【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とお台場ダンジョン配信⑶

 

「えっと……とりあえず気を取り直すとして……」

「ふふ。うん」

 

 彩音さんがくすくす笑っている。うぎぎぎ……でも、引っ張られたのは事実。いや、口滑らせたせいでパニクってたのもあるけどね。

 言い訳を考えていても無意味だし、さっさと切り替えてお昼ご飯の話をしよう。

 

「お昼ごはんはどうしようか。予定だと、夕飯に海鮮丼がちゃんと食べれるかどうか試食することにしようかと思ってたんだけど」

 

 私の発言を聞いて、彩音さんは少し考えるようなそぶりをしてから口を開く。

 

「何体も食べるつもりなら、1体くらい増えても変わらないんじゃない?」

「確かに……じゃあ、ついでにゴックンチャクも食べてみようかな」

 

 彩音さんの提案にもっともだと頷いて、先ほど倒したゴックンチャクも食べてみようと提案してみる。触手に毒はあるけど、体に毒があるわけではなさそうだから、火を通せば食べられるんじゃないかと思う。

 

「え"?」

「え?」

 

 カエルの潰れたような声を出した彩音さんと顔を見合わせる。え、食べないの……?

 

 "ゴックンチャクを!?”

 "あれ食えるのか…?”

 "毒あるけど…”

 "胴体に毒があるかどうかは分からないし…”

 

「た、食べられるの……?」

「それは食べないと分からないよ」

 

 食べたことないモンスターだから、食べてみないと食べられるかどうかは分からない。食べられるけどマズイかもしれないし、とっても美味しいかもしれない。食中毒になったり、毒で死にかけたりするかもしれない。

 モンスターを食べる冒険というのは、いつだってそういうものである。

 

「……それはそう……だね……」

 

 彩音さんが苦虫をかみつぶしたような顔をしている。うーん、美味しそうに見えるんだけどな、ゴックンチャク。結構肉厚だから、食べ応えもありそうだし。

 

 "それはそうだが…”

 "違うそうじゃない”

 "その食べたろう精神がおかしいんだけどな?”

 

「触手は無理だと思うけど、胴体は食べられそうな気はするし。ほら、結構肉厚だし美味しそうだよ」

 

 ゴックンチャクの死体に近づき、触手に触れないように気を付けながら口に手を突っ込んで持ち上げる。結構重いなこれ。やっぱり肉厚だし、味さえよければいい食材になると思う。あとで解体の仕方を調べ……あるのか?そもそも、イソギンチャクって食べられるのか……?

 まぁ、地上では食べられなかったとしても、モンスターなら食べられる可能性もあるしね。

 彩音さんの方を振り返ると、何故か彩音さんが頭を抱えてうめいていた。

 

「判断基準が分かんない……!」

「……なんの?」

「ユキちゃんが思うたべられそうなモンスターの!」

 

 彩音さんのお腹の底から出たであろう叫びに、ちょっと考える。食べられそうなモンスターの基準ね。ふむ、食べられそうなモンスターか。

 

 "調べたらイソギンチャク食えるらしいわ”

 "マジで!?”

 "ウッソだろお前www”

 "唐揚げが美味いらしい”

 "唐揚げ強すぎんだろ”

 "唐揚げにしたらなんでも食えそうな勢いで草”

 

 少し考えたものの、色々と話すのもアレだし、シンプルにいこう。というか、実際シンプルに考えているしなぁ……なので。

 

「肉に毒がなさそうなら食べられると思ってるよ」

「すっっっごい雑!!」

 

 彩音さんの叫びが再びこだました。

 あんまり叫ぶとモンスターが来ちゃうよ?このダンジョンは壁があまりなくて声が反響しないから、思ったよりは届かないけど、その分空中にストレートに響くから、魚たちがやってくる可能性が大だ。

 ……何が来ても食材にするだけだから、むしろ来てくれたほうが楽なのでは……?探さなくていいし。

 

 "雑すぎるwww”

 "草”

 "あまりにもで草”

 "今までの事を考えても割と妥当な答えなのがw”

 

 彩音さんの叫びについては保留し、先の話の補足を行う。流石に雑すぎたみたいだしね。

 

「内臓とかトゲとか触手に毒があるなら取ればいいけど、肉そのものに毒があるやつは流石に食べたくない」

 

 実際、今までこの基準で選んで食べてきた。あとは美味しそうだなって思ったやつ。ジャンボイナゴとアーマーホッパーみたいな虫系、アルミラージやダンジョンブーブー、ミノタウロスといった獣系、砂ウツボにMr.クマなんかの魚系。毒を持っているモンスターはこの中にはいなかった。

 毒を持っていてなおかつ食べたのはこの前のグリーンスライムと、ホクトだけである。

 ホクトは、ずんぐりむっくりした手足のついたでかいエリンギである。動きがゆったりなのに、パンチの威力はミノタウロスと同じくらいとかいう謎すぎるキノコだ。奥多摩ダンジョンの中層にいるレアモンスターである。

 キノコとはいえ、火を通せば行けるでしょと思ったら食中毒になった。尊厳と引き換えになりかけたとはいえ、とても美味しかったのでいつかリベンジしたいものである。耐性を上げればいいのか、火の通りが甘かったのか、それとも毒のある部位を食べてしまったのか。今なら多分解明できると思う。

 

「それはそうなんだけどさ……もうちょっとあるじゃん……」

 

 彩音さんが不貞腐れた……というよりは疲労を感じさせる様子でつぶやく。

 どうしたんだろう。いったい何が原因でそんなに疲れたんだ……? さっきの戦闘だろうか? 慣れていない行動しかしてないだろうし、いつもよりも疲れやすいはずだ。すこし早めに行動をしておこうかな。どうせ初見のモンスターばかりで解体に手間取るのは確定しているしね。

 もうちょっとというと……ああ、そもそも食べようという気にならないモンスターたちがいたな。

 

「あとは、そもそも食べられる気がしないやつも食べないよ」

「……例えば?」

「アンデッド系と機械系と物質系」

「……あぁうん……」

 

 今回のは彩音さんもちゃんと納得してくれたようだ。

 アンデッド系は腐った肉か骨なわけで、可食部がないし、無理矢理肉を食べたら確実に食中毒になりそうだし。骨はまぁ……出汁にはなる、か? 

 機械系は説明しなくていいだろう。ドローンやらロボットの類をどう食べろというのか。

 物質系は、動く鎧とか、ツボとか、あとはミミックなんかも含まれるが……うん、無理だよね。むしろ調理器具だろう。

 

 "とはいえ、肉は腐りかけが美味いと言いまして…”

 "腐りきってるだろうが”

 "腐敗と発酵は同じだけど違うんだよ…”

 "機械も物質も食べそうだと思ってたんだけどな…”

 "ユキちゃんを人外にするのはやめてさしあげろ”

 

 ん?そういえば、アンデッド系の中でもゾンビオークみたいな、半分くらい腐りかけで止まっているオークもいるから、そういう奴なら食べられるんじゃないか?

 そう思って口に出す。出して、失敗を悟った。

 

「まあでも、アンデッド系の一部は食べられ――」

「その時は本気で止めるね。命を懸けて」

 

 両手で武器を握りしめ、今にも切りかかってきそうな顔で本気(マジ)トーンの彩音さんに流石に怯んでしまう。な、なにもそこまでしなくても……

 それに、目に宿った殺意が本気だった。思わず声が震えちゃったよ。

 

「じ、冗談だよ……」

 

 "声がガチすぎる”

 "命を懸けてwww”

 "アンデッド食うことに命を懸けるか、食わないことに命を懸けるか…”

 "後者に決まってんだろボケ”

 

 私の言葉に、武器を下ろして呆れたような空気を出しながら彩音さんが話し始める。

 

「ユキちゃん。今までがどうだったかは聞かないけど、私たちにはヒーラーがいないんだから、安全面はやりすぎなくらいでちょうどいいと思うんだ」

「ふむん……」

 

 諭すような彩音さんの言葉をちゃんと飲み込む。確かに。やりすぎなくらいでちょうどいいのは分かる。分かるが、少なくとも、少なくともである。

 ゴックンチャクはセーフだと思うんだよね。だって毒性があるのは触手のところであって、胴体じゃないし。

 

「でもやっぱり、ゴックンチャクは大丈夫じゃない? 触手取っちゃえば」

「……分かった。ただし、ユキちゃんが先に食べてね。念の為に」

「うん。何かあったらよろしくね」

 

 彩音さんは奇跡が使えるし、私は《毒耐性》も《麻痺耐性》も持っているから、私が毒見役になるのは正しい。

 治療しきれるかは別の話だが、死にはしないだろう。

 

 "あ、食べるんだw”

 "食べるんかーい!”

 "アヤネさん、正気に戻ってくれ!”

 "アヤネさん…!”

 

 よし、食べる方向でまとまったので、食材集めにシフトしよう。そもそも初見のモンスターが多すぎて今日は早めに切り上げる予定だったし。

 その分、明日は彩音さんのレベリングを1日やることになっている。彩音さんもやる気あるよね。

 

「ちょっと早めだけど、もう移動しながら食材集めしていいかな?」

「いいよ。私もこれ実戦でやるの初めてだったんだけど、想像以上に疲れちゃった……」

 

 "絶対それだけじゃないゾ”

 "ユキちゃんのせいも多分にありそう”

 "ほぼユキちゃんのせいでは…?”

 

 なんだか本当にお疲れな様子の彩音さんを声を聞いて、深々と同意した。練習と実戦って、疲労感が全然違うんだよね……あれはなんで起こ……緊張か。緊張だろうな。

 まぁいいや。さ、冒険を始めよう。

 

「とりあえず……予定のモンスターを片っ端から捕まえるね」

「うん。私は何すればいい?」

「この鍋を持ってて欲しい」

 

 収納魔法から大鍋を取り出して地面に置く。彩音さんには申し訳ないけど、荷物持ちをやってもらう。モンスターの回収は私が担当する。

 大抵のモンスターが空中にいるので、《グラビティ》で落とす方のが安定するのである。その上でサクッと仕留める予定だ。

 地面に置かれた大鍋を見て、固まって彩音さんが再起動した。

 

「…………なんで?」

「その中に食材を入れていくから」

「ここに!? 入りきるかなぁ……?」

 

 ……言われてみれば確かに。とりあえず、ゴックンチャクの触手を切り払って、見た目が小さくなったゴックンチャクを大鍋に入れてみる。

 

「……ゴックンチャク一匹で半分埋まっちゃった……」

「ゴックンチャクも結構大きいし、ビューンカジキも同じくらいあるでしょ? 流石に無理だと思うよ……?」

 

 彩音さんの指摘に考え込んでしまう。これでは入り切らない。うぐぐぐ……ゴックンチャクを突発で食べようとしたのは間違いだったかもしれないが、かといって諦めるのは許せない。それはダメだ。食べると決めたのだから、食べる必要がある。

 だが、持ち運べない。私が持ち運ぶとなると、そのせいでモンスターを倒し損ねる可能性がある。他のダンジョンならともかく、ここでは地面以外の全てからモンスターがやってくるからね。

 何か、何かないものか……

 

「……あ」

「なんか嫌な予感がする……!」

「こう、詰め放題みたいに上に積み上げていけば……!」

 

 "おバカ!”

 "アホの解決法すぎるwww”

 "力技過ぎて草”

 

 思いついたのは、袋とかに山積みになった諸々だ。周りに縦に詰めてそこで袋の上を伸ばすようにするあのやり方である。名案だろうこれは! 

 

「前見えなくて危ないよ……」

「大丈夫。私が守るから」

 

 彩音さんの心配に絶対の自信を持って返答する。

 少なくとも、このダンジョン内での安全は保証する。ダンジョンボスが特殊個体になって襲いかかってくるくらいのことが起きない限りは。

 その場合でも、大鍋を放り投げれば問題ないしね。

 

 "カッコいい…!”

 "なんで突然かっこよくなるんだ…”

 "ユキちゃんはさぁ…”

 

「そこは不安に思ってないんだけど、私の不安は足元なんだよね……」

「……?」

「なんでもない。さ、行こうか! たくさん食べるよー!」

 

 何か小さく呟いたあと、大きな声を出して歩き始めた彩音さんを追いかける。




PS5を買いました。画質がすごい! めっちゃ綺麗!
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