【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
昨日投稿できなくて申し訳ありませんでした。
「おっと、まさかいきなり口説かれるとはな」
「え、くどっ!? ち、違います!」
金守さんの言葉に慌てて首を振って否定する彩音さん。いやまあ本人的にはそうだったろうけど、初対面の人にいきなりかっこいいはちょっとどうかと思うよ。
いや、カッコいいのは否定しないけどね。ドラゴンかっこいいよね。
「ま、冗談はさておき。改めて、これからよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
金守さんが一旦話を切り上げて、改めて挨拶させてもらう。ちょっと見た目のインパクトが強くて名前以外頭に入ってきてないけども。
そのあと私たちが自己紹介をして、金守さんから提案された。
「少し話がしたい。時間はあるかな?」
「大丈夫です」
「なら、そちらで少し待っていてくれ。お茶の一つでも淹れよう」
執務室においてあるソファを示した後、金守さんは立ち上がって部屋の隅にある扉に消えていった。発言からして、あそこは給湯室か何かなんだろう。ちなみに、靴は革靴を履いていたから、脚はたぶん人間の脚なんだと思う。
3人並んで座れるくらいには広いソファに腰かけ、金守さんを待つ。私が真ん中で、左に彩音さん、右に花奈さんの順番である。金守さんを待つ間に執務室の中を見渡してみる。
といっても、これといった物品はないシンプルな感じの執務室だ。木製のもので統一されているからまとまりがあっていい部屋だと思う。
先ほどまで金守さんが座っていた執務机に煙を出している大鍋という、『
あと、こういうところにおいてあるのって普通は鹿の頭のはく製だと思うんだけど、なんでかミノタウロスの頭のはく製が飾ってある。まあ、冒険者らしいっちゃらしいけども。
彩音さんと花奈さんも一通り部屋の中を見渡し終わったあたりで、金守さんが帰ってきた。紅茶のいい香りがする。
「お待たせしてすまない。それに、お茶菓子もなくてね」
手慣れた動作でソーサーを置いてからカップを置いていく金守さんの所作があまりにも綺麗で見とれちゃった。いや、そんな音もなく置けなくない? 冒険者の聴覚で聞き取れないとかどういうこと?
「さ、どうぞ。気に入ってもらえると嬉しいが」
「いただきます」
金守さんに促されて紅茶を口に含む。少し熱いけど、飲める範囲。飲んだことのない味がするけれど、とっても美味しい。渋さも苦みもなく、純粋に紅茶の味を楽しめる。淹れ方もいいんだろうな。
「美味しいです……」
「お気に召したようで何よりだ」
カップの取っ手をつまむように持ち上げて飲み始める金守さんに違和感を覚える。取っ手をつまむのはおかしくない? こう、指を入れるものでは……?
と思って彩音さんを見ると、私と同じように取っ手に指を入れてカップを持っていた。そして反対側の花奈さんを見ると、取っ手をつまむようにして持っていた。
…………もしかして、つまむ方が正しいのか? 失礼なことしてる……?
ちょっと不安になった私の視線に気づいた花奈さんが軽く説明をしてくれた。
「確かにこのようにして持つのが正解ではあるのですが、正直どちらでも構いませんわよ。美味しく飲むが一番ですから」
「その通りだ。気になるというなら、これからはそうするといい」
金守さんも花奈さんの意見に賛成らしい。確かに、これからそうすればいいだけか。というわけで今からやってみよう……いやこれ難しくない? なんか安定しないんだけど……!
ちなみに、私の横では彩音さんが同じようにわたわたとカップをつまもうとしていた。庶民と貴族の差みたいになってる……。
素晴らしい紅茶を楽しんだ後、本題に入った。
「えっと、話とはなんでしょう?」
「君たちのユニークスキルについて教えてほしい。もちろん口外はしない」
「何故ユニークスキルを?」
「俺はあくまで副部長だが、実際のところ俺が取り仕切っている。部下が何が出来るのかはなるべく正確に把握しておきたい。クラン内の依頼やイレギュラーへの派遣なんかでの対応の手間も減る」
金守さんの発言を聞くに、部長さんはあんまり実務に関わってこない感じなのかな? でも、正直この短時間で出来る大人みたいな印象を持っているから、その方が安心できるかも。『
それと、私たちは探索部門の部門構成員なわけだから、金守さんの部下にあたるわけだ。普段はクランからの依頼をこなす以外は自由だけど、有事の際、つまりはイレギュラーへの対処なんかの時は招集に応じるのが義務になっている。距離的な問題で行けないとかでない限りは。
それをやるにあたって、金守さんが把握しておかないとうまくいかないわけだよね。そりゃそうだ。相性悪い人を派遣したら大変なことになる。
「あの、部長さんは……?」
「部長殿は生粋のフィールドワーカーでね。今もどこをほっつき歩いているのやら……」
彩音さんが気になったのか、部長さんについて聞いてみると、金守さんから呆れたようなため息交じりの言葉が返ってきた。ああうん。部長さんは『
それはともかく、ユニークスキルについて教えていく。私が最後の方が多分いいだろうと思って、彩音さんと花奈さんに先に説明してもらった。
金守さんはその説明を聞いて目を細めて感心したようにつぶやいた。
「デメリットこそあるが強力な物理攻撃と、対状態異常に特化した範囲回復スキルか。ありがたい限りだなまったく……」
「ええと私は……」
「君に関しては、特に聞かせて欲しい。
……念押ししてきたってことは、知ってるか、カマかけか……。
どっちみち、この場面で隠すつもりはないし2人にも話してしまおう。口外しないようにだけ本気で念押しする必要はあるだろうけども。
「……まず、《錬金》です」
「ほう? まずということはまだあるのかな?」
「そして、もう一つが《ソロモン》。効果は全魔法習得可能と熟練度の限界突破です。デメリットは、物理系と奇跡系のスキルの習得不可です」
とりあえず、彩音さんたち2人にも説明してある効果を話す。正直なんで1個のスキルにこんなに効果を詰め込んだんだか……説明がしにくくって困る。
金守さんはというと、何かを考え込むように腕を組み、顎に手を当てる。
「ふむ……『全魔法』の範囲は?」
「ユニークスキルも含みます。威力はかなり弱体化しますが」
左右から驚いたような視線が突き刺さる。あれ、このこと話してなかったっけ……? 話してない気がしてきたな……。あとで何か言われるかもしれないけど、とりあえずそういうことだと飲み込んでいてほしい。
実際のところ、弱体化すると言ってもあくまでも威力に関するものだけなので、例えば『次に使う魔法を2つ同時に発動する』みたいな魔法は性能そのまま使える。とはいえ、まず使わないけど。だって自分で3つ使えるんだから、わざわざやる必要性感じないし。時間をかけてじっくり準備して、そのうえで制限時間付きで暴れる。くらいの限定的な状況じゃないと使わないのである。
ユニークスキルを含むと聞いた金守さんが、少し呆れていた。
「とんでもないな……道理で君の貸し出し要請が山程来るわけだ」
「えっ……」
「ちなみにだが……今の時点の件数を聞いておくかい?」
「や、やめておきます……」
「ははっ、賢明だな。それとよっぽどのものじゃない限り俺の方で止めておこう」
「ありがとうございます」
軽く笑い飛ばして、対処することまで約束してくれる金守さん。
お父さん、私はいい上司に恵まれました。本気でありがたい。金守さんじゃなく、金守様って言いたい気分だ。
「いや何、こちらとしても、何かあったときに優秀な部下が手元にいないのは困るんだ。大問題が起きたときに、全員実験中で手が離せません。なんてのは避けたい」
「あの、さっきから気になっていたんですけど」
「何かな?」
「言い方はアレですけど、一般的な上司部下の括りってこのクランにあるんです……?」
ぶっちゃけ、このクランに上司部下という括りはあるにはある。とはいえ、あくまでもこう……申請者をまとめておかないと書類が大変とかそういう理由でだ。つまり、事務方の都合ってやつである。
なので、上司というのはほぼ罰ゲーム扱いされているのだこのクランでは。研究以外のことしなくちゃいけないから。後みんな好き放題するので意見がまとまらない。
これは幼い頃からいる私の主観ではあるけど、大体このクランの現状に即しているはずだ。
でも、先ほどから話を聞いていると、金守さんの言う上司部下っていうのは、かなり一般的な意味に聞こえる。
「ほかの部門はどうだか知らないが、ウチにはある。というか、そうじゃないとマズイだろう?」
「……そうなんですか?」
「このクランにおいて探索部門の冒険者は、他の連中にとって実験、研究対象だ。上司部下という関係を作って、窓口としての上司を作らなければ、他の連中が好き放題し始めるのは目に見えているだろう?」
「……」
「……」
「あー……」
金守様の発言に、彩音さんと花奈さんの顔が引きつった。まぁ、さっきその「好き放題」の現場の一端を見たもんね。
私としては、説明されたら納得って感じだ。私だけの話かと思ってたけど、他の人も同じように打診されるんだろう。とんでもない熱量で。
そんな彼らの窓口を務めてくれるなんて、もう心の中では金守様で確定である。尊敬の念しかない。
「少なくとも、物前くんへの要請に関しては今の段階で俺が止められている。それがウチに上司と部下の概念が必要な理由だ。ちなみにだが、美空くんへの要請もそれなりにあるぞ」
「へ!?」
「内容としては、物品の耐久度の確認や魔力枯渇後の回復についてなんかだな。能動的に魔力を枯渇させられるのは中々いないらしい」
「後半の理由が嫌すぎます……」
彩音さんが引きつった笑みを浮かべている。そりゃそうだ。
でも、魔力の枯渇って、結構キツイんだよね。一気にゼロになるならともかく、少しずつ減らしていくのは本当にキツイ。気絶するまでマラソンさせられるようなものだから。
そんな中、スキルを全力で使えば即気絶まで行く彩音さんは貴重扱いされるのもわかる。それに、前半の実験で枯渇させたら、自動的に後半の研究も出来るわけで……うーん、このクランは本当に。
金守さんは最後に花奈さんにも水を向けた。
「ちなみにだが、北条くんにも数件とはいえ来ている」
「手が早すぎませんか?」
「どこで仕入れたんだか知らないが、主に毒物の解毒作用についての研究だそうだ。それと、盾使いの意見がほしいというのも多数来ている」
「研究施設にもほどがありますわね……探究心が凄まじいですわ」
「ま、そんなわけで俺の役割は基本的には門番、もしくは関所ってところかな。他の連中にもそれで納得してもらった」
事も無げにそんなことを言ってくれる金守様に、本当に感謝しかない。彼らに対して私たちを守ってくれる人だよ?
神様仏様金守様である。
「ありがとうございます金守様」
「ふっ、様付けはやめてくれ。趣味じゃない」
思わず顔を覆ってしまった。
…………油断した、外に漏れちゃった……黒歴史だ……!
苦笑している金守さ、ん! はともかく、横で笑いをこらえてる2人。こらえるくらいなら笑い飛ばしてほしい。その反応が一番キツイ。
「さて、話が逸れてしまったが……続きといこう」
金守さんがひじをひざにつけるほど前のめりになる。
「《ソロモン》とやらについて。まだあるんだろう?」
こちらをジッと見つめ、見定めようとしている龍の瞳。
それを真正面から見つめ返して。私はもう一つの効果を発動させた。言葉で説明するよりも見せた方が早い。
《ソロモン》。起動。