偽龍の仔   作:贋子

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 テレビ画面の中で赤いコスチュームのヒーローが駆け抜ける。

 

「……」

 

 ジッとテレビの前に置かれたソファの真ん中でソレを眺めるのは、黒い尻尾の少年と赤いジャケットが印象的な機械人だ。

 今この場の頭痛の種は、下手に色々と触ったりはしない大人しい態度であったのだが、如何せん子供だ。どこか退屈している様子を見せていた。

 幸いなことに、ここはレンタルビデオショップ。品揃え数はそこまで多くないが、それでも暇潰しにはもってこいの品が多々ある。

 記憶喪失であるせいで聞き取り調査も出来ないという訳で、少年はテレビの方に連れていかれ、ついでにお守にビリーが付けられる事になった。因みに車は駐車場。フェンスも閉めているため、盗難の心配はない。

 

「……こうして見ると、普通の子供よね」

 

 ポツリとニコが呟く。

 幼さがあれども、受け答えに問題はない。強いて挙げれば、のんびりとしたマイペースっぷりで大人組の焦りが伝わり難いぐらいか。

 腕を組んでいたアキラが、右手の人差し指を建てる。

 

「とりあえず、状況を纏めよう。あの子はホロウで見つかった。ホロウ適性が高いんだろうね。エーテリアス化の兆候もない」

「そうね。それから、シリオンとしての特徴の黒い尻尾もあるわ。後、目も特徴的よ」

「爬虫類系のシリオンって事で良いのかな?……というか、いつまでも呼び名が無いのは不便じゃない?」

「待ってくれ、リン。それはちょっと早計だよ」

 

 アキラが止める。彼は一瞬だけ、テレビを見る少年へと視線を向けた。

 

「ここで一度ハッキリさせよう。特に、ニコ」

「あたし?」

「ああ。彼を放り出すのか、手元に置くのか。これはとても重要な事だよ」

「……つまり、下手な同情で一緒に居て、面倒になれば放り出す可能性をプロキシ先生は考えてるって事?」

「そうだね。人一人を預かるんだ。飽きたから捨てた、何て事は許されない。放り出すぐらいなら治安局に連れて行って正式に孤児院なんかに引き取ってもらう必要がある」

 

 淡々と告げるアキラだが、彼の発言は的を射ている。

 記憶喪失のシリオンで、オマケにホロウで見つかった。更に捜索願なども出ておらず、その過去は手掛かりの一つも見つかっていない。

 明らかな厄ネタ尽くしだ。コレを何のデメリットも考えずに背負おうとするには、余りのもリスクが勝ちすぎていた。

 それでも、

 

「――――孤児院は無しよ」

 

 ニコは言い切る。

 常の気紛れか。アキラはそう問おうとしたが、彼女の目を見て言葉を飲み込む。

 

「もっと小さければ分からないけど、あの子位の歳じゃ直ぐに放り出されるのが落ちよ。下手な所に預けたらホロウの中に放り出される事もあるかもしれないし」

「成程。そうは言っても、どうするつもりだい?引き取ると断言しない以上、君も「ねぇ、プロキシ」……何だい?」

「助手、欲しくないかしら?」

「助手?……まさか彼を、かい?」

 

 アキラはソファを見る。いつの間にか、アンビーとリンまで一緒になって今は何やらファンタジー映画を見ているらしい。

 思った以上に役に立たない大人組に、アキラは眉間を揉んだ。

 

「……とりあえず、理由を聞こうか」

「あの子を連れて、アタシたちの仕事に行ける訳ないでしょ?かといって、事務所に残しておくには不安だし。ホロウ適性があるんだから、プロキシのボンプを運んだり、店の手伝い位は出来る筈よ」

「いや、ソレを僕らが受け入れる必要性の話さ。厳しいけど、メリットはないからね」

「そこを曲げて、お願い!定期的に様子は見に来るし、何ならその分の代金も払うから!」

「ニコはまず、ツケの清算をお願いしたいんだけどな……」

「良いんじゃない?お兄ちゃん」

「リン……」

 

 渋るアキラに、テレビの方に行っていたリンが戻ってきた。

 

「これから、ビデオショップの方にも力を入れるつもりだったし、私たちがプロキシ業に手を取られてても、十八号と一緒に店番とかできるだろうしさ」

「…………はぁ……とりあえず、試用期間が欲しいな。流石に、何も仕事ができない子を助手として雇い入れる事は難しいからね」

 

 これが妥協点だ。アキラはそう告げる。

 彼とて、身寄りのない子供を無慈悲に切り捨てられる程冷酷ではない。寧ろ、仕事へのクレバーさはあれども人情家な方だ。

 だが、それはそれとして締める所は締めなければならないとも考えている。

 一応の落着を見せた話。リンが両手を打ち合わせた。

 

「それじゃあ、これからは命名タイムだね!良い名前を考えよーう!」

 

 おー!といつの間にやら寄ってきたビリーとアンビー、それからいまいち理解してない少年も混じって拳を突き上げる。

 かくして始まる命名タイム。

 

「はいはいはい!先ずは、オレから行かせてもらうぜ!」

 

 挙手するのは、ビリー。その手には、いつの間にかフリップボードが。

 

「命名……ブラックスター・キッド!!」

「却下」

「ガーン!?何でだよ!ニコの親分!」

「こんの、馬鹿!!スターライトナイトに影響を受けてるし、ビリーの名前が入ってるじゃない!」

「えー!オレ、一回で良いから可愛げのある弟が欲しかったんだよ!それに、スターライトナイトも一緒に観てくれるし!」

「最後が本音でしょ!?」

 

 ギャンギャン騒ぐニコとビリー。

 そんな二人を差し置いて、スッとアンビーが少年の側に寄った。

 

「貴方はこれから、アビコ・デマラよ」

「こらこらこらこら!気が早いよ、アンビー!それに、まだ私たちの案がまだでしょ!」

「この名前は、ちゃんと意味があるのよプロキシ先生」

「その意味を教えてもらおうか」

「ええ。アンビーのア、ビリーのビ、ニコのコでアビコ。デマラは、ニコの苗字からよ」

((思った以上に真面な内容だった))

 

 兄妹の内心がシンクロする。

 割とぶっ飛んだ事を言うアンビーに対する扱いが分かるが、少なくとも先程のビリーの案よりは名前らしいだろう。

 これで決まり、かと思えばニコが噛み付く。

 

「ちょっと!何でアタシはコなのよ!そこはニを使う所でしょ!」

「ニだとバランスが悪い。アビニ、アニビ?ニビア、ビニア?語呂が悪いから」

「でもよー、アビコって呼びくくないか?何なら、ビコの方が呼びやすいぞ?」

「!それはダメよ。アンビーのアが無くなっちゃうわ」

 

 ビリーの提案を、アンビーは即座に却下。折角意味を考えて名前を捻り出したのだ。それを崩されるのは嫌らしい。

 

「埒が開かないわね……プロキシ。アンタたちからは無いの?」

「そうだね……といっても、特に思いつかないな。ネェロ、とか?」

「ネェロ?」

「黒という意味合いの言葉だよ。ほら、彼は黒い尻尾に黒髪が印象的だからね」

「ふーん……リンの方はどうなの?」

「うーん……ベリル、とか?クリソベリルって猫目石が属している鉱石の名前からとってみたんだけど」

「結構真面目に考えてくれたのね」

「そりゃあ、名前だもん。大事なものでしょ。それより、ニコはどうなの?」

「アタシ?…………ディーンよ。ディーン・デマラ。どう?」

「……それって、ディニーからつけたものじゃないかい?」

「うっ……だって、突然名前を付けろって言われても直ぐには思いつかないわよ!」

 

 地団駄踏むニコ。

 気が強くてがめつく、お調子者な部分のある彼女だがその一方で一度自分の懐へと収めた者には寛容で優しく仲間意識が強い。

 故に、適当な事をしたくない。

 ニコは改めて少年の前で膝をつくと見上げるようにして、両手を握った。

 

「話は聞いてたでしょ?アンタの名前よ。好きなものを名乗りなさい」

 

 言われ、少年は目をぱちくり。自然と、四つの視線がそこに上乗せされた。

 少しの間を挟んで、おずおずと少年の小さな唇が震える。

 

「…………ギリュー」

「ギリュー?」

「この場で出た名前から選ぶんじゃねぇのかよ!?」

「コレは予想外」

「検索してみたけど、何かしらの商標登録の類は無さそうだね。となると、彼に関する事、かな?」

「記憶が戻ったの!?」

「……?分からない」

 

 命名タイムを完全に茶番へと帰した少年は、首を傾げる。

 かくして、レンタルビデオショップと便利屋に新たな従業員が加入する。

 

 名は、ギリュー(偽龍)。その名の意味を知るのは、もう少し先の事だ。

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