【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「どうしよう……?」
彩音さんたちと解散して自宅に帰った後、久しぶりに早く帰ってきたお父さんと一緒にご飯を食べて、お皿を洗っているときに、とあることに気付いた私は少し悩んでいた。
「うーん、解体は私しか出来ないし、解体してる間は料理も出来ない……」
悩みというのは単純で、明日の品川ダンジョンでの冒険についてである。仕事のことでもあるね。
モンスターの肉の調達ということで、可能な限り全種類のモンスターを用意する予定ではある。とはいえ、トロルはレアモンスターなので見つけられるかどうか怪しいし、ボスモンスターのオークキングまで行くのは時間の問題がある。なので、上層、中層を中心に可能な限り集めるつもりだ。
となると、モンスターの解体ができるのは私だけなので、私がやるのは確定。そうすると、ご飯どうしよう? という問題が発生したのである。いや、料理を2人に任せるのも考えたんだけど、料理中にちゃんと全部終わるか? その間2人が暇にならないか? などを考え出すと、どうにもうまいこと行く気がしなかった。
それに、ご飯は出来立てが食べたい。断固。
むー……とうなりながらお皿を洗っていたら、お風呂掃除をしてきたお父さんが戻ってきた。片手の自分にはこれくらいしかできないといいながら、掃除は大体やっているお父さんである。ありがたい限りだ。
そして、お父さんが戻ってきたので取り繕ったはずの私を見て、すぐに声をかけてくる。鋭いなぁ……
「どうした?」
「……えっとね……」
先ほどの悩みをお父さんに相談してみる。破天荒が人になったようなお母さんの相棒だけあって、相談事なんかは頼りになるお父さんだから、きっと何かいいアイデアを出してくれると思う。
なるべくなら、頼らずに頑張りたいんだけどね。どうにもうまくいかない。経験の問題かな?
私の悩みを時折頷きながら聞いたお父さんは、ほんの少しの間だけ考えると、私にこう言った。
「なるほどな……なら、いいアイデアがあるぞ」
「どんなの?」
「それはな――」
「……映像よし。音声よし。こんにちはユキです」
"こんー”
"きたな”
"よし。助かる”
翌日。私は放課後に2人と合流して配信を始めていた。ダンジョンに潜る=配信になりつつある気がするが、まあいいか。何か変わるわけでもなし。思ったよりも楽しいし。有名にはなりたくないけども。
なんだか少しずつではあるんだけど人が増えてるんだよね……と言っても、一人二人とかその程度ではあるんだけど、一気に増えたら嫌だなぁ……
ま、その辺のことはなるようにしかならないので置いておいて、今日の予定をリスナーさんたちに話す。
「今日は品川ダンジョンで――」
「待ったユキちゃん。まずは報告からだよ」
"報告…?”
"彼氏とか…!?”
"ないない。ユキちゃんやぞ”
"相手はミノタウロスです!とか言い始めるかもしれないじゃん”
"お前はユキちゃんを何だと思ってんだよwww”
話そうとしたら、彩音さんから遮られた。あと、ちらっと見えたミノタウロスを彼氏にするとか言ってるリスナーさんは後でお話があるからね。
「なんの?」
「……クラン所属の。ですわよ」
"クラン所属…だと…!?"
"入れてくれるところがあったのか!?”
"え、入れたんですか!? あのユキちゃんが!?”
"うーん、こいつらホント…”
そもそも報告するようなことあったっけ? と思ったら、花奈さんが呆れたようにつぶやく。
確かに所属こそしたけど、それって報告するようなことなの? 言っちゃ悪いけど、リスナーさんたちに関係なくない?
「必要なのそれ?」
「クランの仕事で配信頻度は間違いなく減るんだから、伝えておくべきだよ」
「ある日突然、配信の頻度が激減したら皆さん心配しますでしょう?」
「あー、それはそっか……」
まあ確かにそれはそうかも。一回二連休になったときもなんだか心配されたしなぁ……それくらいの配慮はしてあげるべきか。
それはそれとして、君たちが私のことをどう思ってるかはよく分かったから覚えておけよ……何かするわけじゃないけども! 絶対に忘れないからな……!
"テスト期間とかで休んでた時とかあったし、そこまで心配しねぇかも?”
"テストっぽい期間でもないのに突然減ったら何事かと思うのは確か”
"冒険者だし、縁起でもないこと浮かぶしなぁ…”
"それはマジでそう”
「そういえば、テスト期間とかは伝えてたの?」
「ううん。そもそもアヤネさん相手に問題起こすまでは挨拶すらしたことなかったよ」
「……そうだったね……」
コメントを見ていた彩音さんがそんなことを聞いてくるけれど、何を言ってるんだか……そんなことしてるわけないだろうに!
彩音さんが遠い目をしてしまった。いつもの光景だけども。
"そうだったなぁ…”
"懐かしき無言時代”
"初期のころそのせいで若干あれてたしな”
"一切反応しないから荒らしも消えてったけどなw”
"荒らしはスルーの原則を思い知ったぜ…”
「テスト期間中は勉強はしていなかったのですか?」
「友達に教えるとき以外はダンジョンでしてた。煮込んでるときとか」
「そ、そこまでですか……」
花奈さんにドン引きされてしまった。そ、そんなに引かなくても。普段読書だったのが勉強に変わっただけなんだから、そんな反応しなくてもいいじゃないか……
"してたなぁwww”
"リスナー全員がわからん問題すらすら解いてた記憶”
"あれ見て、テスト期間なんだな…ってなってたよな”
"ダンジョン内でココア飲みながら勉強してるの、冷静に考えなくても意味分からんな”
"ユキちゃんの行動の半分くらいは意味分からんから…”
"だから気に入った”
「…………もうダンジョンに住めば……?」
彩音さんが遠い目を通り越した死んだ目で私を見ている。今までだってそんな感じだったでしょ私は。
「それは真面目に考えたんだけど、色々ダメそうだから今のところ保留」
「真面目に考えないでくださいまし」
"真面目に考えるなや!”
" 保 留 ”
"諦めてねぇぞこの子…”
"ダンジョン好きすぎるだろ…”
ダンジョン内に住むとなれば、問題になるのがまぁまず食事だよね。ほぼ肉一択になるし、絶対飽きる。別のダンジョンを転々とする感じになるだろうけど、そもそもとして転々とするならダンジョン内に住む必要性がない。
次に、お風呂の問題。流石に緊急事態でもないのに何日も入らないのは避けたいし、そのたびにダンジョン出るなら以下略。
最後に買い物。これもまぁね?
となると、結局のところ、住むには至らないなぁって感じ。畑を作るとか出来るなら、考えなくもないって感じ。
だから、たまに泊まるくらいが楽しいんじゃないだろうか。と思う次第である。
「私が成人したら、一緒にダンジョンで泊まろうね」
「キャンプのお誘いにしては物騒じゃない……?」
「とはいえ楽しそうではありませんか。徹夜で騒ごうが、火を起こそうが誰にも咎められませんし」
「……それはそうだね。やろっか!」
"誰も止めないの草”
"そりゃ止めるようなやつはパーティーに入らないんよ”
"自由すぎるなこのパーティーw”
"遠征とか以外でもダンジョンに泊まる人いるんだ…”
彩音さんも花奈さんもやる気だね。うんうん。良いことだ。それに、本当にダンジョン内だったら配慮とかそんなにしなくていいしね。地上のキャンプ場と違ってさ。打ち上げ式はともかく、花火とかも出来るし。
そうだ。どこに入ったのかもちゃんと伝えておこう。どうせ後で分かることだし。
「ああ、入ったクランは『
「言っちゃうんだ!?」
「どうせバレるし」
「それは確かにその通りですわね。エンブレムも後で入れますし」
「そうそう」
"『
"納得した。そりゃ入れるわ”
"今ホームページ見たら探索部門新設されてて草”
"エンブレム結構好きだわ。いろんなのあるし”
"『
"変にゴチャついてると微妙だしな”
『
何のシンボルか分からないやつとか結構あるからね。初期メンバーの武器全種類並べました! みたいなやつとか。8本くらい並んでると、サイズも相まって何が並んでるのか分かんないんだよねあれ。
そして、エンブレムとなれば、それをどこにいれるのかっていう問題が発生する。どこにしようかな。
「エンブレム……私、どこに入れよう?」
「私はこのマントのとこに入れようかなって」
「わたくしは盾に入れる予定ですわ。定番ですし」
「なるほど……うーん……」
彩音さんは右肩のところについてるちょっとしたマントに。花奈さんは使ってる盾に。
うん、定番だし分かりやすい位置だ。で、私なんだけど……この装飾も何も無いローブのどこに入れれば良い感じになるんだ……? ちなみに、鬼灯はひょうたんに彫ってあったはず。
"ユキちゃん、服装分かんねぇからアドバイスできねぇw”
"映ってないからなぁ…”
"とはいえローブだったら、背中じゃねぇの?”
「背中におっきくとか……? ローブの人ってそこの人結構いるよね?」
「目立ちすぎない?」
「では、胸ポケット……はないですものね。うーん、ちょうどいいスペースが……」
彩音さんと花奈さんが2人で私の周りをぐるぐると回りながら考えてくれる。くれるんだけど、やっぱり服にいれるの難しくない? 杖に入れるのは、入れる場所がなさ過ぎるので却下する他ないし……
もうなんか別のもの……そうだ。
「もういっそのこと大鍋につけようかな……」
「見えないじゃんそれ!」
"見えるように付けるんですよそれ”
"まぁ、大鍋についてたら分かりやすくはあるけどな”
"あぁ、『
"それなんか意味違うだろwww”
「やはり、背中につけてしまうのがよいのではないですか? 後衛にいるのですし、他のパーティーが後ろから見てわかりやすいかと」
「……なら、そうしようかな。変なデザインでもないしね」
最終的に、背中の部分につけることになった。まぁ、半分くらい髪の毛で隠れる気がするけど、別にいいだろう。多分。