【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
花奈さんがパーティーに加入した翌日。私たちは八王子ダンジョンで待ち合わせをした。
なお、現地集合になった理由は他二人と違って私だけ学生だからである。放課後までの時間に2人でダンジョンに潜るんだって。ユニークスキルの確認とかもしてくるんだってさ。ズルいよね。
ちなみに、そのことを学校で愛依と凉に話したら、呆れ果てた目で見られた。ヒドイ。
私はいつだって少数派なんだ……マイノリティなんだ……なんて、しょぼくれながら学校を過ごし、放課後になったので勢いよく教室を飛び出す。本当なら窓から飛び降りたいところだけど、流石に怒られるので普通に玄関から出るよ。
家に帰って、昨日仕込みに仕込んだ料理の具材を収納魔法にインして家を出る。
「あっ、そうだ。行く前にアレ買わないと」
昨日色々用意していて、絶対にこれから必要になるな……と思ったものを買っていく。昨日仕込みながら思いついたものだから、買いに行けなかったんだよね。
これもレシートもらってと……よし、昨日仕込んだ材料のレシートもちゃんとある。
「いざ、歓迎会だ」
八王子ダンジョンに着くと、予想通り二人が待っていた。
「お待たせ!」
「こんにちは夢希さん」
「夢希ちゃんお疲れ様」
二人ともどこかに潜ってきた後だからか、少し髪が濡れている。多分汗じゃなくてそのあと浴びたシャワーの水かな。花奈さんは昨日は持っていなかった盾を背負っている。結構大きいな。バックラーとかじゃなくて、ちゃんとした盾って感じのサイズだ。カイトシールドってやつかな。でも、なんで二枚……? 予備かな?
武器だと背負ってると邪魔になりがちだけど、盾の場合は背負ってても背中の防御が出来て無駄がないから、割といいかも? そんなわけないか
合流した二人とあいさつを交わして、ダンジョンに潜る……前に、彩音さんにレシートを二枚渡す。忘れないうちにね。
「彩音さんにこれ」
「はい。受け取りました」
「では、わたくしも。こちらになりますわ」
「はい」
私に続けて花奈さんがレシートを差し出すと、彩音さんが丁寧にそれらを受け取り、バックパックの中から取り出した財布に入れた。
普段は私が収納魔法に収納してるけど、本来はバックパックを持っていくものである。彩音さんは今は最低限の医薬品と非常食の入ったポーチ一個のことが多いけども。
二人からバックパックを受け取って、収納魔法の中へ。貴重品を預かってるわけだから、丁寧にしないとね。
その後ダンジョンに潜った私たちはいつもの小部屋で軽く打ち合わせをしてから、配信を開始した。
打ち合わせって言っても、呼び方と触れてほしくない話題の確認くらいだけどね。花奈さんはリスナーさんなわけだし、その辺のことはよくわかってるから。
「……映像よし。音声よし。こんにちはユキです」
「アヤネでーす」
いつものように配信を開始すると、リスナーさんたちがさっそくいる。いや、本当に告知とかも何もないのに、何でいるんだろうね?
"こんー”
"きたー!”
"お、八王子か”
"最近ハマってんの?”
「場所もバレてるね。まあわかりやすいよねここ」
「配信開始地点もいつも同じだしね」
「それじゃあ、みんなに新しいパーティーメンバーを紹介するね」
「いきなりだね……」
"は!?”
"おいマテ!”
"唐突が過ぎる!”
"もうちょっとなんかあるやろ!”
リスナーさんたちが慌てふためくさまを見て、ちょっと笑っちゃった。でも、普段色々言ってくれてるからね。お返しだよ。
花奈さんが私の正面まで移動し、カメラの方に向くと、そのまま優雅にスカートのすそをつまんでお辞儀をした。カーテシーっていうんだっけこれ。目の前で見るのは初めてだけど、綺麗だなぁ……
「ご紹介にあずかりました、カナと申します。以後お見知りおきを」
"は、はじめまして…”
"あ、よ、よろしくお願いします…”
"お見知りおきを…”
"めっちゃお嬢様みたいな人来たが???”
"盾持ちの前衛とは、剛毅な人来たな…剛毅?”
"服装と装備があってるようなあってないような…”
リスナーさんたちが大困惑してて本当に面白い。今後もサプライズを何か仕掛けてみようかな。
でも、彼らが言っていることは分かるよ。服装と装備があってないもんね。シスター服に盾だよ? しかも装飾とか特にない黒色のカイトシールドが二枚。
挨拶を終えた花奈さんは、自分のスマートフォンでコメントを見ると不敵に笑った。
「ふふ、実ははじめましてではございませんよ。わたくしもコメントしていましたので」
"なにぃ!?”
"リスナーなのかオメェ!?”
"リスナーがそこにいる…だと…!?”
"許さんぞお前!!”
"羨ましい!!”
たちまち怨嗟の声であふれかえるコメント欄。確かに、時々料理食べたいとか言ってたもんね。
オフ会かぁ……うーん……。今のところやろうとは思えないけど、やる気になったらやってみようかな。そんな日は来なさそうではあるけども。
「そういえば、どういうコメントしてたの?」
将来やるかどうかも分からない事に考えを飛ばしていたら、彩音さんが花奈さんに話を振っていた。
それは確かに気になるな。どんなコメントしてたんだろう? 流石に現実と同じ口調ではないんだろうけど、それでもそれっぽい発言っていうと、冒険者っぽい発言してた人の誰かかな?
「『 実 食 』ですわ」
「カナちゃんだったのアレ!?」
「えぇ……」
"お前かよぉ!?www”
"よりにもよってwww”
"くっそワロタ”
"お、お前だったのか…”
"見た目と言動があってねぇぞ!?”
"ユキちゃん引いてて草”
あれが花奈さんだったのか……なんか毎回いるし毎回コメントしてるから覚えてたけど、あれだったのかぁ……。
ん? ということは今後あのコメントはないということになるのか。それはそれでちょっと悲しい気がする。
「ちなみに、パーティー加入理由はモンスターでお酒を造りたいからですわ」
"納得の理由。理解できねぇ!”
"それはパーティーに入れますよねぇ!?”
"見た目と言動からは想像のつかない狂気”
"どう造るんだよ…”
"そりゃオメェ…どうすんだ?”
リスナーさんたちがひたすら花奈さんに振り回されている。かなり自由な人だよね花奈さんって。出会って二日目だけど、そう感じるよ。
「その辺は割愛いたしますわ。食事をしながらでもよいでしょう」
「そうだね。今日はのんびりご飯食べるもんね!」
「うん。さっさと砂ウツボ狩っちゃおう。今日はカナさんの歓迎会だからね」
花奈さんの発言に、私たちも気炎を上げる。盛大にもてなしますとも。仕込みもばっちりだしね。
"歓迎会はダンジョン内でやるものじゃないと思うんですけど(名推理)”
"ついでにモンスター食わせるものじゃないと思うんですけど”
"どう考えても、このパーティーの歓迎会はダンジョンでモンスター食うだろ”
"むしろ、そうじゃなかったら怖いわ”
"というか、砂ウツボで歓迎会なのが意外なくらいだよ。もっとえげつないの食わせるかと思った”
えげつないものって……リスナーさんたちってやっぱり私のこと偏見持って見てるよね。そんなことするわけないじゃないか。そもそも彩音さんにだってそんなことしてないし。
「いきなり美味しくないもの食べさせないよ」
「沼に落とすんだもんね」
ちょっとしたリスナーさんたちへの不満を漏らしたら、横からにっこりと笑っている彩音さんに刺された。
もしかして、この前の会話が不満だったのだろうか。とはいえ、申し訳ないけど本当にそういう理由なんだよ……私はただ初めて出来た一緒に冒険してくれる人を逃したくなかっただけで……
「……アヤネさん根に持ってる……?」
「ふふふ、内緒」
恐る恐る聞いてみたものの、はぐらかされてしまった。しょうがない。今日のご飯で挽回して見せようじゃないか。目にもの見せてあげよう。
"沼に落とすwww”
"ちょいちょいネットに被れてんだよなぁ…”
"確かに、アヤネさん加入直後は大体美味いと分かってるやつの別料理だったな”
"言われてみれば…”
「わたくしもしっかり沼に落としてくださいませ」
「任せて」
微笑みながら言う花奈さんに胸を張ってそう答えたんだけど、視界の端で彩音さんが微妙な顔をしていた。なんでだ……。
「というわけで、仕留めたのがこちら」
「瞬殺だったね……当たり前だけど」
「……」
勝手知ったる八王子ダンジョン。中層までさっさと飛び降り、砂ウツボを見つけて仕留めた。
前と同じで巣穴に石を投げて出てきたところを《魔力の矢》で仕留める。頭が吹き飛んだ死体を浮遊魔法で吊るして、血抜きをしつつ歓迎会をするための小部屋を目指す。昨日地図とにらめっこしていて見つけた場所で、メインルートから数本横道に逸れたところにあって誰も来なさそうな部屋である。入り口も一個だけなので警戒もしやすいし。
あとは調理するだけなんだけど、さっきから花奈さんが難しい顔をして何やら考えこんでいる。
「カナさんどうかした?」
「いえその……先ほどのアレは本当に《魔力の矢》なんですの?」
「そうだよ」
いや、リスナーさんだったなら知ってるでしょ? いつもの光景だと思うんだけどな。
「……知ってはおりましたが、目の前で見ると本当に理解が出来ませんわね……」
「分かるよその気持ち……意味わかんないもん」
私の返答に、花奈さんも彩音さんもなんだか遠い目をしている。やれやれって感じで肩すくめながら。
確かに普通に考えると意味わからない火力しているけども。でもユニークスキルなんてそんなものでしょ。彩音さんの《乾坤一擲》だって、投げ槍があの威力になるんだから。
"それな?”
"画面越しだからゲラゲラ笑って見れることってあるよな”
"リスナーのはずの実食ネキも洗礼受けてんの草”
"実食ネキw”
"呼び方決まったな…”
「ちょ、ちょっと流石にそれは辞めてくださいまし!?」
「じ、実食ネキって……んふっ……くふふ……」
「アヤネさんは笑っていないで止めてくださいな!」
花奈さんの叫び声に振り向いたら、彩音さんが膝から崩れ落ちて爆笑していた。今日はスマホ見ながら冒険していいよって言ってたから、多分そのせいだと思うんだけど、何が原因なんだろう?
ちなみに、八王子ダンジョンだから出来ることである。渓谷にいる時はともかく、洞窟内だと砲台ヤドカリか砂ウツボしかいないから、私1人で事足りるのだ。
砂ウツボは脅威にならないし、砲台ヤドカリに対して早撃ち対決なんてしたら、あっちが1発撃つ間に《魔力の矢》を5発は撃てる。
「実食ネキは、実食ネキはやめてくださいな!」
「や、やめて、連呼しないで……くくっ、んふふふふ」
花奈さんの叫びに彩音さんがさらにツボに入ってしまったらしく、床を叩き始めた。
いや、実食ネキってなんだ……? リスナーさんたちが花奈さんにつけたあだ名かな? そんなに嫌がるようなあだ名なんだろうか。だったら辞めさせるべきな気もするけど……そういえば、たまに出てくるニキとかネキってそもそもなんなんだ?
「あのさ、コメントでたまに出てくるネキとかニキとかってなんなの?」
肩で息をしていた花奈さんが、大きく深呼吸をしてから、説明をしてくれた。
「簡単に言えば、ネキは女性、ニキは男性ですわね。姉貴、兄貴が語源ですわ。例えば解説ニキや海外ネキなどのように、前に単語をつけて特定個人をわかりやすくする用法もあります」
「あぁ、それでカナさんは実食ネキなんだね」
「はい。そして、これは文脈次第ではありますが、皮肉や揶揄の表現として用いられることが多いのです。今回はそういった使い方になりますね」
「なるほど。リスナーさんたち、やめようね」
嫌なあだ名を付けてからかうのはよくないことだよ。人として。イジメじゃんそれ。
当たり前にリスナーさんたちを止めに行ったら、花奈さんから予想外の言葉が飛び出してきた。
「…………いえ、よく考えれば"おいしい”ですのでこのままで構いません。常用されるのが嫌なだけですので。リスナーの皆様は用法用量を守って使ってください」
「……え?」
"草”
"これはリスナーの鑑”
"普段はカナさんって呼んで、やらかした時には使わせてもらお…”
"見た目に反して中身がネット民過ぎて草”
"ネットに染まった見た目お嬢様かぁ…”
"モンスターで酒造しようともしてるぞ”
"キャラ濃いなぁ…w”
大盛り上がりのコメント欄とそれを満足気に眺める花奈さん。そして、未だに笑いから帰ってこれないのか、苦しそうにお腹を抱えてる彩音さん。
………………無理だ。私にはインターネットの常識は難解すぎる。まったく分からない。
思考を丸ごと放り投げた私が目の前に向き直ると、通路の角からひょっこりと顔を出した砲台ヤドカリと目が合った。
ヤドカリは一瞬固まって目をキョロキョロさせたあと、ゆっくりと方向転換をして去っていった。私も君みたいにここから離れたいなぁ……
というわけで、実食ネキのエントリーだ!!