【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
前回、酔った彩音さんだけで1話分使えばよかったんじゃないかと後悔中ですが、とりあえず先に進みます。
歓迎会をやった翌週の月曜日。
私たちはとあるクランの本部にいた。昨日一昨日のクランの説明会に参加した結果、このクランに決定したからである。
今週は特に何かを新しく食べるとかもせず、今まで食べたものを食べつつ連携の確認をしていた。カレーとか焼肉とか。
花奈さんという防御に長けた前衛が入ったことで、彩音さんの動き方も変わったしね。前衛として私を守るという動きから、花奈さんの横から敵を叩くような動きに変わって、大分生き生きと動いているように見えた。おかげで私の動きが一番変わったので、それなりに大変だった。今までのつもりで攻撃しようとすると、2人のどちらかが射線にいることが増えたんだよね。
とりあえず、いままでの動きのまま直線で撃つのは無理なので、一旦《魔力の矢》を曲げながら撃ったら大分変な空気にはなったけども。曲げるくらいなら出来るでしょみんな。
そんなわけで、私の課題として2人との連携の強化という感じである。2人は当たり前のように連携していて、おいていかれないようにしないといけないからね。
なお、花奈さんの2枚の盾は、予備とかじゃなくて両手に装備していた。片手で防いでもう片手で殴る。くらいのことを平気でやっていた。止めるだけでなくこちらが無理なく処理できるだけの量を後ろにわざと通して、その場にい続けるということを優先するなど、安定感が素晴らしかった。背中が頼もしいなどという一言で表せるようなものではなく、その場で彩音さんと2人でほめちぎってしまったのだが、当人は「当然ですわ」とドヤ顔をしていた。ちょっと口がにやけてたのには触れないでおいた。
そんな日々を過ごしたのち、今、私たちは加入するクランを決定したのである。
「……はい。必要書類は全てありますね」
事務員の方に書類の確認をしてもらって、これで晴れて私たちはこのクランのメンバーになったわけである。
色んなクランの話を聞かせてもらったけれど、やはりここが一番良かったのである。他が悪いわけではなく、私たちが外れ値なだけだけども。
というのも、やっぱりクランに入る=団体行動優先。なわけで、パーティーとかソロで好き放題していいよ。というクランがここしかなかったのである。当たり前ではあるけども。
「では、改めて」
事務員さんが姿勢を正し、微笑みながら祝福してくれた。
「ようこそ『
「結局ここかぁ……」
「なんで嫌そうなんですの? 良いではありませんか」
「そうだよ。夢希ちゃんだって、ここの方がいいでしょ? 何かとお世話になってるんだから」
加入が終わって『
花奈さんと彩音さんにたしなめられるけど、すぐにわかるよ。彼らはよその人たちには迷惑をかけないように立ち振る舞うが、身内になったとたんに迷惑をかけることに躊躇がなくなるということが。むしろ積極的に巻き込んだ方が思わぬ発見があって研究に役立つとかいう理由で。
「それは否定しないけど、同じくらい大変な目にもあってるからさ……」
憂鬱そうにしてしている私を見て、彩音さんと花奈さんが顔を見合わせて首を傾げあっていた。すぐにわかるよ。
でも確かに、2人の言う通りではあるか。これからしばらくは地獄が待っているとしても。その後は自由……! お金も入るし、支援もしてもらえるしでいい事ずくめなはず……!
そうして歩いていると、通路の角から男性が一人顔を出した。その人は私を見るとニカっと笑って片手を上げた。
「よお、夢希! と……夢希とパーティー組んでくださってる方かな? はじめまして」
「は、はじめまして」
「はじめまして」
3人が挨拶を交わしたの確認して、叔父さんを紹介する。タイミングここで合ってるよね……?
「紹介するね。私の叔父さんの大森誠一さん」
「どうも。大森誠一だ。魔法の研究開発を専門にしている。これからよろしく」
「よろしくお願いします! 美空彩音です」
「北条花奈と申します。よろしくお願いいたします」
自己紹介をして握手する3人を見て、とりあえず案内の仕事はこなせそうだと安堵する。安心するには早い気がするけども。まだまだこんなものじゃないからねここの人たちは。
そして、私がなぜ先ほどちょっと愚痴をこぼしたのか、その一端を2人にも知ってもらおう。
「新しい魔法を開発しては私に試し撃ちさせるために1日中拘束する人たちのトップだよ」
「その説明は酷くないか!?」
「何も間違ってないでしょ?」
「…………いやまぁ、そうなんだが……」
ジトっとした目で叔父さんをにらむと、目をそらして後頭部をかきながら叔父さんが白旗を上げる。
「間違ってないんですね……」
「なるほど、大変な目とはそういう……」
彩音さんが顔をひきつらせ、花奈さんが合点がいったというふうに頷く。
そして、まさしく
「あ、夢希ちゃん!」
「げ」
美弥子が私を見つけて駆け寄ってくる。思わずげって言ってしまったし、聞こえてると思うんだけど全然へこたれないんだよな……。前回来た時の熱烈な告白はしばらく顔が熱かったけれど、よく考えたらいつも通りの美弥子と何も変わらないな? って結論が出たので、いつも通りの反応が出来ている。
いや、いつも通りの反応が「げ」なのもどうかとは思うんだけど、美弥子に対してだけは許してほしい。正直今すぐ花奈さんの後ろに逃げ込みたい気分だ。
「夢希ちゃんがあんなに嫌そうな顔してるの初めて見た!」
「本当に嫌そうな顔をしましたわね……」
「あっはっは!」
後ろで何か言ってる2人と爆笑している叔父さん。叔父さんはあとで覚えてろよ……
美弥子は私の前までくると、その時初めて横にいる彩音さんと花奈さんに気付いたらしい。もはや怖いよそのレベルまで行くと。
「おや、はじめましての方々がいらっしゃいますね。はじめまして! 私の名前は大森美弥子! 夢希ちゃんの将来の妻です!」
「え!?」
「おやおや」
「違うから!」
そして初手でとんでもない爆弾発言をのたまう美弥子。いつも通り過ぎるんだよね本当にさぁ!!
彩音さんの顔がぎゅるんって音がしそうな勢いでこっちを見る。怖いよ。あと、花奈さんのその、やりますわね……。みたいな目は何? 違うからね?
「2人でドレスもいいなと思ったのですが仕方ありません。私が夫としてタキシードを着ましょう!」
「そういう問題じゃない。私は美弥子と結婚しない」
「もう、そんなに照れなくてもいいじゃないですか」
「照れてないから!」
ポジティブすぎるだろ本当に!! なんだかもう疲れてきたよ……まだ本部の半分も案内してないよ?
「……」
「……」
横で彩音さんと花奈さんが完全に固まったよ。そりゃそうだろうけども。
そして、さらに追撃の人物がやってきてしまった。
「あ、夢希ちゃん、今日から入団って聞いたわよ。あら、後ろの方々は……」
「……あ、わ、私が美空彩音です」
「ほ、北条花奈と申します」
「あらご丁寧にどうも。小川聖子です。これからよろしくお願いしますね」
2人とも何とか再起動したみたいだけど、油断しないでね。多分今いる中で一番手ごわいのその小川さんだからね。
にっこりと人当たりのいい笑顔で丁寧に接する小川さんに2人の雰囲気が和らぐ。うん、ダメだよ。今からがこの人の本性だ。
小川さんは少しだけ二人のことを眺めた後、私の方に少しだけよって小声で話し始めた。小声って言っても、小川さんの小声はまったく意味がないけども。全員に聞こえてること間違いなしだ。
「ねえ夢希ちゃん、2人ともパーティメンバーなのね?」
「……そうだよ」
「…………なるほど、長身で金髪の子がいいのね?」
「そうなんですか夢希ちゃん!?」
「……え? ちが」
とんでもないことを言った小川さんに一瞬反応が遅れ、それが致命的な隙になってしまった。
「なるほどねぇ、ねぇ彩音さんも花奈さんも夢希ちゃんのことよろしくね。この子ったら決断したら即実行で色んなことやっちゃうでしょう? 何かと振り回すと思うけど、末永くお願いしますね」
「え、ええ、もちろん!」
「こちらこそお願いしたいくらいですわ」
「まぁ! 夢希ちゃんったらモテモテね。後はいくだけよ」
「夢希ちゃんは長身で金髪の人が趣味なんですか!? 私もある程度背はありますし髪を染めれば夢希ちゃん好みの女性になれると思うのですが!」
「なれないなれない!! あと、小川さんも何言ってるの!?」
「恥ずかしがっちゃってもう。初めてのことだから困惑もしてるんでしょうけど、大事なのは誠実さよ。誠実であることが大事なの」
「大丈夫ですよ! 夢希ちゃんは嘘が付けないので!!」
「いやだから」
「それにしても、時代は進むものねぇ。私が若い頃なんてまだまだこういうのに偏見がつきまとっていたものだけれど、今ではそうものもなくなってきたものね。そういえば、美弥子ちゃんともちゃんとお話しないとダメよ? さっきも言ったけど、誠実にね」
「最終的には私と結婚してくださりますから大丈夫ですとも!!」
「あらそうなの。若いっていいわねぇ」
「小川さんも恋をしたらいいでしょう! まだお若いんですから! 夢希ちゃんはあげませんが!!」
「あらあら、お上手ね美弥子ちゃんは。大丈夫よ、横恋慕は趣味じゃないわ」
「…………」
マシンガンを通り越してガトリングのごとく放たれる言葉の雨あられにもうついていけなくなってしまう。この2人を相手にするのは深層のボスを倒すよりも難しい。
というか、いつの間にか2人に挟まれて逃げ場がなくなってるし。
「ゆ、夢希ちゃんの目が死んでる……」
「それにしても、これは、どう助けたものか……」
「ま、これからこれが日常になるんだ。お2人さんとも慣れておきな」
「これが、日常……」
「なぜでしょうか。早まった気がしてきましたわね……」
そこで話してる3人は何でもいいから助けてくれ。私を吹き飛ばすとかでもいいからさ……。
「ちょっと失礼するっす!」
なんて思っていたら、後ろから衝撃が来ていわゆるお姫様抱っこの形で掬い上げられる。そしてそのまま走り去っていく。誰かと思って顔を見上げると陽向だった。君ってやつは本当に……!
「え、あ夢希ちゃーん!!」
「あらあら。モテモテなのね夢希ちゃんたら」
「え、ちょっと!? 待ってよー!」
「お、追いかけますわ。では皆様またお会いいたしまょう!」
「おう、またなー」
後ろで交わされる会話を置き去りにして、陽向はある程度離れた中庭までくると私をおろした。
「ありがとう陽向」
「いやいや、これくらいは別に大したことないっすよ!」
「いや、本当に、本当に助かったよ……」
感謝しかない。本当に。近くで話していただけの薄情な3人とは違うのだ陽向は。
感謝の念を示していたら、ちょっと陽向の顔が引きつった。
「そ、そこまで感謝されるレベルだったんすね……というか、夢希ちゃんだって抵抗すればいいじゃないっすか。それこそ魔力の威圧とかで」
まあ確かにそれは一理ある。陽向には一回浴びせたことあるもんね。でもね陽向。まだ甘いよ。
「そんなものがここにいる人に通用すると思う?」
「……あぁ、まぁ……そう、っすねぇ……」
「……でしょ?」
遠い目になってしまった陽向と一緒に、しばらく中庭で流れていく雲を眺めていた。
ああ、落ち着くなあ……。
それから彩音さんたちが合流するまでの間、私たちはしばしの落ち着いた時間を過ごすことができた。
……いや、途中で爆発音がしたので、若干邪魔されたけども。
文字数で困ったら、この2人だしたら無限に稼げそうな気がしてきた。