【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とヌシ発見報告

 

 

 放課後、私は前にも来た渋谷にある冒険者組合の前で、彩音さんと待ち合わせた。

 昨日の渋谷ダンジョンの巨大湖のヌシについて報告するためである。実際問題としてどうなるかは全くわからない。なので一応、お父さんに話を聞いたところ、新種の発見報告そのものは割とあるらしい。

 ただ、新種だと思ったら、実は変異種だった。というのが主らしく、かなり決定的な証拠がないと新種認定されないそうだ。だから、私のこれも今はまだ新種としては扱われない可能性が高い。とのことだった。報告が多いのは意外だったが、変異種と間違えてというのはよくわかる気がした。見た目とか結構違うモンスターになるもんね。この前のトロルがいい例だ。

 そのため、新種の認定を受けるには、そのモンスターがいる証拠として映像や写真に加えて、死体とドロップアイテムを持っていく。くらいのことはしないとダメらしい。なかなか大変みたいだね。まあ、言われてみればそりゃそうだよねって感じではあるんだけど。

 とはいえ巨大湖のヌシをとらえた初の映像であることは変わりがないので、それなりに色々聞かれはするだろう。とのことだった。正直、色々聞かれても映像がすべてだから、何も答えられない気がするんだけどね……

 

「夢希ちゃん、大丈夫?」

「だ、大丈夫……」

 

 彩音さんに背中をさすられながら冒険者組合の建物に入る。いや、なんか緊張してきちゃったんだよね。というか、そもそも何かしら問題起こしたときに呼ばれるところっていう印象が強すぎるんだよねここ……何度か事情聴取されたときもここだったしさ……いや、冒険者を助けるときに助け方間違えてモンスターの返り血で血まみれにしちゃったりした私が悪いんだけども。前回来た時も呼び出しで来たし、今回は違うけど、なんかこう……反射的に?

 受付のカウンターに向かっていくと、カウンターに見知った人影を発見したので、そこに向かう。

 

「すみません」

「はい、なんでしょう?……おや、お久しぶりですね。本日はどうなさいましたか?」

 

 前会った時と同じく、パリッとしたスーツに身を包み、髪を結いあげたキリっとした雰囲気の女性。室井さんである。

 

「お久しぶりです、室井さん。新種の発見報告をしに来ました」

 

 本日の要件を告げると、室井さんは一瞬だけ眉をひそめた後、カウンター下から書類を一枚引っ張り出し、机の上に置きペンを手に取った。

 

「新種の発見報告ですね……いつ、どこにでた、どのようなモンスターですか?」

「見たのは昨日で、渋谷ダンジョンの巨大湖のヌシだと思います。映像もあります」

「……少々お待ちいただけますか?部屋を用意いたしますので」

「わかりました」

 

 私の説明を聞いた室井さんは書類に少し書き込んだ後、受話器を手に取るとどこかに連絡をし始めた。そして、すぐに話終えると、後ろで事務作業をしていた他の職員さんに声をかけてから、私たちの方に向き直る。

 

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」

 

 室井さんの案内の元、すぐ近くの個室に入る。前使ったところとは違うけど、間取りが一緒だった。前回と同じように、私と彩音さんが並んで座り、その対面に室井さんが座る。

 

「渋谷の巨大湖のヌシの映像記録ということですが、一度お見せいただいてもよろしいですか?」

「これになります」

 

 スマホで配信を流す。彩音さんにはここに来るまでに見せたけど……間抜けな悲鳴が載っているのがちょっと恥ずかしい……

 

「…………なるほど、これは確かに……」

 

 室井さんは真剣に映像を眺めた後、何度か該当部分を再生しなおしたり、映像を色々なタイミングで止めたりしながら書類に何かを書き込んでいる。

 15分ほどそうしていたのち、顔を上げ結論を告げた。

 

「申し訳ありませんが、この映像だけでは新種であるかどうかの判断は出来かねます」

「ですよね……」

「……?夢希ちゃん、なんだか嬉しそうだね?」

「命名しなくていいんだって思うと、ね」

 

 横にいる彩音さんに不思議がられてしまったけど、こればっかりは嬉しいというか、ほっとした。本当に。

 今この場で新種の名前を決めてください!なんてことにはなりそうになくて助かった。昨晩考えていたけど、ネス湖のネッシーみたいに、渋谷のブッシーくらいしか思いつかなかったからね……自分でも、流石にひどいと思うから、本当によかった。リスナーさんたちに言われてた通りに、永遠の晒し者になってしまうところだった。ちなみに、そのせいで若干寝不足気味である。

 私の返答を聞いた室井さんと彩音さんは、納得したような顔になる。

 

「ああ……嫌がる冒険者の方もいらっしゃいますね……」

「確かに、私も自信ないかも……」

「もう本当に思いつかなくて……」

 

 いや本当に自信がある人につけてもらいたい。切実に。命名権とか譲渡できないのかな……

 

「今ですと、それなりに『被り』が出てきてしまうこともあってなかなか決まらない。ということもありますね……今回の件ですと、レヴィアタン、グランガチなどは登録済みですので」

「神話関連は大体消費済みなんですね……」

「ええ、もはや造語以外で登録するのは不可能に近いです。妖怪などの類も使い切られていると思っていただいていいかと」

 

 彩音さんと室井さんの会話を聞いて、本当に今この場で決めろって言われなくてよかったなと心から思う。無理だよそれは。スパインポルポみたいなおしゃれな名前つけられるセンスが欲しい。

 

「話がそれてしまいましたが、この映像は巨大湖のヌシをとらえた初の映像に間違いありません」

 

 室井さんがかるく咳払いをしながら、話を戻した。

 

「よって、この映像をもとに、調査隊が組まれると思います」

「これまでの報告では調査は出なかったんですか?」

「報告の度に調査はしてきましたが、その調査で発見したことは一度もありません。もっとも、巨大湖周辺の調査をして痕跡がないか調べる程度でした。流石に内部は危険すぎて調査できませんから」

 

 そりゃそうだ。Mr.クマだらけの池の中を人間が調査なんてできるわけがない。それに、やる理由もなかっただろうしね……都市伝説をそこまで本気で追っている人もいないだろう。巨大湖のヌシの話は昔からあって、テレビで企画が組まれていたくらいだったけど、それでも一度も公に確認されなかったわけだしね。

 ん?てことは今回は内部まで調査するのか?

 

「今回は内部も調査するんですか?」

「ええ。手段はともかく、そうなるでしょう。巨大湖のヌシが本当にいるとなれば話は別です。それに、もし仮にこのサイズのモンスターが他の階層に進出するようなことがあれば、大損害が出ますから。内部の調査でもなんでも、確実に発見および研究は必須です」

 

 室井さんの発言が大分物騒だ。確かに大きいんだよな……でも、今まで湖の外に出てない以上、どっかにいったりしないんじゃないだろうか?

 

「魚か海竜っぽい感じですから、湖の外には出ないんじゃ……?」

「それは、この映像だけでは判断できません。カメであったり、トカゲであったり、ドラゴンであったりする可能性は大いにあります。極端な話をするならば、実は頭ではなく腕だった。などということさえありえます。モンスターは摩訶不思議なので……」

 

 室井さんの指摘に納得した。確かにモンスターって意味わかんない奴いるからなぁ……彼女の言う通り、これが手足の生えたモンスターで、実は陸上でも活動できます。とかだと本当に危険な可能性はある。ちなみに、本当に腕が顔になっているモンスターは存在している。頭と腕で計3つ頭がある。と見せかけて、腕の頭には脳がない。にも関わらず食べるのは腕の口から食べるみたいな、本当にお前の体どうなってんの?みたいなモンスターである。

 いや待てよ?そもそも巨大湖のヌシ自体は前から発見報告があったわけで、今回初めて映像記録が残っただけ。これをもとに調査隊を派遣するというのなら、命名権は誰のものになるんだ?

 

「今回の場合って、命名権って誰のものになるんでしょう?私の前にも発見自体はしている人はいますし、調査隊次第なんですよね?」

 

 一縷の希望をもって室井さんを見るが、彼女は悲痛な面持ちで顔を横に振った。

 

「今回のような場合ですと、調査隊の結成になる理由を持ってきた方に命名権が行きますので、その……」

「…………そう、ですか……」

「わ、私も一緒に考えるから、ね?」

「彩音さん……!」

 

 彩音さん……!心から感謝の念でいっぱいである。この際だから、他の人も巻き込もうかな……凉とか鬼灯あたりはノリノリで考えてくれそうな気がする。リスナーさんたちも巻き込もうかな。

 そんなことを頭の片隅で考えつつ、室井さんから話を聞いたところに、調査隊を組むにしても、巨大湖の内部を調査する方法が現状あるかどうか不明なため、時間がかかるだろうということ。レベルのことも考えると、私たちも呼ばれるであろうことを聞いた。

 なので、時間をかけて名前を考えながら、その時を楽しみ待って居ようと思う。

 

 その後、思ったより早く終わったため、彩音さんの家にお邪魔させてもらい、パーティーの金銭面などの相談をするさせてもらうことにした。今日凉や愛依から聞いたことを彩音さんに伝える。

 

「というわけなんだけど彩音さん、どうしよう……?」

 

 彩音さんは私の話を時折頷きながら聞いてくれ、終わった後、少しだけ考えてから口を開いた。

 

「とりあえず、お金に関しては基本的に等分で大丈夫。先に貯蓄分を抜いて、残りを等分みたいな。大体稼ぎの1割のところが多いかな。あとは……役職手当みたいなのがあるところもあるね」

「役職手当?」

 

 や、役職手当?なんだろう?リーダーの方が多くもらうとかそういうのだろうか?でも、そういうのってトラブルのもとになりそう……こう、後ろで指示出してるだけなのに多くもらいやがって!みたいなさ。

 

「例えば、書類仕事やってる人には追加でお金出すよみたいな感じ」

「……確かに、他の人よりも仕事してるもんね」

 

 あ、なんか想像と違ってすごく当たり前の話だった。私たちの場合、彩音さんに追加でお金を渡す感じかな。

 

「これはパーティーの貯蓄から出していく感じだね。その方が計算も管理もしやすいし」

「ふむふむ……」

「それと、後で夢希ちゃんにも帳簿の読み方とか教えるから、確認してね」

「うん、わかった。けど、それって必要なの?」

「とっても大事だよ。例えば、私が好き勝手パーティーのお金使ってもわからないでしょ?それを防ぐためにね」

 

 ああなるほど……そうだよね、書類仕事してる人が一人で誰もチェックしないなら、何してもバレないもんね。いや、ギルドにはバレるか……?

 とはいえ、確かに別に確認する人は必要になるね。私も書類仕事覚えないとか……難しくないといいな……

 

「で、問題は……」

「問題は……?」

「クランに入った後だと、クランに払うお金も出てくるから、そこでも配分が変わるところ。クラン毎にどれくらいお金いれるか変わるみたい。基本は2割みたいだけど、大きなクランは3割くらいが多いね」

 

 彩音さん曰く、クランに入るとクランの中でも色々必要になってくるらしい。大抵は福利厚生費とかに回されるみたいだ。あとは税金。そこが細かくどういう感じなのかは今突っ込むのはやめておこう。頭がパンクする未来しか見えない。

 いや待って、大きなクランは3割くらい……?

 

「……鬼灯は確か5割だって言ってたような……?」

「『白の騎士団(ホワイトナイツ)』は他に比べて多いけど、固定されたパーティーがないみたいだから、必要になったらクランの貯金からだしてるみたいだよ。それに、食堂とか無料らしいし、クランの寮にコンビニまであるみたいだから……」

「えぇ……コンビニまであるんだ……」

 

 売店まであるとか本当にすごいな……『魔女の大鍋(コルドロン)』も見習う……のは守秘義務的にダメか。でも、あそこは自販機はたくさん置いてあるから、その業者さんは入ってるっぽいんだよな……どうなってるんだろう?

 

「すごいよね……でも割合が多い一番の理由は多分遠征費の積み立てかな……」

「あぁ、なるほど……」

 

 うーん、納得。だから、今金策に走り回ってるんだもんね……そりゃ普段からためておかないと無理だよなぁ……装備だって使い捨てのものとかあるしね。爆弾とかスクロールとかさ。

 

「今の私たちはクランを探してる途中だから、そこについてもちゃんと説明しないといけないね」

「もし、クランが別れちゃった場合は?」

「その場合は……この前のトロルの時みたいにクランやパーティー単位で均等に分ける感じかな」

「結構大変だ……」

「ふふ、慣れちゃえばそうでもないよ」

 

 そう言って笑顔を浮かべる彩音さんが本当に頼もしい。ありがたいよ本当に……私一人で成人してたら、どうなっていたか……ギルドに泣きついてる未来しか見えないな、うん。

 一緒に冒険してくれる人のありがたみを噛みしめながら、その分彩音さんに面白い冒険ができるように頑張らないとな。なんて決意を静かにしていたら、彩音さんがふと思い出した。みたいな感じで話しかけてくる。

 

「そうだ夢希ちゃん」

「うん何?」

()()()()()()()()()()?」

「……え?」

「ほら、料理に使ってる調味料とか、月末にまとめて払うよって約束したでしょ?ちょうど月末だし、レシートでもいいから取っておいてっていったよね?」

 

 彩音さんの言葉がなんだかすごく遠くから聞こえている気がする。領収書。うん、今思い出したけど、確かにそんな話をされた記憶がある。完全に忘れてたなぁ……普段から家計簿とかもつけていないから、そういうものから割り出すのも無理だし、素直に謝ろう……

 

「…………夢希ちゃん?」

「……大変申し訳ありません、忘れてました……」

 

 頭を下げる。完全にやらかした。まあ、といっても、たかが調味料と野菜程度である。大した出費ではないし、いちいち気にしなくてもいいのに、彩音さんは真面目だよね。だから書類仕事とか得意なんだろうな。

 

「……夢希ちゃん」

「はい!」

 

 なんて軽く考えていたら、今まで聞いたことのないような冷たい声が降ってきて、反射的に返事をして顔を上げる。

 今まで一度も見たことのない、能面のような顔をした彩音さんがそこにいた。めちゃくちゃ怖い。そして、床を指さし一言。

 

「正座」

「え」

「正座」

「はい……」

 

 圧に逆らえず、床に正座すると、彩音さんも目の前に正座する。お父さんと同じ感じだこれ……!

 その後、金銭管理の重要性について、かなりきつめに説教され、それはもう心底から今回の件を後悔したのだった。

 お金には気を付けよう。本当に……

 

 




個人的に、普段笑顔の人が無表情になってるときが一番怖いと思う。
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