【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と砂ウツボ料理の歓迎会2

 

「よし、解体終わり。今から調理しよう」

 

 ちょっとした出来事はあったけど、小部屋に辿り着いた私は、セッティングを2人に任せて砂ウツボの解体をしていた。

 さっさとやらないと遅くなっちゃうし、何より私も早く食べたい。用意してきたものもたくさんあるのだから……!

 

「ユキちゃん、終わったよー」

「ありがとう」

「では、わたくしは――」

「カナさんは今日の主賓だから、座って待っててね」

「は、はい……」

 

 "バッサリで草”

 "まぁ、歓迎される本人が働くのもなぁ”

 "今まで好き放題してた実食ネキが大人しくなった…だと…!?”

 "やるなユキちゃん…”

 

 セッティングが終わった2人に声をかけて、彩音さんに収納魔法から取り出したものを渡す。

 

「彩音さん、今日からこれでご飯炊いて」

「へ? 土鍋?」

 

 "土鍋、土鍋じゃないか!”

 "まさかの土鍋www”

 "飯盒で足りるんじゃねぇの? 2合炊きだろあれ”

 "アヤネさんが基本1合食ってるから…”

 "そうだったわ”

 "いっぱい食べる女の子は可愛い!”

 "それな?”

 

 買ってきたアレとはこれのことである。私の飯盒は2合炊きだ。だから、3人分でも大丈夫……かどうか微妙なのだ。何故って? 彩音さんが1合食べてるからね。

 つまり、普段1,5合炊いているし、そこに花菜さんの分もってなると……2合だとちょっと足りなそうじゃない? 今日みたいにご飯が進むような料理だとなおさら。

 花奈さんがどれくらい食べるのか分からないから、念には念をね。それに、今後鍋なんかもやるかもしれないし。先行投資ってやつである。

 

「3人分を飯盒でやるのは流石に足りないなって」

「あぁ、確かに……。いつもの要領で大丈夫かなこれ……」

 

 確かにって同意する辺り、彩音さんも足りないと思ったんだね。なら大丈夫だろう。

 彩音さんは何か悩んでいるのか、首を傾げながらも土鍋に米と水を入れていく。彩音さんはおこげの生成すら完璧にこなせるくらいにはご飯炊くのに慣れてきているので、大丈夫だと思うんだけどな。

 いや、他人の心配してる場合じゃないな。私は砂ウツボをちゃんと料理しなくては。

 

「私はまず白焼き作ってカナさんとアヤネさんに渡す」

「おお、まずは白焼きからですか。通ですわね……!」

「え、私もいいの?」

 

 彩音さんがびっくりした顔をしている。確かにこれは花奈さんの歓迎会だけど、個人的には彩音さんの歓迎会も兼ねているつもりである。

 だって、出会いがアレだったし、その上やってもいない。だから、今日は彩音さんにも楽しんでもらえたら嬉しい。今更にも程があるのは事実なんだけどね。

 だから、これは私の勝手な気持ちの問題なのである。ならばこそ、今日は美味しく、楽しく過ごして欲しいのだ。ご飯だけは炊いて欲しいけども。手が足りないから……。許して。

 

「もちろん。でも、ご飯だけはよろしくね。そのあと、うざく、う巻き、蒲焼の順でいく予定」

「期待して待っております。ふふ、さてこちらを……」

 

 花奈さんが背負った盾の下から、保冷バッグを取り出した。え、そこに収納してたの? いや、よく考えると普通にバックパックの上から盾を背負ったらこんな感じになるか。

 そして、その中から日本酒の瓶を取り出すのを見て、一応聞いておくことにする。

 

「念の為聞いておくけど、本当に大丈夫なんだよね?」

「ええ。アヤネさんには事前に試してもらっております」

「午前中に飲んだあとに使ってもらったら、ホントに酔いが覚めてびっくりしたよ」

「うん、分かった。」

 

 "え、酔いが覚める?”

 "まさか、アヤネさんも飲むのか!?”

 "むしろ、採用理由これなのでは?”

 "ユキちゃんは飲めんし、アヤネさんがそんなことで採用するわけないやろ”

 "せやせや”

 

 リスナーさんたち鋭いね。彩音さんの力強い宣言で採用が決まったよ。お酒飲みたかったみたいだし。後で聞いたら、私の料理が大体お酒のツマミになるからだそうだ。

 そうなのか? って思ってお父さんと鬼灯にも聞いてみたら、2人にも、お酒のツマミになるって言われちゃった。おかしいなぁ……。ただのキャンプ飯じゃないか。

 でも、最終的にこういう論調になるのは、今まで彩音さんが真面目にやってきたからだろう。実際、私に振り回されてる常識人って感じの扱いされてるし。

 いや、私は非常識なつもりは一切ないけどね? なんだかそんな扱いをされるからね。不本意ながらね。

 私に邪魔をされてしまった花奈さんが、コホンと咳払いをして取り出した酒瓶のラベルをこちらに向ける。

 

「では、改めて……こちら、昨年度に賞を取られました、童部酒造様の『かがち』です」

「ぶふっ」

「んぐっ」

「? お二人とも、どうされました?」

「ううん、なんでもないよ!」

「だ、大丈夫!」

 

 彩音さんと2人で変な反応をしてしまった。まさかそれを花奈さんが持ってくるとは想定していなかった。

 いや本当に不意打ちがすぎないかなぁ!? よりにもよって鬼灯の家のお酒出てくるのはさぁ!

 

 "かがち美味いんだよなぁ”

 "2人ともどうしたんや?”

 "あーね?”

 "分かったわw”

 "え、なんで分かってんだよ!”

 "教えろください”

 

「後味はすっきりとした辛口でありながら、口含んだ瞬間に香り立つ甘めのフルーティな香り。また、冷酒では切れ味鋭く、温くなるにつれて香りが引き立ちます。今回の食前酒にはぴったりだと思いまして」

 

 "解説ガチすぎて草”

 "ソムリエみたいな事言い出すじゃん”

 "ソムリエだったらもっと変なこと言い出すぞ”

 "それな。お前一回ソムリエの味表現一覧見てこいよ”

 "見てきたわ。意味わかんねぇやつ多すぎてマジで草”

 

 うっとりと瓶を撫でながらお酒を褒めちぎる花奈さん。

 うん。鬼灯が前に言っていたことを今理解した。これで名前が『ほおずき』だったら、確かに微妙な心境になりそう。自分のことじゃなくてもね。

 花奈さんのお酒に対する評価をうんうんと頷きながら聞いていた彩音さんが、何かに気づいたように首を傾げた。

 

「へー、そうなんだ……ん? 食前酒?」

「ええ、食中酒は別に用意がございますので」

「そ、そっかー……えっと、何持ってきたの?」

「こちら、『かがち』の大吟醸でございます。先ほどのものの別バージョンですわね。純米吟醸もご用意があります」

 

 "まずなんで3本も持ち込んでんだよ”

 "持ち込みすぎだろwww”

 "当たり前のように複数本出てくるの草”

 "カナさんも呑んべぇなのか…”

 

 さらに保冷バッグから別の酒瓶を取り出す花奈さん。うーん、この呑兵衛感……鬼灯と出会ったら秒で意気投合しそう。

 まぁ、そもそもモンスターでお酒を造りたいっていうくらいだし、そりゃお酒好きに決まってるよね。本数はびっくりしたけども。

 

「なんで、そんなに『かがち』ばっかりなの……?」

「わたくしが飲みたかったからですが?」

「そっかぁ……」

 

 当然のことのように断言する花奈さんに彩音さんの目が遠くなる。いやでも花奈さんの発言は正しい。だって今日の主役は花奈さんだからね。好き放題して……いや、ちょっと自重してほしい気がしてきたけど、好きにしていい日である。

 

「さ、アヤネさんもどうぞ」

「あ、ありがとう」

 

 花奈さんがささっと彩音さんの前にお猪口を置いてお酒を注ぐ。食前酒って言ってたし、そりゃ飲むよね。

 でも、確かお腹空いてる時にお酒飲むとすごい勢いで酔いが回るんじゃなかったっけ……?

 

「ふふ、乾杯」

「か、乾杯」

 

 お猪口を掲げて2人でぐびり。うーん、なんだかカッコいいな……花奈さんはちょっと違和感あるけど。見た目がね、西洋のお嬢様様だから、お猪口なのが大分ミスマッチ。彩音さんもなんだかしっくりこないな……

 いやこれ、金髪と鎧が合ってないのか……? 鎧に合うコップの類は多分木製のジョッキだろうから、しょうがない気がする。本人が美味しいのが一番だから、どうでもいいことだけどね。

 

「あ、これ美味しい」

「飲みやすいでしょう?」

「うん。ちょっと危ない気がする」

「お酒は弱いのですか?」

「そこそこかな……普段飲むときって、こう酔い潰れた子たちの世話してた感じでね。1人だとそんなに飲まないし」

「確かにそんな感じがいたしますね。ですが、ご安心くださいな。わたくしは問題ございませんので」

「ふふっ、そうだね」

 

 "ワイ未成年危ない気がする酒ってなんや”

 "飲みやすくてついつい飲み過ぎちゃう酒のことやね”

 "度数低めの甘い酒とかに多いな”

 "気を付けるんやで。酔い潰れた後が怖いぞ”

 

 楽しそうな2人の会話を聞きながら、ずっと調理し続けていた白焼きがちょうどいい感じに焼き上がったので、串を外して皿に載せて2人の前へ。

 二口コンロでやってるから、一気に2枚できるのがいいね。なお、私の分はない。単純に、他のものも食べたら、お腹に入り切らないからね……。そして、何をやめるかと言ったら白焼きである。だって蒲焼き食べたいもん。

 なんたって、今日はただの蒲焼きじゃないからね……ふふふ……

 

「はい、白焼き」

「おお、これが……! 本当に大きなウナギにしか見えませんわね……」

「わぁ、美味しそう!!」

「わさびと柚子胡椒もおいておくね」

「ありがとうございます」

 

 "至れり尽くせりだ…”

 "確かにこれは酒が美味そう…”

 "あの時めっちゃ美味そうだったもんなぁ…”

 "流石に鰻は用意できなかったぜ…”

 "ちょっとお高いもんな…”

 

 チラチラと配信画面を見ながら調理してるんだけど、普段なら大体一緒のもの食べてるリスナーさんたちが、今回は用意できてなくてちょっと面白いな。

 ん? あれ前のときは用意してる人いなかったっけ?

 さて、2人に出してる間に蒲焼きを作らねば。うざく、う巻きは蒲焼きをさらに調理するからね。その後は……ふふふ。

 

「ふふ、ではお先に……」

「いただきます!」

「どうぞー」

 

 "あれ?”

 "おーい……?”

 "…………そうか、あいつ今そこにいるんだったwww”

 "あのコメ流れてこねーなぁ…って思ったわw”

 "そうじゃん、そこにいるんだわwww”

 

 私もちょっと寂しく思っちゃったよ。なんだかんだ結構ずっといたからね……。配信という体を最低限取り始めてからリスナーさんたちとの交流も私にとって大事なものになって来たんだなぁ……なんて思う。そもそもあまり人と関わらない人生だったからっていうのもあるけども。

 そんなふうに思って少ししんみりしていたら、突然花奈さんが手を合わせたあと少しの間目を閉じた。

 

「さて……」

 

 そして、目を勢いよく見開いて大きな声を出した。

 

「 実 食 ! 」

「言うんだ!?」

「当然でしょう? 味がしなくなるまで擦るのはネットの常ですので」

「そ、そっかー……」

「えぇ……?」

 

 彩音さんと一緒に遠い目をしてしまう。そっか、当然なのか……。

 いや、確かにね。なかったらないで寂しいなって思ったんだけどさ、この花奈さんの自由さを見てるとさ……うん。

 少なくともしんみりした感情は吹き飛んだから、よしとしよう。冒険者に切り替えは大事なのだ。蒲焼き焼くのに集中しよ。

 

 "ネット民すぎるこいつwww”

 "自分で擦るの草”

 "実食ネキ…!”

 "これからも『 実 食 』は不滅や!!”

 "お前がナンバーワンや”

 "味しなくなっても擦りそう”

 "その時は俺らが擦ればええねん”

 

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