷静に考えれば、別に両方作っても良いな。思ったよりうまく解体出来たから、量も多いし。そもそもこんなに食べ切れない。切り身を持ち帰るためにタッパーとキッチンペーパーを取り出す。ペーパーで包んでタッパーに入れて、収納魔法の中にイン。お父さんがお酒好きだし、この食べ方は家で作ろう。きっと喜んでくれるはず。
未成年のドロップアイテムの持ち出しは禁止されているが、食材、もといモンスターの死体の持ち帰りは禁止されていないので、何も問題はない。……持ち帰るやつがいないとも言う。
そして、当初の予定の料理を作るべく、寸胴鍋と飯盒を取り出す。
さぁ、ウツボカレーを作るぞ!
”あ、あれ蒲焼きは…?"
"生殺しじゃないか…!”
"あれは…!!”
"寸胴鍋と飯盒…だと…!?来るぞお前ら…!”
"カレーの時間だー!!”
"ウ、ウツボカレーだと…!?”
"そんな!?僕のデータにないぞ!?”
"誰のデータにもないぞ”
"それな”