偽龍の仔   作:贋子

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お久しぶりです











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 六分街でも新入りの立場であるギリュー。

 そんな少年を可愛がっているのは、彼の保護者兼家族であるビデオショップの店長兄妹と、それから慌ただしい何でも屋たち。

 それは、この六分街に大なり小なり居を構えたり、出入りしていれば直ぐにでも分かる事。

 

 この日もそうだ。黒い尻尾を揺らした少年と、それから赤いジャケットが印象的な知能機械人が何やら話し込んでいた。

 

「うーん、まだまだこっちはバタついてるからな。今日の分は、オレだけ早く終わっちまったし。親分も、アンビーも、猫又も都合がつかねぇ」

「ん……ビリーも用事があるならそっちを優先しても良いよ?」

「バーカ。オレも暇だから、ギリューや店長をゲームに誘いに来たんだぜ?何より、店長たちがアカウントを一新する事になったのは、オレ等が持ち込んだ事も原因の一つだからな。手助け位どうって事ねぇよ」

 

 文字通りの鉄面皮でありながら、表情豊かなビリーは目元のサーチライトを緩ませてガシガシと黒髪頭を撫でる。

 というのも、現在の邪兎屋はヴィジョンに対する訴訟などで駆け回っている状況。それでも、一から十まで休みなしとはいかない。

 今回、ビリーは自分の分が終わり余暇の時間が出来た為、気晴らしにリンやギリューを誘ってゲームセンターにでも行こうとRandom_Playへと足を運んでいた。

 そこで、プロキシとしての昇級戦に出てくれないかと打診された次第だ。

 因みに内容は、目的地までのルート構築とその案内。そして、最終エリアでのエーテリアスの討伐となる。

 そして、このプロキシ昇格戦に置いて、依頼を受ける以外はその全てをプロキシが準備せねばならない。

 ルートの調査、もといキャロットデータの収拾から、ホロウ内部へと侵入するエージェント三名の選定。そして、その選定したエージェントへの依頼参加の打診。

 これらを揃える事もまた、プロキシとしての技量の一つ。非合法な職業だからこそ、個人の技量が直接収入に直結する。

 

「まあ、オレとギリューの二人でも何とかなるとは思うぜ?何てったって、あのデカブツ相手にも善戦できたんだからな!」

「うん…………ん?」

 

 最悪二人でも問題は無いだろう。ビリーの言葉に頷きながら、ギリューは気が付く。

 結構な頻度でお世話になっている、ラーメン屋“滝湯谷・錦鯉”。カウンター席だけであるが、大抵疎らでも席の埋まっている人気店。

 そのラーメン屋の前で一人の少女?がうろうろしていた。

 特徴的な白い髪に、青い肌。何より額の方から生える二本の角。小柄な体格だが、僅かにギリューよりは大きな背丈。

 ギリューの視線につられて、ビリーも気付く。だが、彼が注目したのはその特徴的な容姿ではなく、彼女の格好の方だ。

 

「……珍しいな。ありゃあ、対ホロウ六課の奴じゃないか?」

「六課?」

「ンまぁ、エリートって奴だ。超級エーテリアスを相手にしたり、ホロウのデリケートな案件を熟したりって感じでな」

「へぇー……」

 

 ビリーの説明に頷くギリュー。

 生憎と、彼は相手の立ち振る舞いからその実力を見抜けるような目を持っている訳ではない。感覚的に強弱位は察知できるが、それだけ。

 何より、ギリューが気になったのは件の彼女が何やら己の財布を覗き込んでため息を吐く様子。

 チョップ大将も気にしているようだが、如何せん慈善活動ではないのだ。利益が見込めないと動きにくいものがある。

 

「あ、おい。ギリュー」

 

 ビリーの隣から、ギリューはスルリと抜け出すとお腹を擦る彼女の元へ。

 

「何してる?」

「あ……ご、ごめんね?邪魔になっちゃった?」

 

 眦を下げて困った顔をする鬼の子。ちょうどよく、彼女の腹の虫が鳴いた。

 バッと両手でお腹を押さえた彼女だったが、如何せんそんな事では鳴きやまない。

 パチパチと瞬きをしたギリューは、徐にラーメン屋へと顔を向けると口を開いた。

 

「入る?」

「え?………えっとね、蒼角お金持ってないの。ナギねぇからのお小遣い、使いきっちゃったんだぁ」

「うん」

 

 ションボリと俯いた蒼角に、ギリューは頷きを一つ。

 無論、目の前でラーメンを食べている姿を見せるために声を掛けた訳ではない。

 丁度店を見れば、()()()()()が空いていた。

 

「じゃあ、一緒に行こう」

「え、でも……」

「奢るから」

 

 蒼角からの返答を聞かずに、ギリューはこちらの状況を窺っていたビリーへと手を挙げた。

 

「ビリー」

「あー……何つーか、順調に良い子に育ってんな」

 

 若干の呆れを含みながら、ビリーは見ず知らずの誰かへと手を差し伸べようとする少年の頭を撫でる。

 補足をすると、ギリューは結構な金持ちだったりする。これは、彼がそもそもの欲求が薄い点から。使い道が無ければ、少額であろうと溜まる一方である。

 

「ほ、ホントーに良いの?蒼角、いーっぱい食べるんだよ?」

「大丈夫」

 

 心配する様子の蒼角だが、ギリューは泰然と頷きを返し彼女の手を取って店へと歩いて行ってしまう。

 店の前のやり取りは、当然店主であるチョップ大将も見ていた訳で。

 

「おう、来たな」

「三人」

「あいよ。注文は?」

「黒鉢赤辛鳥白湯」

「あ、えっと、く、黒鉢海鮮冷やし!」

「あいよ。そっちの兄ちゃんには、オイルを出すか?」

「おっ、良いのか大将?」

「おうよ。うちには、機械人の連れと一緒に来る客もいるからな。それ用のメニューを作れねぇかと思って試作中だ」

 

 感想聞かせてくれよ、とチョップ大将は麺を打ち始める。

 その傍らで蒼角は改めて、感謝を述べていた。

 

「ありがとー!蒼角は、蒼角だよ!」

「ギリュー」

「よろしくね、ギリュー!」

「ん、よろしく」

 

 ギリューの手を取ってブンブンと振るう蒼角。微笑ましい子供たちのやり取りである。因みに席順は、蒼角、ギリュー、ビリーの並び。

 

「財布、空だった?」

「うん。蒼角ね、お休みだー!ってなったからここまでビューンってきたの!」

「何で?」

「ルミナスクエアにもラーメン屋さんがあるんだけど、似たお店があるって聞いたから食べに来たんだー」

「ふーん」

 

 にこにこと楽し気な蒼角へと相槌を返しながら、ギリューはチラリとカウンターの向こう側を見やる。

 ラーメンを準備するチョップ大将の様子はいつも通りだ。

 だが、ギリューは見た。蒼角の口から、ルミナスクエアのラーメン屋の話が出た時に僅かに反応していた様子を。

 だからといって何かある訳ではない。ギリューに腹の探り合いやら、そんな小難しい事は出来ない。気にはなっても自発的に聞くような事でもない。

 程なくして二杯の丼と一本のボトルがそれぞれ差し出された。

 

「出来たぞ。黒鉢赤辛鳥白湯と、黒鉢海鮮冷やし。それから、特選オイルだ」

「わーい!」

「ん」

「マジでオイル置いてんだな………」

 

 ビリーがボトルをしげしげと眺める傍らで、ギリューと蒼角は箸を手にラーメンへと口を付ける。

 

「!美味しい!」

 

 お喋りな蒼角は、食べる時も中々に騒がしいらしい。

 しかし、決して下品という訳ではない。騒がしくとも料理を散らかすような事も無く、口の周りが汚れる位で大きくスープを跳ねさせるような事も無かった。

 対照的に、ギリューは静かなものだ。

 すっかりと上達した箸捌きに、瞬く間に消えていく麺と具材。

 ほぼほぼ同タイミングで二人の椀は空になった。

 

「あっ………終わっちゃったぁ………」

「大将、お代わり。替え玉二つ」

「あいよ!麺の硬さはどうする?」

「俺、固め。蒼角は?」

「あ、蒼角も固め!!……良いの?」

「うん」

 

 微笑ましいちびっ子二人のやり取り。因みに、身長的には蒼角の方が高かったりする。

 結局、二人合わせて八回の替え玉を経て大将の上機嫌な大笑いをBGMに三人は店を後にする。

 

「ありがとう!ギリュー!とっても、美味しかったよ!蒼角もお腹いーっぱい食べれた!」

「ん。良かった」

 

 嬉々として大きな身振り手振りで自分の喜びと感謝を伝えてくる蒼角に、短くギリューは頷きを返した。

 地下鉄へと送る道すがらの事だ。

 

「でも、良いの?電車のお金もくれたけど………」

「うん。帰れないと、蒼角が困るから」

「それはそうだけど……あ、それじゃあ!」

 

 貰ってばかりだとしょんぼりしていた蒼角だったが、何かを思いついたのか小走りで隣を歩いていたギリューの前へと回り込むと両腕を上げる。

 

「蒼角が、ギリューのお願いを聞いてあげる!何でも良いよ!」

「何でも?」

「うん!」

 

 相手によってはかなり危ない事を言う蒼角。もっとも、今回に限れば何の問題も無い。

 ギリューとしては見返りを期待しての行動ではなかったのだが、しかしこういう場合はちゃんとお返しを受けるべき、と姉代わりのピンクツインテールから薫陶を受けていたりする。

 少し考えこんで、そして思いつく。

 

「それじゃあ――――」

 

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