偽龍の仔   作:贋子

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 力と力の衝突。それは正に、暴力の極致のような光景だった。

 

「――――!!!」

 

 声無き咆哮と共に振るわれた斧槍。これに対するは、全力疾走の加速力を乗せた渾身のドロップキックだ。

 衝撃で空気が振動し、押し合いとなる。

 

「グッ………!」

 

 だが、押し切られるのはギリューだった。これは力以上に両者の立ち位置の問題が大きい。

 ドロップキックは助走による加速を加える事で大きな威力を発揮できるが、両足で地面を蹴って空中に飛び出す性質上、止められると無防備になってしまう。

 振り抜かれた斧槍により空へとかち上げられたギリュー。

 

「フゥゥゥゥーーーー…………」

 

 空中で数度回転しながら、ギリューは口から蒸気を鋭く吐き出した。

 既に彼の体は赤熱したように赤くなっており、蒸気が立ち昇っている。

 そこに迫る影。

 

「――――!!!」

 

 要警戒エーテリアス、デッドエンドブッチャーの恐るべき点はその体格から放たれる強力な攻撃と、その大柄な体で自在に跳び回る機動力にある。

 斧槍を両手でに握り、高々と掲げたエーテリアスがギリューの前方斜め上を取っていた。

 振り下ろされる一撃に対して、ギリューは体を捻る。

 腰の回転を利用して起こした遠心力を乗せた尻尾による横合いからの強打が、タイミングよく振り下ろされた斧槍へとぶつかった。

 衝撃。勝ったのは、重力を味方に付け体勢の勝ったエーテリアス。

 地面へと向けて吹っ飛んだギリューは、しかし空中でどうにか反動を利用して体制を整えると両手両足を地面に付けて着地。そのまま勢いを殺す様に線を引きながら十五メートル程滑って止まった。

 そこに迫る、エーテリアス。斧槍による攻撃ではなく、体格と体重を利用した両足のストンピングを狙う。

 これを、ギリューは自身から見て左方向へと転がる事で回避。間髪入れず、エーテリアスが隕石のように先程まで少年が四つ足着いていた地点に着弾。粉塵と衝撃が巻き起こる。

 この粉塵の中、ギリューは直ぐに動いていた。

 彼が飛びついたのは、エーテリアスの右足。側面から抱え込むようにして両腕を回す。

 そこから、一度右側へと倒れ込むようにして動き、間髪入れずに尻尾で勢いよく地面を叩いた。これにより、右へと倒れようとしていた少年の体は勢いよく左側へと跳ねる様に側転するように動く。

 当然、抱え込んでいたエーテリアスの右足も一緒に。

 

 ドラゴンスクリュー。プロレス技の中でも足殺しの技の一つ。

 

 一切の手加減も無いこの一撃は、ギリューの体を回転の芯としてエーテリアスの右足を巻き込みながらその巨体を背中から地面へと薙ぎ倒してみせた。

 直後に、ギリューは足のクラッチを外すと空へと跳び上がる。

 落とすのは、膝。回転を加えて放たれる二―・ドロップがその無防備となった胴体の中心へと突き刺さった。

 巨体が地面に減り込み、クレーターが刻まれる。この威力を発揮させたのは、彼の無意識の尻尾の扱いだ。

 

 体が赤熱している状態のギリューは身体能力が素の状態に比べて何倍にも高まる。

 しかし、それだけではない。赤熱する体は、炎と変わらない熱気を放っている。そしてこの熱気は周囲の空気を温めて、()()()()()()()退()()()

 この押し退ける際の反動を尻尾を用いて行う事で、彼の体は空中での瞬間的な加速を可能としていた。もっとも、空を飛べるわけではない。精々、その場で跳ねる程度。

 

 それでも、瞬間的な加速とギリューの怪力が合わされば並大抵の相手はノックアウトできる。

 

 ()()()()()()()()

 

「ッ!」

 

 その場を飛び退いたギリュー。直後に、地面に半ば埋まったデッドエンドブッチャーの体が大きく跳ねた。

 まるで心臓の鼓動のようにその体は何度も跳ねて、同時に半ば埋まっていたその大きな腕が地面を突き破り、クレーターの縁を掴んだ。

 起き上がった巨体。そこには大きなダメージなどは見受けられず、ピンピンしている。

 それどころか、常には低い体内のエーテル活性値が急激上昇。

 パッションピンクであったエーテル光は、白色が強くなりその内側から夜空を思わせる艶のあるキラメキを内包した黒が浮かんでくる。

 活性化する体内のエーテルに呼応して、その巨体もまた変異。

 斧槍が投げ捨てられ、代わりに生えてくる()()()()

 元の二本の腕とそれからぱっくりと開いた背中から隆起してきた肉こぶより生えてきた四本の剛腕。

 六腕となったデッドエンドブッチャー。その気迫は、先程までの比ではない。

 

「――――!!!」

 

 言葉に成らない咆哮。その圧は、十数メートル離れているギリューが踏ん張らなければ踏鞴を踏ませてしまう程の威力があった。

 そして、強くなったのは圧だけではない。

 

「ッ……!」

 

 活性化したエーテルの後押しを受けて、デッドエンドブッチャーの身体能力は先程とは文字通りの桁違いを発揮する。

 今も右二本左二本の計四本の剛腕を掲げて跳躍。風を切ってギリューへと迫る。

 咄嗟に、後ろへと飛び下がってコレを躱したギリューだが、直後四本の剛腕が着弾した衝撃によってその体は軽く浮かされ、

 

「グッ……!!」

 

 舞い上がった粉塵を貫くように鋭い鉤爪を持った右の貫手が襲ってきた。

 これを左右から両手で挟むように掴んで止めたギリューだが、腕を伝った衝撃とその後の押し込みは目を剥くものがある。

 押し込まれる。ザリザリと地面に線を引きながら少年の体は押され、更にその鋭い爪の先端が喉を穿たんと迫る。

 何より、ギリューが抑えたのはデッドエンドブッチャーの六本ある腕の一つだけ。

 残り五本の剛腕があるのだ。そして、少年にコレを対処するのは不可能に近い。

 

「ッ、ガ……アッ…………!」

 

 衝撃は、ギリューから見て右側から。

 三つの拳が一纏めのような形でフックに軌道でギリューを襲った。

 咄嗟に尻尾を防御に回したが、そんなもの意味を成さない。

 まるで玩具のようにその体は黒い砲弾と化して宙を舞い、地を跳ね、水面を切る平べったい石のように止まる事無く少し離れた建設途中で放棄されたビルの一棟へと突っ込み大きな破裂音を刻んだ。

 それだけではない。拳を握らなかった三本の左腕。コレを、エーテリアスはそれぞれが掌をギリューの吹っ飛んだ建設途中のビルへと向けた。

 集束するエーテル光。それぞれの掌に一つずつ人の頭の二回りは大きい光弾が形成され、臨界を報せる様に激しく輝いた。

 

 放たれるのは、絶望の光。

 

 三本の光線は空を突き進み、互いに干渉し合って渦を巻き。三本が絡み合うようにして一本の極太光線へとその姿を変えた。

 螺旋を刻みながら突き進む光線は、阻む一切を無視するように突き進みビルに着弾。爆音と衝撃と共に膨大なエーテルを弾けさせる。

 倒壊していくビル。舞い上がる粉塵。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

「――――ッ!?」

 

 空へと立った紅蓮の光の柱が、デッドエンドブッチャーに向けて振り下ろされる。

 太さは、先程の極太光線より遥かに細い。腕一本から放つ光線よりも、更に一回りは細いだろうか。

 照射するのではなく、刃のように。光線はデッドエンドブッチャーの硬い装甲を破って左半身に縦一線の熱傷を刻んだ。

 無論、仕留めるには遠い。だが、怯ませるには十分な破壊力。

 踏鞴を踏んで後退したエーテリアスに対して、熱線は一気に細くなって消えた。

 手傷を負ったが、致命傷には程遠い。その巨体が、己を傷つけた存在に報復せんとその六本の腕を向けて、

 

「隙だらけだぜッ!!!」

 

 背中に数十発の大口径弾が突き刺さる。

 

「これもオマケしてあげるわ!!」

 

 更に、弾丸によって亀裂が走った箇所へと巨大なエーテル弾が二発連続で着弾。浸食の特性を利用した疑似的な力場フィールドと化してデッドエンドブッチャーを蝕み、その動きを阻害。

 

「放電……!」

 

 そして、雷電奔る。

 後方二回転の宙返りの最中に放たれる電磁ナタの斬撃と、直後の振り下ろしからの追撃の紫電がその巨体を強かに打つ。

 先の光線によるダメージと、無防備な背後からの連続した攻撃に、デッドエンドブッチャーは思わず膝をついていた。

 この隙に黒い影がその横を疾駆。粉塵が消えつつあるビルの残骸が積み重なった場所へと飛び込んでいく。

 

「ギリュー!…………ッ!」

 

 駆け込んだシリオンが見たのは、うつ伏せに倒れた少年の姿だった。

 特に酷いのが右腕だ。関節ではなく、本来は曲がらない前腕部が歪み肩が妙に体から離れている。

 症状としては、前腕骨折に肩の脱臼。それから右肋骨のヒビといった所か。

 息をのんだ彼女、猫又はしかし直ぐに気を持ち直すと、無事な少年の左側へと回り込み。腕を持ち上げてその下に潜り込んだ。

 肩に乗せるのではなく、そのまま背負い上げる。身長は猫又が大きいが、尻尾の分ギリューの方が重い。

 それでも投げ出す選択肢は無い。例え転ぶような事になってもわが身を犠牲にしてこれ以上少年を傷つけるような事はしない。

 

「ニコ!回収したぞ!」

 

 外へと叫びながら、瓦礫の山から飛び出す。

 

「了解よ!プロキシ!ケムリ玉!!」

『行くよ!皆、撤退!』

 

 ニコの声に応えて、ボンプが幾つものケムリ玉を投げつける。

 吹き出される白煙が視界を奪う。

 

 デッドエンドブッチャーが復帰して立ち上がった頃、煙が晴れたそこには誰も居ない。

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