【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
前回ウッキウキで誤字報告なかったって報告してたお前の姿は滑稽だったよ
今日の目的は、あくまでも海鮮丼を作ることである。しかし、そもそも生で食べられるかどうかは不明。さらに、火を入れても毒などで食べられないかもしれない。よって、お昼はそのお試しで食べることにした。
まず目の前にあるのは彩音さんが焼いてくれたぶっトビウオである。食べ方はシンプル焼き魚だ。
「こうなってると、普通に大きなトビウオって感じだよね」
「ね。焼いてくれてありがとう。いただきます」
" 実 食 ! ”
"さて、見た目は完全にただの焼き魚”
"配信見てると、見た目からそこまで逸脱した味はしないっぽいんだよな”
先ほど決めた通り、毒耐性のある私から実食していく。私は《毒耐性》のスキルがあるし、彩音さんが奇跡を使えるので、もし毒物だったら私が《毒耐性》スキルで耐えてる間に彩音さんに治してもらうというプランだ。
私は毒に慣れているので、特に問題なし。あと、美味しくないものにも慣れているので問題なし。
横で彩音さんがいつでも奇跡を使えるようにスタンバイしながらなので、ちょっと食べにくかったけど、とりあえず一口食べる。うん、問題なし。
「うん、特に毒はなさそう。味も普通」
「よーし、いただきまーす」
私の言葉を聞いて彩音さんもぶっトビウオにかぶりつく。正直、このモンスターは本当に普通だ。焼き魚ってこんな味だよね。って感じの味がする。味付けはシンプルに塩。
「……うん。本当に普通の焼き魚だねこれ」
「ね」
"マジで普通だったんだろうなw”
"可もなく不可もなくって感じか…”
"たくさんあるけど、どうなるか…”
ぶっトビウオを食べ終えた私は、茹でていたものたちを取り出す。うん、火は通ってそうだ。これなら大丈夫そう。
「次はこの茹でたやつ食べていこうかな」
" 実 食 ! ”
"お前それ毎回いうつもりなん?”
"お約束やん?”
"後半流石にウザくなってきそう”
でゅくしエビにザシュガニ、ヌッホタテとゴックンチャク。うーん、小さく切って茹でたからか、さらに小さくなってしまった。
ま、その辺は気にせず、まずは味見である。どんな味がするかなぁ……
「…………」
「ユキちゃーん……?」
ゴックンチャク以外のものを一通り食べてから、黙りこくった私を見て、心配したように彩音さんが顔を覗き込んでくる。
「ザシュガニもでゅくしエビもヌッホタテも美味しくない……!」
「ええ!?」
いや、本当に美味しくない。ザシュガニとでゅくしエビの食感はパサパサで、味もほぼしない。スポンジでも食べている気分である。ヌッホタテに至っては、さらにパサパサで謎のえぐみがあった。冗談でなく美味しくない。食べられないわけではないが、食べたくない。そんな味である。
横で彩音さんも食べ始めたが、すぐに顔をしかめている。だよね。そんな顔になるよね。
「ホントだ……こう、味が薄いっていうかなんていうか……旨味がない? みたいな。食感もパサパサ……」
念のために、ゆで汁をスプーンですくって飲んでみる。うーん、美味しくない……
「ゆで汁も美味しくないから、出汁として外に出ちゃったわけでもなさそう」
「正真正銘、ただ美味しくないんだね……」
"マズかったかぁ…”
"カニもエビもホタテも美味しくないか”
"現状、普通とマズイだけっていう…”
"あとはゴックンチャクとウニボーとビューンカジキか”
"他はうまいといいな”
「ゴックンチャクも食べてみよ……」
" 実 食 ! ”
"へこたれないなお前w”
"草”
正直ちょっと期待薄な感じはする。今までが今までだし……
ふむ……コリコリした食感がしている。味は全くと言っていいほどにしない。でも、悪くないな。美味しいよりも楽しい感じだ。
「食感はこりこりしてていい感じ。味はしない」
「……ホントだ。でも、ホントに食感がいい感じ」
「確かに、これは唐揚げが美味しそう」
「軟骨揚げみたいになりそうだね」
「うん」
"軟骨か…”
"あんな感じなのか”
"軟骨揚げかぁ…つまみによさそう”
"あれがつまみになるのかぁ…”
とりあえず、ゴックンチャクは及第点だ。これは後で唐揚げにしよう。味付けはその時につければいいだろうし。美味しくなりそうだ。それこそ軟骨揚げみたいな。お父さんが居酒屋さんに行くたびに頼むものだから、私もなんだか好きになってしまったのだ。
さて、気を取り直そう。毒があって食べられないとかじゃなかったのだから、これらはまだまだいいものなのだ。
「次はビューンカジキを焼く!」
「味付けは塩コショウ?」
「そのつもり。リクエストがあるなら考慮するよ」
「ううん、大丈夫。どんな味か楽しみだなぁ……」
次はビューンカジキを食べよう。ステーキにするために厚めに切ったビューンカジキをフライパンで焼いていく。
焼き始めてすぐ、脂がすごいことがわかるくらいには、どんどんと脂があふれてくる。これはいいお肉みたいなものだ……!
「切ってるときから思ってたけど、脂すごいなぁ」
「ホントにお肉焼いてるみたいにジュージューなってる。美味しそう……」
「ひっくり返して……お肉にしか見えないねこれ」
「うん、脂の乗ったいいお肉……」
彩音さんがよだれでもたらしそうなほどに緩んだ顔をしている。美味しそうなのは分かるけど、そんなにかな。それに、冒険者として下層まで行けるくらいなら、このくらいのお肉は日常的に食べられ……武器補填用に貯金してるって言ってたし、あんまり贅沢してなさそうだな……
私が成人したら、お金で困るなんてことはないようにしよう。絶対にだ。そして、目いっぱい美味しいものを食べよう。
いや、モンスターは原価ほぼ無料みたいなもんだし、今からでも食べられるな。
フライパンでひっくり返していたら、彩音さんから服を引っ張られた。振り向くと、目どころか顔を輝かせた彩音さんがいた。
「ねね、もう食べられるんじゃない? 食べられるよね?」
「……そうだね、食べようか」
"アヤネさんwww”
"食べたくてしょうがないんだねwww”
"可愛い”
"ユキちゃんが若干引いてるの草”
なんだか、彩音さんが年下に見える。というか、ご飯をねだってきてるときの凉みたいだし。もし尻尾があったら、ぶんぶん振り回していそうだ。
皿に盛りつけて、ささっとナイフで切る。うん、美味しそうだ。先に私が食べるのが申し訳なくなってきたけど、毒見も兼ねているから食べないといけないし。
これ以上待たせると、本当によだれを垂らしそうなくらい顔を緩ませているのが目に入ったので、さっさと食べてしまおう。
「いただきまーす」
「……ごくり……」
" 実 食 ! ”
"流石にウザくなってきたわ”
"マジで毎回やん草”
"というか、お前そのコメント以外してないじゃねぇかwww”
"マジじゃんwww”
"もはや命かけてるだろお前www”
「! 美味しいよ。本当にお肉みたい」
「ホント!? いただきまーす!」
口に入った瞬間から広がる脂の風味。噛みしめるたびに広がる肉の旨味。うん。文句なしに美味しい。
塩コショウにしたのは正解だった。シンプルにお高いお肉を食べてる感じだ。本当にカジキかこれ……?
「
"おお、マジで美味かったんやろな”
"幸せそうな声”
"顔見たいなぁ…”
"最低でもユキちゃんが成人したあとやろなぁ…”
"絶対にユキちゃんが許さなそうw”
"それはそう”
横では彩音さんが頬押さえながら嬉しそうである。そりゃそんな顔にもなるよね。本当に美味しいもん。
二人で食べているとだんだん食べる速度が遅くなってきた。
その、味は美味しいんだけど……その、脂が……ね?
「……ご飯欲しくなってきた……」
「……後で。だね」
「うん……」
アヤネさんと二人、だんだんテンションが下がってきてしまった。でも、後でご飯と一緒に食べたい。絶対に美味しい。脂の問題だし、ワサビなんかも用意すればいいかな。
脂落としなんかもしてみようかな。さっとしゃぶしゃぶにするみたいな感じで。網で焼くのもありかも。
問題点はあったけど、前半の微妙さ加減を吹き飛ばす美味しさだった。そして、あとは最後の一つだ。
「さ、最後はこいつ」
「ウニボーだね……!」
「とりあえず、焼くだけ焼いて食べてみようかな。いただきます」
" 実 食 ! ”
"さあ美味しいのか?”
"今のところイソギンチャクとカジキがうまいのか”
"見た目は完全に普通のウニだな”
一口食べてみると、口の中でとろけて濃厚な旨味が口の中に広がった。前にお父さんに食べさせてもらったウニとほぼ同じである。
「! 美味しいよこれ」
「ホント!? いただきまーす!」
なんかさっきもしたなこのやり取り。実際美味しいし、これは大当たりだと思う。
彩音さんもにっこにこだった。笑顔が可愛いのはずるいなぁと思う。幸せそうだし。
「ホントに美味しい!! 美味しいねユキちゃん」
「うん。でも、夕飯どうしよう……?」
「あー……」
正直なところ、それが問題だった。夕飯は海鮮丼の予定だったけど、そもそもとしてカニとエビとホタテが美味しくなかった上、カジキが非常に脂が多く生で食べるには向いてなさそうなのである。よって、今の状態だとウニ丼にしかならなそうなのだ。付け合わせにイソギンチャクの唐揚げが出来そうではあるけども。
「どうせだしさ、ご飯に合いそうなおかずたくさん作っちゃう?」
「ご飯に?」
「そうそう、ビューンカジキのステーキでしょ? ゴックンチャクの唐揚げに何かウニ使った料理。って考えると、ご飯はそのまま用意して、いろんなおかずで食べる感じにならない?」
「確かに……味付け変えて何品か作ろうかな」
「ね? でも、自分で言っておいてアレなんだけど、ウニ使った料理って思いつかないんだよね……」
「私も、ウニと言えばそのままのイメージ……」
「よーし、こういう時は――」
「?」
彩音さんがなんだか悪だくみをしているような顔になっている。にしても、そんなアイデアあるのかな?
「リスナーさん! アイデアちょうだい?」
なるほど、丸投げ……でも、いいアイデアだと思う。リスナーさんたちの集合知は結構すごいのだ。
"任せろ”
"いや、ウニ料理ってあんの?”
"ウニだと、パスタとか?”
"ウニホーレン美味いぞ”
"何それ”
"え知らんの!?”
"知らんが”
"しらん”
"マジか…”
「ウニホーレン……?」
「へー、他の人が知らないところを見るに、郷土料理って感じなのかな」
そのあと、リスナーさんからの補足情報で詳細が分かった。かなり美味しそうだ。
「ほうれん草のバターソテーで、ベーコンの代わりにウニを使った感じ……作ってみようか。美味しそうだし」
「ね! よーし、私も一品作るからね」
「アヤネさんも?」
「そう私も!」
なんだか非常に彩音さんが気合を入れている。両手で握りこぶしを作っているくらいには。
とはいえ、今はまだお昼過ぎ。夕方に近い時間とはいえ、今から夕飯を作るにはちょっと早すぎる。
「でも、流石に今から作るのは早いから……何しようか」
「そんなの、決まってるよ」
「?」
「リスナーさんたちとお話しよ?」
「……そうだね」
確かに、言われてみたらその通りだな。今日はずっと話してもいないし、ちょうどいいのかも。
"え、この配信で雑談配信を!?”
"でき…んのかぁ…?”
"た、ぶん…”
"今日は雪が降るな”
"明日は台風だな”
"散々な言われようで草”
"お前らwww”
横で彩音さんがくすくすと笑っている中、私は遠い目をしながら思っていた。
やっぱり、やらなくてもいいかなって。