偽龍の仔   作:贋子

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今話には多分な独自設定がありますのでご注意くださいませ













幕間・2
23


 もっさり。そんな擬音が聞こえてきそうな黒い頭。

 

「髪が伸びたねぇ、ギリュー」

「んー………邪魔……」

 

 スタッフルームでのちょっとした一幕。

 さらさらヘアーというよりは癖っ毛よりの黒髪は、毛量の多さからマイクヘッドの様な見た目になっている。

 モフモフの髪の毛を撫でて、リンは苦笑いを零す。

 ギリューがRandom_Playへとやって来てから、まあまあの時間が過ぎた。髪の毛が伸びるのも仕方がない事だろう。

 じゃれる二人の元へとやって来たアキラは、顎を撫でた。

 

「確かに、随分とギリューの髪も伸びたね。結べるほどとまでは言わないけど、前髪が目元を覆ってしまっているし。こうなると、ホロウの中で活動する時にも支障をきたすかもしれない」

「うーん、私が切っちゃう?ハサミは、あったよね?もしくは、お兄ちゃんが切っても良いと思うけど」

「いや、この場合は普通に理容室に行くべきじゃないかい?ギリューは……髪型に拘りは無さそうだけど、流石に前髪パッツンは嫌だろうし」

「そう?可愛くなると思うけど」

 

 ねー?とリンはギリューを抱き寄せて互いの頬をすり合わせる。いまいち当人は分かっていないのか、頭の上にハテナが浮かんでいたが。

 ただ、伸び放題の髪はどうにかしなければならない。

 理容室か美容室。この辺りは好みの問題だろう。

 パーマやカラーといった見た目に拘るならば、後者。サッパリと終わらせて予約無く飛び込みで入るのなら、前者。

 

「………僕と同じ髪色にするのもありか」

「!お兄ちゃん?」

 

 サラッとヤバい事を言いだす兄に、リンは眉をひそめた。しかしそれは、暴挙を見咎めるという理由ではない。

 

「紺!ギリュー、紺色にしよう!何なら、私のヘアピンもあげるからさ!」

「こん?」

「リン、少し強引じゃないかい?」

「シレッと自分と同じ髪色にしようとしてるお兄ちゃんに言われたくないよ!」

 

 ガルルルル、と威嚇するリンに対してアキラは腕を組んで余裕な表情。

 膠着状態へと陥る兄妹。挟まれる事になったギリューはというと、リンに抱きしめられた状態でウトウトと舟を漕ぎ始めていた。人肌の温かさと柔らかさに包まれている為だ。

 この状況を打破するのは、第三者を置いて他にない。

 扉の向こうに聞こえるバタバタという足音と、間髪入れずに開かれる鉄扉。

 

「プロキシー?居るかしらー?」

「…………ニコ、また揉め事かい?」

 

 入ってきたボリューミーなピンク髪に、アキラは眉間を揉みながら問う。

 スタッフルームへと乗り込んできたのは、ニコ。その騒音にウトウトしていたギリューが目を開けた。

 

「ちょっと、人が毎度のように揉め事ばっかり持ち込むと思わないでくれる?そりゃあ、プロキシを頼りにしちゃう事も偶にはあるかもしれないけど」

(偶には?)「……まあ、良いよ。それじゃあ、どんな理由だい?ツケの支払いなら喜んで受け取るけど?」

「うっ……つ、ツケは裁判が終わって、ヴィジョンからぶんどったら払うわよ!今日は、ギリューの様子を見に来たの!」

 

 ギャンッとニコが咆えた。

 ただ、分が悪いことは事実だ。話題を逸らす様に、彼女は室内へと視線を泳がせて、そして気付く。

 

「ギリュー。アンタ、随分と髪が伸びてるわね」

「ん……切ろうかって話してた」

「ふーん……なら、アタシが切ったげるわよ」

 

 思わぬ申し出に、驚いた声を上げたのはリンだった。

 

「えっ!?ニコ、散髪なんて出来るの?」

「そりゃあ、カラーとかパーマとかは難しいかもしれないけど、整える位出来るわよ」(自分で髪を整えれば安上がりだもの)

「へぇー……ニコってちょいちょい器用だよね」

「ふふん♪これもストリートを生きていく知恵って奴ね。道具、取って来るわ」

 

 颯爽とスタッフルームを出て行ったニコ。

 その背を見送って、二人は顔を見合わせた。

 

「どう思う?お兄ちゃん」

「どうもこうも、あそこまで機嫌よく出て行ったんだ、任せないとへそを曲げかねないよ。それに、ニコの手先が器用なのは本当だし、細かなスキルを持ってる事も事実。とりあえず、今回は任せてみても良いんじゃないかな」

「大丈夫かなぁ?最悪、バリカンで丸坊主、何て事になったら……」

「……?」

「それはそれで似合うかも?」

「正気に戻ってくれ、リン。流石に、失敗でお坊さんみたいな頭になったギリューは不憫でならないよ」

 

 可愛がっている事は分かるが、それはそれとしてやること成す事容姿の全てを全肯定するのは如何なものか、とアキラは眉間を揉んだ。

 補足をするなら、アキラ自身は坊主頭に何か悪い印象がある訳ではない。ただ、悪い印象が無かろうとも弟分が奇異の目で見られるような状況を態々作ろうとは思わない。

 

(もしもの時の為に、美容室は探しておこうかな)

 

 打てる手は打っておく。端末を起動して、画面に指を走らせる。

 程なくして、ホロウに持っていくものとは違う小型のキャリーケースを持ってニコが戻ってきた。

 

「それじゃあ、プロキシ。駐車場借りるわよ」

「駐車場?」

「部屋の中じゃ汚れちゃうじゃない。外は晴れてるし、風もないから大丈夫でしょ」

「鏡とかは要らないの?」

「ま、大丈夫よ」

 

 ひらりと手を振って、キャリーケースを提げた手とは反対の手でギリューの手を掴むとさっさと出て行ってしまう。

 再び顔を見合わせた兄妹は、どちらともなくその後を追ってスタッフルームを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 建物の影になっている場所で、折り畳みの椅子が置かれその上にちょこんと座るギリュー。いつも羽織っているブルゾンは店の中だ。

 前後逆に丈の長いレインコートを羽織り、首元を止めて椅子の周りには新聞紙を敷いておく。

 

「それじゃあ、始めるわね」

「うん」

 

 銀の光が日光を反射する。

 ニコの持ってきた道具は、思いの外使い込まれ、且つ手入れのよく施された物ばかりだった。

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、手慣れた様子で彼女は霧吹きでギリューの髪を湿らせる。

 櫛を通して髪を梳き、指で一房挟んで鋏で切る。

 淀みない手捌きだ。その動きは、後を追ってきたアキラとリンが目を見開くほどに手慣れていた。

 

「……本当に慣れてるんだ」

「当然でしょ。自分で切れれば節約になるし、アレンジもしやすいじゃない。それに……」

「それに?」

「おほん!と、兎に角、やれる事が多いに越した事は無いって話!」

 

 明らかに何かを隠した素振り。とはいえ、ニコという人物がどういう女なのか知っている者ならばそこまで心配するような事もない。

 現に、パエトーンの二人も何か阿漕な事でもやっているのか、程度の認識。ニコの扱いがよく分かるというものだ。

 軽快な鋏の音に、ニコの鼻歌が続いて暫く。

 

「――――ふぅ、こんな所かしらね」

 

 首筋に残った切った髪の毛を吹き飛ばして、ニコは鋏を下した。

 もっさりマイクヘッドは、綺麗サッパリ切りそろえられたショートカットとなっていた。目元も晴れて、猫目石の様な瞳が良く見える。

 

「………終わり?」

「終わりよ。ほら、鏡見てみなさいよ」

 

 毛の軟らかいブラシで頭と顔と首筋を掃いて、髪のついたレインコートを外してから、ニコは手鏡をギリューへと手渡した。

 鏡に映るのは幼い顔立ちの無表情な少年だ。

 

「上の方を少し長めに残して、サイドを短くしたわ。あと、毛量が多いから結構()()()わよ」

「…………」

「どう?」

「さっぱり」

 

 髪が伸びていた時は、その毛先が目元を擽り。癖っ毛のせいで耳の中にまで刺激を伝えてくる始末であったのだが、今はそれも無い。

 鏡を覗き込んだまま自身の頭を何度か触ってから、ギリューは後ろへと振り返った。

 

「ニコ」

「ん?」

「ありがとう」

「……んふっ、どういたしまして」

 

 笑みを浮かべ、ニコは少年の頭を撫でる。

 余談ではあるが、これ以降不定期に青空理容室が開催される事になるのだった。

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