【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とお台場ダンジョン配信⑴

 

 彩音さんにお金の大切さとその管理の重要性に説教を食らった後の土曜日、私と彩音さんはお台場に来ていた。クランの見学なんかは、相手方の都合なんかもあり来週からになったので、今日が最後の土曜日の一日ダンジョン生活である。しばらく一日潜れないなんて、寂しいにもほどがある……明日も潜るけどね。冬休みになったら毎日潜ってやるのだ。夏休みもそうしたしね!

 お台場にやってきた目的はもちろんダンジョン。お台場ダンジョン、通称お台場水族館である。

 階層数わずか一層。入り口を入ってすぐ下層相当の層が一層だけという異質なダンジョンであり、その一層がとんでもなく広い。そして、水棲生物がもとになったモンスターたちの楽園みたいなところだ。

 空中を色とりどりの魚の形をしたモンスターが泳ぎ回る様は、まるで水族館の水中トンネルの中にいるような気分になる、とても幻想的な景色のダンジョンである。

 モンスターたちがどうやって空中を泳いでいるのかは分からないけど、本当に水の中を泳いでいるかのように空中を泳いでいるのだ。あいつらが凶暴じゃなかったら、浮遊魔法で一緒に泳いでみたいんだけどなぁ……

 上を見上げると何故か水面が見えるし、常時昼みたいに明るいという不思議なところもあるけれど、まあダンジョンだしね。水面に触ってみたことがあるけど出られなかったので、あそこが天井であるらしい。

 地上をみれば、色とりどりのサンゴの生えた岩の迷路があるわけで、そこもとてもきれいなのである。南の海の海中みたいなものだ。まあ、ここのサンゴは一部がモンスターだから、下手に近づくと危険だけどね。岩の影にもモンスターがいるしね。

 つまり、幻想的なのは見た目だけで、上だけ見上げて見惚れていると下から地上にいるモンスターに攻撃されるし、下だけ見ていると上空から魚モンスターに突撃されるとかいう、かなりえげつないダンジョンだったりする。

 おかげで東京にあるダンジョンの中でも結構な難易度なのである。個人的には、ソロで攻略する時に一番苦労したダンジョンだ。空中から一方的に遠距離攻撃するっていうアドバンテージが一切ない状態で戦わないといけなかったからね……

 

「……映像よし、音声よし。おはようございます、ユキです」

「おはよう!アヤネでーす」

 

 いつものようにメインルートから外れた場所で配信を開始する。このダンジョンにおけるメインルートというのは、比較的安全に探索できるルート。であって、ボスを目指したり、下の階に向かうものではない。なので、一周ぐるっと回る散歩コースみたいなものを想像してもらえればわかりやすいと思う。

 そのため、今回はメインルートから外れた横道をひたすらうろうろする配信になるだろう。

 

 "おはー”

 "おはよー!”

 "おお、海の中!?”

 "遠くにでっけぇ魚が見える!”

 "めっちゃ綺麗やん!”

 "お台場かー…”

 

 リスナーさんたちも驚いているようだ。私の今いるところから見えているのは、光を反射しながら揺らめく水面と、そこから漏れた光を反射しながら空中を泳いでいるモンスターたちである。

 うん。本当に景色は綺麗だ。景色"は”。

 

「今日はお台場ダンジョンだからね。景色"は”とっても綺麗だよ……」

「うん、景色"は”ね……」

 

 彩音さんともどもちょっと憂鬱になってしまう。いや、自分から来たんだけどさ。美味しそうなモンスターもたくさんいるし。でも、同時に面倒くさいダンジョンなのは事実なのだ……

 今も、《魔力探知》には2ケタ近いモンスターの反応があるけど、目に見えてるのは6体ほどだ。あとは岩の影と擬態組である。

 

 "え、なんかあんの?”

 "周りに見えてる魚みたいなやつは全部モンスターだぞ”

 "マ?”

 "え、アレ全部!?”

 "チラッと見えてるエビみたいなのもモンスターだぞ”

 "動いてるものは全部モンスターなのね了解”

 "言われてみればむしろダンジョン内なんだから残当だったわ”

 

 近くの岩陰から、ちょこっと顔、というか頭の触角を出し、ハサミで地面から何かをつまんで食べているエビみたいなモンスター。あれは、お台場ダンジョン名物のモンスターである。その名も。

 

「あれはでゅくしエビだね」

「名前が独特なモンスター多いよねここって……」

「うん」

 

 "でゅくしエビ!?w”

 "でゅくしwww”

 "名前適当すぎて草”

 "お前ら笑ってるけど、あれくっそ危険だからな?”

 "危険なでゅくしとは?w”

 

 リスナーさんたちが笑っているけど、名前に騙されてはいけない。あれは本当に危険なのである。お台場ダンジョンは、モンスターたちの名前が大分独特で、気の抜けるような名前が多い。だが、それは割と悪質な罠なのである。

 でゅくしエビは、体長は1メートルほどでそこまで大きくはない。体色はくすんだ水色で岩場にいると目立つけど、岩場ではないところだと途端に距離感が分からなくなる。そして、両手のハサミが武器だと思わせてからの胴体の真ん中、口のすぐ下あたりに折りたたまれた尖脚で獲物を串刺しにするのである。

 

「簡単に言うと、シャコのパンチを打撃じゃなくて刺突でやってくるモンスターだね」

「前のパーティーで来たとき、魔鉄鋼製の大盾を当たり前のように貫通して怖かったな……」

 

 彩音さんが遠い目をしながら語っているように、あいつの「でゅくし」は大抵の防御を貫通する。正面に立たないのが大事である。正面に立ってしまったら、死を覚悟した方がいい。幸い毒とかは持っていないのでそこは安全である。

 

 "こっわ!?”

 "危なすぎるだろそれ…”

 "名前なんとかしろや!!”

 "他にもザシュガニとかおるで”

 "どうなってんだよ名前www”

 

 詳しいリスナーさんもいるみたいだね。ザシュガニは、メッサークラブの強化版みたいなモンスターである。体色は鮮やかなオレンジなので遠目にも見やすいため、そこが弱点と言える。こいつは鎌になっている爪を折りたたんで収納しており、それをそんでもない速さで弾き出すことで居合切りみたいな行動をしてくる。

 鬼灯の表現を借りると、「デコピンレベル100」である。

 

「ザシュガニは、メッサークラブに近いかな。間合いに入っちゃうとホオズキくらいじゃないと防げないけど」

「鎌を振るのが速すぎて見えないもんね……」

「一閃したあとが弱いからいいけどね」

 

 一閃した後、攻撃方法がなくなるのか、また爪を折りたたんで……という行動をするので、そこを狙うのがいい。と言いたいところだが、まず目についた瞬間に魔法で吹っ飛ばすのがセオリーである。そもそも近づくのが危険すぎるからね。

 あと、結構小さいので彩音さんのハルバードくらいの長さだと普通に範囲外から攻撃できる。

 

 "何を思ってそんな名前にしたんだよ命名者!”

 "めっちゃ危険で笑えねぇ…”

 "ホオズキちゃんレベルじゃないと防げないザシュ! ってなんだよ?”

 "そんなモンスターばかりのところで今日は何をする予定で…?”

 

 リスナーさんのコメントで思い出したけど、まだ目的を話していなかったなそういえば。今日の目的、それは……

 

「今日は、色々食べたい。可能なら海鮮丼みたいにしたい」

「モンスターの海鮮丼……美味しそうだね!」

 

 彩音さんもうっきうきである。前はちょっと引いてるところとかもあったけど、今じゃもう慣れてくれたようだね。

 Mr.クマが冷凍したうえで生食しても大丈夫なら、海産物系なら生食いけるんじゃないか?ということで、海産物の宝庫にやってきたわけである。本当に色々いるからね!美味しいかはわからないけど。

 

 "か、海鮮丼…”

 "あぁうん……エビとカニだもんな…”

 "アヤネさんウッキウキで草”

 "いやまぁ内容だけ聞けば美味そうではあるんだよな…”

 

「まあ、海鮮丼にする前に、生で食べれるかと味の確認しないとだけどね」

「そうだね……ところで、狙いは何なの?」

「今日はいろいろ食べてみる予定だけど、一番の目的はウニボーかな」

 

 "う、ウニボー!?”

 "ウニまでいんのかよw”

 "ウリ坊+ウニか?” 

 

「小型犬くらいの四足歩行のウニ。攻撃方法は突進だけだけど、結構早い。トゲも装甲も頑丈」

 

 ちなみに、《魔力の矢》で攻撃したら爆散した。サイズが小さいので、トゲが飛び散ることもなく平和な爆散だった。なので、彩音さんに切ってもらう予定だ。中身がどうなっているか楽しみである。

 

 "結構デカくて草”

 "小型犬くらいのトゲの塊が突っ込んでくるの怖すぎだろ”

 "ヤマアラシみたいなイメージであってる…?”

 

「ヤマアラシの顔がないバージョンかな」

「全部トゲだからね」

 

 本当に小型犬くらいの黒いトゲの塊であるので、どこで感知しているのか不思議である。触角でもあるんだろうか?

 

 "マジでデケェウニなのか…”

 "というか、サイズ的に足元にいるよなそいつ…”

 "岩陰から突然突撃してきて、足をぶっすりやってくるやつ”

 "うわぁ…”

 

「他にはビューンカジキとかヌッホタテとか」

 

 これらは名前の通りカジキマグロとホタテである。ここまでで、カジキマグロ、ホタテ、エビ、カニ、ウニである。立派な海鮮丼が出来そうだと思わない?

 

 "だから名前!www”

 "マジで名前のせいで緊張感が皆無で草”

 "大体が擬音+生き物の名前なのねここw”

 "絶対、途中から悪乗りしてただろ命名者www”

 

「ヌッホタテって、ホントに気持ち悪くて嫌いなんだよね……」

「インパクトあるよね……」

 

 彩音さんが本当に嫌そうな顔をするのも無理はない。地面に置いてあるホタテから、突然八頭身の体がヌッと生えてくるあの気持ち悪さは何とも言えないものがある。まあ、ホタテはホタテなのでとりあえずで食べてみるつもりだ。気持ち悪いだけでそんなに強くないし。

 

 "あれはマジでちょっとキモイ”

 "ホラー映画にいてもおかしくないデザインなんだよなぁ…”

 "ボロクソに言われるヌッホタテくんかわいそう…”

 "ひでぇ…”

 "見ないと分からん類やであれは…”

 "調べてみたらマジでキモくて草”

 

 リスナーさんたちにもわかってもらえるくらいには気持ち悪いらしい。まあそうだろうなとは思う。

 にしても、随分と話し込んでしまったな。いい加減出発しよう。でゅくしエビもどっか行っちゃったし。

 

「さて、雑談はこれくらいにして、行こうか」

「そうだね……援護お願いね」

「任せて。あと、今日は《魔力の矢》じゃなくて、《サンダーレイ》主体にするね」

「なんで?」

「熟練度上げに。あと、よく効くし」

「そうだね……わかった」

 

 ここにいるモンスターたちは、雷系の魔法がよく効くのである。まあ、属性系統的には風魔法だから納得感は薄いけども。風魔法の中に雷魔法が入ってる感じなんだよね。不思議だ……なので、実は《ウィンドカッター》なんかもよく効く。

 打ち合わせも終了したので、とりあえずまずは彩音さんのレベリング兼練習からだ。スマホをしまおうとしたところで、リスナーさんのコメントで、目につくものがあった。

 

 "そういや、彩音さん武器新しくなったんだね”

 "そういえばそうだわ”

 "ダンジョンの話で忘れてたw”

 

 そういえば、確かにその話も触れていない。私も最初結構びっくりしたけどね。もうできたの!? って。ちょっと違ったけども。

 

「あ、これは代剣だから、新しい武器なわけじゃないよ」

「新しい武器楽しみだね」

「うん、楽しみ!」

 

 ニコニコと楽し気に笑う彩音さん。楽しみだなぁ、私も。

 ローンを組んだから大丈夫! だそうだが、本当に大丈夫なんだろうか?と心配になってしまう。私のせいなんだけども。早く誕生日来い!

 そしたら、お金のことも大丈夫……いや、大丈夫じゃないな。むしろ、勉強終わるまで待ってくれ。また怒られたくはない。

 

 割とグダグダになってしまったけれど、今日の冒険を始めようか。

 

 




書籍の話を少しさせていただきます。

23話の犬束の話の終わりまでが収録範囲になっております。
本編からの加筆が大体8万字ほど、合計約18万字になっているので、楽しんでいただけたらと思います。

https://drecom-media.jp/drenovels/product/158

店舗購入で、特典SSもつきますので、そちらも楽しんでいただけたらと思います。

ここまでやってこれたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
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