【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と因縁の対決

 

 今日、私はこの長きに渡る因縁に決着を着けるのだ。

 何度も正攻法で勝つことが出来ず、別の方法で勝ってきた。真っ向勝負では、一度も勝てていない。

 何度も挑み続けて、ついに真っ向勝負で勝てるかと思ったが、今度は相手にもされなかった。

 だから、今日。

 今日こそ決着をつけるのだ……!

 私は、手にした武器を握りしめ、大きく振り抜いた――!

 

 

 私は、いつものようにメインルートから外れたところにある行き止まりの小部屋で、配信の準備をしていた。今日は、渋谷ダンジョンに来ている。

 なんというか、このカメラを胸の前に取り付ける作業にもだいぶ慣れてきたし、配信そのものにも楽しみを見いだし始めたので、億劫に思わなくなってきた。

 これが、いい変化なのかどうかはよく分からない。楽しみが増えたのは事実だし、昨日みたいな失敗が起きてしまうのも事実だ。あと、配信者のくせに人気にはなりたくないっていうのも、どうなんだろうか?

 リスナーというものは、長く続けていればある程度は勝手に増えるものって凉に言われちゃったしなぁ……実際、今いるリスナーさんたちがそれにあたるわけで。

 そんな考え事をしている間にセッティング完了。スマホを取り出して、動画配信サイトを開く。

 

「……映像よし、音声よし。こんにちは、ユキです。今日は、渋谷下層に行くよ」

 

 "こんー”

 "こんにちはー”

 "今日は渋谷かー”

 "渋谷下層……ミノタウロス?”

 

 画面に向かって挨拶すると、挨拶が返ってくる。こういった小さなやりとりが楽しいと思う。

 だが、今日の私は楽しみを見いだしている場合ではないのだ……!

 

「今日は……今日こそは、Mr.クマを釣る……!」

 

 私は拳を握りしめながら宣言する。 

 あいつを釣ろうと決意してから数ヶ月。負けに負け続けて来た。最初は、釣ることすら出来なかった。釣りではなく、魔法で、道具で、無理矢理勝ってきたのだ。

 この前は彩音さんが釣り上げたけど、私は釣れなかった。そう、釣れなかったんだ!一匹も!!

 彩音さんの横で釣ってたのにも関わらず、何故か彩音さんの竿にだけ食いついた。餌も同じなのに。当時、ずっと竿を折られていたから、釣り上げられた時は本当に嬉しかった。自分が釣れなかったことは、悔しくはあったけど気にするようなことでもなかった。美味しく食べられたし。

 でも、なんか段々腹が立ってきたんだよね。だって、絶対におかしいじゃないか……!私がずっっっと追い求めた獲物だぞ!?なんで私じゃなくて彩音さんが釣り上げてるのさ!

 完全に八つ当たりだから、本人には絶対に言わないけども。それでも、悔しいものは悔しい。

 

 "あれ?前も釣ってなかった?”

 "あれは彩音さんが釣ってた”

 "ユキちゃんは釣果0だった”

 "そうだったわw”

 

「そう……だから、今日こそ、私が釣る……!」

 

 釣って食べる。というのはこの前やった。しかし、釣ったときの快感を私は知りたい。あと、食べ方については調べたいものがあるので、尚更ちょうどいいしね。

 美月ちゃんのお土産に出来ればさらにいい。あのあと、鬼灯からスパインポルポの脚を1本だけもらったけど、流石にそれだけじゃつまらないからね。

 

 "なるほどねw”

 "絶対に釣るという強い決意を感じるwww”

 "今までで一番気合は入ってて草”

 

 

 

 

 というわけで、いつだかやったRTAの要領で階層を駆け抜け、さっさと下層のいつもの小部屋に。

 今回は結界を張るのは後回しでいいので、さっさと竿を取り出し、餌の鶏肉を針につけ、池を前にまっすぐと構える。

 

「……行くぞ……!」

 

 "今から決戦でもするんか???”

 "トロル戦よりも気合入ってて草”

 "ユキちゃん的には多分一番の戦いなんだろうw”

 

 今日、私は、この長い戦いに決着をつける……!

 気合を入れて放った一投は、池の真ん中くらいに落ちた。結構遠いけど、冒険者の視力を持ってすればウキの動きを見ずくらい容易い。

 

 

 釣り糸を垂らしてしばらく。最初のヒットは、餌だけ取られて終わってしまった。

 

「……チッ、餌だけ取られたか……」

 

 思わず舌打ちしてしまった。良くないな……餌をつけ直しながら少し反省。再び投げる。

 

 "舌打ちすんなw”

 "ふふふ、その……やめておきますね……”

 "そうしろ”

 

 もののついでなので、釣りの間はスマホを浮遊魔法で浮かせて見ていることにした。基本的に暇だしね……すると、リスナーさんたちのコメントで気になることがあった。

 前々から言ってたんだけど、よく分からない。それに気になる。

 

「……時々、発言するの取りやめる人がいるけどさ。ならそもそも発言しなければよくない……?」

 

 やめておきますねっていうくらいなら、最初から発言しなければいいんじゃないか?と思ってしまう。それに、ちょっと何言おうとしたのか気になるし。

 

 "こういう様式美なんや…”

 "いわゆるネットミームなんだごめん…”

 "なんていうかこう…ね?”

 "あと、これは大体下ネタ隠しだから…”

 

 下ネタ隠し……いや、なんか下ネタに繋がるような事あったか今……?それと、ネットミームっていうと、凉がたまに使ってる記憶があるなぁ……

 

「……笑うことを草っていうとか、〇〇しかカタン?とか……あの辺?」

 

 "そうだね…”

 "知ってるのか…”

 "そうそう…”

 "せやで…”

 

 なんだなんだ?すごく歯切れが悪いぞ。普段だったらなんかそれはもうすごく、それこそ餌に群がる鯉のように飛びついてきて、教えてくれるのに……

 悪い意味ではなくね。私としては教えてくれて嬉しい。ものぐさな私としては調べる手間が省けるのは嬉しいのだ。冒険に関することなら私が全力で調べるけどね!

 

「なんでそんな微妙な反応なの?」

 

 "ユキちゃんの口からネットミームを聞きたくなかった…”

 "ネットにかぶれないで…”

 "ずっとそのままでいて…”

 "厄介でごめん…”

 

「えぇ……?」

 

 よく分からない懇願をされてしまった……まぁでも、ネットにかぶれる……というか、そんなに詳しくなるほどネットに触らないとは思うから大丈夫だと思うよ。凉経由でちょっと知ってるくらいだし、意味はよく分かってないし。なんなら、一部どういう文字列なのかも分かっていない。だから、大丈夫だよ。

 なんだが、こんなことを大丈夫だとか考えるのが馬鹿らしくなってきたので、釣りに意識を集中する。さっきの当たりから、一切竿が動かない。

 

「うぎぎぎ……本当に釣れない……」

 

 "マジで釣れないな…”

 "アヤネさんと何が違うんだろう?”

 "釣り場所変える?”

 "場所変えるのはいいかもしれない”

 

 確かに。場所を変えてみるのはいいかもしれないなぁ……いつもここで釣りをしているから、学習されている可能性はある。いや、そんなことを学習しないで欲しいものだけどね。モンスターなんだから。

 となると、別の場所で、他の人があまり来ないところ……うん、あの辺とかあの辺とか……いくつか候補はあるから、そこに行こうかな。

 

 "そもそも、いないかもしれんしな”

 "レベリングで消し飛ばされてる可能性あるな”

 "魔法職のレベリングに使われてるしなぁMr.クマ”

 "そうなん?”

 "池に向かって雷魔法ぶち込むだけでめっちゃ安全”

 "あぁ、なるほど…”

 

 リスナーさんたちのコメントを見て思い出す。確かに、Mr.クマは魔法職のレベリングに使われてるんだよね。下層入りたての魔法職のレベリングに本当に最適なんだよなこいつ……水中に入らなければ安全だから、適当に岸辺から魔法を叩き込むだけでいい。

 となると……レベリングされていない、もしくはレベリングが出来ないような水場……うん。あそこしかないな。

 

「よし、巨大湖に行こう」 

 

 

 渋谷ダンジョンの下層は3層に別れている。その中で最も深い、下層第3層には巨大な湖があり、見た目の通り巨大湖と言われている。本当に大きくて、普通に湖岸に立つと対岸が見えないくらいである。

 

「巨大湖のこっち側は基本的に誰も来ないし。のんびり釣ろう」

 

 "こっち側というか…”

 "湖飛び越えた先なんだよなぁ!?”

 "そりゃ来ませんよwww”

 "めちゃくちゃ力技で人払いしてんの草”

 

 湖の端に通るための道とかもないので基本的に片側にしか冒険者がいない。よって、反対側に行けば誰もいないのである。一応、もう一個下の層、深層からこっちに来る道はあるけど、そもそも来る理由がない。だって、帰るにしたって行き止まり。モンスターから逃げるに決まって背水の陣になるだけだからである。

 水が欲しいなら、深層にも池はあるからそこに行ったほうが安全だ。ここは広すぎて、まともな方法ではMr.クマを殲滅できず、下手すると食われるんだから。

 というわけで、気を取り直して再び釣りを再開。今度こそ釣ってみせるぞ……!

 そして、またまったくヒットがないまましばらく。ふと思い出した疑問をリスナーさんたちに投げつける。

 

「…………そういえばさ、リスナーさんたちって普段何してるの?配信始めると絶対にいるけど」

 

 いやこれ本当に疑問だったんだよね。だってさ、絶対にいるんだよ?いつ始めても、どれだけやっても。おかしくない?どんな生活スタイルしてるんだろう。学生ならまぁ分からなくもないよ?私と同じスケジュールになりがちだろうしさ。

 そんなことを思いながら配信画面を見る。

 

 "自営業だゾ”

 "大学生でーす”

 "冒険者”

 "学生”

 "会社員”

 

 リスナーさんたちのコメントを読む限り、成人済みの人と学生が半々くらいだろうか。冒険者の人もやっぱりいるね。自営業とか会社員とか、普通に仕事をしている人もいる。そんな人達が集まって見ててくれるのは嬉しいな。わざわざ時間割いて……?

 

「……会社員の人って私のタイムスケジュールで配信見れるの?無理じゃない?」

 

 絶対に無理じゃない……?私の中では、普通?の会社員の人って大体18時くらいまで仕事してるイメージあるんだけど……配信開始が大抵17時前なんだから、無理では……?

 

 "配信見るために転職したから無問題”

 

「え"」

 

 リスナーさんのあまりの発言に変な声出ちゃったよ!いや、そんなことする!?こ、こんな配信を見るために転職!?自分で言うのもアレだけど、配信としては下の下だと思うよ!?

 まぁ、改善するつもりはないけども。変に改善したら人が集まっちゃいそうだし……

 

 "ヤバwww” 

 "気合入りすぎて草”

 "そこまでしたのかwww”

 "むしろ給料上がったし、QOL爆上がりだわ”

 "マジかよw”

 

 リスナーさんたちも想定外だったらしくて大盛り上がりしている。それに、転職した人は結果として良かったようなので良いのだろう。多分。本当にいいこと……なんだよね……?

 

「な、なら良かったけど……他の人も無理するのやめてね……?」

 

 一応、釘を刺すというかなんというか……こっちの心の安定に関わるから、なるべくならやめて欲しい。

 

 "突然配信者みたいな事言うじゃん”

 "流石に見てない時とかあるから…”

 "いやー、毎日は厳しいっす…”

 "無理して見てはないから安心して”

 

 あ、なんか結構みんなちゃんとしてる……完全に杞憂だったねこれ。まぁ、大丈夫だろう。

 っ!?来た!!思いっきり竿を振り上げる。さっきまでと違って、手にかかる強烈な重み。掛かった……!

 

「来た!!」

 

 "お!!”

 "来たぞ!”

 "頑張れー!!”

 

 左右に竿を振り回し、どうしてもの時は浮遊魔法まで使って水上に行ってなお少しずつ糸を巻いていく。いや、これは大きいんじゃない!?絶対に、釣ってやる……!今度こそ負けるものか!

 糸が切れ、竿が折れ、針を飲まれ、リールを砕かれ。私は、負けに負け続けてきたんだ。今回こそ絶対に勝ってやる……!

 

「ふんぎぎぎ……!」

 

 少しずつ、湖面に魚影が見えてきた!このまま、このまま……!一瞬だけ糸を引く力が弱くなった。この隙に、思いっ切り竿を振り上げる!

 

「とおりゃぁあ!!」

 

 その動きに釣られて、魚が湖から飛び出す。よし、釣ったぞ……!釣ったんだ……!今までの苦労が報われた!

 

「ぃやったぁ!!」

 

 最高の気分だ!地面を跳ね回るMr.クマを見ながら、両手を振り回して喜びをあらわにする。もう本当に嬉しい。

 

 "やったー!!”

 "ついに釣ったぞー!”

 "とったどー!!”

 

 首辺りを掴み、頭にナイフを突き立てる。一瞬ビクリと震えて、Mr.クマが動かなくなる。

 決着はついた。今回は、今回こそ、私の勝ちだよMr.クマ……!

 

 




最初はメロスの序文のパロディにしようと思ったんですが、ちょっと厳しかったので、こうなりました。
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