【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と『魔女の大鍋(コルドロン)』探索部門

 

「2人とも薄情なんだからもう」

「そうっすよ。さっさと助けてあげないと」

「ご、ごめん、情報量に圧倒されちゃって……」

「何を言っても言い訳にしかなりませんが、申し訳ありませんでした……」

 

 追い付いてきた2人に陽向と一緒に苦情を言う。はやく助けてほしかったよ……

 当の2人はというと、ちゃんと反省しているようなので私は許すことにした。

 あと、彩音さんの情報量に圧倒されたっていうのはよくわかるから。私も圧倒されてたしね。

 

「……今度は助けてね」

「任せて」

「ええ、必ず」

 

 2人から力強い返事が返ってきたので、この件は終わり。

 私も抵抗するというか、無理矢理にでもどうにかしたほうがいいのかもしれないんだけど、悪意があるわけじゃないから、どうにも気が乗らないのである。実害があるわけでもないし、武力行使はやりすぎかなぁ……と思ってしまう。実際のところどうなんだろうか。一回無視するだけでもしてみようかな……?

 今後の対策を考えていると、陽向が声を上げた。

 

「いやあ、それにしても……」

「うん?」

「夢希ちゃんと彩音さんが後輩なのはなんか変な感じがするっす」

 

 あぁ、確かにそうなるのか。陽向の方が先に『魔女の大鍋(コルドロン)』に入ってるわけだし、私たちが陽向の後輩になるのか。彩音さんはともかく、私はそもそも陽向よりも年下なので元から後輩なんだけどね。

 

「私が後輩……確かにそうですね。よろしくお願いしますね先輩」

「めっちゃ他人行儀じゃないっすかやめてくださいっす!!」

「あはは、ごめんごめん」

 

 彩音さんのおふざけにオーバーリアクションを返す陽向。うーん、これ多分鬼灯が気に入るタイプだな……からかいがいがある人好きだからなぁ。

 陽向は花奈さんに向かって自己紹介をし始めた。そういえばこの2人は初対面なのか。

 

「えっと、はじめましてっすね。犬束陽向っていうっす。陽向で大丈夫なんで。これからよろしくお願いするっす」

「ええ、こちらこそよろしくお願いいたしますわ。わたくしは――」

「知ってるっすよ。実食ネキっすよね?」

「リアルの対面で言うのはやめてくださいな!?」

「いやぁ、一回は言っておかないとかなって」

「中々いい性格をしていらっしゃいますわね……」

 

 陽向も陽向で花奈さん相手におふざけしてるし、結構相性良いのかもね。

 中断された自己紹介の後で、改めて花奈さんが自己紹介をしていた。にしても、実食ネキってあだ名広がりすぎじゃないかな……いや、リスナーさんしか知らないだろうし、陽向も見てるのか。

 あれ、身の回りにリスナーさん多くないか? 2人だけって思うかもしれないけど、そもそも見てる人一桁だからねあの配信。

 なんだか怖くなってきた私の横で彩音さんが当たりを見渡しながら疑問を口にした。

 

「そういえば最低限は見て回れたけど、ここってなんかやたらと広くない? 気のせいかな?」

「ダンジョンと一緒で、空間拡張してるっすから。外からの見た目の10倍くらいでかいらしいっすよ」

「10倍!?」

「何でもありですわね本当に……」

 

 彩音さんと花奈さんの驚愕の声が聞こえる。いや真面目に何でもありすぎるんだけど、まあ『魔女の大鍋(コルドロン)』だし……。

 私も大きくなってるのは知ってたけど、流石に10倍までとか思わなかったなぁ。でもこれでこの前の地下の実験場が何個もある理由ははっきりしたね。地下も同じように拡張してるんだろう。

 いや、空間の拡張ってこんなに大規模で出来るものなのか……? そもそもどうやってそんなことを可能にした? 発動したら基本的に永続する魔法であるとはいえ、発動するための魔力は必要なはずだ。これだけの空間を作り上げるのに、どうやってその魔力を確保したんだろうか。複数人による発動? それでもいったい何人必要になるんだろうか。ここが作られたのは45年前で、『魔女の大鍋(コルドロン)』の創始者たちは8人だけ。人数が足りない。となれば個人……は無理だろうな()()()()()()()()()()()()()()()けど、そのレベルでないと無理なはずだ。絶対的に魔力が足りない。なら一体どうやって? もしかして、()()()()()()()()()()……?

 考察を始めてしまった私の横で彩音さんと陽向の会話が続く。

 

「入団したら寮に入ってもらうって言ってたのに、まだ寮が出来てないんだってね」

「いやぁ実は、本当は先週に出来てたんすよ……」

「え、じゃあなんで今ないの?」

「爆発で吹き飛んだっす」

「えぇ……」

「さも当然のようにそんな発言が出てきますのね……」

 

 陽向の話に2人がドン引きしているけど、そもそもここでは爆発による被害なんて日常茶飯事だ。いちいち気にしていたらストレスで胃に穴が開くよ。

 考察は一回切り上げて、ちゃんと話に加わろう。こういうところでマイペースに過ごしてしまうから、愛依や凉からコミュ障って言われるんだよね。

 

「防御結界張り忘れたの?」

「忘れたというか、部屋とかの最終確認してこれからやるぞーって、ところでドカーンと」

「あぁ……あるあるだね」

「あるあるなの!?」

「……頭痛がしてまいりましたわ……」

 

 叫ぶ彩音さんと眉間に手を当てる花奈さん。そりゃそうだよ。ここをどこだと思ってるんだ。『魔女の大鍋(コルドロン)』だよ?

 

「ここだとよくあ――危ない」

 

 爆発音がしてそちらを見ると、こっちに向かって吹き飛んでくる扉。《魔力障壁》を発動してそれをはじく。

 ちなみにだが、先ほど美弥子と小川さんを実害がないといったのはこれこそが実害だからである。マシンガントークされることなんて、実害のうちに入るわけがないのである。

 はじかれた扉が中庭の地面に突き刺さる。その様を呆然と見ていた彩音さんから思わずといった感じで声が漏れた。

 

「……えぇ……?」

 

 今までに見たことのないほどのドン引きである。大丈夫かな? これからこんなことは毎日のように起こるんだけど。

 爆発を引き起こしたらしき犯人がこちらに来て謝罪をしたあと、扉を回収して去っていった。気を付けてね。なんていわない。いうだけ無駄だから。

 彩音さんと花奈さんがその背中を何とも言えない顔で見送るのを横目に、陽向があっけらかんと言い放つ。

 

「そのうち慣れるっすよ。基本音速よりも早く物が飛んでくることないんで、爆発音がしたらそっち見れば何とかなるっす」

「そういう問題かなぁ!?」

「とっさの判断能力が鍛えられるっすよ! いい鍛錬になるっす」

「ポジティブが過ぎますわよ!?」

 

 笑顔で言い切った陽向に2人が叫び声をあげている。喉大丈夫かな2人とも。

 それに、彩音さんたちには悪いけど、私も陽向に同意する。事実として、とっさに躱すか防ぐか判断する能力が鍛えられるのは間違いない。ここで幼少期を過ごした私が言うんだから間違いない。たまに人も飛んでくるので、受け止めるのも上手になる。

 私は受け止められる方が多かったけれども。

 

「対処可能なら問題ないよ。たまに本気で大変なことになるけど」

「夢希ちゃんも夢希ちゃんで、感覚がおかしいからね!?」

 

 彩音さん安心してほしい。私はちゃんとこの感覚がおかしいことを自覚している。治す気がないだけで。

 

「なるほど、これがあの噂の正体……」

「あの噂?」

「あれっすよね? 『この世で最も恐ろしい未探索領域はコルドロンである』っていう」

 

 ああその噂ね。まあ冒険者内だと本当に有名だもんねその噂。とはいえ、こんな程度のことでそんな噂は立ったりしないけども。だって、横から扉が飛んでくるなんて程度、八王子の砲台ヤドカリみたいなもんだからね。大した脅威ではないのだ。

 

「確かに恐ろしいところだね……」

「ええ本当に……」

 

 にも関わらず、なぜか納得したように頷きあっている彩音さんと花奈さん。現実というものを見てもらわないと困るよ。たとえそれが見たくないものであってもね……

 

「2人とも甘いよ」

「え」

「例えばだけどさ。ここの人たちが()()()()()()()()()()()()()()()()()を作ったとして」

「いや何その怖い例え!」

「例えが物騒すぎませんか!?」

「それをどこに置いておくと思う?」

「え、表に出せないならどこかに隠すとか……あ」

「……まさか」

 

 思い当たったらしい2人の顔色が悪くなる。うん、そうなんだよね。絶対にあるに決まってるんだから。

 陽向が目をそらしながら私のたとえ話に同意する。

 

「……まぁ、どっかにあるらしいっすよ。そういうのが大量に入ってる倉庫が」

「その中身がお披露目されないことを願ってるよ。その時が来たら、きっと世界の危機だから」

 

 その日が世界の終わりだって言われても私は信じるよ。研究開発した後はちゃんと倫理観が働くけど、その最中の彼らに倫理観やら道徳だのを期待するだけ無駄だからね。

 

「あ、探索部門の執務室行ったっすか? まだなら案内するっすよ」

「まだだよ。お願いしていい?」

「もちろんっす。まっかせてくださいっす」

 

 ここに慣れている私と陽向はちょっとした雑談をしながら案内してもらった。途中、2回ほど扉が飛んできたので防いでおいた。

 彩音さんと花奈さんはだいぶ疲れた様子で後ろからついてきていた。うーん、初日からこれで大丈夫だろうか。いや、むしろその方が2人が一緒にダンジョンに行く時間が増えるかな?

 

「ここが探索部門の執務室っす」

「ありがとうね陽向」

「いやいや、気にしないでくださいっす。謹慎明けたら自分もこっちに参加する予定なんで、その時にはお願いするっす!」

 

 ああそうか。そりゃそうだよね。今こそ白石さんの助手みたいなことをしているけど、そもそもそういう方面の人だったな陽向って。まだまだ先なんだろうけど、その時を楽しみにしておこう。きっとそれまでの間に、私に色々モンスターの肉取ってきてね。みたいな依頼が来るだろうから、その分強化されるだろうし。

 

「分かった。楽しみにしてる」

「へへっ。じゃ、またっすー!」

「うん。またね」

「またねー」

「またお会いしましょう」

 

 陽向と別れて、目の前にある扉に注目する。新しく作られたみたいで、かなり綺麗な木製の扉だ。扉の上には、執務室という板が置いてある。

 パーティーリーダーだからということで、彩音さんが代表で扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 中から低い落ち着いた男性の声が聞こえたので中に入る。どんな人かな。

 

「失礼します」

 

 彩音さんに続いて中に入って、同じように声を出そうとして、部屋の中にいた男性の姿を見て固まってしまった。

 

「ようこそ、『魔女の大鍋(コルドロン)』探索部門へ。俺は探索部門の副部長を務めている金守だ。よろしく頼むぜ新人たち」

 

 金守さんは黒いスーツを着こなした、黒髪をオールバックにした壮年の男性だった。

 だが、問題そこじゃない。背中に生えている皮膜の張った一対の赤い翼、腰辺りから生えている大きなトゲの生えた赤い鱗に覆われた尻尾。書類を扱っている腕を覆う鱗と鋭くとがった爪。

 目は金色で、爬虫類のような瞳孔をしている。そして額には、曲がった一対の角。

 まさか、ドラゴン……!?

 

「カッコいい……!!」

 

 あ、彩音さん……?

 目をキラキラさせて満面の笑顔である。ヒーローショーでヒーローを見ている少年のような顔だ。結構彩音さんって少年の心持ってるよね……

 

「おっと、まさかいきなり口説かれるとはな」

 

 金守さんは彩音さんの反応に苦笑しながらジョークを飛ばしていた。

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