【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とシャボン玉

 

 翌日、彩音さんと一緒に『魔女の大鍋(コルドロン)』に向かうと、小川さんが説明会を開いてくれた。

 小川さんがやると聞いて、大丈夫かどうか不安で仕方なかったんだけど、結論としては仕事はちゃんとする人だったので問題なかった。

 あのマシンガントークが始まったらと思うと気が気じゃなかったよ。彩音さんと一緒だし……いや、むしろ一緒だから抑えてくれたのかな?流石に本人の前では……『魔女の大鍋(コルドロン)』の人がそんなこと気にするわけないな。うん。

 資料を渡されて、小川さんから1時間くらいの説明を受けて……その後、用事を済ませるべく白石さんの部屋に向かった。

 挨拶をして部屋に入ったあと、白石さんにストレートに質問された。

 

「どうだい?『魔女の大鍋(コルドロン)』の条件は」

「……条件が良すぎて詐欺を疑いたくなった」

「ゆ、夢希ちゃん……!」

 

 ストレートに思ったことを言ったら、横から彩音さんにつつかれた。いやだってさぁ……

 

「だろうね」

 

 白石さんも呆れ半分な顔をしているし、自覚はあったんだね……

 そもそもとして、『魔女の大鍋(コルドロン)』というクランは、世間からの評判という点では良くないクランだ。マッドサイエンティストの集団だと思われているからね。功績が凄まじいから許されてるだけで、ちょっとアレなクラン。みたいな感じである。 

 そんなクランが圧倒的な好待遇でクランメンバーを募集していたら、どう思うだろう?

 結局のところ、私の感想はそこから出てくるものなのである。つまり、絶対詐欺でしょこれ。という身も蓋もない感想である。

 

「わ、私は、とってもいい条件だと思いましたよ!」

「じゃあ、入ってくれるかい?」

「えっ!?……そ、それは……そのー……」

 

 白石さんの言葉に、彩音さんの目がしっちゃかめっちゃかに泳ぎまくっている。その反応がすべてを物語ってるよ、彩音さん。なので、私からも追撃をする。

 

「……ぶっちゃけどう思う?この条件」

「………………正直、詐欺かなとは思った……」

「だよね」

「とはいえ、これくらいしないと旨味がないだろう?『魔女の大鍋(コルドロン)』に探索メンバーとして入るなら」

 

 彩音さんが観念したように顔を覆いながらその結論を口にする。そして、白石さんからも辛辣な意見が出る。まぁ、それは分からなくもないんだけど、うーん……

 だって、本当に内容がとんでもないのだ。学生の私ですら、そこまでやっていいの?みたいな感じなのである。

 まず、機密保持の観点から、寮には強制入居することが義務になっているんだけど、その家賃が無料。

 流石に水道光熱費は自腹だけど、それでも家賃が無料っておかしくない?鬼灯だって家賃払ってるよ?

 まぁ鬼灯の場合は、家賃というか、何かあったときの修理費の積み立てみたいなものらしいけど。水道とか電気設備の修理費なんかがそこから出るんだそうだ。

 さらに、新設されるダンジョン探索部門として入るなら、バックアップとして『魔女の大鍋(コルドロン)』が全面協力する。というその一言だけであまりにも強烈だった。

 ユニークスキルの解析、マジックアイテムの支給、装備品の開発研究といったものに留まらず、研究内容の公開や各種資料の用意なんかもしてくれるとのことで……いやもう、どういうことなんだと言いたいレベルである。そこまでしてでも人手が欲しいのか?そんなに切羽詰まってるのかな?

 それと、ここまで来るとなんというか……

 

「何より、あとで人体実験の材料にされそう」

「入った時点でそうなるのは確定だろう?何を言っているんだ」

「……」

 

 白石さんこそ何を言ってるんだ……?あまりにもバッサリと言ったから、彩音さんと一緒に絶句してしまった。えぇ……?

 

「?そんなに固まることかい?」

「いやいやいや!そこで疑問に思うほうがおかしいんじゃないですか!?」

「そうかい……?あぁ、そういうことか」

 

 白石さんは、彩音さんの叫びにしばらく納得がいってなかったようだけど、少し考えて何かを思いついたようだった。

 

「人体実験と言っても、薬物投与とかそういう話とかではなく、各データの収集をさせてもらうだけさ。レベルの上昇にともなうスキル、戦闘方法、身体能力の向上……色々と調べたくはあっても、戦闘畑の人間がほぼいないせいでどうにも研究しにくかったからね」

 

 魔法職専門の研究クランだから、確かにそういったところは分かりにくいのかもしれない。なので、そのデータが欲しいっていうのは分かるんだけど……

 もうちょっと、『魔女の大鍋(コルドロン)』の人たちは自分たちがどう見られているのか自覚した方がいいと思う。というか、それって人体実験……ではあるのか。人体で検証してるわけだしね。言葉の響きがあまりにも酷いけども!

 探索終わりに、毎回健康診断をしてくれるって説明されたんだけど、そのついでデータの収集を行うんだそうだ。絶対そっちがメインでしょ。やはり詐欺では……?

 ただ、研究のついでとはいえ、健康診断してくれるのもありがたいんだよね。腕とか、軽く切ってたりすると気付かないこともあるし。お風呂で傷が染みて初めて気付いたりするんだよね。

 

「デメリットも相応にあるし、これくらいないとっていうのはわかるんだけどね……」

「やっぱりここまでやると怪しいですよ……」

「我々は常に怪しいだろう。今更だよ」

 

 白石さんの開き直った発言に呆れる。それはまさしくその通りなんだけども。

 ここまで色々とメリットを並べたけど、デメリットも大きい。まず、『魔女の大鍋(コルドロン)』には、ダンジョン探索のノウハウが全くないのだ。基本的にダンジョン潜らない研究畑の人間しかいないから、そこに関しては何の役にも立たない。

 また、ダンジョン内での研究も仕事に入っている。魔法の試し撃ちとか、マジックアイテムの耐久実験なんかだ。ダンジョン内である以上、結構危険だしね。

 それに関係してなのか、入団試験がレポートの提出だった。そりゃそうかって感じではあるけどね。

 つまり、デメリットとしては、探索を行う上でさらに危険な行為を行うことになるわけで、結構厳しいと思うんだよなぁ……それに、これ多分配信出来なくなるよな……?機密情報映すわけにいかないし……いや、そういう機密事項が関係ない時にすればいいのか。

 ん?いや待て。私はなんで配信を続ける前提で考えてるんだ……?

 自分の思考回路に疑問を抱いていたら、白石さんに話しかけられたことに気付かなかった。

 

「夢希、今回頼みたい用事なんだが……大丈夫かい?」

「……あっ、ごめん。ちょっと考え事してた」

「そうか……今は、陽向と一緒に中庭にいるはずだ」

 

 犬束さんと一緒に中庭に、ね。昨日のうちにその子のプロフィールは少しだけ教えてもらった。見た目とか名前とか。とりあえず、中庭に向かって話をしよう。それが今日の私のメインだ。

 

「うん、分かった……犬束さんに伝えることはある?」

「ふむ……こちらに戻ってくるように伝えてくれるとありがたいな。彩音さんと話したがっていたしね」

「え、私と?」

 

 急に話を振られた彩音さんが驚いている。今の件では、彩音さんの出番はないはずだったもんね。そもそも、説明会のあとに彩音さんがここにいるのは、白石さんにユニークスキルの解析を依頼するためだ。ここほど正確なところないしね。

 

「ああ。以前のことについて、改めて話があると言っていたからね」

「私も前に会った時に謝られたよ」

「もう、手紙までくれたんだから、気にしないで良いのにね」

 

 彩音さんはちょっと呆れたように言っているけど、顔は笑顔だ。

 白石さんが、そんな彩音さんに質問を投げる。

 

「ところで……彩音さんは何故私のところまで?」

「ユニークスキルの解析をお願いしたくて……」

「ふむ……何か問題でも?」

 

 一応持ってきた彩音さんの武器の残骸を見せつつ、一通り説明する。特にデメリット周りの話を。

 

「……《乾坤一擲》は効果にブレがあるスキルだ。あくまでも『超強力な投擲』が出来るというのが統一されているだけでね」

「そんなことあるんですね……」

「ユニークスキルはそういった物がそれなりにあるんだ。細かいところが当人に合うように調整されるんだろう……というのが今のところの『魔女の大鍋(コルドロン)』の結論だ。まだまだ研究する必要はあるだろうが……」

 

 白石さんはしばらくテーブルの上にあったタブレットを操作した後、立ち上がって彩音さんの前に立った。

 

「さて、それでは地下に行こうか」

「え」

「地下に実験場がある。そこで解析を行おう」

「い、いいんですか?」

「問題ないよ。デメリットの解析だけなら全くもって大丈夫さ。そんなに気にすることでもない、気軽に行こう」

「…………」

「…………」

 

 彩音さんと顔を見合わせる。考えてることが完璧に同じだと思う。そして、白石さんに視線を戻した。

 白石さんはそんな私たちを見て、ちょっと狼狽えながら疑問を投げかけてきた。

 

「な、なんだい?」

「要求は先にしたほうがいいよ。怪しいから」

「……善処しよう……」

 

 いや、目を逸らさないで。ちゃんと見て。

 そして、要求はドロップアイテムの鑑定だった。とりあえず性能だけ知りたかったらしい。他はいらないから、是非見せてくれ!とのことだった。

 特にこっちに不利益はないから承諾したけど、まずちゃんと話してほしいよねまったく……

 

 

 2人と別れて中庭に到着したところ、犬束さんが大量のシャボン玉に囲まれながら逃げ回っていた。綺麗な水色のシャボン玉だ。

 そして、そのシャボン玉を操っているらしき女の子が一人。

 

「へっへーん、そんなんじゃまだまだ捕まらないっすよー!」

「……《焔玉泡(ほむらのたまあわ)》」

「え、ちょ!?そんなに増えるんすか!?」

「えいっ」

「ちょ、まっ!多すぎっす!!あっ、ぎゃー!!」

 

 そして、その女の子を犬束さんが煽ったのちにさらに大量のシャボン玉が彼女から吹き出した。そして、一斉に犬束さんに襲いかかり……()()()()

 

「うぅ……髪がチリチリになったっす……」

 

 爆風が消えると、色んなところが焦げているような犬束さんが姿を現した。

 なんか大丈夫そうだな……髪の毛がチリチリになってるけど、怪我は多分なさそう。爆発するシャボン玉を生成する魔法がユニークスキルとは聞いていたから、今のがそうなんだろう。威力の制御も完璧。努力したんだろうな……後で教えてもらおう。見た目がすごい綺麗だから使ってみたい。

 近づいていったら、女の子が気付いた。彼女が、玉ノ井美月(たまのいみつき)ちゃん。11歳。綺麗な黒髪を肩甲骨辺りまでで切り揃えたストレートにしていて、とても艷やかな感じだ。真っ直ぐなストレートなのが本当に羨ましい……

 陽に当たると髪がきらめいて、とっても綺麗だ……あと、私よりも身長が高い。年齢差を考えて、ちょっとへこんだ。

 そんな私を見ながら、きょとんとしながら首を傾げる美月ちゃん。髪がさらさらと流れていく。いや、本当に色んな意味で綺麗な髪だなぁ……あと、目が明るい水色なのが似合ってるな。シャボン玉と同じ色だ。

 

「……?誰ですか?」

「はじめまして」

「あ、夢希ちゃんじゃないっすか!お久しぶりっす」

「犬束さんは久しぶり」

 

 ぷすぷすと煙を上げつつ犬束さんがこちらに来る。なんか心配になってきたんだけど、本当に大丈夫なんだよなこれ……?本人が気にしてなさそうだし、大丈夫だとは思うけど……

 

「……夢希ちゃんさん?」

「夢希ちゃんでいいよ。敬語もいらない。美月ちゃん。でいいかな?」

「いいよ。夢希ちゃん」

 

 可愛らしく微笑みながら頷く美月ちゃん。私と違って表情筋が死んでないな……

 美月ちゃんは、犬束さんの方にちらと視線を向けたあと、私に視線を戻した。そして、意を決したように一度唇を噛んでから、話し始めた。

 

「…………ねぇ、夢希ちゃん、陽向」

「うん、何?」

「なんすか?」

 

 普通に対応してるけど、犬束さん呼び捨てにされてるのか……気安い関係なのかな?

 ちょっと思考が横にズレた私目掛けて、美月ちゃんが不安気にポツリと呟く。

 

()()()()()()()()()()()?」

 

 ……ああ、うん。やっぱり私が適任だろうなこれは。

 納得している横で、犬束さんがニコニコと答える。

 

「楽しいっすよ!小学校に比べると授業難しいし、補習とかもあるっすけど……でも、その分色んなことが出来るようになるっす!部活とか委員会とか!」

 

 犬束さんの熱弁に、申し訳ないけど、私はちょっとついていけなかった。当たり前なんだけどさ。

 美月ちゃんも、いまいちわかってなさそうだ。

 次は私が、美月ちゃんの質問に答える。あくまでも私から見た中学校というものを。

 

「ここの会議室と同じくらいの広さの部屋に、君と同い年の子がたくさんいて、爆発音があんまりしないところ」

「静かなところ?」

「ううん、代わりに人の声がうるさいんだ」

 

 私の説明に目をパチクリしながら、それでも興味を持って聞いてくれる。

 

「どのくらい?」

「テンションの上がった『魔女の大鍋(コルドロン)』の人たちくらい」

「……それはうるさいね」

 

 美月ちゃんが、呆れたようにはにかみながら頷く。

 あ、そうだ。犬束さんに白石さんの伝言を伝えないと。

 

「そうだ。犬束さん、白石さんが戻ってきてくれって言ってたよ。地下の実験場に行くって」

「マジっすか。何番です?」

「何番……?」

 

 な、何番……?番号で割り振られるくらいたくさんあるのか!?地下に実験場が!?どうやって……?

 私の混乱を察知したらしい犬束さんが話を切り上げた。

 

「あっ、オッケーっす。とりあえず行ってくるっす。じゃあ、夢希ちゃん、美月ちゃん。また今度っす!」

「うん。またね陽向」

「またね」

 

 2人で慌ただしく駆けていく犬束さんを見送った。

 ちょうどその時、『魔女の大鍋(コルドロン)』のどこかから爆発音がしたので、2人で視線を合わせたら、お互い呆れたような顔をしていて笑ってしまった。

 




次回は主人公以外の視点からの予定です。
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