【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
彩音さんからパーティーに入りたいという人がいるという話を聞いた翌朝。
学校に登校する道すがら、頭の中で色々考える。
まず、そもそもなんで私たちのパーティーに入りたいのか。これは、今のところ不明。彩音さん曰く『夢を笑わなそうだったから』ということだったが……笑った連中はなんなんだ。まったく。ムカッとする。
その夢の内容に関しては、パーティーの面接の時にってことだけど、どんな夢なんだろうな……ちょっと楽しみだ。わざわざ私たちのパーティーに入りたいなんて言うくらいだ。きっと楽しい夢に違いない。
次に、戦力的な問題。彩音さんがいるのであまりその辺は重要視しても仕方ない気がするものの、それでもフォローし続けないといけないとかだと流石にね……彩音さんは最近凄まじく動きがいいし、最低限あれくらい動ける人であってほしい。
彩音さんがせっかく一人で動けるようになってきたのに、その人のフォローに回って逆戻りしたのでは意味がない。
最後に、性格面。私はコミュニケーションが苦手だ。彩音さんは付き合ってくれているけれど、その人もそうとは限らない。軋轢が生まれてしまうのは避けたい。でも、すぐ克服出来るようなものでもないし……
ただ、正直ここまでのことは、問題だとは思っていない。というのも、結局のところ彼女の夢の内容によるからだ。楽しそうで、一緒に出来るような冒険なら、いくらでも付き合う所存。というだけの話ではある。なので、結構前向きに考えてはいる。
考えているのだが……それらのことを凌駕する特大の問題がある。
それは、彼女が
「…………リスナーが直接会いに来るってどうなの……?」
ぶっちゃけるとその点だけが怖い。真面目に。言い方は悪いけれど、彩音さんのストーカーとかだったりしないよな……?って感じである。
鬼灯やリスナーさんたちが言っていた厄介なリスナーってやつではない……と信じたい。
もちろん、今のところリスナーさんたちの中にそんな人はいないとは思うが……そういった変な人って、どこから現れるか分かったものじゃないからなぁ……例えば美弥子みたいに。本当にあいつはなんなんだ……
そんなことを考えつつ、昇降口を通り抜けて教室へ。いつものようにドアを開けながら適当にあいさつをする。
「おはよう」
「おはー」
「おはよう!」
ドアの近くでおしゃべりをしていたクラスメイトが、一瞬だけこちらを向いて挨拶を返し、再びおしゃべりを再開する。
それを横目に自分の席へ。今日は愛依も学校に来てるね。
「おはよう」
「おはよう夢希」
「おはよー」
2人とも普段通りって感じだ。なんだか安心する。冒険者じゃない私の居場所というかなんというか。そんな感じである。
席に荷物を置いて2人のところに行く。私だけちょっと席離れてるんだよね。席替えのせいで。近いと楽なんだけどな……
2人のもとまで歩いていくと、凉がいつものように眠たげにしながら話しかけてくる
「夢希さー、昨日のアレって大丈夫だったー?」
「アレ?アンタ何したのよ?」
愛依の目が鋭くなるけど、断じて私は問題を起こしていないぞ。問題以外のことは起こしたけども。あまりの信用のなさに泣けてくる。
「なんか、巨大湖のーもごもご」
愛依の疑問に答えようとした凉の口をふさぐ。今話されると困るのだ。ギルドには放課後に行く予定だし、新種の発見なんて最近ではほとんどないからね。それで注目されるのも嫌だし。
というわけで、申し訳ないが今は無しでお願いしたい。
「それについては、機密的なアレだから一旦なしで」
「あ、そうなの?りょーかいー」
「ふーん……後で教えなさいよね?」
「うん」
落ち着いたら愛依にも映像見せてあげよう。きっとびっくりすると思う。
そのあと、ちょっとした雑談をして、予鈴が鳴った。
昼休みになり、3人で集まって、お弁当を食べながら相談を切り出す。
「凉に相談があるんだけどさ」
「んー?」
「パーティーに入りたいって人がいて」
「ほー?」
「その人がリスナーらしいんだ……」
それまで、パンをむしゃむしゃしながら適当な返事を返していた凉が、機敏な動きで腕をクロスさせる。
「断ろー!絶対にダメー!」
「大分怖いわねそれ……」
「配信者に会おうとするリスナーなんて、ろくな人じゃないから。オタクとして絶対と言っていいねー」
「ストーカーだったら危ないものね」
分かってはいたけど、2人とも反対みたいだね。愛依もしかめっ面である。そして、凉。言い過ぎじゃない?と言いたいんだけど、この前の配信の時の鬼灯とリスナーさんたちの反応的に言い過ぎでもなさそうなのがなぁ……
とはいえである。
「まぁ、一応話は聞こうとは思ってるんだけど」
「えー……」
「アンタねぇ……」
すごい呆れた顔と目をしている……相談しておいてそれかよ……みたいな顔である。いやそれは本当にそうなんだけど、ね。
「私の夢を笑わなそうだから。って言ってたから、流石に話は聞こうと思うんだ」
「なんでー?そういうの気にしなさそうなのに」
「大抵、トラブルになったらめんどくさいから。で避けるじゃない」
確かに、2人の言う通りだ。多分、他のことなら気にしないし、トラブルなんて面倒だから避ける。
でも、夢の話だったらそれは別なのだ。
「私は
両親からつけてもらった名前の通りには生きていたい。めちゃくちゃだけど、尊敬している両親からもらったものだから。お母さんにも胸を張って言えるように。
そんなわけで、こと夢に関しては、可能な限り力になりたいのである。
格好よく言ったけど、内容次第なんだけどさ。良くも悪くも、私が良い夢だなぁ……と思ったら力を貸す。程度のものでしかない。私はヒーローじゃないから、誰も彼にも力を貸す。なんてことはしないし出来ない。出来る範囲でやれることをやるだけだ。
2人はなんだか感心したような雰囲気になっていた。
「夢希はロマンチストだねー」
「良いロマンだと思うわ。いつもと違って」
「どういう意味さ」
「いつものはマッドなのよ!」
「モンスター食べるのもロマンだとは思うけどね。マッドだけどー」
「あぁ、うん……」
ちょっと否定しにくいなそれは……マッドか否かで言うなら間違いなくマッドだし……
「で、まあこのことはいいっちゃいいんだけど、他にも問題があって」
「んー?」
「その人に、パーティーに入るにあたって何を伝えればいいのかなって。参考程度に」
なんで凉に聞いたか?ゲーム内でのパーティーやらクランやらにとても詳しいからだ。現実とゲームは違うけど、目的を共有して団体で活動する。という点では一緒なので、参考になりやすいのである。レベリングの手法なんかも凉経由だしね。
極限まで手間を省き、極限まで流れ作業で出来るようにする。本当に参考になったよ。
その話は置いておくとして、そういった関係のものを全部彩音さん任せなのもちょっとな……って思ったので、私も情報収集することにしたのだ。
聞く先が違うって?私には『
私の相談に、凉は何度か頷いたあと、話し始めた。
「なーるほどねー……えっとねー――」
凉の話をまとめると……
まず、譲れないところ、活動の目標、普段の活動内容、活動の頻度辺りはマストとのこと。
これは、いつもの活動について話せば大丈夫か。あとは……頻度がおかしいのは彩音さんに言われたから、その辺?
次に、普通とは違うようなパーティー内ルール。
これは……配信していることくらい……かな?これについては、見ているんだから、知っているだろう。
最後に、連絡手段の確定と連絡先の確保。これに関しては普通にスマホのチャットアプリとか通話でよいのでは?って感じ。住所に関しては……どうなんだろう?私も彩音さんの家は知ってるけど、住所までは知らないからなぁ……彩音さんに聞いておこう。
「くらいかなー?」
「ふむふむ……ありがとう」
「どういたしましてー」
凉から話を聞いて、ある程度の心構えと彩音さんと相談する内容が思いついたところで、横から愛依が口を挟んだ。
「ちょっと待ちなさい」
「うん?」
「金銭関連については?それについての契約書は?」
金銭関連か……確かに必要ではあるんだろうけど、私が未成年である以上、金銭的なやり取りなんて発生しないしな……個人的な依頼でも、金銭はやり取りしていないし。
「私が未成年のうちは金銭が発生しないから、いらなくない?」
「イレギュラー解決したらお金もらえるのよね?」
「うん。パーティー単位で出るね」
「じゃあ、その内いくらが個人の取り分になるの?いくらがパーティーの所得扱いなの?それによって税金の扱いなんかも変わるわよね?」
「……」
愛依の怒涛の質問に固まる。確かに言われてみればそのへんの扱いってどうなるんだ……?
もう成人するまで半年切ってるし、税金のことも勉強しないといけないか……というか、そもそもこの前のトロルのやつ、普通に分配って感じだったけど、あれの扱いどういう感じなんだろう?そこも彩音さんに確認しなきゃ……
無限に彩音さんと話さなきゃいけないことが増えていくなぁ……
「で、アンタが成人した後は?パーティーで稼いだお金はどう分けるの?パーティーとしての貯蓄なんかも必要なんでしょ?」
「ぅ……」
いや、詳しくない?いや、私も知ってたよ?知ってた"だけ”だけども。なんで愛依が詳しいの?凉よりも詳しいじゃん。
「わー……ゲームと違ってめっちゃ色々考えないといけないじゃん。大変そー……」
「金銭トラブルなんてどんな業界でも起こるものなんだから、対策しすぎるくらいでちょうどいいわよ?後で泣きを見るよりずっといいでしょ?」
モデルやってるからなのかなぁ……個人事業主扱いで税金がどうたらって前に言ってたから、その感覚で話してくれているんだろう。
それに、金銭トラブルなんて目も当てられない。冒険者の間の金銭トラブルなんて、最悪決闘騒ぎみたいなことになりかねない。下手したら死人が出る。絶対に避けなくては……!
「はい……」
金銭関連の怒涛の指摘を頭に叩き込むだけ叩き込んで、後で彩音さんとも話し合おう。いや、むしろ彩音さんに教えてもらう感じになりそうだな。彩音さんは前のパーティーで副リーダーやってたわけだから、その辺詳しそうだし。
「そういえばさー?どっかクラン入るって言ってなかったー?」
「そうだ、それもあるじゃない」
凉からも追撃が飛んできた。そうだよ、クラン探しもしてる途中だったじゃん!え、てことはクランにいれるお金が〜とかも考えないといけない……?
「…………待って、もしかして私が思っているよりも遥かに考えることある……?」
「そうね」
「そーだねー」
…………彩音さん、無知で無学な私をお助けください。もう、ちょっとどうしたらいいのか分かんないです……
この辺のこと、成人した後に適当なクランに入った時に勉強すればいいや。って未来に放り投げた過去の自分を殴りたい気分だ……!
校正に特典SS等まで触れ始め、段々と本当に書籍化するんだなぁ……と感慨深い気分になっています。