【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
今日はダンジョンに潜る。彩音さんと相談した結果、クランの説明会は土曜日や日曜日に複数受けることにした。そうでないと、毎日どこかしらに行くことになって大変だからである。主に私のストレスが。ダンジョンに潜れない日々が辛すぎる……彩音さんからは、もう住んじゃえば?と言われたので、真面目に検討しようか迷っている。栄養価の偏りをどうにかできれば住めそうではあるし。
それと、未だに増え続ける勧誘の便りに、彩音さんが小糸さんに協力を要請し、候補だったクランからさらに絞るそうだ。大手だけあって、色々と情報通みたいだ。
そんな私はというと、鬼灯と会っていた。昨日連絡があったので、駅で待ち合わせである。待ち合わせの出会い頭、鬼灯から頭を下げられた。
「今回ぶっ倒れた件のお詫びで、差し入れ用意したくて。前回めっちゃ好評だったし。つーわけで頼む!この通り!」
両手を合わせてまで頭を下げる鬼灯。そんなにかしこまらなくてもいいのに。私たちの仲じゃないか。
「分かった、手伝うよ。けど、鬼灯は大丈夫なの?クランの方は?」
「おん。今日まで休みだからな。明日からは金策に駆け回ることになると思う」
鬼灯の頼みを二つ返事で了承する。トロルの時に助けてもらったし、ちょっとしたお返しになるといいな。
にしても、好評と聞くのは嬉しいものだ。ふむ……将来的に、魔物料理の専門店でも経営しようかな。朝から昼過ぎくらいまで潜って食材集めて、夜だけ営業とか……
そんな妄想は、鬼灯の言葉で消えていった。ダメダメ。後にしよう。配信中だったら、話のネタになるし。
「頼んどいてアレなんだけどさ、君としてはメリットある?」
「……スパインポルポのトゲをもっとうまく抜く研究がしたかったから、ちょうどいいよ。だから、付き合ってね」
「おん、任せろ。まー確かにあの方法はちょっとアレか……」
こう、体表面を甲殻で覆ってて、そこから生えてるのかと思ってたからあの方法取ったけど、なんていうか、皮から生えてるみたいなんだよねあのトゲ。オニヒトデを想定していたら、ハリセンボンだった……みたいな感じ。
ハリセンボンは魚だからともかく、タコにウロコはないだろって思うんだけど、モンスターだしね。あってもおかしくない。
「彩音さんもちょうどお休みだしね」
「おん?彩音さんとはそういうことしねぇの?」
「うーん、彩音さんが暇になっちゃいそうだしなぁ……」
実際、私がモンスターいじくり回している間、彩音さんがやることが思いつかないんだよね。リスナーさんたちと雑談するくらいか?それはそれで良いかもしれないけど、個人的にはちょっとね……
なんて話していたら、鬼灯から抗議が来た。
「いや、ボクはいいのかよ!」
「君はその光景を肴に酒飲んでるでしょ。しかも、味見とか言って勝手につまみにしてるじゃん」
「……おん、それはそう」
納得するのはやっ……いやまぁ、今までもそうだったしな……むしろ納得する以外ないよね。
電車に乗り込み八王子へ。その道中、鬼灯が何か思い出したように声を上げた。
「あ。それ彩音さんに話したか?暇になりそうだからってこと」
「話してないけど……話したほうがいいの?」
別に話すようなことでもなくない?彩音さんと行動してる時にはやらないってだけだし。なんて考えていたんだけど、鬼灯が言うには違うらしい。
「おん。パーティってそういうの大事だぜ?考えてること伝えるの。その結果、ケンカ……とまではいかなくても、意見の衝突くらいはしとかないと」
「……そういうもの?」
「おん、そういうもの。経験則的に。というか君、友達とケンカしたことねーの?」
「そりゃあるよ」
回数自体はそんなに多くないとはいえ、私だって愛依や凉とはケンカしたこともある。2人が喧嘩したときに仲裁したこともあるし。
言っちゃ悪いけど、鬼灯の方がそういう経験少なそうだと思うけど……私たちのいつものアレは、ケンカというかじゃれ合いだからなぁ。同年代の友達いなそうだし。
「彩音さんとは?」
「今のところない」
価値観の違いから、ツッコミを入れられることは多々あったけども。なんでだろうなぁ……
「だったら尚更だろ。ただでさえ溜め込みまくる人だぞあの人は」
呆れというか憐れみというかな感情を乗せた鬼灯の言葉に思い当たる節が多かった。確かにな……そういえば、前にもちゃんと話そうと思ったんだった……
「……分かった。ちゃんと話すよ」
「頼むぞー。友達がケンカ別れとか勘弁して欲しいからなー」
そんな風に話す鬼灯がなんだか大人びて見えて、ちょっとモヤモヤした。鬼灯はクランに入ってるからそういうところで経験積んでるのかな。私も、人と関わる機会増やさないとダメかな……?
諸々の問題に対する思考は横に置いておいて、今は冒険を楽しもう。集中してないと危ないし。今日行くのは上層とはいえ、命の危険は常にあるからね。
いつもの小部屋でいそいそと準備をして、配信を開始。前まで億劫だったのに、今ではなんだか楽しみなんだから、不思議なものだよ。
でも、有名にはなりたくないけどね。配信は楽しみつつも、配信者の看板は欲しくないのだ私は。
「……映像よし、音声よし。こんにちは、ユキです」
「ホオズキでーす。今日も飲みまーす」
"こんちはー”
"おひさー!”
"無事だったか!”
"彩音さんは?”
"ホオズキちゃんはさぁ…w”
なんだか、コメント見るのも久しぶりな気がするなぁ……挨拶に紛れて彩音さんのことについて触れているコメントがあったので、返答しておく。
「彩音さんは、武器壊れちゃったからしばらくお休み」
「壊しちゃったの間違いじゃねーの?」
「武器の破壊はスキルのデメリットだったから、私のせいじゃない」
「おん、そうか」
なんだか雑に流されたけど、本当に私のせいではなかった。前回調べてもらって判明したことだけど、彩音さんのスキルのデメリットはあくまでも武器の破壊。魔力切れが起こる原因は彩音さんが魔力を込めすぎていたからというのが判明した。とはいえ、込めた魔力に比例して威力が上がるとのことだったので、緊急時に全力をぶつけるのは何も間違ってない。
今はコントロールの練習中とのことだった。最低限の魔力でも結構威力が出るそうなのだが、『最低限の魔力を込める』というのが大変みたいだ。込め損ねると発動しないしね。
"そうなんだwww”
"あれデメリットなんか…”
"なんか真っ白だったもんな…”
"折れた時はこっちも焦ったけどなw”
"今日の予定は何ー?”
「今日は、スパインポルポのトゲの抜き方を研究したい」
「丸々食いたいもんなー」
「前は半分だったからね」
「半分でもかなり満足感あったけどな……」
鬼灯のボヤキに心の中で同意する。確かに満足感はあった。とんでもなく。ちなみに、お父さんにも大好評をいただき、愛依や凉の分がなくなったので、今回は2人の分も確保する予定である。
"量すげぇもんなあれ……”
"頭以外全部だしな”
"丸々1本はサイズすげぇんじゃね?”
"食べ切れんのか?”
「別に食べなくてもいいのが良いところだよ。何やっても誰にも怒られないし」
「もったいない!とか、食べ物を粗末にするなんて!とか言われないもんなー」
"確かにw”
"言う奴いたら、そいつは同類だもんな”
"同類は草”
"同類なんかいるわけねぇよなぁ!?”
いるわけないって君たちね。彩音さんは自分から食べたいって言ってパーティを組んでくれたわけだし、ここにいる鬼灯も食べてるんだから、それなりにいるんだぞ!
いやまあ、私が巻き込んでるだけといえばその通りなので、自発的に食べ始める人はいな……いや、少ないかもしれないけどさ。
「ユキとしてはどうなん?」
「?何が?」
「他の冒険者がモンスターの死骸放置していくことに対して」
「特に何も。強いて言うなら通路で戦った後は、死体を端に寄せてくれたら嬉しいくらい」
「……冒険者のリスナーいたらマジでこれ大事だからな。覚えとけよ」
そのすごい真剣なトーンで鬼灯が告げる。実際、通路の端に寄せるのは大事。邪魔だし。
私の場合、大体浮遊魔法でぽいっとやってしまう。量が多いときは燃やしてる。それも厳しいときはしょうがないけどね。でも、平時はしておきたいものだ。
"ガチトーンで草”
"はい!分かりました!”
"マジで通路の端に寄せるのはやっとくべきなんだよな…”
"そんなに大事なん?”
冒険者じゃない人には伝わりにくいかもしれないから、具体例を出すか……そうだな。
「モンスターから逃げてる時に死体が通路にあると転んだりして危ないんだよね」
「ちなみにダンジョンに潜りたての頃のボクは、そのまま放置してガチで説教食らった……小一時間。正座で」
「何してんの……」
「だって邪魔になったことなかったんだもん……」
なかったんだもんって……正直ちょっとわかるのがアレだけども!
でも、やるべきだと思うのでやっておくのだ。その方がこう……精神衛生上いいから。
"そう言われると確かに危ないな…”
"そんなに言われるくらいなのか…”
"説教一時間は草”
"そういや、ホオズキちゃんのクラン名は出さない方がいいのよね?”
「あ、頼むわ。一応」
"りょ!”
"オッケー!”
"大手のクランってことにしとくか”
"せやな。そうしとこう”
鬼灯のお願いを受け入れて対策まで考えてくれるリスナーさんたち。というか、なんで知って……トロルの時に話したりしてたっけ?
いや、小糸さんとあれだけ仲良さそうに話してたらバレるか。作戦会議の様子とか配信に乗ってただろうし。
コメント欄を凝視たままの鬼灯が、思わずって感じでつぶやきを漏らした。
「……マジでリスナーの統率取れてるな……」
「どこの配信もこうじゃないの?」
配信自体はほぼ見たことがないので知らないけれど、無名の私の配信がこれなんだから、有名どころなんてさらに統率取れてそうなもんだけどな。配信者側からも色々言ってるだろうし。なんていうかこう……軍隊じみてるイメージだ。迷惑かける配信者のところにはそういうのを楽しむ層が集まるみたいなのも、そういった感じだろうし。
「大抵もっと無秩序。厄介なやつがゴキブリみてぇに湧いてきたりする」
「ゴキブリって……」
"悲しいことにゴキブリであってるんだよな…”
"あいつらは何処からともなく湧くしな…”
"1人現れると増えるしな…”
"アレどうしたら消えるんだろうな…”
鬼灯の過激な発言にちょっと引いていたら、発言にリスナーさんが同意していく。嘘でしょ?
「……そんなに言うほどなの……?」
「おん。それが原因で辞めてく人とか結構いる」
大量のセクハラとか、誰それと関わるな!とか、酷いのだと個人情報バラまかれたり殺人予告なんてのもあるぞ。なんて話す鬼灯が遠い目をしていた。
あまりにも意味不明な世界が広がっているらしい。酷すぎてドン引きだよ。私のところにそういう人がいなくてよかった。
胸をなでおろしていたら、横から鬼灯に刺された。
「まー無いだろうけど、この配信も有名になったらそういうのが湧くぞ」
「絶対に有名になりたくない!」
本心からの叫びだった。もうそんな話聞いたら絶対に、有名になんかなりたくない。今のこのままがいい。
"ここまで承認欲求ない配信者見たことねぇよw”
"だがそれがいい”
"それな”
"マジでそう”
とここまでデメリットを並べられてふと思ったことがある。
「そもそもさ。配信者って有名になっていいことってあるの?ないよね?」
配信者が有名になってもメリットない説である。さっきまでの話聞いてたら、本当にメリットなくない?いや、そういう人たちに囲まれてでも承認欲求満たしたい!みたいな人はいるかもしれないけど、なかなかいないでしょそんな人。
そして、配信が楽しいというなら、今の私の規模ですら感じられるのだから、名声なんていらなくないか?
「たくさんあるだろ……」
あきれ果てた目線と声が鬼灯から私に投げられた。
「例えば?」
「配信を生活の基盤にしてる人だっているんだぞ?金を稼ぎたいなら有名にならないと集まらねーよ。企業からの案件とか、ファン投げ銭とか、グッズ販売とか。今だって、テレビのCMに出てたり、ギルドの人員募集のポスターになってたりするじゃん。ああいうのだって有名だから発生するメリットだろうに」
「…………」
ぐうの音も出なかった。いや、並べられたら納得するしかないんだけど。それに、知らないだけで結構社会進出してるんだな配信者って。
黙ってしまった私を見て、鬼灯がニヤリと嗤う。
「フッ……ハイ論破ァ!Fooo!」
「うぎぎぎ……!」
ちょっと変なダンスみたいな動作をしながら、ひょっとこみたいな顔でめっちゃ煽ってくる。
くっそムカつく!!けど何も言い返せない……!
"クッソムカつく顔してそうwww”
"めっちゃ悔しそうで草”
"すげぇ当たり前なことで論破されてんの草”
"やっぱ結構ポンコツだよな、ユキちゃんってw”
一連の煽りは、我慢の限界が来た私が鬼灯と鬼ごっこを開始したことで終わった。
昨日、閑話を投稿しましたので、読んでいない方は読んでみてくださると嬉しいです。