偽龍の仔 作:贋子
最短最速。時間との勝負を制する以上、彼女らにとって時計の針は敵だった。
「な、何だ!?お前たち、いったいどこの誰に雇われた!?」
騒ぐのは、ボンプと見紛う体格のヴィジョン・コーポレーション代表を務めるチャールズ・パールマンだ。
パフォーマンスも兼ねた爆破解体列車への同乗。マスコミには暈されているが、乗っているのも検査員などではなく私兵の類だ。
治安局の装備をカモフラージュで持たせて、万が一にも対応できるようにしていた。
だが、残念ながら彼らの敵は
車両の左右に設けられた強化ガラス窓をそれぞれ突き破って飛び込ん出来た刺客。
完全な不意打ちであった事と狭い車内であった事。そして純粋な戦闘能力の差によって、制圧された私兵たち。
突きつけられる電磁ナタの切っ先と、左右から首筋を撫でる様に添えられた小刀の冷たい輝きが立場による高圧的な態度を許さない。
「制圧完了。ニコ」
「ふふん、作戦通りね。それじゃあ、猫又。任せるわよ」
「ああ、任せておいてくれ、ニコ」
「待て待て待て待てぇい!私を無視するんじゃない!!いったいどこの誰が雇った!?白祇重工か!?それとも、別口か!?金なら払う!TOPS財政ユニオンに食い込めば、幾らでもごぉ!?」
喚いていたパールマンだったが、その口に猿轡を噛まされて強制的に黙らされる。
議論をするつもりはないのだ。
何故こんな事を、や。人命を何だと思っているのか、だとか。そういう事を論じている暇はない。追及はまだ後でも出来る。
「ニコ……アンビー。無茶をするなよ?」
「誰に言ってんのよ。ほら、行った行った。こっちも色々あるんだから」
ひらひらと手を振って、ニコは猫又を送り出す。
入れ替わる様に、列車にやってくるのは一体のボンプ。
『鮮やかな手際だったね。それじゃあ、ここからは私たちの仕事だよ』
「頼んだわよ、プロキシ。パールマンをお土産にしても、猫又がどれだけ時間を稼げるか分からないんだから」
列車の操作パネルの上にボンプを乗せるニコ。その傍では、ソワソワと何度も固く閉じられた扉とニコを交互に見やるアンビーが控えている。
『Fairy、操作できる?』
『肯定。既に車両システムの掌握は終了しています。エーテル爆薬を牽引すれば、直ぐにでも行動可能です』
『よしよし、それじゃあ後は……ギリューたちだね』
滞りなく、彼女らの作戦は進行中。
そして、場面は移る。
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怪獣大激戦。打撃と銃弾と時折エーテル砲が交差する決戦の舞台。
「オレの弾から逃げられると思うなよッ!!」
乱射される二丁拳銃。吐き出される無数の弾丸たち。
デッドエンドブッチャーにとって何発撃ち込まれようとも、コアを直撃しない限り命へは届かないだろう。
だが、打ち込まれる大口径弾は楔だ。
「ッ……!」
熱気と共に怪物が迫る。
咄嗟に、デッドエンドブッチャーは左腕三本のうちの一つを鋭い貫手として突き出した。
迫る鋭い鉤爪。コレを、ギリギリまで引き付けながらギリューは沈み込みつつ反転しながら背を向けて自身の顔の左側を通過させるようにしてコレを回避。
同時に耳の隣を轟音を立てて通過する太い腕を担ぎ上げる様にして左腕でクラッチ。そのまま相手の勢いを利用してアームホイップで地面へと投げつけた。
天地反転して、太い上半身がそのままつっかえる事で倒れるのではなく肩で逆立ちをするような形となるデッドエンドブッチャー。
その無防備な腹に向けて、ギリューの助走をつけた全力のドロップキックが突き刺さる。
体格差があれども、体を赤熱させる今のギリューの怪力は軽く列車の車両を持ち上げる。そのパワーを攻撃に転嫁すれば、その威力は筆舌に尽くしがたいものがある。
バウンドして、十メートルは飛んだだろうか。盛大な砂埃を巻き上げてデッドエンドブッチャーは地面を転がった。
並大抵のエーテリアスならば、この時点で勝敗が決まっていそうなもの。
だが、
「――――!!!」
土煙を突き破ってエーテル砲が吐き出される。
ギリューとビリーは、コレを左右に分かれてデッドエンドブッチャーを囲むように弧を描いて駆けて回避。この間に、幾つもの銃撃と、そこらの瓦礫からもぎ取った鉄筋コンクリートが土煙へと叩き込まれている。
砲撃が止み、土煙が三本の剛腕によって振り払われて現れるデッドエンドブッチャー。
ノーダメージではない。ただ、防御力と体力が高すぎて削れている気がしない。
要警戒エーテリアス。その名は決して伊達でも脅しでもない。
だが、この六腕のデッドエンドブッチャーは、
寧ろ、たった二人でコレを押さえ込んでいる彼らが異常だ。
「大盤振る舞いだ!今回は、弾代をケチるような事はしねぇぜ!!」
豪快なリロードと共に、大口径炸裂弾がデッドエンドブッチャーを襲う。
特殊弾の使用は、ニコが良い顔をしない。通常の大口径弾と違って、0の数は二つは違うからだ。
だが、今回は違う。先の通り大盤振る舞い。何なら、ファニングまでやってしまえる。
硬い外皮を撃ち砕いて、体内で弾ける炸裂弾にデッドエンドブッチャーの体勢が崩れる。
ビリーの狙いは適格だ。狙うは関節部であり、無理に仕留めるのではなく確実に相手の動きを抑制して次の一手へとつなげる動きを徹底していた。
そして、この恩恵を一身に受けるギリューはより躍動する。
接近されれば、デッドエンドブッチャーも気付く。同時に、迎撃に動く。
剛腕の一つ一つが一撃必殺。真面に喰らえば挽肉になる事は必定だ。同時に、遠くから連射してくる
ほんの一瞬だが、タイマンの状況となる。
「――――!!!」
潰す。明確な意思を持って、デッドエンドブッチャーは目の前の破壊対象へと狙いを定める。
圧縮された時間の中で、ギリューは暴威へと向けて加速していく。
「フゥゥゥゥ……!!」
吐き出される蒸気。一際高鳴る心臓の鼓動。
プロレスに防御は無い。これは、興行としての側面が強い為だ。一方で受けるという点に関しては恐らく他格闘技と比べてもかなり優れている部分がある。
致命傷を避けて、且つ派手に、そして自分へのダメージは最小限に抑える事。
振り下ろされた剛腕。コレを、ギリューは三段階に分けて受け止めにかかった。
第一段階、腕。振り下ろされる軌道に対して、寄り添うように両手で振れに行く。
第二段階、身体。イメージは波打つように。身体を衝撃が伝播して落ちていくように。
第三段階、尻尾。身体を伝った衝撃を尻尾に逃がし、その逃がした衝撃を利用して思いっきり地面を叩く。
粉塵と衝撃が辺りを襲う。
「ッ、ギリュー!!」
援護が遅れた。エーテル砲を躱していたビリーは、すぐさま粉塵に隠れきれない巨体へと銃口を向け――――直ぐに違和感に気付いた。
動かない。巨体が、その場に縫い止められたかのようにピクリともしない。
粉塵が晴れて、そこではデッドエンドブッチャーの振り下ろされた右の剛腕を一本受け止めて押さえ込んだギリューが居た。
出力の上昇。最初に殿を行った一戦目以上の力を今の少年の体は発している。その剛力を示す様に、デッドエンドブッチャーが押そうが引こうがその腕が解放される事は無い。
「――――!!!!」
放せと言わんばかりに、左腕の三本が動く。先の戦いでは、この相手の攻撃を止めている状態からの横合いからの打撃に腕をへし折られたギリュー。
だが、今回横槍を気にするべきは
「ぶっ放してあげるわ!!」
ビリーが居る方とは逆の斜め後方から声が飛び、直後にデッドエンドブッチャーの背へと何かが着弾。巨大な力場が発生し、その巨体をその場に押し留めて蝕んでいく。
更に、奔るは雷光一閃。
「粛清する……!!」
振るわれた電磁ナタが自分とは違うエーテルに侵食されて脆くなったデッドエンドブッチャーの外皮を切り裂き、その内部へと紫電を走らせて穿ち抉る。
「――――!?」
立て続けの衝撃とダメージに、デッドエンドブッチャーは声無き悲鳴を上げた。完全に認識外からの攻撃であったせいで余計にその混乱は大きかった。
逃れなければ。幸い、エーテル弾による力場は長くは続かなかった。後は、掴んでくる小さな相手を振り払って距離を取るだけ。
人間的な思考を当てはめればこんな所だろうか。
その全てが、遅すぎる。
既に、デッドエンドブッチャーの右腕の一本は解放されている。そして、掴んでいたギリューは既にその場には居ない。
では、どこに居るのか。その答えは、体格の割に細いデッドエンドブッチャーの腰に後ろから抱き着いた小さな姿にあった。
腕を回すにはその長さが足りないが、それでもクラッチする分には問題ない。
ギリューは腰を固定すると、思いっきり背後へと仰け反った。
ジャーマンスープレックス。似ている技にバックドロップがあるが、あちらは相手の脇に頭を突っ込むようにしてクラッチする。
巨体が宙に浮かび、次の瞬間には勢いよく地面へとその上半身が叩きつけられた。
凄まじい破壊力だ。放射状にひび割れてクレーターとなった地面がその威力を声高に主張してくる。
それこそ、上級エーテリアスのデュラハンなどでもこの一撃には耐えきれないだろう。
だが、相手は並大抵の相手ではない。要警戒エーテリアスのデッドエンドブッチャー。それの更に異常個体であるのだから。
「ギリュー!ビリー!こっちよ!」
長々と戦う気は無い。
空はぐずり出して、雨が降り始めていた。雷が遠くで轟き、鉛色の空を青白い雷光が走っていく。
『まもなく、列車が到着いたします』
電子メッセージの直後に、響くのは列車の音。
雨に濡れながら、突っ込んでくる一台の列車。その後ろにはエーテル爆薬をこれでもかと引き連れており、先頭車両の屋根には短い腕を組んで決め顔をする
ジャーマンスープレックスから何とか起き上がったばかりのデッドエンドブッチャーは、この突っ込んでくる列車を避ける術がない。見事に巻き込まれて勢いのままに瓦礫の山と突っ込んできた車両によってサンドイッチされていた。
ぶつかる前に飛び降りたボンプをキャッチするギリュー。その隣では、ニコが決めに掛かっていた。
「ビリー!」
「任せろ!!」
エーテル爆薬は、単体では爆発しない。種火と撹拌が必要。その為に、数発の弾丸が車両に打ち込まれる。
直後に、アンビーの電磁ナタが車両に突き刺さった。
『空気中の電荷を測定中…………臨界電位差到達迄、残り4秒……3、2、1……0』
カウントダウンが終わり、しかし何も起こらない。
この間にも、デッドエンドブッチャーは這い出てこようとしている。仕留めるには今しかない。
「ッ……!」
ボンプを置いて前に出たギリュー。
胸を張り、大きく息を吸い込む。
何を。問われる前に、その答えがその場に現れる。
「エーテル?」
アンビーが呟く。
大きく開かれた口。その顔の前に、紅蓮のエーテルの塊が形成されていくではないか。
同時に、再びFairyの機械音声も響く。
『再計算します。543210!』
瞬間、車両を持ち上げるまで復帰していたデッドエンドブッチャーに向かって空からの雷霆が降ってきた。
同時に、ギリューの溜めたエーテル砲も臨界点を迎える。
「カッ――――!!!」
紅蓮の外側に白金の芯を持った熱線がデッドエンドブッチャーを捉える。
そして――――