【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と砂ウツボ料理の歓迎会5

 

 何故だかよく分からないが、ダメージを受けたらしい2人は、しばらく落ち込んでいたものの、目の前のお酒と料理を口にし始めた。小さな声でぶつぶつと、化粧とか美容について話しながらである。

 そして何故か飲むペースが上がった。いや、なんで?

 それから少し経って……今。

 

「ユキちゃんってホントにユキちゃんなんだから!」

「う、うん……」

「見てよこの絶対わかってない顔!」

 

 私は盛大に彩音さんに絡まれていた。しばらくは何ともなかったのに、突然この有り様である。なお、「ユキちゃんはユキちゃんなんだから!」を言い方を変えてすでに10回近く言っている。

 何の話なのかさっぱり分からないから、微妙な顔をしていたら、私を指差しながらスマホに向かって叫び始めた。

 いや、カメラは私の胸にあるんだから、リスナーさんたちには私の顔見えてないよ。そもそもモザイクかかってるし。

 

「リスナーさんたちには見えてないから、スマホに向かって叫んでもわかんないよ」

「そういう問題じゃないの!」

 

 "分かってねぇ顔してるんだろうなとは思うが見えねぇのよw”

 "アヤネさんが壊れたwww”

 "あちゃー…”

 "酔っ払いがよぉw”

 

 困っていたら、花奈さんから助け舟が来た。もっと早く来て欲しい。

 

「まあまあ。そこがユキさんの良いところではありませんか」

「……それはそうなんだけどね」(スンッ

「どういうところに納得したの……?」

「そういうところ! ホンットに! そういうところ!」

 

 "情緒めっちゃくちゃwww”

 "まぁ、無自覚になんかやらかすのがユキだからな”

 "それはそうなんだろうなぁ…”

 

 一瞬収まったと思ったら、また爆発したよ。

 もう彩音さんの情緒が分かんないよ私は。いや、酔っ払いの情緒って言うべき?

 もうどうしたらいいのか分からないので、今のところ唯一知っている対処法を試すことにする。

 

「分かったよ。とりあえず、アヤネさんはお水飲もうか。はいどうぞ」

「うん……ありがと……」

 

 ダメ元でお水を渡したら、彩音さんはくぴくぴ飲み始めた。

 とても素直……。酔っ払いの情緒分かんない……。

 そして、この状態を作り出した花奈さんは未だに笑みを浮かべながらお酒飲んでるし。本当に強いんだなぁ……。

 

「……そういえばユキさん、念の為お聞きしたいのですが……」

「うん?」

「髪の手入れはなさっておられますよね……?」

 

 "声震えてるの草”

 "化粧云々であの反応だったもんな…”

 "全てが天然物だったら、マジでキレていいと思うわw”

 

 そんなに怯えながら聞かなくても良くない?

 え、そんなに化粧してないことって悪いことだったのかなぁ……うーん、でもなぁ、お金の問題があるんだよなぁ……今は3人だけど、たまに鬼灯が来るだろうし、今のテーブルで4人は厳しいから新調したいし、それに合わせて食器なんかも新調しようかなって思ってるし……うん。化粧は後回しで。

 

「してるよ。ヘアオイル塗ってる」

「そうでしたか! 何の商品をお使いに?」

 

 "嬉しそうw”

 "めっちゃ声明るくて草”

 "露骨にテンション上がってんじゃねぇかwww”

 "実食ネキwww”

 

 花奈さんの顔と声が一気に明るくなった。そ、そこまで……?

 とりあえずそのへんのことは置いておいて、使っているヘアオイル……なんだったかな。ちょっと調べよう。こういう時こそスマホの出番だよね。

 と思ったんだけど、全然商品の名前が思い出せず、製造会社さえパッと出てこなかったのでカメラロールを見ることに。確か写真撮ったと思うんだよな……あ、あった。

 

「えっとね……これ」

「あ、評判いいやつだぁ……」

 

 横からなんだかとろんとしたような彩音さんの声。ダメだ。完全に酔っ払いだ……。

 はい追加の水。うん。無理しないで飲んでね。

 

 "アヤネさん完全に酔っ払いだわこれ”

 "飲み過ぎたんだ…”

 "ユキちゃんが悪い()”

 "そうかな?そうかも?”

 

「カナさんは何使ってるの?」

 

 この流れなんだし、多分使ってるんだろう。というか、ウェーブかけて腰まであるってことは、ピンと伸ばしたらどこまであるんだろう……?

 

「……わたくしはこちらです」

「おお……お高い……!」

「ふふふ、自慢の髪ですから。手入れにも気を使っておりますので」

 

 私のやつと一桁違うやつが出てきた。使う量も考えると、髪にいくらかけてるんだこの人……

 花奈さんは微笑みながら髪に手をかけて、髪をファサってやった。様になってるなぁ……

 

「カナちゃん髪ファサってやるの似合うねぇ……」

「ね。すっごい様になってる」

「そうでしょう、そうでしょう!」

 

 花奈さんがものすっごいドヤ顔してる。するだけのことあるけども。

 そして横では彩音さんがおねだりし始めた。

 

「もっかい、もっかいやって?」

「ふふふ。どうぞ」

「わぁ!」

 

 "きゃっきゃっ”

 "アヤネさんwww”

 "完全に子供だよこれwww”

 "後で死ぬんじゃねーかなアヤネさん”

 

 彩音さんのこの姿配信に乗せて大丈夫なのかなこれ……。拡散されたりしないと思うけど、後で大変なことになりそうな気が……もう遅いんだけどさ。

 

「ユキちゃーん、ご飯たけたー」

「あ、ありがとう」

 

 こんな状態でもちゃんとご飯は炊いてくれるんだ……むしろそこはすごいな……。中身確認したけど、完璧じゃん。すごく美味しそう。

 

 "むしろそこで完璧なのは流石だな…”

 "なんで完璧なんだよ”

 "どういうことなの…?”

 

「さ、ここに……」

 

 土鍋の中のご飯にしゃもじを入れて、切った蒲焼きを入れていく。贅沢に4枚分である。

 いつ作ったか? 彩音さんに絡まれてる間に無心で作ってたんだよ……

 で、これを混ぜる!

 

「なるほど、こう来ましたか」

「んー……?」

 

 "ひつまぶしやんけ!!”

 "最後まで豪華でいいなぁ”

 "そういや、ホオズキちゃんこれ見てて思うところないん?”

 "なんで?”

 "美味い酒とツマミあるし…”

 "あーそういう? なら一つだけ言っておこう”

 "う巻きは、美味いぞ”

 "おいこらwww”

 "鰻食ってやがるこいつwww”

 

 砂ウツボを崩さないように、混ぜる程度に留めて蒲焼きのタレの残りを回しかけて……お椀に盛り付ける。

 そして、さらにこの刻みネギ、ワサビ、ノリを乗せた小皿を並べ……。収納魔法から魔法瓶を取り出す。中身はもちろん出汁である! ふふふ、鬼灯からアドバイスまでもらって作ってきたんだよ……!

 まぁで、食べる前に。

 

「カナさん、一回酔い覚まししてもらっていい? アヤネさんが大分……ね?」

「そうですわね……では。《不退の陣》」

 

 "お、おお!?”

 "かっけぇ…”

 "範囲バフかー。いいじゃん”

 

 花奈さんを中心に黄金色の魔法陣が展開される。シンプルな見た目でいいね。文字とかでごちゃごちゃしてる魔法陣よりも、こっちのほうが私は好きだな。《魔力の矢》も似たようなもんだし。

 

「……っ!? あぁ!」

 

 "アヤネさんが死んだ!”

 "この人でなし!”

 "うわぁ…”

 "中々ない処刑の仕方”

 

 彩音さんが顔を真っ青にした直後に真っ赤になって顔を両手で覆ってしまった。

 あぁ、そっか。ちょっとやってしまったかもしれないなこれ。でもなぁ、あんだけ酔ってたら美味しいご飯を美味しく食べられないからなぁ……。必要な犠牲ってことで。

 リスナーさんたちのコメントは見ないことにする。いくらなんでも酷くないかな。私はこのひつまぶしを美味しく食べてほしいだけなのに……

 

「アヤネさん、最後の料理出来たから食べよう?」

「今の流れでよくそんなに普通にいけるね!?」

「……触れて良かったの?」

「……良くないです……」

 

 だよね。良くないよね。だから触れないようにしてたのに……。

 とりあえず、これのお供はお茶でしょ。と思って用意してきたほうじ茶を淹れて、みんなに配る。

 

「とりあえず食べませんか? 冷めてしまっては美味しくないでしょう」

「それはそうだね……よし、切り替え! うん、美味しそう!」

 

 配膳した料理を見て目をキラキラさせる彩音さん。うん。切り替えちゃんと出来てて偉いね。前までは結構引きずってたもんね。

 

「切り替え早いですわね……」

「切り替え大事ってユキちゃんに習ったからね」

「ユキさん?」

「実際大事でしょ?」

「……それは、そう、なのですが……」

 

 "すげぇ苦悶の声が聞こえる…w”

 "実際切り替え大事。反省は夜寝る時でいい”

 "ホオズキちゃんまで…”

 "あれ?俺たちがおかしい?”

 

 苦虫を噛み潰したような顔をする花奈さん。そんな顔しなくてもよくない? 実際大事なんだからさ。冒険者なんて、一瞬の判断が大事なんだから、過ぎたものはとりあえずで置いておいて、今に集中しないと。

 彩音さんはというと、もう完全に目の前のひつまぶしに心を奪われている。

 

「ひつまぶしなんていつぶりかなぁ……いただきまーす!!」

「召し上がれ」

「……コホン」

 

 花奈さんが咳払いを一つ。うん。何が起きるのかよく分かるね。

 

「 実 食 !」

 

 今日の分は全部終わったので、私も一緒に食べる。

 うーん。美味しい。やっぱり砂ウツボ美味しいなぁ……でも、やっぱりちょっと脂キツイな。こういう時は薬味を乗っけて……うん。ちょうどいい。ひつまぶしなんて私も本当に久しぶりに食べたんだけど、うまく出来て良かった。

 で、ここでほうじ茶を一口。やっぱりお茶があうねぇ……

 

「非常に美味ですわね……」

「とっても美味しい……」

 

 花奈さんも彩音さんも、しみじみと噛み締めるみたいな感想が漏れている。

 分かるよ。私もそんな感じだよ。やっぱり蒲焼きはご飯と合わせるのが一番だよ。

 

 "噛み締めてるなぁ…”

 "マジで美味そう”

 "ひつまぶし食いたくなって来たな…”

 

「ここに出汁を入れて……」

「出汁までちゃんと用意してあるのがすごいよね……」

「もはや、ダンジョン内とは思えなくなってきましたわね……」

 

 "今更すぎんだよなぁ!?”

 "ずっと疑問に思っててくれwww”

 "最初からずっとおかしいよ?”

 "ずぅっとキャンプなんだよなぁ???”

 

 そのままで食べて、薬味を乗せて、出汁茶漬けにして食べる。うん。幸せだ……

 土鍋の中身がなくなるまでみんなで楽しくお話をしながらご飯を食べた。全部うまくいって良かったよ。

 花奈さんの歓迎会は、料理は好評でかつ問題なく終わった。

 問題は無かったのだ。そういうことになったのだ。

 

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