【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
時系列とか関係なく、なんだか思いついたので書いたものになります。
本編は予定通り明日投稿します。
「ウーム……」
ボクは自宅の冷蔵庫を覗き込みながらうなっていた。理由としては、一時の気の迷いで買ってしまったこいつをどうしようか。ということである。
とりあえず取り出して、机の上に置く。結構な存在感がある。半分くらい食べたはずなんだけどなーコレ……
「まさか、食べても減らないということを苦痛に感じるとは……」
机の上に鎮座しているのは、生ハムの原木である。骨付きのデカいやつだ。
ちょっと気になって通販サイトで検索してみたら、たまたまセール中で金額が大分安く、これならいけるやん!!って勢いに任せて買ってしまったのである。届いたそれを見て大喜びして踊ってしまったのは大体二ヶ月くらい前の話。
その後少しずつ削りながら食べ続けていたのだが、思ったよりも量が多い。いや、確かに。確かにさ。6キロもあるんだよこれ。調子に乗った自覚もあるよ。でもさ、なんていうか……マジで減らないんだよな……
お皿いっぱいに盛っても、削ってるから一枚一枚が結構薄いんだよね。その結果として、全然減ってないんだよな。マジで減らない。そりゃ最初はめちゃくちゃ喜んだよ。部位ごとの味の違いなんかを楽しんだり、こんなに食べたのに減ってない!ってさ。でも、何事も限度ってあるよね……
ちゃんとラップとか変えたりして保存してたんだけど、だんだん見るのすら嫌になってきちゃったんだ……
「……よし、取引に行こう」
こういう時は取引だ。酒飲み同士だからこその取引である。クランには山ほど酒飲みがいるのだ。いくらでもできる。例えば、ちょっと高めのワインを買ったはいいけど、好みじゃなかったから交換して!いいよ!お返しはこのワインな!みたいな取引。同じように、つまみなんかはよく取引されてる。
というわけで、好きなだけこの生ハム削っていいですよ。代わりにつまみ譲ってください!の取引開始である。
まず最初にやってきたのは、サブマスターの早乙女さんの部屋だ。『
早乙女さんは……一言でいうなら気のいいおじさんである。めっちゃ強いんだけど、それを鼻にかけたりしないで物腰柔らかな感じだ。昔から何かとお世話になっているから、真っ先に行く。あの人赤ワイン好きだし、生ハムも好きだって言ってたし。
淳平があこがれてるらしくて、態度とか真似してるんだよね。昔はもっとやんちゃだったんだけどなーあいつ。今の口調なんかも似合ってるけどね。たまにテンパると昔の地が出るけどな。
とりあえず、部屋をノックノック。鬼灯ちゃんの生ハムデリバリーでーす。
扉が開いて、茶髪を短く刈り揃えた、少ししわのある男性が出てきた。表情も柔らかくて、やっぱり気のいいおじさんって感じだよなー……本人にそういうと傷つくみたいだから言わないけど。褒めてるつもりなんだけど、オジサンって言葉の響きが嫌なんだってさ。よくわかんないや。ボクもオバサンって言われるようになったらわかるのかなー?
「はいはい出ますよー……ん?鬼灯ちゃんか。どうしたんだい?」
「どうもー。おつまみの取引してくださいな」
「おぉいいよ。とはいえ、日本酒好きの鬼灯ちゃんが気に入るものがあるかなぁ……」
要件を伝えたら、笑顔で部屋に入れてくれた。ちょっと酒の匂いがするから、すでに飲んでたなこの人。まあ、『
部屋に入って、収納魔法でしまっていた生ハムを机の上にドカンと置く。早乙女さんが固まった。
「え、これかい……?」
「好きなだけ削っていいですよ!」
「いやあ、美味しそうだけど、これと釣り合うようなものがあるかなぁ……?」
早乙女さんが冷蔵庫をごそごそと漁り始めた。ご飯は食堂で食べられるから、個人の部屋の冷蔵庫には、大体つまみと酒しかないんだよね。
さあ、これが何に化けるかなぁ?
「お皿いっぱいに削っても、意外と量ないですよコレ。二ヶ月かけてもこの量残ってるんで」
「そんなにかい。うーんそうだなぁ……あ、これとかどうだい?カマスの干物!」
早乙女さんが冷蔵庫から取り出したのは、カマスの干物である。
うーん合格!めっちゃ美味しそう!まず、魚の干物って美味しいよね。そして、しょっぱいやつは日本酒に合う!完璧!!
「ありがとうございます!もらいます。じゃあ、好きなだけどうぞ!」
「お、それはよかった。いやぁ、ここから自分で削るの初めてだよ」
年甲斐もなくワクワクしちゃうなぁ。なんてニコニコしながら早乙女さんが皿を持ってきて、ナイフで生ハムを削り始める。こういうところがさ、なんだか可愛いよね。
薄く切られた生ハムがお皿に積みあがっていく。皿がいっぱいになったころ、早乙女さんがナイフを置いた。
うーん、やっぱり全然減ってねーこの生ハム。実は増えてたりしない?……そのことに気付いた早乙女さんが目を見開いた。
「……これ本当に減らないんだねぇ……」
「そうなんですよ……もうちょっといきません?」
「いやあ、流石にこれ以上はいいかなぁ……また今度頼むよ」
苦笑しながら断られてしまった。また今度……ありそうだなこのペースだと。
お礼を言って退散する。とりあえずカマスの干物ゲットだぜ!あとで焼いて食べよー。
お次はー……月島さんとこ行くか。ボクと同じく日本酒好きだからな。日本酒派閥すくねーんだよなー。『白の騎士団』はビールが最大派閥です。次がハイボールとチューハイ。ワインとウイスキーが同じくらいで、さらにその下に日本酒と焼酎って感じ。
日本酒派閥の月島さんの部屋の扉をノックノック。生ハム配送の時間だおらー。
ドアが開いて、金髪を刈り上げたヤンキーみたいな男性が顔を出す。相変わらず雰囲気がアレだけど、優しい人なんだよねー。
ツンデレなだけで!そう、ツンデレなだけで!『てめえを助けたわけじゃねぇからな!』とか素で言うタイプ。
「おお?鬼灯じゃねぇか。どうした?」
「どうもー。つまみの取引に来ましたー」
「あぁん?いいぞ。ものはなんだ?」
「これです。好きなだけ削っていいですよ」
机にドカンと生ハムを召喚!見開かれる月島さんの目!固まる体!
さっきも見たなこの光景。でも、二度見てもおもろいなこれ。
「すっげぇもんもってきたなぁおい!しかも好きなだけと来たか!」
「いやマジで減らなくて……助けてほしいんすよー」
「あぁ?そんなわけあるかよ」
皿に削って盛っていく月島さん。皿いっぱいに盛りつけたのち、少し離れて生ハムを見る。
「マジで減らねぇなこれ!嘘だろ、これだけ盛ったぞ!?」
「最初はテンション上がったんですけどねー……だんだんウンザリしてきちゃって」
「どれだけかけてこうなった?」
「大体二ヶ月です」
「おお、マジか……俺も買うかなこいつ。いくらした?」
「セール中だったんで二万円っす」
「マジかよ最高じゃねぇか!情報料込みでそうだな……こいつでどうだ?」
月島さんが取り出してきたものを見て固まる。ゑ、マジで!?
「ウナギ!?」
「おう、貰い物なんだけどな」
「い、いいんですか……?」
「もってけもってけ!こんだけもらったしな!」
「ぅわーい、やったー!ありがとうございまー!!」
うひゃー!ウナギだー!!生ハムがウナギになったー!ひゃっほーい。ウナギをつかんで小躍りしてしまう。
上がったテンションのまま、月島さんに今度一緒に飲もうと約束をして撤退。時間的にあと一人くらいが限界……うん。淳平でいいか。
あいつチーズとかさきいかとかが好きなんだよねー。下戸なのにつまみが好きっていうよくわからん生態をしているのだ。生ハムも好きだった気がするし、交換してもらおう。
というわけで部屋に突撃。ドアをバンバンと叩く。開けろ!鬼灯ちゃんだ!
「夜にドアを叩くのはやめてくれ童部」
「さっさと開けないのが悪い」
「初手からだったじゃないか……!」
ドアを開けた淳平をかわしてするりと部屋の中に。後ろなんか言ってるけどスルースルー。
相変わらずなんかおしゃれな部屋してんなー……モダンっていうかなんていうか。よくマンガ読みに来てるから、勝手知りたる部屋だけど。お父さんがマンガ好きとかで、実家に帰るたびに部屋のマンガが変わってるんだよなー。若干チョイスが古いから、同年代には通じないけど。でも、名作ぞろいで面白いし、淳平とは感想言いあったりしてるから、それでいい。
まーそんなことは今はどうでもいいので、机の上に生ハムをどーん!
机に置かれたどでかい生ハムを見て淳平が固まった。うーんやっぱこの反応面白っ!
「つまみの交換しに来た。拒否権はない!」
「君は本当に……僕を何だと思ってるんだい?」
「おん?よくできた後輩」
「……あぁうん……そうか……」
どうした?頭抱えちゃって。実際よくできた後輩って感じだしなぁ……幹部候補で頑張ってるし、指揮だって優秀。クラン内で対人トラブルなんかも聞かないし、貸し借りしっかりするタイプ。非の打ち所がないとはまさにこんな感じだろうなって。いや、非あったわ。下戸なのがダメだ淳平は。
あとは、同年代の友達か。マジでいないから珍しいんだよねー。ボクがわがままいっても怒らんし。夢希と同じ枠というか。
まあ、度が過ぎると普通に叱ってくるが。キレて暴言はいたりするわけじゃないから、実に気が楽である。怒鳴りもせんし。
「それで……えっと、つまみの交換だったね。といっても、今はこれくらいしかないよ」
淳平が取り出してきたのは、なんかつまみのバラエティパック的な奴。サラミとかチーズとか色々入ってる。
普通に嬉しい。自分でチーズ系買わないからなー。ちなみにこんな身体でもチーズ……というか、乳製品は大体大丈夫。血液由来だからかねー?
「十分!ありがとな。いくらでも削いでいいぞー」
角がどっかにひっかからないように気を付けながらソファにダイブ。このいい感じの弾力がたまらないぜ……ソファを堪能しつつ、横の本棚を見る。前回と入れ替わってないな。よし、今度来た時に続きを読もう。いいとこで終わったんだよなー。
「いくらでもって……大丈夫なのかい?金額的に」
「ぶっちゃけ赤字だけど、二ヶ月かけてもこれだけ残ってて、もう飽きたんだよボクは……」
「それくらい想像つくだろうに何で買ったんだ君は……」
生ハムを削りながら、すさまじく呆れたように言ってくる淳平にカチンときた。なんだぁおめぇ……!
「うるせー!セールで安かったんだよ!!誰だって一度は考えるだろ生ハムの原木がある生活!」
「……いや、憧れというか、そういうのがあるのは分かるさ……ただ、もう少し計画性をもってだね」
「計画通りに進む人生とかつまんなくね?」
「最低限の計画を立ててから言ってくれるかい?我らが突撃隊長。フォローしているこちらの負担も考えてほしいものだが?」
「……ぴゅー」
「はぁ……」
目をそらして口笛を吹いてごまかす。淳平のため息が地味にグサッと来た。
確かに、もうちょい色々考えないといかんかー?……いや、どっちかっていうとボクの方がフォローに回ってねーか?前線崩れたりしたら、即援護に行くのはボクだぞ?
なんて考えていたら、淳平から釘が飛んできた。
「ちなみにだけど、ダンジョンの外での話だからね」
「……淳平、思考読めるスキル持ってる……?」
「そんなわけないだろう……色々とわかりやすいんだよ君は」
ゑ、マジ?そんなにわかりやすいか!?
なんだが淳平に対して謎の敗北感を感じたものの、時間も時間だし目的は果たせたので退散。
さ、部屋に帰って、もらったもので豪華に飲むぞー!!
なお、自分で食ったり、取引したり、飲み会にもっていったりして、生ハムの原木がなくなるのはあと一か月後の話である。もう二度と買わねー……
原木は買ったことないんですけど、塊買ったらマジで減らなくて絶望しました。
たまに、こういう感じで思いついたものを投下していくと思います。
水曜日以外に投稿されたら、閑話なんだなと思ってください。