偽龍の仔 作:贋子
鉛色の雲が空を埋め尽くす。遠く雷の音も聞こえてくる事から、近々雨が降るかもしれない。
己の得物である二丁拳銃の弾倉を確認してから、ビリー・キッドは顔を上げた。
この場に居るのは彼と、それから黒い武骨でしなやかな尾を持った少年だけ。
直径200メートル。歪な円形のこの場所は、線路の終着点であり同時に決戦のバトルフィールドでもある。
彼らがここに居るのは、作戦の為だった。
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『――――二手に分かれて、そこから更に三手に分かれようと思うんだ』
提案したのは、アキラ。
「二手ってどう分けるのよ」
『まず、デッドエンドブッチャーの抑え役。そして、止まった列車を再起動するために新しく乗り込んでくるヴィジョン側の制圧。この二つだね。特に後者は、ここでパールマンを抑える必要がある』
「プロキシ先生。パールマンは直接乗り込んでくるのかしら?」
『ああ。そっちは大丈夫。ニュースにもなってるからね。大々的に報道されている上に、列車に乗り込む瞬間をカメラが押さえようとしている。ホロウ内に入るまで撮影され続けるなら、そこから押さえる事も出来る筈だよ』
「んで、そのパールマンを押さえる時に、デカブツが近寄って来ないように足止めするって事か」
『それだけじゃないさ。パールマンを押さえたら、列車を制圧したうちの一人が彼を伴ってホロウを出る。そして残りのメンバーはデッドエンドブッチャーを押さえている組に合流してこれを撃破。ホロウの収縮と一緒に、カンバス通りの人達を列車に乗せて脱出って寸法さ』
「パールマンを押さえる意味は?適当に、列車に転がしておけばいいんじゃない?」
『時間稼ぎも兼ねてるからだよ。ホロウの脱出に関しても、線路を遡れば出られる筈。裂け目も観測されてないからね』
今回の件においての最悪は、爆破を強行されてしまう事。そうなれば、カンバス通りの住民たちもエーテル適性が無い者までデッドエンドホロウへと放り出される。或いは爆破に巻き込まれてしまうだろう。
話の方向性は全員での共有が出来た。だが、まだ問題はある。
「店長。それじゃあ、あのデカブツの誘導はどうするんだ?作戦の都合上、店長の案内が出来るのはどっちかのグループだけだろ?下手に路線を利用して移動するようにしてれば、そこでデカブツに襲われて戦闘になるとその辺一帯が滅茶滅茶になっちまう」
『そこは私たちも考えたんだけどね、デッドエンドブッチャーの特性を利用しようと思うんだ』
「特性?あのデカブツの?」
『そう。皆、デッドエンドホロウの警告文って知ってる?』
「“奴に見つかるな。奴に出会えば、そこがお前の
『そう、それ!デッドエンドブッチャーに見つかれば誰だって生きていられないって事だけど、要警戒エーテリアスの一体だからその見た目はちゃんと記録されてるの。つまり生存者が居るんだけど、それは今重要じゃなくて……ここからは私たちの考察になるんだけどさ、デッドエンドブッチャーは獲物を見つけると何処までも追いかけると思うんだよね』
「それが、獲物への執着って事か」
『うん、そう。デッドエンドブッチャーと出会って生き残った人が居ないっていう話は、単純に強さだけの事じゃなくて。そういう一度であった獲物を追いかけて必ず仕留める事から来てるんじゃないかな、って』
あくまで推測だよ、とリンは締めくくった。
ただ、机上の空論と切って捨てるには一考の余地がある話でもある。
『それで、ここからが本題。Fairy』
『証言。三号の戦闘時に特有のエーテル反応を検知。これにより、要警戒エーテリアス“デッドエンドブッチャー”を誘引する事が可能です』
『こういう事。デッドエンドブッチャーの特性が推察した通りなら、ギリューがターゲットになってる可能性は十分にあると思うの。そこで、ギリューとそれからもう一人のツーマンセルで戦闘想定地点に移動。そこで、ギリューがエーテル反応を示せばデッドエンドブッチャーは釣れる……筈!』
最後の最後でふわっとしているが、そもそも推察の上で成り立った部分だ。コレに関しては、寧ろ断言される方が信用できなくなる。
話をじっと聞いていたニコは、スッと四人へと向き直る。
「チーム分けするわよ。先ず、ギリューと組むのはビリー。アンタに任せるわ」
「オレか?」
「ええ。ギリューはゴリゴリの近接戦闘特化だから、後ろから援護できるアンタが適任でしょ」
「了解だ、親分。そういう事なら、全力でギリューをバックアップしてみせるぜ」
頑張ろうな、とビリーはギリューの頭を撫で回す。
二人から視線を外し、ニコは残る二人へと向く。
「アンビーと猫又は、アタシと一緒に列車の確保よ。それで、パールマンだけど、そっちは猫又に任せるわ」
「アタシに?」
「ええ。アタシは単騎戦得意じゃないし、アンビーは接近戦で強いからデッドエンドブッチャー戦で外したくないもの。その点、猫又ならパールマンを抱えて逃げ回っても大丈夫でしょ?」
「……まぁ、アタシから言う事は特に無いけどさ。ニコこそ良い訳?」
「何がよ」
「アタシが一人逃げ出すとは思わない訳?」
その問いは、多分な自嘲を含んでいる。
当然と言えば当然で。騙していたという負い目がある以上、猫又からすれば自分を一人にするという采配をするニコに忠告を零すのも無理はない。
だが、
「――――フッ、馬鹿ね猫又」
「え……」
「アタシはアンタに任せるって言ったのよ?どんな事があろうが、任命したの。変わりたいと思うのなら、アタシの期待に応えてみせなさいよ!」
「ッ……」
真っすぐに強い意志が宿った萌黄色の瞳を向けられて、猫又の喉が鳴る。
コレだ。ニコ・デマラという女には、コレがある。
気が強くお調子者の見栄っ張り。その上、裏社会を生きる人間としての強かさと狡猾さを持ち合わせながらも、人道を確りと持っている。
だからこそ、零細何でも屋であってもビリーもアンビーも彼女を見捨てないし。ツケがアホほど溜まっているパエトーンも何だかんだと彼女を見捨てない。
有り体に言えば、猫又はその目に惚れてしまった。
呆ける黒猫から視線を外し、ニコは両手を打ち合わせる。
「さて、と。時間は限られてるわよ!プロキシ!列車がホロウに入り込む前に、準備を終わらせるわ!案内して頂戴!」
『了解だよ、ニコ!』
時計の針は進む。万事解決を目指して。
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「ふぅぅぅぅーーーー…………」
大きく息を吐き出して、ギリューは閉じていた瞼を上げる。
拍動。身体から蒸気が上がり、その肌は赤熱していく。
ふと、その姿を斜め後ろから見ながら、ビリーは空気が張り詰めていくのを感じ取った。
そして、
「――――来たなッ!!」
飛来する巨大な瓦礫。コレを、ビリーが連続の射撃によって撃墜。
直後に巨大なナニカが広場の、二人の対面へと落ちてきた。
「――――ッ!!!」
声無き咆哮。六腕の怪物がその姿を現した。
圧倒的な威圧感は相対するだけでも、そのマシンボディに肌があれば粟立っていた事だろう、とビリーは思う。
だが、引き下がる選択肢は無い。
「好きに突っ込んで良いぜ、ギリュー!オレの援護は百発百中だ!!」
「ン……!」
ビリーの言葉に背を押されて、ギリューは前へと飛び出した。
黒い尾を影のように引き連れて、少年は低い姿勢から駆け抜ける。
当然、デッドエンドブッチャーがこの突撃を見逃す理由もない。振り上げられる右の三腕。拳が握られ、突っ込んでくる命知らずを叩き潰して、
「――――!?」
「甘いぜ、デカブツ!オレが居るのに、テレフォンパンチをギリューにぶち当てられると思うなよ!!」
連射された大口径弾が、デッドエンドブッチャーの右肩周りを襲う。
如何に体格に優れ、怪力無双であろうとも全身の全てが堅牢堅固という訳ではない。
とりわけ動作する存在の共通弱点の一つ、関節はヒトであろうとエーテリアスであろうと等しく他部位に比べて強度に劣る。
如何に大口径弾といえども、一発二発では流石にデッドエンドブッチャーの外皮を抜くに至らないが、コレは連射だ。複数撃ち込まれた弾丸は外皮を割り、亀裂に突き刺さり肩周りの一時的な楔となってその巨体の動きを不自然に止めてみせた。
一瞬の硬直。だが、甚大な隙だ。
「ッ!」
ギリューが、跳ぶ。
デッドエンドブッチャーは、その構造上逆関節で太ももが体よりも前に出ている。
この右太ももを足場として跳び上がりながら、ギリューの体は時計回りに勢いよく横回転。
頭部のように見える上半身の細い突起へと向けて、武骨でしなやかな黒い尾が叩きつけられる。